11 / 62
梅干し作り~中編~
しおりを挟む
「数日先の天気なんて分かりませんよね?」
人工衛星もなければ天気予報もないこの世界。無理を承知でキースさんにそう尋ねると、意外にも簡単な答えが返ってきた。
「雨季ではないし、当分晴れるだろ」
「あ、そうでしたわね」
日本には四季があるが、この世界には“雨季”と“乾季”以外は大きな気候の変化はない。冬にあたる時期に少し肌寒くなるかな……程度で、一年を通して湿度も低く過ごしやすい気候が続く。この状況でよく梅干しにカビが発生したな、と逆に感心させられる程だ。
「天気がなにか関係あるのか?何処かへ行くのか?」
「梅干しをそろそろ干そうと思っておりまして」
「そういえば、そんなこと言っていたな」
「勿論、干さなくても大丈夫ですが、
・太陽の熱で殺菌。
・余分な水分を蒸発させ、保存性を高める。
・風味豊かなまろやかな味にする。
などの効果が期待できますの」
「なるほど」
最近では私が梅干しについてのうんちくを語りだすと、キースさんは無言でメモを取るようになっていた。医者になるだけあって、勉強熱心な人だ。
「それで明日の天気なんだな」
「そうなんです。晴れた日が三~四日、続きそうな日を選んで干します」
「こんな平らなザルでいいのか?」
「ええ、ザルの上に並べることで通気性をよくなりますの。ささ、一緒に並べてくださいませね」
上手く梅干しが完成すれば患者さん達にも使ってもらおうと考えている。そのため十壺ほど制作したほどだ。天日干しだって相当な手間暇がかかる。
「このまま四日、干していればいいのか?」
「いえ、一日に一回は梅を裏返します。さらに一日目は夕方に屋内に取り込み、梅酢に入った容器に梅を付け戻します」
「これを明日もやるわけだな……」
「大変ですけど、よろしくお願いいたしますね」
相当な手間暇だが、
『梅干しは手間暇をかければかけるほど美味しくなるのよ』
と祖母が口癖のように言っていた。診療所は忙しく空いている時間も少ないが、異世界で初となる梅干し作りだできるだけの手間暇をかけたかった。
そんな私の気持ちに斜め上の形でキースさんは応えてくれた。次の日、梅を干そうとしていると十歳ぐらいの二人の少年と少女が姿を見せた。
「リタとレオだ」
キースさんは笑顔で二人をそう紹介する。
「梅干し作りをぜひ手伝いたいと言ってくれてな」
「はい!ウメシを作りたいです!」
明らかに言わせられている二人だが、私も大人だ。笑顔で二人を迎え入れる。
「ありがとうございます。それでは……」
『手伝ってくださいませ』と言いかけて私は言葉を失った。彼らが最後にお風呂に入ったのは何時なのか問いただしたくなるほど手は黒く、爪も伸び放題だった。これではせっかくの梅干しが台無しだ。
「それでは、まずお二人共、爪を切って手を洗っていただけますこと?」
二人は私にかけられた言葉にキョトンとした表情を浮かべる。おそらくこの手の汚さだ、食事をする前、帰宅後に手洗いをするという習慣はないのだろう。どうやら彼らに“梅干し作り”を伝授する前に“手洗い”を教えることから始まりそうだ。
「こちらです。いらしてくださいませ」
私は小さく息をはいて流しへ向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【参考文献】
株式会社 紀和農園プロダクツ:梅干しあれこれ (最終閲覧日:2019年5月10日)
http://www.kiwanouen.co.jp/file/arekore/arekore-top.html
【御礼】
多数のお気に入り、評価ありがとうございます。大変励みになっております。
人工衛星もなければ天気予報もないこの世界。無理を承知でキースさんにそう尋ねると、意外にも簡単な答えが返ってきた。
「雨季ではないし、当分晴れるだろ」
「あ、そうでしたわね」
日本には四季があるが、この世界には“雨季”と“乾季”以外は大きな気候の変化はない。冬にあたる時期に少し肌寒くなるかな……程度で、一年を通して湿度も低く過ごしやすい気候が続く。この状況でよく梅干しにカビが発生したな、と逆に感心させられる程だ。
「天気がなにか関係あるのか?何処かへ行くのか?」
「梅干しをそろそろ干そうと思っておりまして」
「そういえば、そんなこと言っていたな」
「勿論、干さなくても大丈夫ですが、
・太陽の熱で殺菌。
・余分な水分を蒸発させ、保存性を高める。
・風味豊かなまろやかな味にする。
などの効果が期待できますの」
「なるほど」
最近では私が梅干しについてのうんちくを語りだすと、キースさんは無言でメモを取るようになっていた。医者になるだけあって、勉強熱心な人だ。
「それで明日の天気なんだな」
「そうなんです。晴れた日が三~四日、続きそうな日を選んで干します」
「こんな平らなザルでいいのか?」
「ええ、ザルの上に並べることで通気性をよくなりますの。ささ、一緒に並べてくださいませね」
上手く梅干しが完成すれば患者さん達にも使ってもらおうと考えている。そのため十壺ほど制作したほどだ。天日干しだって相当な手間暇がかかる。
「このまま四日、干していればいいのか?」
「いえ、一日に一回は梅を裏返します。さらに一日目は夕方に屋内に取り込み、梅酢に入った容器に梅を付け戻します」
「これを明日もやるわけだな……」
「大変ですけど、よろしくお願いいたしますね」
相当な手間暇だが、
『梅干しは手間暇をかければかけるほど美味しくなるのよ』
と祖母が口癖のように言っていた。診療所は忙しく空いている時間も少ないが、異世界で初となる梅干し作りだできるだけの手間暇をかけたかった。
そんな私の気持ちに斜め上の形でキースさんは応えてくれた。次の日、梅を干そうとしていると十歳ぐらいの二人の少年と少女が姿を見せた。
「リタとレオだ」
キースさんは笑顔で二人をそう紹介する。
「梅干し作りをぜひ手伝いたいと言ってくれてな」
「はい!ウメシを作りたいです!」
明らかに言わせられている二人だが、私も大人だ。笑顔で二人を迎え入れる。
「ありがとうございます。それでは……」
『手伝ってくださいませ』と言いかけて私は言葉を失った。彼らが最後にお風呂に入ったのは何時なのか問いただしたくなるほど手は黒く、爪も伸び放題だった。これではせっかくの梅干しが台無しだ。
「それでは、まずお二人共、爪を切って手を洗っていただけますこと?」
二人は私にかけられた言葉にキョトンとした表情を浮かべる。おそらくこの手の汚さだ、食事をする前、帰宅後に手洗いをするという習慣はないのだろう。どうやら彼らに“梅干し作り”を伝授する前に“手洗い”を教えることから始まりそうだ。
「こちらです。いらしてくださいませ」
私は小さく息をはいて流しへ向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【参考文献】
株式会社 紀和農園プロダクツ:梅干しあれこれ (最終閲覧日:2019年5月10日)
http://www.kiwanouen.co.jp/file/arekore/arekore-top.html
【御礼】
多数のお気に入り、評価ありがとうございます。大変励みになっております。
53
あなたにおすすめの小説
9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです
志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑!
10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。
もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。
(頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
処刑された王女は隣国に転生して聖女となる
空飛ぶひよこ
恋愛
旧題:魔女として処刑された王女は、隣国に転生し聖女となる
生まれ持った「癒し」の力を、民の為に惜しみなく使って来た王女アシュリナ。
しかし、その人気を妬む腹違いの兄ルイスに疎まれ、彼が連れてきたアシュリナと同じ「癒し」の力を持つ聖女ユーリアの謀略により、魔女のレッテルを貼られ処刑されてしまう。
同じ力を持ったまま、隣国にディアナという名で転生した彼女は、6歳の頃に全てを思い出す。
「ーーこの力を、誰にも知られてはいけない」
しかし、森で倒れている王子を見過ごせずに、力を使って助けたことにより、ディアナの人生は一変する。
「どうか、この国で聖女になってくれませんか。貴女の力が必要なんです」
これは、理不尽に生涯を終わらされた一人の少女が、生まれ変わって幸福を掴む物語。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる
仙桜可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。
清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。
でも、違う見方をすれば合理的で革新的。
彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。
「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。
「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」
「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」
仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる