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『医者の嫁(見習い)』として当然のことをしたまででしてよ
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「初めて、人を好きになったんです。でも両親から交際を反対されて、学園を卒業する前に二十も年上の貴族の後妻にさせられそうになって……」
先ほどとは打って変わり、落ち着いた調子でポツリポツリとエマは身の上を語りだした。路上でゴミを漁るようにして生活していること、ここから直ぐ側にある安宿で過ごしていること、夜中は娘の夜泣きに悩まされていること……。
「大変でしたわね」
彼女のように裕福な生活を知ってしまった人間からすると、子供の服一枚、満足に買えない現状は地獄に違いない。
「私もキース様を追ってここまで来ましたので分かりますわ」
「でも、グレイス様は第二王子と婚約されていたはずでは……」
「それが、卒業パーティーの最中に婚約破棄されてしまいましたの」
私が大げさに婚約破棄の話をすると、初めてエマの表情が学園にいた時の少女のそれに戻る。学園の昼休み、こうして私達はお茶とお菓子を囲みながら、誰が誰を好きだ……などと他愛もない噂話をよくした。人生何が起こるか分からない。
「婚約破棄?!」
「ええ、ティアナ様を私、虐めておりましたでしょ?それが理由で……」
「そんなことで婚約破棄されますの?!そもそもそれだって第二王子が、グレイス様という婚約者がありながら、ティアナ様に気持ちを寄せられたからであって」
まるで自分の事のように憤慨するエマの手を握って私は落ち着かせる。
「でも、キース様と出会って分かったんですの。あれは“愛”ではなく、“第二王子の婚約者”という私の存在意義をティアナ様に奪われそうになり、焦っていたんだと思いますの。そう考えると婚約破棄していただいたおかげで、真実の愛に気付くことができたんですから、感謝しないといけませんわ」
「羨ましいです……」
「でも結婚していただけませんの」
「え?」
エマの表情はクルクルとよく変わる。
「半年間のお時間をいただいて、ここで嫁としてやっていけるか試して頂いているところなの。せっかくなので、この診療所を立て直そうとも考えていますわ」
「無料で診療してもらおうとして何ですが、結婚するより大変そうですね」
「でも大切な人のお役に立てるって幸せなことでしてよ」
私の言葉にエマは、何かを考えるように俯く。
「エマにとって今、一番大切な物ってなんですの?あなたを捨てて逃げた男?お子様?それとも自尊心かしら?」
彼女も実家に泣きつけば、受け入れてもらえることは分かっているのだろう。だが『真実の愛』と大見えを張って家出した手前、帰るに帰れなくなっているに違いない。
「優しいエマのことだから、相手の男は何かトラブルや事故にあって、戻るに戻れないだけじゃないか……、売り飛ばそうとしたのも何かの間違いじゃないか……って思っていらっしゃるのでしょ?」
肯定の言葉の代わりにエマは声もなく涙を流す。どれだけ現実的ではない憶測でも、時には厳しい現実よりも受け入れたい時があるものだ。
「大丈夫。あなたが必死で子供の命を守ろうとしたように、ご両親もきっとエマのことを心配していらっしゃるはずよ」
「私……帰ります」
「えぇ、そうなさった方がいいわ」
私はエマの肩を抱くようにして、その勇気を称える。実家に戻れば彼女の人生が全てうまくいくわけではない。駆け落ちをして子供を作った娘に対する風当たりは強いだろう。だが、ここで子供の診療代を悩むほどの辛さではないはずだ。
「そろそろ、エマの順番かもしれませんわ。見てまいりますわね」
「あの……グレイスさん……。本当にありがとうございます」
「気になさらないで、医者の嫁(見習い)として当然のことをしたまででしてよ」
友人の人生に希望が見え、私もようやく安堵の笑みを浮かべることができた。
先ほどとは打って変わり、落ち着いた調子でポツリポツリとエマは身の上を語りだした。路上でゴミを漁るようにして生活していること、ここから直ぐ側にある安宿で過ごしていること、夜中は娘の夜泣きに悩まされていること……。
「大変でしたわね」
彼女のように裕福な生活を知ってしまった人間からすると、子供の服一枚、満足に買えない現状は地獄に違いない。
「私もキース様を追ってここまで来ましたので分かりますわ」
「でも、グレイス様は第二王子と婚約されていたはずでは……」
「それが、卒業パーティーの最中に婚約破棄されてしまいましたの」
私が大げさに婚約破棄の話をすると、初めてエマの表情が学園にいた時の少女のそれに戻る。学園の昼休み、こうして私達はお茶とお菓子を囲みながら、誰が誰を好きだ……などと他愛もない噂話をよくした。人生何が起こるか分からない。
「婚約破棄?!」
「ええ、ティアナ様を私、虐めておりましたでしょ?それが理由で……」
「そんなことで婚約破棄されますの?!そもそもそれだって第二王子が、グレイス様という婚約者がありながら、ティアナ様に気持ちを寄せられたからであって」
まるで自分の事のように憤慨するエマの手を握って私は落ち着かせる。
「でも、キース様と出会って分かったんですの。あれは“愛”ではなく、“第二王子の婚約者”という私の存在意義をティアナ様に奪われそうになり、焦っていたんだと思いますの。そう考えると婚約破棄していただいたおかげで、真実の愛に気付くことができたんですから、感謝しないといけませんわ」
「羨ましいです……」
「でも結婚していただけませんの」
「え?」
エマの表情はクルクルとよく変わる。
「半年間のお時間をいただいて、ここで嫁としてやっていけるか試して頂いているところなの。せっかくなので、この診療所を立て直そうとも考えていますわ」
「無料で診療してもらおうとして何ですが、結婚するより大変そうですね」
「でも大切な人のお役に立てるって幸せなことでしてよ」
私の言葉にエマは、何かを考えるように俯く。
「エマにとって今、一番大切な物ってなんですの?あなたを捨てて逃げた男?お子様?それとも自尊心かしら?」
彼女も実家に泣きつけば、受け入れてもらえることは分かっているのだろう。だが『真実の愛』と大見えを張って家出した手前、帰るに帰れなくなっているに違いない。
「優しいエマのことだから、相手の男は何かトラブルや事故にあって、戻るに戻れないだけじゃないか……、売り飛ばそうとしたのも何かの間違いじゃないか……って思っていらっしゃるのでしょ?」
肯定の言葉の代わりにエマは声もなく涙を流す。どれだけ現実的ではない憶測でも、時には厳しい現実よりも受け入れたい時があるものだ。
「大丈夫。あなたが必死で子供の命を守ろうとしたように、ご両親もきっとエマのことを心配していらっしゃるはずよ」
「私……帰ります」
「えぇ、そうなさった方がいいわ」
私はエマの肩を抱くようにして、その勇気を称える。実家に戻れば彼女の人生が全てうまくいくわけではない。駆け落ちをして子供を作った娘に対する風当たりは強いだろう。だが、ここで子供の診療代を悩むほどの辛さではないはずだ。
「そろそろ、エマの順番かもしれませんわ。見てまいりますわね」
「あの……グレイスさん……。本当にありがとうございます」
「気になさらないで、医者の嫁(見習い)として当然のことをしたまででしてよ」
友人の人生に希望が見え、私もようやく安堵の笑みを浮かべることができた。
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