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スープとパンの先にある未来
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「今日から学校を始めます」
スープランチ目当てで工場に集まった貧民街の子供達に高らかに私がそう宣言をすると、彼らは大きく分けて二種類の反応を示す。希望に満ちた顔。不満そうな顔。
公爵令嬢の私は当たり前のように学校に通っていたが、市民権がない彼らは平民のための学校にすら通えない。だから子供だけでなく一部の大人も文字が読み書きできなかったり、計算もできなかったりする。生活環境を向上するためには、労働、食生活の改善だけでなく欠かせない過程だと思っている。
「え――俺、勉強したくないんだけど」
開口一番に文句を言ったのはレオだ。
「そもそも、なんで勉強しなきゃいけないんだよ。俺、冒険者になるから、いいよ」
子供らしいテンプレートの質問に私は満面の笑みを浮かべる。大学時代、時給の高い塾講師をしていたことがあるのだが、よく生徒にこの質問をされた。これには、ちゃんと塾長直伝の『回答』がある。
「それはね――」
「レオ、俺は勉強しなかったから、冒険者を引退した時、無一文になったんだ」
鉄板の回答を口にする前に、リタ兄が私の言葉をそう言って遮った。
「俺もお前ぐらいの頃は、『冒険者になるから』って勉強なんて一つもしてこなかった。パーティに入った時も仲間が『代わりに計算してやるよ』って、食材の調達、給料の支払い……色々管理してくれてさ。やっぱり勉強しなくてよかったな……って思ったわけよ」
『冒険者』の先輩であるリタ兄の言葉はレオにとって、何よりも重いようだ。私の時とは異なり真剣なまなざしを向けている。それは勿論、レオだけでなく他の子供達も同じだ。
「それがさ、腰を痛めて引退するってなった時、銅貨一枚も俺の手元には残らなかったんだ。おそらく計算してくれていた仲間がピンハネしたんだと思うんだけど……その事実すら計算ができないから分からなかった」
ギルドマスターのフレデリックいわく、冒険者に社員制度や保険制度は勿論ないようだが、多くの冒険者はギルドに貯金するという形で資金を蓄えておくらしい。そのため引退しても直ぐに生活が困るというケースは少ないのだとか。
「だから勉強はしろ。絶対だ」
辛そうな表情を浮かべながら、そう言い切ったリタ兄の言葉に全員が無言で頷いていた。
「パンとスープを餌に学校を開いたわけね」
工場で会議をするために使われていたであろう黒板、机と椅子が十組並ぶ簡易教室にディランは「なるほどね」と感心する。
「それで、俺に何をしろと?」
「商人としてのノウハウを教えていただきたいんですの」
「商人にするのか?」
「いえいえ、そういうわけではありませんわ」
そもそも身元の保証がない彼らは『商人』になれたとしても、せいぜい荷物運びをさせられるのが関の山だ。それでは冒険者とあまり変わらない。
「私が考えた商品を皆さまが作ってくださるのも素晴らしいと思うのですが、皆さまもご自分で考えた商品を製造されたいんじゃないかな――と思いますの」
おばあちゃんの知恵をフル活用して様々な商品を作り出してもいいが、私がいなくなった後、彼らが生活に困るようでは意味がない。あくまでも、ここは彼らの工場なのだ。
「そのために商人としてのノウハウね」
「市場が何を求めているのか、どういうシステムで商品が流通しているのか、知らなければ商品なんて開発できませんわ」
「俺がそれをタダでここで教えるメリットはなんだ?」
「あら、ここで作り出された商品を専売できる権利です。指導内容がよければよいほど素晴らしい商品を扱うことができましてよ」
私の回答にディランがニヤリと口角をあげる。どうやら綿密な損得勘定の結果、教師を引き受けることとなったのだろう。
スープランチ目当てで工場に集まった貧民街の子供達に高らかに私がそう宣言をすると、彼らは大きく分けて二種類の反応を示す。希望に満ちた顔。不満そうな顔。
公爵令嬢の私は当たり前のように学校に通っていたが、市民権がない彼らは平民のための学校にすら通えない。だから子供だけでなく一部の大人も文字が読み書きできなかったり、計算もできなかったりする。生活環境を向上するためには、労働、食生活の改善だけでなく欠かせない過程だと思っている。
「え――俺、勉強したくないんだけど」
開口一番に文句を言ったのはレオだ。
「そもそも、なんで勉強しなきゃいけないんだよ。俺、冒険者になるから、いいよ」
子供らしいテンプレートの質問に私は満面の笑みを浮かべる。大学時代、時給の高い塾講師をしていたことがあるのだが、よく生徒にこの質問をされた。これには、ちゃんと塾長直伝の『回答』がある。
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「俺もお前ぐらいの頃は、『冒険者になるから』って勉強なんて一つもしてこなかった。パーティに入った時も仲間が『代わりに計算してやるよ』って、食材の調達、給料の支払い……色々管理してくれてさ。やっぱり勉強しなくてよかったな……って思ったわけよ」
『冒険者』の先輩であるリタ兄の言葉はレオにとって、何よりも重いようだ。私の時とは異なり真剣なまなざしを向けている。それは勿論、レオだけでなく他の子供達も同じだ。
「それがさ、腰を痛めて引退するってなった時、銅貨一枚も俺の手元には残らなかったんだ。おそらく計算してくれていた仲間がピンハネしたんだと思うんだけど……その事実すら計算ができないから分からなかった」
ギルドマスターのフレデリックいわく、冒険者に社員制度や保険制度は勿論ないようだが、多くの冒険者はギルドに貯金するという形で資金を蓄えておくらしい。そのため引退しても直ぐに生活が困るというケースは少ないのだとか。
「だから勉強はしろ。絶対だ」
辛そうな表情を浮かべながら、そう言い切ったリタ兄の言葉に全員が無言で頷いていた。
「パンとスープを餌に学校を開いたわけね」
工場で会議をするために使われていたであろう黒板、机と椅子が十組並ぶ簡易教室にディランは「なるほどね」と感心する。
「それで、俺に何をしろと?」
「商人としてのノウハウを教えていただきたいんですの」
「商人にするのか?」
「いえいえ、そういうわけではありませんわ」
そもそも身元の保証がない彼らは『商人』になれたとしても、せいぜい荷物運びをさせられるのが関の山だ。それでは冒険者とあまり変わらない。
「私が考えた商品を皆さまが作ってくださるのも素晴らしいと思うのですが、皆さまもご自分で考えた商品を製造されたいんじゃないかな――と思いますの」
おばあちゃんの知恵をフル活用して様々な商品を作り出してもいいが、私がいなくなった後、彼らが生活に困るようでは意味がない。あくまでも、ここは彼らの工場なのだ。
「そのために商人としてのノウハウね」
「市場が何を求めているのか、どういうシステムで商品が流通しているのか、知らなければ商品なんて開発できませんわ」
「俺がそれをタダでここで教えるメリットはなんだ?」
「あら、ここで作り出された商品を専売できる権利です。指導内容がよければよいほど素晴らしい商品を扱うことができましてよ」
私の回答にディランがニヤリと口角をあげる。どうやら綿密な損得勘定の結果、教師を引き受けることとなったのだろう。
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