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チキンスープ~イスラエル版おばあちゃんの知恵~
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「おい。今日は牛肉の匂いがしないぞ」
診療所の入口に現れた獣人の男性は、そう言って不満そうに二階を見上げる。そんな彼の隣にはヒョウのような生き物(ヒョウにしては大きすぎるが…)が大人しそうに座っている。勿論だが、私だけでなく診療所にいた全員に緊張感が走るのが分かった。
「あの……診察をご希望なのでしょうか?」
回復魔法は別に人間だけではなく、動物にも効果があるらしい。おそらくこのヒョウにも効果はあるだろう。だが、動物を相手にするのは今回が初めてだ。
「違うって、俺だよ。俺!」
あぁ……この世界でも『オレオレ詐欺』ってあるのかしら?と、いぶかし気な視線を彼に向けると、彼は呆れたように「分からないかな……」と私の両手を取って、しゃがみこむ。そして頭の上に生えている自分のフワフワの耳を触らせた。
「ほら、ベリスだよ。べリス」
そう言われて、彼の耳を撫でると確かにコロのモフモフ感と似ている気がする。
「コロ……?」
「そうそう!って、コロじゃねーって言ってんだろ」
「でも、なんで獣人の姿しているの?」
「こいつが診療所に来たいっていうから連れてきてやろうと思ったんだけど、さすがにダイアウルフとクァールが並んで歩いていたら、この前のおばさんみたいに怖がらせちゃうかもしれないって思ってね」
たしかに魔物が二匹街中を歩いていたら大問題だ。それでも、このデカいヒョウが街中を歩いていても問題にならなかったのだろうか。いや、そもそもヒョウも獣人になれば良かったようなきがするのだが……。
「そうじゃなくて、獣人になれるの?」
「いやいや。逆ね逆。元々獣人で、森の中でクリムゾン様を守るためにダイアウルフになってんの」
確かに獣人よりもダイアウルフの方が数倍も戦闘力は高そうだ。
「と、とりあえず二階で待っていてちょうだい。もう少ししたら診療時間が終わるから」
真偽は別として、彼らがここにいては他の患者さん達の心臓に悪いに違いない。そういえば、今日は多めにチキンスープを作ったな……などと考えながら、彼らを二階へ追いやった。
「土産だ。土産」
診療時間が終わり二階へ行くと、ソファーの上でくつろいでいたコロが私へ先ほどまで持っていた布袋を投げてよこす。
「何これ?」
「シャモンド。とりあえず、みんな大好きだろ?」
袋を開けてみると、ギッシリとシャモンドがそこには詰まっていた。一本金貨一枚で売れるとして……金貨二百枚分ぐらいはあるのではないだろうか。
最初はシャモンドが市場に多数出回ることにより、その値段が下がってしまうことを心配したが、ディランが国外などに輸出するなどして調整をしてくれている。そのため定価金貨二枚で取引されるシャモンドだが、買取価格は金貨一枚だ。手数料などを考えたら当然かもしれないが、買取をする時のディランの笑顔を見ると、彼にとっても旨みのある取引なのだろう。
「でも、せっかく来てもらったけど今日は牛すじじゃなくて、鶏のスープだよ?」
「なんで鶏なの?牛すじが美味いじゃん。鶏肉より安いんだろ?」
「工場で風邪が流行っていてね。野菜とチキンを煮込んだスープは、発汗作用もあって風邪をひいている時にピッタリなのよ」
海外版おばあちゃんの知恵だが、風邪が長引いてお粥に飽きてくると、おばあちゃんがよく作ってくれた。なんでも医学的にもその効果は証明された……と言っていたような気もする。
「俺達の分もあるんだろ?」
「風邪をひいた家族へ持って帰れるように、いつもより多く作ったからね。ま、いいわ。お土産もくれたし、明日、また作るわ」
そう言って彼らにスープを差し出すと満面の笑顔で食べ始める。改めてよく見てみるとコロのくせに目鼻立ちはスッキリしており、なかなかのイケメンだ。
「で、夕ご飯を食べに来ただけじゃないんでしょ?何か用があるんでしょ?」
『そうなんです!グレイスさん』
コロの横でスープを食べていたヒョウが、思い出したように突然しゃべりだした。
『うちの娘達をそちらの学校に通わせることはできないでしょうか』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【参考文献】
たまごソムリエ小林ゴールドエッグ:チキンスープは万病を治す(最終閲覧日:2019年5月22日)
http://www.cgegg.co.jp/blog/%E9%B6%8F%E3%81%95%E3%82%93%E3%83%BB%E9%B3%A5%E3%81%95%E3%82%93%E3%81%AE%E3%82%B3%E3%83%88/3894/
診療所の入口に現れた獣人の男性は、そう言って不満そうに二階を見上げる。そんな彼の隣にはヒョウのような生き物(ヒョウにしては大きすぎるが…)が大人しそうに座っている。勿論だが、私だけでなく診療所にいた全員に緊張感が走るのが分かった。
「あの……診察をご希望なのでしょうか?」
回復魔法は別に人間だけではなく、動物にも効果があるらしい。おそらくこのヒョウにも効果はあるだろう。だが、動物を相手にするのは今回が初めてだ。
「違うって、俺だよ。俺!」
あぁ……この世界でも『オレオレ詐欺』ってあるのかしら?と、いぶかし気な視線を彼に向けると、彼は呆れたように「分からないかな……」と私の両手を取って、しゃがみこむ。そして頭の上に生えている自分のフワフワの耳を触らせた。
「ほら、ベリスだよ。べリス」
そう言われて、彼の耳を撫でると確かにコロのモフモフ感と似ている気がする。
「コロ……?」
「そうそう!って、コロじゃねーって言ってんだろ」
「でも、なんで獣人の姿しているの?」
「こいつが診療所に来たいっていうから連れてきてやろうと思ったんだけど、さすがにダイアウルフとクァールが並んで歩いていたら、この前のおばさんみたいに怖がらせちゃうかもしれないって思ってね」
たしかに魔物が二匹街中を歩いていたら大問題だ。それでも、このデカいヒョウが街中を歩いていても問題にならなかったのだろうか。いや、そもそもヒョウも獣人になれば良かったようなきがするのだが……。
「そうじゃなくて、獣人になれるの?」
「いやいや。逆ね逆。元々獣人で、森の中でクリムゾン様を守るためにダイアウルフになってんの」
確かに獣人よりもダイアウルフの方が数倍も戦闘力は高そうだ。
「と、とりあえず二階で待っていてちょうだい。もう少ししたら診療時間が終わるから」
真偽は別として、彼らがここにいては他の患者さん達の心臓に悪いに違いない。そういえば、今日は多めにチキンスープを作ったな……などと考えながら、彼らを二階へ追いやった。
「土産だ。土産」
診療時間が終わり二階へ行くと、ソファーの上でくつろいでいたコロが私へ先ほどまで持っていた布袋を投げてよこす。
「何これ?」
「シャモンド。とりあえず、みんな大好きだろ?」
袋を開けてみると、ギッシリとシャモンドがそこには詰まっていた。一本金貨一枚で売れるとして……金貨二百枚分ぐらいはあるのではないだろうか。
最初はシャモンドが市場に多数出回ることにより、その値段が下がってしまうことを心配したが、ディランが国外などに輸出するなどして調整をしてくれている。そのため定価金貨二枚で取引されるシャモンドだが、買取価格は金貨一枚だ。手数料などを考えたら当然かもしれないが、買取をする時のディランの笑顔を見ると、彼にとっても旨みのある取引なのだろう。
「でも、せっかく来てもらったけど今日は牛すじじゃなくて、鶏のスープだよ?」
「なんで鶏なの?牛すじが美味いじゃん。鶏肉より安いんだろ?」
「工場で風邪が流行っていてね。野菜とチキンを煮込んだスープは、発汗作用もあって風邪をひいている時にピッタリなのよ」
海外版おばあちゃんの知恵だが、風邪が長引いてお粥に飽きてくると、おばあちゃんがよく作ってくれた。なんでも医学的にもその効果は証明された……と言っていたような気もする。
「俺達の分もあるんだろ?」
「風邪をひいた家族へ持って帰れるように、いつもより多く作ったからね。ま、いいわ。お土産もくれたし、明日、また作るわ」
そう言って彼らにスープを差し出すと満面の笑顔で食べ始める。改めてよく見てみるとコロのくせに目鼻立ちはスッキリしており、なかなかのイケメンだ。
「で、夕ご飯を食べに来ただけじゃないんでしょ?何か用があるんでしょ?」
『そうなんです!グレイスさん』
コロの横でスープを食べていたヒョウが、思い出したように突然しゃべりだした。
『うちの娘達をそちらの学校に通わせることはできないでしょうか』
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【参考文献】
たまごソムリエ小林ゴールドエッグ:チキンスープは万病を治す(最終閲覧日:2019年5月22日)
http://www.cgegg.co.jp/blog/%E9%B6%8F%E3%81%95%E3%82%93%E3%83%BB%E9%B3%A5%E3%81%95%E3%82%93%E3%81%AE%E3%82%B3%E3%83%88/3894/
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