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そして聖女が現れる
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「キース様。私にも回復魔法を教えてくださいませ」
自宅に帰って開口一番に私はキースさんに、そうお願いした。今までも何度か思っていたことだが、『いつか教えてもらおう』とのんきに構えていたのだ。だが、今日のような後悔を二度としないためにも『いつか』ではなく『今すぐ』学ぶべきなのだ。
「簡単な回復魔法を私が使うことができましたら、きっと診療所も楽になりますわ」
快く教えてもらえると思ったが、キースさんは難しそうな表情を浮かべて、「う――ん」と唸る。
「まずね、回復魔法は他の魔法と違って、呪文を覚えても神官学校に行かないと使えないんだ」
衝撃の事実に私は目を見開いた。某医療漫画の無免許医師のように、知識さえあれば治療を行える……とばかり思っていたのだ。
「でも火を出したり、水を出したりする魔法は、呪文を唱えれば使えるようになりましてよ?」
私が通っていた学園では、魔法に関する実習は全くなかったし、基礎的な魔法についてしか学ばなかったが、それでも教科書に書いてある通り呪文を唱えれば手から火を出すことだってできる。正直、これがなければ毎日の家事は想像を絶する大変さだっただろう。
「パッと見は分からないんだけどね、医者の手には小さく砕かれた魔法石で魔法陣が描かれているんだ」
そう言って大きな手のひらを見せてくれるが、目をこらしてもそんなものは見えない。
「回復魔法にも種類があるんだけど、それぞれの試験に合格したら魔法陣が書き足されていって、卒業試験に合格することで完全体になるんだ。この魔法陣が呪文と反応することで回復させられる。だから教えたくても教えられないんだよ」
「そうでしたのね……。お役に立てずに申し訳ございませんわ」
衝撃の事実に肩を落とすとキースさんは慌てて「そんなことないよ!」と私の肩を掴む。
「グレイスには本当に助けられているんだ。今日の応急処置だって、もし本当に刺されていたら適切だったと思うよ」
そんなキースさんの優しい嘘に私は力なく微笑み、自分の部屋へはいることにした。先ほどまで高ぶっていた気持ちの反動で、いっきに疲れが押し寄せる。なんて私は無力な存在なんだろう……そんな絶望と眠気に身を任せベッドに飛び込んだ。
それから数日後、診療所に一人の女性が現れた。
「あら、グレイス公爵令嬢ではありませんこと?」
そう言って驚いた表情を浮かべた女性は、元第二王女のジゼル様だ。ディラン達のように王位継承権を放棄され、現在は『聖女』として神殿で働いていらっしゃる。従妹という関係だが、ディラン達のように表舞台から姿を消しているため、父に付き添って訪れた神殿で何度か挨拶をしたぐらいだ。
「お久しぶりでございます。ジゼル様。今日はこのような場所にどうして……」
「いえね、オリバーに呼ばれましたのよ」
「オリバーに?」
私が首を傾げると、ジゼル様も不思議そうに首を傾げる。
「あら、お聞きになられていらっしゃらないの?オリバーがね――」
「ジゼル様!」
ジゼル様の言葉を遮るようにキースさんが診察室から飛び出してきた。
「お話は中でお願いします」
そう言うと慌てた様子で、ジゼル様を診察室に引き入れる。
たまたま患者がいなかったからいいが、勝手に順番を抜かされては示しがつかない……そんな腹立たしさと共に私は二階の台所へと向かった。
一応、これでも私は『医者の婚約者』。二人の妙な親密さに気持ちはモヤモヤするし、壁越しに二人の会話を盗み聞きたかったが、それよりも来客にお茶を出すことを優先しなければいけないのだ。
自宅に帰って開口一番に私はキースさんに、そうお願いした。今までも何度か思っていたことだが、『いつか教えてもらおう』とのんきに構えていたのだ。だが、今日のような後悔を二度としないためにも『いつか』ではなく『今すぐ』学ぶべきなのだ。
「簡単な回復魔法を私が使うことができましたら、きっと診療所も楽になりますわ」
快く教えてもらえると思ったが、キースさんは難しそうな表情を浮かべて、「う――ん」と唸る。
「まずね、回復魔法は他の魔法と違って、呪文を覚えても神官学校に行かないと使えないんだ」
衝撃の事実に私は目を見開いた。某医療漫画の無免許医師のように、知識さえあれば治療を行える……とばかり思っていたのだ。
「でも火を出したり、水を出したりする魔法は、呪文を唱えれば使えるようになりましてよ?」
私が通っていた学園では、魔法に関する実習は全くなかったし、基礎的な魔法についてしか学ばなかったが、それでも教科書に書いてある通り呪文を唱えれば手から火を出すことだってできる。正直、これがなければ毎日の家事は想像を絶する大変さだっただろう。
「パッと見は分からないんだけどね、医者の手には小さく砕かれた魔法石で魔法陣が描かれているんだ」
そう言って大きな手のひらを見せてくれるが、目をこらしてもそんなものは見えない。
「回復魔法にも種類があるんだけど、それぞれの試験に合格したら魔法陣が書き足されていって、卒業試験に合格することで完全体になるんだ。この魔法陣が呪文と反応することで回復させられる。だから教えたくても教えられないんだよ」
「そうでしたのね……。お役に立てずに申し訳ございませんわ」
衝撃の事実に肩を落とすとキースさんは慌てて「そんなことないよ!」と私の肩を掴む。
「グレイスには本当に助けられているんだ。今日の応急処置だって、もし本当に刺されていたら適切だったと思うよ」
そんなキースさんの優しい嘘に私は力なく微笑み、自分の部屋へはいることにした。先ほどまで高ぶっていた気持ちの反動で、いっきに疲れが押し寄せる。なんて私は無力な存在なんだろう……そんな絶望と眠気に身を任せベッドに飛び込んだ。
それから数日後、診療所に一人の女性が現れた。
「あら、グレイス公爵令嬢ではありませんこと?」
そう言って驚いた表情を浮かべた女性は、元第二王女のジゼル様だ。ディラン達のように王位継承権を放棄され、現在は『聖女』として神殿で働いていらっしゃる。従妹という関係だが、ディラン達のように表舞台から姿を消しているため、父に付き添って訪れた神殿で何度か挨拶をしたぐらいだ。
「お久しぶりでございます。ジゼル様。今日はこのような場所にどうして……」
「いえね、オリバーに呼ばれましたのよ」
「オリバーに?」
私が首を傾げると、ジゼル様も不思議そうに首を傾げる。
「あら、お聞きになられていらっしゃらないの?オリバーがね――」
「ジゼル様!」
ジゼル様の言葉を遮るようにキースさんが診察室から飛び出してきた。
「お話は中でお願いします」
そう言うと慌てた様子で、ジゼル様を診察室に引き入れる。
たまたま患者がいなかったからいいが、勝手に順番を抜かされては示しがつかない……そんな腹立たしさと共に私は二階の台所へと向かった。
一応、これでも私は『医者の婚約者』。二人の妙な親密さに気持ちはモヤモヤするし、壁越しに二人の会話を盗み聞きたかったが、それよりも来客にお茶を出すことを優先しなければいけないのだ。
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