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婚約破棄にて君を離れ
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「お久しぶりでございます。アルフレッド殿下」
場違いなほど丁寧なお辞儀をするが、アルフレッドの怒りは決して収まらないようだ。全身をわなわなと震わせ顔を真っ赤にしている。
「またお前は邪魔をするのか!」
「また……とおっしゃりますと、今の火竜は殿下が?」
「あぁ、そうだ。こんなゴミだめのような場所、わざわざ我が国の騎士らの手を煩わせずとも火竜に一焼きさせてしまえばと思ったのだ」
城壁の近くで別のイケメンに攻撃された――という火竜の言葉が思い起こされた。おそらくアルフレッドのことだったのだろう。確かにメイン攻略対象ということで、彼もまたなかなかのイケメンだ。
「クズみたいな冒険者達に大金を支払って連れてきた火竜だというのに――」
「殿下が冒険者をお雇いになられたのですか?」
「そうだ。あれを連れてくるのに金貨五千枚も支払ったんだぞ」
火竜一匹が五千万円……安いような安くないような……。そもそも火竜が暴れている、というのもデマだったのかもしれない。冒険者の仕事が想像以上に大変な仕事だと改めて気付かされた。
「ティアナの件もそうだ。お前が余計なことをするから――」
「お言葉ですが、ティアナ様に関しては私、何もしておりませんわ。そもそもティアナ様はご妊娠などされておりませんでした」
卒業パーティの時は反論しないという形でその罪をかぶったが、流石に「流産させた」という汚名を甘んじて受けようとは思わない。
「それぐらい知っている。男女の関係にあって、そんなことが分からないとでも思ったか?」
言われてみれば、肌を重ねるような関係の男女がパートナーの偽装妊娠に気付けないわけはないな……。
「では殿下はご存知だったと?」
「そうだ。何が悪い。お前の父親が婚約に反対するから、こうするしかなかったんだ。お前と兄上の結婚話まで持ち上がって……」
アルフレッドから心底憎いといった視線を向けられ、静かに落ち込む。元々恋仲だったわけではないが、そこまで憎まれることをした覚えがない。
「でもご安心くださいませ。私は既にこちらの方と婚約しております。第一王子様とご結婚なんていたしませんわ」
敵意に満ちた視線を改善しようと隣にいるキースさんを紹介するが、それは逆効果だったようだ。アルフレッドは唖然とした表情を浮かべるが、直ぐに更なる憎悪を私に向ける。
「私がこれだけ苦しんでいるのにお前は既に男がおり、幸せに暮らしているのか!!」
いや、先に女を作ったのはあんたでしょ……と思ったが、火に油を注ぎかねないので勿論黙っている。
「あぁ……そうだ」
アルフレッドは何かを思い出したように腰にあった剣をスラリと抜く。
「そうだ……お前が死ねばいいんだ」
どういう理論からそこにたどり着いたかは不明だが、その目は据わっており本気であることが伺える。
「殿下、お止め下さい」
ただならぬ気配を感じたのか、キースさんはスッと私の前に出てかばってくれた。その広い背中がアルフレッドの視線を物理的に遮ってくれるだけで心が少し楽になる。キースさんはそのままアルフレッドとの距離を縮め
「王子たるもの、そのように気軽に剣を抜くものではございません」
と言って剣を持つ彼の手を押さえた。確かに彼の行動は王族として褒められた行動ではない。だが、その言葉が逆にアルフレッドの自尊心を刺激したようだ。赤かった顔がどす黒く変化する。
「平民ごときが、王族に意見するか!!!!」
アルフレッドは剣を持ち上げるようにしてキースさんの手を振り払い、そのまま剣をキースさんに振り下ろす。
止める間もなかった。
気付いた時にはキースさんがスローモーションのようにゆっくりと地面に倒れる光景が映っていた。
「き、キース様!!!!」
地面に倒れる前に受け止めようと走り出したが勿論追いつくはずもなく、私血まみれになったキースさんに縋りつくしかできなかった。レオ姉の時とは比べ物にならないほど大きな傷が彼の胸には刻まれていた。圧迫して止血できるような大きさではない。
カバンの中の回復薬を探すが、ガラス瓶に入った回復薬は先ほどの火竜の暴風で粉々に割れてしまっている。
「誰か!! 助けて!!!!」
大声で助けを求めるが、そもそもこの一帯に医者はキースさんしかいない。キースさんを腕の中に抱えながら、絶望が迫りくるのを静かに感じていた。
「ほう、そなたもそんな顔をするのか」
剣の血を払いながら、アルフレッドはニヤニヤと不気味な笑みを浮かべる。
「二人で死ねばよい」
再び剣を両手で握り直すと、ゆっくりと振り上げた。
場違いなほど丁寧なお辞儀をするが、アルフレッドの怒りは決して収まらないようだ。全身をわなわなと震わせ顔を真っ赤にしている。
「またお前は邪魔をするのか!」
「また……とおっしゃりますと、今の火竜は殿下が?」
「あぁ、そうだ。こんなゴミだめのような場所、わざわざ我が国の騎士らの手を煩わせずとも火竜に一焼きさせてしまえばと思ったのだ」
城壁の近くで別のイケメンに攻撃された――という火竜の言葉が思い起こされた。おそらくアルフレッドのことだったのだろう。確かにメイン攻略対象ということで、彼もまたなかなかのイケメンだ。
「クズみたいな冒険者達に大金を支払って連れてきた火竜だというのに――」
「殿下が冒険者をお雇いになられたのですか?」
「そうだ。あれを連れてくるのに金貨五千枚も支払ったんだぞ」
火竜一匹が五千万円……安いような安くないような……。そもそも火竜が暴れている、というのもデマだったのかもしれない。冒険者の仕事が想像以上に大変な仕事だと改めて気付かされた。
「ティアナの件もそうだ。お前が余計なことをするから――」
「お言葉ですが、ティアナ様に関しては私、何もしておりませんわ。そもそもティアナ様はご妊娠などされておりませんでした」
卒業パーティの時は反論しないという形でその罪をかぶったが、流石に「流産させた」という汚名を甘んじて受けようとは思わない。
「それぐらい知っている。男女の関係にあって、そんなことが分からないとでも思ったか?」
言われてみれば、肌を重ねるような関係の男女がパートナーの偽装妊娠に気付けないわけはないな……。
「では殿下はご存知だったと?」
「そうだ。何が悪い。お前の父親が婚約に反対するから、こうするしかなかったんだ。お前と兄上の結婚話まで持ち上がって……」
アルフレッドから心底憎いといった視線を向けられ、静かに落ち込む。元々恋仲だったわけではないが、そこまで憎まれることをした覚えがない。
「でもご安心くださいませ。私は既にこちらの方と婚約しております。第一王子様とご結婚なんていたしませんわ」
敵意に満ちた視線を改善しようと隣にいるキースさんを紹介するが、それは逆効果だったようだ。アルフレッドは唖然とした表情を浮かべるが、直ぐに更なる憎悪を私に向ける。
「私がこれだけ苦しんでいるのにお前は既に男がおり、幸せに暮らしているのか!!」
いや、先に女を作ったのはあんたでしょ……と思ったが、火に油を注ぎかねないので勿論黙っている。
「あぁ……そうだ」
アルフレッドは何かを思い出したように腰にあった剣をスラリと抜く。
「そうだ……お前が死ねばいいんだ」
どういう理論からそこにたどり着いたかは不明だが、その目は据わっており本気であることが伺える。
「殿下、お止め下さい」
ただならぬ気配を感じたのか、キースさんはスッと私の前に出てかばってくれた。その広い背中がアルフレッドの視線を物理的に遮ってくれるだけで心が少し楽になる。キースさんはそのままアルフレッドとの距離を縮め
「王子たるもの、そのように気軽に剣を抜くものではございません」
と言って剣を持つ彼の手を押さえた。確かに彼の行動は王族として褒められた行動ではない。だが、その言葉が逆にアルフレッドの自尊心を刺激したようだ。赤かった顔がどす黒く変化する。
「平民ごときが、王族に意見するか!!!!」
アルフレッドは剣を持ち上げるようにしてキースさんの手を振り払い、そのまま剣をキースさんに振り下ろす。
止める間もなかった。
気付いた時にはキースさんがスローモーションのようにゆっくりと地面に倒れる光景が映っていた。
「き、キース様!!!!」
地面に倒れる前に受け止めようと走り出したが勿論追いつくはずもなく、私血まみれになったキースさんに縋りつくしかできなかった。レオ姉の時とは比べ物にならないほど大きな傷が彼の胸には刻まれていた。圧迫して止血できるような大きさではない。
カバンの中の回復薬を探すが、ガラス瓶に入った回復薬は先ほどの火竜の暴風で粉々に割れてしまっている。
「誰か!! 助けて!!!!」
大声で助けを求めるが、そもそもこの一帯に医者はキースさんしかいない。キースさんを腕の中に抱えながら、絶望が迫りくるのを静かに感じていた。
「ほう、そなたもそんな顔をするのか」
剣の血を払いながら、アルフレッドはニヤニヤと不気味な笑みを浮かべる。
「二人で死ねばよい」
再び剣を両手で握り直すと、ゆっくりと振り上げた。
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