悪役令嬢、追放先の貧乏診療所をおばあちゃんの知恵で立て直したら大聖女にジョブチェン?! 〜『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件〜

華梨ふらわー

文字の大きさ
58 / 62

火竜はイケメンがお好き

しおりを挟む
「グレイス!! 大丈夫か!?」

 診察室から駆け上がってきたキースさんは、火竜を前に唖然としている私の肩をつかみ怪我がないか確認してくれる。どこにも怪我がないことが分かると小さく安堵の息をはいたが、少しすると再び険しい表情に戻り

「グレイスはエマと一緒にここにいてくれ。怪我人を連れてくるから」

と窓の外に視線を移す。

「私もご一緒いたします!」

 回復薬を片手に診療所を飛び出そうとするキースさんの後を私は追う。

「危ないから――」

「大丈夫ですわ。キース様が一緒ですもの」

「――分かった。今度こそはぐれるなよ」

 キースさんの『診療所でじっとしていてくれ』という気持ちは痛い程伝わったが、これだけの惨事だ。人手が一人でも欲しいのだろう。キースさんは私の手を引くと勢いよく診療所を後にした。



 もし数ヶ月前の貧民街ならば逃まどう人で通路は溢れかえっていたのかもしれないが、平日の昼間ということもあり街にいる人はまばらだった。子供も含め、多くの人が工場で働くようになっているのだ。

「動けない人がいないか探そう!!」

 キースさんに言われて、一つ一つの小屋を覗き込む。

「誰かいませんか――!」

 叫びながら、救助を求める声を探していると遠くから

『痛い!痛いってば――』

 という声が聞こえてくる。

「キースさん、あっちにいるみたいです」

 私がさした方は火竜がいるあたりだ。おそらく火竜の到来により倒壊した家屋の下敷きになった人がいるに違いない。

「そっちは危ないって」

「大丈夫です。あんなに大きな火竜ですもの、私達のことなんて見えませんわ」

 渋々と言った様子でついて来るキースさんを先導するように『痛い!』と言い続ける声の方へ向かった。


『痛いってのにっ!!』

 その声の主を見た瞬間、私は大きな間違いを犯したことにようやく気付いた。
 小屋をすり抜けてたどり着いた場所は、火竜そのものだったのだ。気付かれないうちに逃げようと無言で合図するキースさんだったが、私は大きく息を吸い

「痛いの?!!!」

と叫んだ。言葉が通じるならば、何らかの解決策があるに違いないと思ったのだ。そんな私をキースさんは慌てて隠そうと引き寄せるが、それよりも早く火竜が私達と視線が合うように首を勢いよく下ろした。

『あら、イケメン。ってあなた私のいうことが分かるの?』

 やはりあの助けを求める声は、この火竜だったのだ。

「分かるわ。治してあげる。どこが痛いの?」

『あぁ~よかったぁ~。変な冒険者に大事な鱗を傷つけられちゃってね~~。見てよコレ~~!!』

 そう言って火竜は軽く首を持ち上げる。

『ほら首の下。逆鱗が傷つけられちゃって、飛んで帰るにも帰れないのよ~~』

 逆鱗にそんな効果があったことを初めて知るが、確かによく見てみると首下の部分だけ鱗が大きくえぐり取られている。その上には鎖が巻き付けられており、傷に当たっているため血がにじみ出ていた。おそらくこの傷を先ほどから『痛い』『痛い』と訴えていたのだろう。

「キースさん、ここの鱗の部分、治せますか?」

「あ……あぁ」

 森の主と会った時のようにキースさんは唖然としていたが、傷口を指さすと慌てたように近づき、回復魔法を唱え始めた。

『いやぁ~~ん。イケメン!ラッキ~~』

 火竜は視線だけをキースさんに向け、なにやら嬉しそうだ。キースさんの超絶イケメンぶりは、人間以外にも効果があるということに驚かされる。

「鎖がついているってことは、連れてこられたんですか?」

『そうなの!ちょっと聞いてよ~。私がね、沼地でのんびりしていたら冒険者達がいきなり襲ってきたのよ。もう繊細な私のハートはズタボロ!!』

 おそらくフレデリックらの火竜討伐隊のことだろう。

「暴れていたんじゃないんですか?」

『なんで自分の家で暴れるのよ~~。そんなことするわけないでしょ!!』

 冷静に考えれば、なぜ火竜が北の湿地で暴れなければいけなかったのか疑問になってきた。繁殖期、縄張り争い……何にしろ王城を攻撃するために荒ぶっていたわけではないようだ。

『で、逆鱗を攻撃されてね、捕まっちゃったの。本当は逃げられたんだけど、一番偉そうな男子がイケメンだったから、とりあえずついて行こうかな~~って。一回王城にも来てみたかったしね』

 獰猛なイメージの火竜だったが、この数分間でそのイメージは大きく変わる。少なくともこの火竜はイケメン好きの乙女なようだ。

『そしたら城壁の前で別のイケメンが私のこといきなり攻撃するじゃない!! ビックリして暴れちゃったのよ。ごめんなさいね~~』

「そうだったのね。でも、もう大丈夫よ。傷も癒えるし帰れるわ」

『そうする~~。もう王城はコリゴリ!ねぇ、この人連れて帰っちゃだめぇ?』

 そう言って火竜は視線をキースさんに向けるが、私達の会話が聞こえていないのか火竜の不穏な提案を無視して黙々と回復魔法をかけている。

「ダメよ。この人は私の婚約者なんだから」

『う~~ん、ケチぃ。北の湿地ってねぇ、むさくるしい冒険者ぐらいしか来ないのよ~~。年頃だし、そろそろ洗練されたイケメン旦那様を見つけようと思ってきたんだけどなぁ~~。知り合いのイケメン、紹介してよぉ~~?』

 火竜と人間は結婚できるのだろうか……そんな根本的な疑問が思い浮かんだが、勿論口にしない。そんな気まずい雰囲気を察したのか、キースさんが火竜から離れて私の元へ駆け寄ってきた。

「火竜を回復するのは初めてだから回復できたか分からないんだけど……」

 そう言われて火竜の喉元を見てみると、先ほどまであった傷は綺麗に消えてなくなっている。

「キース様、ありがとうございます。火竜さん、飛べそうですか?」

『やだぁ~~飛べる飛べるぅ~~。本当にありがとうね~~』

 火竜は嬉しそうに翼をバタバタと動かすと、そのまま勢いよく空へと飛び立った。あまりの勢いに爆風がまきおこりキースさんと私は吹き飛ばされた程だ。


 火竜の姿が空のかなたに消えるのを確認しようやく安堵の息をつくと、私の直ぐ隣でも同じようなため息が聞こえてきた。思わずキースさんと顔を見合わせ笑ってしまう。


 そんな和やかな雰囲気を

「またお前なのか!!」

という怒鳴り声が打ち壊した。
 その声の主は卒業パーティー以来、初めて会うアルフレッドのものだった。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです

志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑! 10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。 もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。 (頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)

偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~

咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】 あらすじ 「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」 ​聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。 彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。 ​しかし、エリーナはめげなかった。 実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ! ​北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。 すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。 ​「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」 ​とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。 以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。 ​最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?

【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。

雨宮羽那
恋愛
 聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。  というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。  そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。  残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?  レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。  相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。  しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?  これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。 ◇◇◇◇ お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます! モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪ ※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。 ※完結まで執筆済み ※表紙はAIイラストです ※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)

処刑された王女は隣国に転生して聖女となる

空飛ぶひよこ
恋愛
旧題:魔女として処刑された王女は、隣国に転生し聖女となる 生まれ持った「癒し」の力を、民の為に惜しみなく使って来た王女アシュリナ。 しかし、その人気を妬む腹違いの兄ルイスに疎まれ、彼が連れてきたアシュリナと同じ「癒し」の力を持つ聖女ユーリアの謀略により、魔女のレッテルを貼られ処刑されてしまう。 同じ力を持ったまま、隣国にディアナという名で転生した彼女は、6歳の頃に全てを思い出す。 「ーーこの力を、誰にも知られてはいけない」 しかし、森で倒れている王子を見過ごせずに、力を使って助けたことにより、ディアナの人生は一変する。 「どうか、この国で聖女になってくれませんか。貴女の力が必要なんです」 これは、理不尽に生涯を終わらされた一人の少女が、生まれ変わって幸福を掴む物語。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

処理中です...