31 / 92
問3 条件による分岐を辿れ
答3-2
しおりを挟む
【限定イベント 迦具土城を落とせ】
「ここまで来おったか、西方の羽虫どもめ。しかし、愚かよ。ここは我が腹の内。ゆらめく大火は虫どもをおびき寄せる行灯に過ぎぬ。一度入ろうものなら逃げ出すことも叶わぬこの胃袋の中で、貴様らは燃え尽きるのだ――」
イベントボス「カグツチ」による前口上が終わりぐわはははと品の無い笑い声が轟くと、同時にローディングゲージも右端に辿り着く。
暗転していた視界に光が戻った。
天守閣は本来敵を迎え撃つために複雑な構造をしているものだが、そこはゲームらしく入り口はやけに大きな間取りで高い天井の木造の広間になっている。
灯りと言えば、チラチラと天井から降る無数の火の粉が発光する雪のように辺りを照らしていた。
本日、数えて4度目のダンジョン挑戦の始まりだ。
俺はすぐに走り出し、手札の確認をする。よーし、良いドローだ。
右手には、同じ速度で走るチョッキ。顔を見ると、奴も俺を見てニッと笑った。
後ろからも複数の足音と「ミューちゃん、もうダンジョン内で遅れても置いてくからね!」と楽しそうなみずちの声。
さりげなくミューミューちゃん呼びからミューちゃん呼びに変わってる。いいなそれ、呼びやすそうで。
大広間の奥には大きな観音開きの扉が一つ。俺とチョッキが左右の扉を同時に蹴飛ばして開く。
灯りも少なく左右に伸びる静かな通路は、ダンジョンの不穏な空気を否応無しに俺たちに与えてくる。前回の攻略までは片方の道を選び、律儀に縦に並んで陣形を保ちながらゆっくりと進んだ。
今回は違う。
「じゃあ、後で!」
「おう! 負けねーぞ、りょーちん!」
俺は左、チョッキは右。二手に分かれた通路を、俺達は躊躇することもなくそれぞれの道の奥へと走っていった。
別れてすぐ、俺の前に左右の壁をすり抜けるようにして4匹の「餓鬼」が立ちふさがった。お腹の大きく出た手足の細い子鬼といった見た目のエネミーは、ギャッギャッと全員が俺に向かって飛びかかってくる。
ちょうど試し打ちに手頃な「球」が欲しかった俺は、バックステップで飛びかかりを回避して更に少し距離を置くと【強引な誘引】をアクティブ化した。
視界ディスプレイで餓鬼の一体にターゲットを指定し、右手の人差し指でちょいちょいと手繰り寄せるしぐさをする。
すると、選択された餓鬼が猛スピードで俺の方に引き寄せられる。
これを今度は――と思ったところで、後ろからバタバタと大きな足音が聞こえた。
この音は良く聞いた覚えがある。いいタイミングだ。
「りょーちん、パーーーース!!!」
「あいよっ!」
このユーティリティカード【強引な誘引】は右手の人差し指と対象を強いバネ性の紐でつなぐようなイメージのカードだ。実際に紐が目に見えるわけではないので少々操作に難はあるが、餓鬼が俺にぶつかる寸前でくるっと体をひねりながら指を横に回すと、遠心力にぐんっと引っ張られ俺の背後側に餓鬼がすっ飛んで行った。
「とりゃーー!!」
そしてその餓鬼めがけて猛ダッシュからのジャンピングボレーをかますみずち。
ナイスシュート。ダッシュ系のカードで加速されたみずちのキックは見事に餓鬼のボディーに炸裂し、ステータスが付与された蹴りによって炎上しながら残った3体の餓鬼に向かって弾き飛ばされる。
蹴り返された餓鬼は、そのまま爆散。
一瞬で4体のエネミーが飛び散って消滅した。
「いきなり魅せてくれるじゃん」
「えへへ、決まった!」
腰に手を当ててみずちは誇らしげに∨サインを掲げる。
「ミューミューさんは?」
「反対に行かせた! まー、あとで合流するし」
「よっしゃ、じゃあ向こうのお二人に負けないようにガンガン行きますか」
「うん! 『ガンガンいこうぜ!』だね!」
「よくそんな古いネタを……」
「チッチッチ、王道こそ至高、だよ?」
俺とみずちは雑談しながらも板張りの通路を走り抜けると、先にあった扉を迷いなく押し開ける。
「おー、いいねぇ」
「素材の海だー!」
一階層定番のイベント部屋、入り口から奥まで縦に伸び、10個の部屋をそれぞれふすまで仕切られた畳張りの座敷だ。
このふすまを開くごとに敵が出現する仕掛けで、丁寧に闘うならふすまを開けては敵を倒し、また開けては……と繰り返すだけでいいのだが。
「行けるよね?」
「手札回しながらだけど、多分行ける」
「じゃあ、開けといてね?」
「ういっす。あっちはやっておくから、後はよろしく」
みずちが両手をお椀型に重ね、体の横に引く。【老師の秘奥義】のアクションだ。
彼女が溜め始めるのと同時に、俺はさっき使えずじまいだったバレットカード【砲夢乱抜刀】をアクティブ化し、野球のフルスイングのようなアクションでふすまに巨大な太刀を叩き込んだ。
ふすまが切れるというより、なぜかミジン切りの様に散りながら崩れ落ちる。
このまま振り切った時点で【砲夢乱抜刀】の効果は消えるのだが、俺はちょっとした裏技を知っている。
そのままの勢いを殺さぬように体を回転させると、【砲夢乱抜刀】のエフェクトは消えずに残り続けるのだ。
ぐるん、ぐるん、ぐるん。
刃渡り2mはあろうかという太刀のエフェクトに重さはないが、自ら勢いをつけ更に回す。
次第に俺は人間を辞め、局地的な台風としての役割を成すこととなる。
「オラオラオラオラオラオラオラオラ」
ぐるぐると回り、ふすまをまた切り刻みながら進む。
ふすまが空いたことによりポップしたエネミーもなぎ倒しながらどんどん進む。
みずちが溜めながら笑いのツボに入ったようで、後ろ? いやもうぐるぐる回ってるからよくわからなくなってきたが、どこかから楽しそうな笑い声が届く。
俺はかろうじて視界ディスプレイのミニマップを頼りに前進を続けた。
「オラオラオラオラオラ……オエェェェ」
この攻撃は対エネミー戦で非常に強力だが、難点は一瞬で気持ち悪くなるところだろうか。
頭がくらくらする。ふすまは4、5枚は叩き切ったはずだ。あと半分。
酔っぱらいのようにふらつく足をなんとか意思の力で押さえつけると、すぐに群がるエネミーをはねのけるべくバレットカード【踏み込む独歩】でさらに足元を大きく踏みつけた。
どがん、と足元が大きく凹み、衝撃で畳が跳ね上がる。
着物を着た狐のようなエネミーがまとめて弾き飛ばされたのを横目で確認し、残りの2枚の手札のカードもさっさと切る。
よっしゃ引いた。
ドロータイムのゲージが進み、新たに引いたカードは念願のショットカード【獣王の咆哮】だった。
「ここまで来おったか、西方の羽虫どもめ。しかし、愚かよ。ここは我が腹の内。ゆらめく大火は虫どもをおびき寄せる行灯に過ぎぬ。一度入ろうものなら逃げ出すことも叶わぬこの胃袋の中で、貴様らは燃え尽きるのだ――」
イベントボス「カグツチ」による前口上が終わりぐわはははと品の無い笑い声が轟くと、同時にローディングゲージも右端に辿り着く。
暗転していた視界に光が戻った。
天守閣は本来敵を迎え撃つために複雑な構造をしているものだが、そこはゲームらしく入り口はやけに大きな間取りで高い天井の木造の広間になっている。
灯りと言えば、チラチラと天井から降る無数の火の粉が発光する雪のように辺りを照らしていた。
本日、数えて4度目のダンジョン挑戦の始まりだ。
俺はすぐに走り出し、手札の確認をする。よーし、良いドローだ。
右手には、同じ速度で走るチョッキ。顔を見ると、奴も俺を見てニッと笑った。
後ろからも複数の足音と「ミューちゃん、もうダンジョン内で遅れても置いてくからね!」と楽しそうなみずちの声。
さりげなくミューミューちゃん呼びからミューちゃん呼びに変わってる。いいなそれ、呼びやすそうで。
大広間の奥には大きな観音開きの扉が一つ。俺とチョッキが左右の扉を同時に蹴飛ばして開く。
灯りも少なく左右に伸びる静かな通路は、ダンジョンの不穏な空気を否応無しに俺たちに与えてくる。前回の攻略までは片方の道を選び、律儀に縦に並んで陣形を保ちながらゆっくりと進んだ。
今回は違う。
「じゃあ、後で!」
「おう! 負けねーぞ、りょーちん!」
俺は左、チョッキは右。二手に分かれた通路を、俺達は躊躇することもなくそれぞれの道の奥へと走っていった。
別れてすぐ、俺の前に左右の壁をすり抜けるようにして4匹の「餓鬼」が立ちふさがった。お腹の大きく出た手足の細い子鬼といった見た目のエネミーは、ギャッギャッと全員が俺に向かって飛びかかってくる。
ちょうど試し打ちに手頃な「球」が欲しかった俺は、バックステップで飛びかかりを回避して更に少し距離を置くと【強引な誘引】をアクティブ化した。
視界ディスプレイで餓鬼の一体にターゲットを指定し、右手の人差し指でちょいちょいと手繰り寄せるしぐさをする。
すると、選択された餓鬼が猛スピードで俺の方に引き寄せられる。
これを今度は――と思ったところで、後ろからバタバタと大きな足音が聞こえた。
この音は良く聞いた覚えがある。いいタイミングだ。
「りょーちん、パーーーース!!!」
「あいよっ!」
このユーティリティカード【強引な誘引】は右手の人差し指と対象を強いバネ性の紐でつなぐようなイメージのカードだ。実際に紐が目に見えるわけではないので少々操作に難はあるが、餓鬼が俺にぶつかる寸前でくるっと体をひねりながら指を横に回すと、遠心力にぐんっと引っ張られ俺の背後側に餓鬼がすっ飛んで行った。
「とりゃーー!!」
そしてその餓鬼めがけて猛ダッシュからのジャンピングボレーをかますみずち。
ナイスシュート。ダッシュ系のカードで加速されたみずちのキックは見事に餓鬼のボディーに炸裂し、ステータスが付与された蹴りによって炎上しながら残った3体の餓鬼に向かって弾き飛ばされる。
蹴り返された餓鬼は、そのまま爆散。
一瞬で4体のエネミーが飛び散って消滅した。
「いきなり魅せてくれるじゃん」
「えへへ、決まった!」
腰に手を当ててみずちは誇らしげに∨サインを掲げる。
「ミューミューさんは?」
「反対に行かせた! まー、あとで合流するし」
「よっしゃ、じゃあ向こうのお二人に負けないようにガンガン行きますか」
「うん! 『ガンガンいこうぜ!』だね!」
「よくそんな古いネタを……」
「チッチッチ、王道こそ至高、だよ?」
俺とみずちは雑談しながらも板張りの通路を走り抜けると、先にあった扉を迷いなく押し開ける。
「おー、いいねぇ」
「素材の海だー!」
一階層定番のイベント部屋、入り口から奥まで縦に伸び、10個の部屋をそれぞれふすまで仕切られた畳張りの座敷だ。
このふすまを開くごとに敵が出現する仕掛けで、丁寧に闘うならふすまを開けては敵を倒し、また開けては……と繰り返すだけでいいのだが。
「行けるよね?」
「手札回しながらだけど、多分行ける」
「じゃあ、開けといてね?」
「ういっす。あっちはやっておくから、後はよろしく」
みずちが両手をお椀型に重ね、体の横に引く。【老師の秘奥義】のアクションだ。
彼女が溜め始めるのと同時に、俺はさっき使えずじまいだったバレットカード【砲夢乱抜刀】をアクティブ化し、野球のフルスイングのようなアクションでふすまに巨大な太刀を叩き込んだ。
ふすまが切れるというより、なぜかミジン切りの様に散りながら崩れ落ちる。
このまま振り切った時点で【砲夢乱抜刀】の効果は消えるのだが、俺はちょっとした裏技を知っている。
そのままの勢いを殺さぬように体を回転させると、【砲夢乱抜刀】のエフェクトは消えずに残り続けるのだ。
ぐるん、ぐるん、ぐるん。
刃渡り2mはあろうかという太刀のエフェクトに重さはないが、自ら勢いをつけ更に回す。
次第に俺は人間を辞め、局地的な台風としての役割を成すこととなる。
「オラオラオラオラオラオラオラオラ」
ぐるぐると回り、ふすまをまた切り刻みながら進む。
ふすまが空いたことによりポップしたエネミーもなぎ倒しながらどんどん進む。
みずちが溜めながら笑いのツボに入ったようで、後ろ? いやもうぐるぐる回ってるからよくわからなくなってきたが、どこかから楽しそうな笑い声が届く。
俺はかろうじて視界ディスプレイのミニマップを頼りに前進を続けた。
「オラオラオラオラオラ……オエェェェ」
この攻撃は対エネミー戦で非常に強力だが、難点は一瞬で気持ち悪くなるところだろうか。
頭がくらくらする。ふすまは4、5枚は叩き切ったはずだ。あと半分。
酔っぱらいのようにふらつく足をなんとか意思の力で押さえつけると、すぐに群がるエネミーをはねのけるべくバレットカード【踏み込む独歩】でさらに足元を大きく踏みつけた。
どがん、と足元が大きく凹み、衝撃で畳が跳ね上がる。
着物を着た狐のようなエネミーがまとめて弾き飛ばされたのを横目で確認し、残りの2枚の手札のカードもさっさと切る。
よっしゃ引いた。
ドロータイムのゲージが進み、新たに引いたカードは念願のショットカード【獣王の咆哮】だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました
グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。
選んだ職業は“料理人”。
だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。
地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。
勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。
熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。
絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す!
そこから始まる、料理人の大逆転。
ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。
リアルでは無職、ゲームでは負け組。
そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる