ロマン砲主義者のオーバーキル

TEN KEY

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問4 異なる2点間の距離を求めよ

問4-3

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 イルミンズール広場を離れても、まだつかつかと歩みを進めるミューミューを引っ張って止めた。

「ちょ、ちょっと待った」
「あ……ごめんなさい」

 パッと驚いたような顔でミューミューが振り向いた。
 ずっと後ろを付いて来ていた俺はようやく顔を見てホッとする。
 彼女も我に返ったようで、慌てて頭を小さく下げる。

「少しカッとなってしまいました……。あのグループの人たち、何度か声をかけられた事がありますけど、あれほど無礼な方はいませんでしたから、余計にムッとしてしまって……場を荒らす結果になってしまいました」
「いや、あれはコローマルの挑発に俺が乗ったのが悪かった。こっちこそごめん。代わりに怒らせた」

 いえいえ、いやいや、と同じやり取りを3回ほど繰り返してから、どちらともなく笑い合った。
 ひとしきり笑うと、はぁ、と俺はため息を吐いた。

「なんか、ああいうのこれから増えそうだな。メッセージもすごい数来てたし」
「そうなんですか?」
「昨日から800件くらい? 内容はちょっとビビって見れてない」
「あ! そのことなんですけど……」

 ミューミューが気まずそうにもじもじしている。
 あれか? 配信の件か?

「昨日のアレ、配信してたんだよね。朝チョッキから聞いたよ」
「既成事実にしちゃおうと思って……ごめんなさい。私の都合で勝手なことを」
「いいよ別に。それに関しては俺は特に迷惑被ったわけじゃないし」
「でも、メッセージとかは……多分そのせいですよね?」
「あー…………それは、うーむ……そうかも……。で、でも別に迷惑って訳じゃないし! 全然! 拒否設定変えたから大丈夫!」
「重ね重ねごめんなさい……」

 まだミューミューは居心地悪そうにうつむいている。
 ダンジョンまでは楽しかったのに、怒らせて、今度は悲しませてしまった。
 2人きりになった途端にこれじゃ、俺の器の小ささがよく分かる。

「うーん……じゃあ昨日の話は終わりにしよう! 何度も謝らないでほしいし、後でなんか俺の欲しいカードでも買ってもらってチャラでどうよ!? 困った時はモノで解決しろってじーちゃん言ってたし!」
「え……? すごい現実的なお祖父様ですね」
「あぁうん……。じーちゃん、土地とお酒で苦労した人だから……」
「はぁ……」

 なんだこの話!!
 俺のじーちゃんの話!! 今いらねぇだろ!!

「ご、ごめんね。なんか。……あー、今更だけど、本当に俺とペア、組むの? まだ契約プロミス前だし、さっきの話じゃないけど、俺以外にももっとふさわしい人いるんじゃないかな……?」

 俺が良かれと思ってそう提案すると、彼女は孤狼丸に対するよりも鋭い目つきになる。

「シトラスさん……? それは違います」

 彼女はぐい、と俺に一歩近づく。

「あなたは自分の価値をまだ理解していないんですか?」

 がしっと肩を掴まれた。

「昨日の2試合も、今日のダンジョンでも、私は貴方を見ていました。ずっと集中して、見極める為に。今日はもうただの『確認』でしかありませんでしたけど。……昨日で『確信』は得たので」

 顔が……近づいてくる。ちょ、ちょっと待っ……。

「カグツチ戦での最後、あなたは一歩踏み込みましたよね? 振り切った後、更にもう1歩、カグツチを追い込む為に。あれは多分【砲夢乱抜刀】の延長技だと思いますけど、あれの判定を消さずにもう1度振り切るなんて、

 近い近い近い。

「あなたの、そういう技術、知識、そしてそれを活かす『力』を貸して欲しいんです。それは双方にメリットがあるはずです。貴方はまずきちんとその力を自覚して頂いて、私とは早急にプロミスして、その後は――」
「ちょっと待った!!!!」

 俺は自分でも驚くほど大きな声が出てしまった。
 彼女も状況に気づいたのか、パッと顔を離した。

 周りを少し遠巻きに数人のプレイヤーに囲まれていた。

「……ミューミューさまとあの……」「……昨日の……」「やっぱそういう……」

 小さく話す声が聞こえてくる。
 俺は恥ずかしさでミューミューの顔も、彼らの顔も全く見れない。

「先に、もうちょっとプライベートな場所に行こう。あ、変な意味じゃなくて」

 変な意味じゃなくて、が非常に変な意味に聞こえる。
 これ、どう言っても駄目だろ。詰んでる。

 ミューミューは無言で頷くと、光を散らして消えた。

 ポーンとシステムコールが耳元で響く。
 画面には「ミューミューのマイルームに招待されました」というメッセージが現れ、俺は迷うことなく「承認」を押した。

 数人の生暖かい目に送られて俺も光の粒となって消える。







 彼女のマイルームのスポーン設定位置は、小さな丘の麓だった。
 さわさわと風がそよぐ、地平線まで遮蔽物のない広漠とした草原。デフォルメされた可愛らしいヤギが数匹、近くの草を美味しくもなさそうについばんでいる。
 丘の上に立つ白い建物が彼女のマイルームだろう。
 俺は丘上まで伸びるレンガ敷の小道を登ると、腰までの高さの低い柵に備え付けられた扉をきぃ、と開いた。
 建物には一切の装飾がなく、窓も無く、豆腐のようなただの箱に見えた。
 クラフト系のゲームで最初にまずは拠点として作るような、時間をかけずに慌てて建てた無機質なそれは、のどかな風景の中では少し異質に映る。

 俺はドアをノックし、ごほん、と喉を作る。

「どうも、まだ自らの価値を知らない男です。今日は価値観を変えるため、己の才を試すために馳せ参じました。よろしければ、中に入っても?」

 精一杯カッコつけた声で、寒いセリフを吐く。よし、乗ってきた。
 中からクスクスと笑い声が聞こえる。
 ガチャリ、と扉が優しく開いた。

「どうぞ、『無名の男』さん」

 中から、ふわりと甘い果物の香りが漏れ出した。
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