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ep1 あの日のこと
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ヒナタソラネがどんな人物かと問われたなら。
ムードメーカーの友人Aは言う。
「ヒナタ? ん~、そうだな。一言でいえば……明るいアホだな。まあ、オレは好きだよ。」
留年して、強面で周囲に避けられていた友人Bは言う。
「物おじしないバカ。あいつ、多分、どんな閉鎖的な部族に放り込んでも生きていけるだろ。」
いつでもマイナス思考で、暗い想いを抱えていた友人Cは言う。
「ガサツで、情緒がない。悩んでいる時に話さない方がいい。イライラするし、もっと落ち込むから。
……そりゃ、一周回って良い奴になる時もあるかもしれないけど――決しておすすめはしないね。」
親友Dは、いつもの調子で言う。
「親友っていうな。気持ち悪い。
アイツなー、なんか知らんけど気づいたら場に馴染んでんだよな。順応力っての? アホだけど憎めないっていうか……。
でもあいつ、雰囲気でねじ込むとこあるから……何回フォローしてやったか。
悪友? いや、それにはアイツがアホすぎる。もっと知力のステータス上げて出直してほしいわ。
短気っていうか、短絡的っていうか、世が世なら、江戸っ子的な感じだな。」
想像したのか、Dは肩をすこし揺らして付け加えた。
「――ま、憎めないやつだけどさ。」
それ二回目、と突っ込む者は奇しくもいなかった。
ヒナタは、黒い瞳と黒い髪を持つ、ごくありふれた日本人だ。
苗字が名前のようだから、いつも『ヒナタ』と呼ばれている。『ソラネ』と呼ぶのは、家族や親戚くらいだ。
『ヒナタ』と呼ぶ友人代表は、親友だ。
たぶん、こいつがずっとそう呼んでいるせいだろう、とヒナタは思っている。
高校の帰り道、親友が声を張り上げた。
「ヒナタ!明日忘れんなよー!ゲーム持ってくんの忘れたら、まじで全力デコピンな!」
「だいじょーぶだって!じゃーな!」
「おまえの“だいじょうぶ”はあてになんねー」と聞こえたが、いつものことなので無視した。
謝罪のプロを自称する自分に、抜かりはない。……たぶん。
そんなことを考えながら、唐突に違和感を感じて首をひねった。
いつもなら、うるさいほど車が行き交っているのに、今日はやけに静かだ。
なんとなく橋の欄干に登り、辺りを見渡した。
ぐるりと見渡しても、ついさっきまであったはずの生活の喧騒が、まるで消えたようだった。
さっき別れたばかりの親友の後ろ姿さえ、どこにも見えない。
戸惑いと共に、溶けた鉄のように赤い夕日が目に染みた瞬間、足を踏み外した。
欄干を掴もうと伸ばした手が、無惨に空を切る。
重力が一気に反転したようで、心臓が跳ね上がった。
――あー、この川って臭いんだよなぁ……。
とっさに思ったのは、そんなことだった。
もし制服が駄目になって、小遣いから払えと言われたら泣く。主に新作ゲームができなくなって。
その時は親友からぶんどろう――そう心に決め、来るはずの衝撃に身を備えたが、それはいつまで経っても訪れなかった。
代わりに、空気が耳を裂くような音とともに、視界が色を失って暗闇につつまれた。
胃が置いていかれるような感覚が身体を襲う。
――俺、ジェットコースター苦手なんだけど……!
気持ちの悪い感覚が永遠かと思うほど続いて――唐突にぺっ、と吐き出すように落とされた。
冷たい床の感触が、現実を思い出させる。
土と焚き火の匂いが、見知らぬ空気の中に混じっていた。ぐわんぐわんとする頭に、誰かの声が反響している。
誰かが必死に話しかけてくるが、それどころではなかった。
「気持ち、わ……るっ……」
かろうじて漏れた声を拾ったのか、誰かの手が背中に触れた。
そこからじわじわと温もりが広がり、吐き気が引いていく。
ぼんやりとした視界に、青みを帯びた夜明け色の髪が映った。
その持ち主は、恐ろしく整った顔立ちなのに、不安そうな表情はまるで大型犬のようだった。
――夜明け色の大型犬……なにそれ、ファンタジー。
思わずふっと笑みがこぼれた瞬間、世界がすうっと遠のいた。
ムードメーカーの友人Aは言う。
「ヒナタ? ん~、そうだな。一言でいえば……明るいアホだな。まあ、オレは好きだよ。」
留年して、強面で周囲に避けられていた友人Bは言う。
「物おじしないバカ。あいつ、多分、どんな閉鎖的な部族に放り込んでも生きていけるだろ。」
いつでもマイナス思考で、暗い想いを抱えていた友人Cは言う。
「ガサツで、情緒がない。悩んでいる時に話さない方がいい。イライラするし、もっと落ち込むから。
……そりゃ、一周回って良い奴になる時もあるかもしれないけど――決しておすすめはしないね。」
親友Dは、いつもの調子で言う。
「親友っていうな。気持ち悪い。
アイツなー、なんか知らんけど気づいたら場に馴染んでんだよな。順応力っての? アホだけど憎めないっていうか……。
でもあいつ、雰囲気でねじ込むとこあるから……何回フォローしてやったか。
悪友? いや、それにはアイツがアホすぎる。もっと知力のステータス上げて出直してほしいわ。
短気っていうか、短絡的っていうか、世が世なら、江戸っ子的な感じだな。」
想像したのか、Dは肩をすこし揺らして付け加えた。
「――ま、憎めないやつだけどさ。」
それ二回目、と突っ込む者は奇しくもいなかった。
ヒナタは、黒い瞳と黒い髪を持つ、ごくありふれた日本人だ。
苗字が名前のようだから、いつも『ヒナタ』と呼ばれている。『ソラネ』と呼ぶのは、家族や親戚くらいだ。
『ヒナタ』と呼ぶ友人代表は、親友だ。
たぶん、こいつがずっとそう呼んでいるせいだろう、とヒナタは思っている。
高校の帰り道、親友が声を張り上げた。
「ヒナタ!明日忘れんなよー!ゲーム持ってくんの忘れたら、まじで全力デコピンな!」
「だいじょーぶだって!じゃーな!」
「おまえの“だいじょうぶ”はあてになんねー」と聞こえたが、いつものことなので無視した。
謝罪のプロを自称する自分に、抜かりはない。……たぶん。
そんなことを考えながら、唐突に違和感を感じて首をひねった。
いつもなら、うるさいほど車が行き交っているのに、今日はやけに静かだ。
なんとなく橋の欄干に登り、辺りを見渡した。
ぐるりと見渡しても、ついさっきまであったはずの生活の喧騒が、まるで消えたようだった。
さっき別れたばかりの親友の後ろ姿さえ、どこにも見えない。
戸惑いと共に、溶けた鉄のように赤い夕日が目に染みた瞬間、足を踏み外した。
欄干を掴もうと伸ばした手が、無惨に空を切る。
重力が一気に反転したようで、心臓が跳ね上がった。
――あー、この川って臭いんだよなぁ……。
とっさに思ったのは、そんなことだった。
もし制服が駄目になって、小遣いから払えと言われたら泣く。主に新作ゲームができなくなって。
その時は親友からぶんどろう――そう心に決め、来るはずの衝撃に身を備えたが、それはいつまで経っても訪れなかった。
代わりに、空気が耳を裂くような音とともに、視界が色を失って暗闇につつまれた。
胃が置いていかれるような感覚が身体を襲う。
――俺、ジェットコースター苦手なんだけど……!
気持ちの悪い感覚が永遠かと思うほど続いて――唐突にぺっ、と吐き出すように落とされた。
冷たい床の感触が、現実を思い出させる。
土と焚き火の匂いが、見知らぬ空気の中に混じっていた。ぐわんぐわんとする頭に、誰かの声が反響している。
誰かが必死に話しかけてくるが、それどころではなかった。
「気持ち、わ……るっ……」
かろうじて漏れた声を拾ったのか、誰かの手が背中に触れた。
そこからじわじわと温もりが広がり、吐き気が引いていく。
ぼんやりとした視界に、青みを帯びた夜明け色の髪が映った。
その持ち主は、恐ろしく整った顔立ちなのに、不安そうな表情はまるで大型犬のようだった。
――夜明け色の大型犬……なにそれ、ファンタジー。
思わずふっと笑みがこぼれた瞬間、世界がすうっと遠のいた。
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