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ep11 あぶないひかり
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ほわほわとした気持ちのまま、ヒナタは廊下を歩いていた。
昨日はたくさんお互いの話をして、一緒に眠って。
まだ、胸の奥があたたかい。
相変わらず、セリアスは時々大型犬みたいで――
「で、気分があがってそのようなことを試したと。」
「……はい。」
――これ、この間経験した。
そう思いつつも、椅子に座ってただ俯いた。
ニホンなら正座してるところだ。
でもここは異世界なので、そういう文化はない。仕方がなく座った椅子で最大限身を縮こませた。
昨日、小さなものではあるが、セリアスと一緒に魔法についても色々と試した。
その結果、やはりイメージできるものであれば発現できる魔法に制限はないようだった。
万能すぎて怖い一方、それは好奇心が湧いても仕方ないだろう、と頭の中で言い訳めいたことを思った。
昨日時間をとってくれた影響でセリアスは朝から忙しく、ヒナタのそばにいなかった。
暇を持て余して一人で学習室へ来たのはいいのだが、時間が早くルーエンもまだ来ていない。
だから、昨日の延長線上で軽い魔法をいくつか試しているうちに、ふと部屋の鏡が目に入り、ほんの悪戯心が湧いた。
――目から光、とか。やっぱり出せそう。
そう思ったら、つい。本当につい――出してみたくなってしまった。
結果、すぐできはした。だが――。
出来栄えが気になって鏡を見た瞬間、文字通り「目が!目がぁぁぁっ!!」と床を転げ回る羽目になった。
しっかりと学んだ。
目から光を出す時は、鏡の前は避けよう、と。
反射がえぐすぎて、容赦なく目がつぶされる。次は光量を調節しようと誓った。
そうして悶えているところに、運悪くルーエンとセリアスが入ってきてしまった。
ルーエンは経緯を聞いて、速攻でブリザードを降らせた。
「すみません、もう一度言っていただけますか?……少し疲れているようです。」
その声は、きっと世界一高い山のてっぺんよりも冷えていた。
ルーエンは呆れ顔で、セリアスは口元を押さえて震えている――今は、なにも言葉にならないようだった。
王族には声を出さずに笑うスキルでも存在しているのだろうか。
はじめは危険なことをしたのかとばかりにルーエンと同調していた彼だったが、至った経緯を聞いて途中で崩れ落ちた。今はただのしかばねかもしれない。
「殿下、参加するのは結構ですが、もう少し“場を締める側”でいてください。殿下が笑うせいで締まりません。」
「すみません……」
思わずヒナタが謝った。
一応、講義中はいつも静かに笑っているので、セリアスも気を遣っているのだとは思う。
いや、いつも笑ってるのがおかしいのだから、何のフォローにもならないので言わないけれども。
「君は謝るより、変なことをしないように。思いついたことをすぐに実行してはなりません。」
ルーエンが目を細める。
「――もしかして、ほかにもありますね?」
額からビーム、手のひらや口から波動砲、ほうきに乗る――エトセトラ。
考えていたことを、あらいざらい白状させられた。
「よくもまあそんなに……」
呆れたようにルーエンが言う。セリアスはもはや窒息しそうだ。
「君の発想はおか――変わっているので、思いついたものについては自重してください。危険性を伴うものが多いので。」
今おかしいって言いかけましたか。――思っても、今はもちろん突っ込まない。
「ほかには、ありませんよね?」
もちろん。という断定的な副音声が聞こえる。
「多分全部……あ、昨日、セリアスの髪が綺麗だなって思ってさ。」
目の端で反応するセリアスは見なかったことにする。
「この世界の人たちはみんな髪が長いから、魔法とかで伸ばせるのかなぁ、とかは思ったけど――」
言った瞬間、ぼん、と髪が空気を含んだような振動をおぼえた。
ふわりとテーブルや腕に髪がかかる――髪が、かかる?
「え」
室内の空気が固まる。
セリアスの笑いも完全にとまった。しゃっくりのように驚かすと止まるんだろうか。
いや、そういう話じゃない。
「これは、問題がありそうですね……。」
ルーエンが頭をかかえた。
***
ルーエンが真剣な顔で考えこんでいる。ヒナタも、神妙な面持ちを作った。
自分の都合が悪そうな時は真面目そうにするに限る。それにしても髪が邪魔だ。
「おそらく、感情が昂るとイメージが先行してしまい意図せず暴走する、ということかと思います。……今回の原因は、殿下との関係性にあるのでしょうね。」
セリアスが嬉しそうにいち早く反応する。
「つまり、私への感情が暴走を招いたと。」
「つまり、殿下のお花畑と同じということですね。」
「……つまり、お花畑の俺が暴走した。」
「……」
「先生、怒らないで。ごめんなさい。ふざけました。」
ヒナタは首を傾げた。
「セリアスの髪が綺麗だなって思い出して、そこに気持ちが入ってたってこと?」
「そうですね。魔式を必要としない分、魔法を発現したい、したくないに関わらず、感情によって無意識に発現してしまう可能性があるということです。――もしかすると、人を傷つける可能性も含めて。」
それは本当にふざけている場合ではない。
「どうすれば……。」
正直、感情なんて自分ではどうしようもない。間違いなく感情先行型だという自覚もある。
人を傷つけるのは論外だが、嬉しくなって感情が昂ったら頭から花が生えてしまうような残念な事態も避けたい。どちらかというと後者の可能性がありそうだ。
「あくまで現時点での推測ですが、今回の件は――殿下への想いゆえ、でしょう。」
「想いゆえ」
「殿下。いちいち拾わないでください。話が進みません。――つまり、それが重ならなければ問題ないでしょう。
ただ、感情を抑えるのは難しいので、魔力を落ち着かせる魔道具を身につけるのがいいかもしれませんね。」
「私が用意しよう。」
被せ気味にセリアスが食いついた。
「…ありがとう?」
曖昧にお礼を言えば、まかせろと頷かれる。セリアスが用意してくれるのであれば、ちょっと、楽しみかもしれない。
「ではそれは殿下に任せるとして。今日は少し授業をおこなって、解散しましょうか。その髪も整えないと不便でしょう。」
髪は地につくほど伸びていた。今なら十二単でも違和感なく着れる。似合わないだろうけれど。
自分のものでないような滑らかな髪に触れる。
ツヤッツヤのさらっさらだ。こちらに来ていいものを食べてるせいかもしれない。
「たしかに邪魔だけど……でも、今まで勉強で遅れている分頑張らないとだよね。」
ふっとルーエンの目が優しく緩められた。
「――大丈夫ですよ。浄化に関しては、要は魔法が使えればいいのです。
その点、君は感覚的に掴んでいるので、逆に想定よりかなり短縮されることが予想されます。
君は少し頑張りすぎるようなので気にしないように。」
先生然とした雰囲気で言い切ると、そっと頭に手を添えられた。
淡い紫に銀を帯びた髪が、さらりと揺れた。
言外に泣いた日のことを含んでいる優しさに心が温かくなる。ほんとうに、この先生は優しい。
はい、と笑って答えると、満足そうにルーエンが頷いた。
どうやらブリザードの気配はない。高所からは無事下山できたようで何よりだ。
「まずは基本の魔法を試してみて、1週間後を目安に、浄化の魔法に取り組みましょう。」
「はい!」
セリアスも落ち着いたかのように政務に手をつけはじめた。
「では、まずは基本の光から――くれぐれも。全身のどこからも、光は発さないように。」
――完全には下山できていなかった。
目の端で、セリアスの肩が思い出したように揺れた。
昨日はたくさんお互いの話をして、一緒に眠って。
まだ、胸の奥があたたかい。
相変わらず、セリアスは時々大型犬みたいで――
「で、気分があがってそのようなことを試したと。」
「……はい。」
――これ、この間経験した。
そう思いつつも、椅子に座ってただ俯いた。
ニホンなら正座してるところだ。
でもここは異世界なので、そういう文化はない。仕方がなく座った椅子で最大限身を縮こませた。
昨日、小さなものではあるが、セリアスと一緒に魔法についても色々と試した。
その結果、やはりイメージできるものであれば発現できる魔法に制限はないようだった。
万能すぎて怖い一方、それは好奇心が湧いても仕方ないだろう、と頭の中で言い訳めいたことを思った。
昨日時間をとってくれた影響でセリアスは朝から忙しく、ヒナタのそばにいなかった。
暇を持て余して一人で学習室へ来たのはいいのだが、時間が早くルーエンもまだ来ていない。
だから、昨日の延長線上で軽い魔法をいくつか試しているうちに、ふと部屋の鏡が目に入り、ほんの悪戯心が湧いた。
――目から光、とか。やっぱり出せそう。
そう思ったら、つい。本当につい――出してみたくなってしまった。
結果、すぐできはした。だが――。
出来栄えが気になって鏡を見た瞬間、文字通り「目が!目がぁぁぁっ!!」と床を転げ回る羽目になった。
しっかりと学んだ。
目から光を出す時は、鏡の前は避けよう、と。
反射がえぐすぎて、容赦なく目がつぶされる。次は光量を調節しようと誓った。
そうして悶えているところに、運悪くルーエンとセリアスが入ってきてしまった。
ルーエンは経緯を聞いて、速攻でブリザードを降らせた。
「すみません、もう一度言っていただけますか?……少し疲れているようです。」
その声は、きっと世界一高い山のてっぺんよりも冷えていた。
ルーエンは呆れ顔で、セリアスは口元を押さえて震えている――今は、なにも言葉にならないようだった。
王族には声を出さずに笑うスキルでも存在しているのだろうか。
はじめは危険なことをしたのかとばかりにルーエンと同調していた彼だったが、至った経緯を聞いて途中で崩れ落ちた。今はただのしかばねかもしれない。
「殿下、参加するのは結構ですが、もう少し“場を締める側”でいてください。殿下が笑うせいで締まりません。」
「すみません……」
思わずヒナタが謝った。
一応、講義中はいつも静かに笑っているので、セリアスも気を遣っているのだとは思う。
いや、いつも笑ってるのがおかしいのだから、何のフォローにもならないので言わないけれども。
「君は謝るより、変なことをしないように。思いついたことをすぐに実行してはなりません。」
ルーエンが目を細める。
「――もしかして、ほかにもありますね?」
額からビーム、手のひらや口から波動砲、ほうきに乗る――エトセトラ。
考えていたことを、あらいざらい白状させられた。
「よくもまあそんなに……」
呆れたようにルーエンが言う。セリアスはもはや窒息しそうだ。
「君の発想はおか――変わっているので、思いついたものについては自重してください。危険性を伴うものが多いので。」
今おかしいって言いかけましたか。――思っても、今はもちろん突っ込まない。
「ほかには、ありませんよね?」
もちろん。という断定的な副音声が聞こえる。
「多分全部……あ、昨日、セリアスの髪が綺麗だなって思ってさ。」
目の端で反応するセリアスは見なかったことにする。
「この世界の人たちはみんな髪が長いから、魔法とかで伸ばせるのかなぁ、とかは思ったけど――」
言った瞬間、ぼん、と髪が空気を含んだような振動をおぼえた。
ふわりとテーブルや腕に髪がかかる――髪が、かかる?
「え」
室内の空気が固まる。
セリアスの笑いも完全にとまった。しゃっくりのように驚かすと止まるんだろうか。
いや、そういう話じゃない。
「これは、問題がありそうですね……。」
ルーエンが頭をかかえた。
***
ルーエンが真剣な顔で考えこんでいる。ヒナタも、神妙な面持ちを作った。
自分の都合が悪そうな時は真面目そうにするに限る。それにしても髪が邪魔だ。
「おそらく、感情が昂るとイメージが先行してしまい意図せず暴走する、ということかと思います。……今回の原因は、殿下との関係性にあるのでしょうね。」
セリアスが嬉しそうにいち早く反応する。
「つまり、私への感情が暴走を招いたと。」
「つまり、殿下のお花畑と同じということですね。」
「……つまり、お花畑の俺が暴走した。」
「……」
「先生、怒らないで。ごめんなさい。ふざけました。」
ヒナタは首を傾げた。
「セリアスの髪が綺麗だなって思い出して、そこに気持ちが入ってたってこと?」
「そうですね。魔式を必要としない分、魔法を発現したい、したくないに関わらず、感情によって無意識に発現してしまう可能性があるということです。――もしかすると、人を傷つける可能性も含めて。」
それは本当にふざけている場合ではない。
「どうすれば……。」
正直、感情なんて自分ではどうしようもない。間違いなく感情先行型だという自覚もある。
人を傷つけるのは論外だが、嬉しくなって感情が昂ったら頭から花が生えてしまうような残念な事態も避けたい。どちらかというと後者の可能性がありそうだ。
「あくまで現時点での推測ですが、今回の件は――殿下への想いゆえ、でしょう。」
「想いゆえ」
「殿下。いちいち拾わないでください。話が進みません。――つまり、それが重ならなければ問題ないでしょう。
ただ、感情を抑えるのは難しいので、魔力を落ち着かせる魔道具を身につけるのがいいかもしれませんね。」
「私が用意しよう。」
被せ気味にセリアスが食いついた。
「…ありがとう?」
曖昧にお礼を言えば、まかせろと頷かれる。セリアスが用意してくれるのであれば、ちょっと、楽しみかもしれない。
「ではそれは殿下に任せるとして。今日は少し授業をおこなって、解散しましょうか。その髪も整えないと不便でしょう。」
髪は地につくほど伸びていた。今なら十二単でも違和感なく着れる。似合わないだろうけれど。
自分のものでないような滑らかな髪に触れる。
ツヤッツヤのさらっさらだ。こちらに来ていいものを食べてるせいかもしれない。
「たしかに邪魔だけど……でも、今まで勉強で遅れている分頑張らないとだよね。」
ふっとルーエンの目が優しく緩められた。
「――大丈夫ですよ。浄化に関しては、要は魔法が使えればいいのです。
その点、君は感覚的に掴んでいるので、逆に想定よりかなり短縮されることが予想されます。
君は少し頑張りすぎるようなので気にしないように。」
先生然とした雰囲気で言い切ると、そっと頭に手を添えられた。
淡い紫に銀を帯びた髪が、さらりと揺れた。
言外に泣いた日のことを含んでいる優しさに心が温かくなる。ほんとうに、この先生は優しい。
はい、と笑って答えると、満足そうにルーエンが頷いた。
どうやらブリザードの気配はない。高所からは無事下山できたようで何よりだ。
「まずは基本の魔法を試してみて、1週間後を目安に、浄化の魔法に取り組みましょう。」
「はい!」
セリアスも落ち着いたかのように政務に手をつけはじめた。
「では、まずは基本の光から――くれぐれも。全身のどこからも、光は発さないように。」
――完全には下山できていなかった。
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