14 / 35
ep12 浄化のきもち (1)
しおりを挟む
魔法の訓練は、順調に実を結びはじめていた。
手のひらに集めた魔力が、日ごと素直に変化を遂げていく。
他の魔法をひととおり発現させたあと、それを複雑化させたり安定させたり――毎日、少しずつ調整していくのが楽しかった。
繊細なイメージが大切になる作業とのことだったが、案外向いていたようで、二、三度繰り返せば、感覚が掴めてきた。
毎日少しずつできることが増えるたび、心が躍った。魔法というものが単純に面白かったのだ。
ちゃんと制御できるようになれば、額からビームを出しても怒られないかもしれない。
『お前って、ほんと感覚で生きてんのな。』
友人たちのからかう声が、ふとよみがえる。
あまりにも順調で、いよいよ浄化の旅が真実味を帯びてくる気配がしていた。
もぞりとみじろぎすると、灰と紫のあいだに揺れる穏やかな瞳が、静かにこちらを見つめてくる。
藍色と、桔梗色と灰色と。階調的に広がる長い髪が、さらさらと朝日にきらめく。
――ほんとうに、きれいだな。
夜明けをそのまま梳いたような――その色を見るたび、胸の奥でじわりと何かがうごく。
気持ちにまかせて自分の髪が伸びたのも、きっとそのせいだと思う。
ヒナタの伸びてしまった黒い髪は、ミレナが「切るなんてもったいない」と嘆きつつ整えてくれて、いまは腰のあたりで切りそろえられている。
適度な長さになったせいか、セリアスに手で梳かれることも増えて――心臓にはすこし悪い。
「……おはよう、ヒナタ。」
「おはよ……。」
朝のまどろみのまま、逞しい胸のぬくもりに頬を預けた。
あの日、気持ちを確かめてからというもの――いつの間にか、隣で眠ることが二人の習慣になった。
毎晩、何をするでもなく、話をして眠る。
目が覚めたらセリアスの存在にほっとして朝が始まる。
そんな日々が、気づけば続いていた。
甘えている自覚はある。けれど、彼がまだ足りないとばかりに甘やかしてくれるのだから――今は、これがよかった。
「起きるか?」
「んーー…」
ぐりぐりと胸に頭を擦り付け、もう少しまどろみを味わう。
「ヒナ。」
最近、セリアスはたまにそう呼ぶ。
特別に名をくれているようで、胸の奥がくすぐったい。
降りてくる口付けはどこまでも甘くて、啄んでから、少しずつ深く――自然と身体の芯が熱くなる。
「……今日から、浄化の訓練だ。問題がなければ、旅も早まるだろう。」
一拍おいて、彼は甘い中に真剣なまなざしを混ぜた。
「その前に――そなたと、もっと長い夜を過ごしたい。」
思わず、ぱちぱちと目を瞬いてしまった。
それって、たぶん――“そういうこと”だ。
視線を合わせて頷く。咄嗟に言葉に替えるだけの余裕はまだなかった。
気恥ずかしさが彼にばれなければいいな、と思う。
現状があまりにも健全すぎることは、ヒナタも理解していた。
セリアスは二十一歳で、ヒナタは十八歳。
こちらの世界での成年は十六歳。つまり、お互いに“その先”を思い描ける歳なのだ。
けれど、リードする気持ちも経験もない。だから、流れに身を任せるしかないと思っていた。
それがまさか、こんなに急にその言葉を聞くとは思わなかったけれど。
だがむしろ、適切なタイミングなど分からないのだから、事前に心の準備をさせてくれるのはセリアスの誠実さだろう。
行為に抵抗はない。あるはずもなかった。
相手がセリアスであれば受け入れられる。ただそれだけのことだった。
「……俺も、セリアスに触れたくなった。」
ようやく出た言葉を口にした瞬間、胸の奥にじんわりと火が灯った。
態度には出さないようにと思いながらも、やはり少し動揺してしまう。
その後のキスは、いつもより鼓動が跳ねて、身体中が熱くなった気がした。――たぶん、顔も赤い。
セリアスが、いつもより甘い顔で、小さく笑った。
手のひらに集めた魔力が、日ごと素直に変化を遂げていく。
他の魔法をひととおり発現させたあと、それを複雑化させたり安定させたり――毎日、少しずつ調整していくのが楽しかった。
繊細なイメージが大切になる作業とのことだったが、案外向いていたようで、二、三度繰り返せば、感覚が掴めてきた。
毎日少しずつできることが増えるたび、心が躍った。魔法というものが単純に面白かったのだ。
ちゃんと制御できるようになれば、額からビームを出しても怒られないかもしれない。
『お前って、ほんと感覚で生きてんのな。』
友人たちのからかう声が、ふとよみがえる。
あまりにも順調で、いよいよ浄化の旅が真実味を帯びてくる気配がしていた。
もぞりとみじろぎすると、灰と紫のあいだに揺れる穏やかな瞳が、静かにこちらを見つめてくる。
藍色と、桔梗色と灰色と。階調的に広がる長い髪が、さらさらと朝日にきらめく。
――ほんとうに、きれいだな。
夜明けをそのまま梳いたような――その色を見るたび、胸の奥でじわりと何かがうごく。
気持ちにまかせて自分の髪が伸びたのも、きっとそのせいだと思う。
ヒナタの伸びてしまった黒い髪は、ミレナが「切るなんてもったいない」と嘆きつつ整えてくれて、いまは腰のあたりで切りそろえられている。
適度な長さになったせいか、セリアスに手で梳かれることも増えて――心臓にはすこし悪い。
「……おはよう、ヒナタ。」
「おはよ……。」
朝のまどろみのまま、逞しい胸のぬくもりに頬を預けた。
あの日、気持ちを確かめてからというもの――いつの間にか、隣で眠ることが二人の習慣になった。
毎晩、何をするでもなく、話をして眠る。
目が覚めたらセリアスの存在にほっとして朝が始まる。
そんな日々が、気づけば続いていた。
甘えている自覚はある。けれど、彼がまだ足りないとばかりに甘やかしてくれるのだから――今は、これがよかった。
「起きるか?」
「んーー…」
ぐりぐりと胸に頭を擦り付け、もう少しまどろみを味わう。
「ヒナ。」
最近、セリアスはたまにそう呼ぶ。
特別に名をくれているようで、胸の奥がくすぐったい。
降りてくる口付けはどこまでも甘くて、啄んでから、少しずつ深く――自然と身体の芯が熱くなる。
「……今日から、浄化の訓練だ。問題がなければ、旅も早まるだろう。」
一拍おいて、彼は甘い中に真剣なまなざしを混ぜた。
「その前に――そなたと、もっと長い夜を過ごしたい。」
思わず、ぱちぱちと目を瞬いてしまった。
それって、たぶん――“そういうこと”だ。
視線を合わせて頷く。咄嗟に言葉に替えるだけの余裕はまだなかった。
気恥ずかしさが彼にばれなければいいな、と思う。
現状があまりにも健全すぎることは、ヒナタも理解していた。
セリアスは二十一歳で、ヒナタは十八歳。
こちらの世界での成年は十六歳。つまり、お互いに“その先”を思い描ける歳なのだ。
けれど、リードする気持ちも経験もない。だから、流れに身を任せるしかないと思っていた。
それがまさか、こんなに急にその言葉を聞くとは思わなかったけれど。
だがむしろ、適切なタイミングなど分からないのだから、事前に心の準備をさせてくれるのはセリアスの誠実さだろう。
行為に抵抗はない。あるはずもなかった。
相手がセリアスであれば受け入れられる。ただそれだけのことだった。
「……俺も、セリアスに触れたくなった。」
ようやく出た言葉を口にした瞬間、胸の奥にじんわりと火が灯った。
態度には出さないようにと思いながらも、やはり少し動揺してしまう。
その後のキスは、いつもより鼓動が跳ねて、身体中が熱くなった気がした。――たぶん、顔も赤い。
セリアスが、いつもより甘い顔で、小さく笑った。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。
カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。
異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。
ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。
そして、コスプレと思っていた男性は……。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
沈黙のΩ、冷血宰相に拾われて溺愛されました
ホワイトヴァイス
BL
声を奪われ、競売にかけられたΩ《オメガ》――ノア。
落札したのは、冷血と呼ばれる宰相アルマン・ヴァルナティス。
“番契約”を偽装した取引から始まったふたりの関係は、
やがて国を揺るがす“真実”へとつながっていく。
喋れぬΩと、血を信じない宰相。
ただの契約だったはずの絆が、
互いの傷と孤独を少しずつ融かしていく。
だが、王都の夜に潜む副宰相ルシアンの影が、
彼らの「嘘」を暴こうとしていた――。
沈黙が祈りに変わるとき、
血の支配が終わりを告げ、
“番”の意味が書き換えられる。
冷血宰相×沈黙のΩ、
偽りの契約から始まる救済と革命の物語。
動物アレルギーのSS級治療師は、竜神と恋をする
葉空
BL
SS級治療師、ルカ。それが今世の俺だ。
前世では、野犬に噛まれたことで狂犬病に感染し、死んでしまった。次に目が覚めると、異世界に転生していた。しかも、森に住んでるのは獣人で人間は俺1人?!しかも、俺は動物アレルギー持ち…
でも、彼らの怪我を治療出来る力を持つのは治癒魔法が使える自分だけ…
優しい彼が、唯一触れられる竜神に溺愛されて生活するお話。
【完結】ルガルの星―冷徹な社長は、僕の運命を知っていた―
綾波絢斗
BL
この世界には、二つの特別な称号を持つ者たちが存在する。
一つは、絶対的な権力を持つ王の称号――ルガル(lugal)。
もう一つは、ルガルと対をなし、その力を補う「番」――ムル(mul)。
ルガルは生まれながらに選ばれし存在。
国家からエリート教育と地位を与えられ、能力に応じて厳格なランク分けが行われる。
最上位のルガルは、政治さえも動かす絶対者だ。
一方で、ムルは生まれた瞬間にはその正体がわからない。
遺伝子検査や学力テストを経て候補が絞られるが、
最終的に「真のムル」かどうかを見極められるのは――ルガルだけ。
ムルが覚醒したとき、同じ場所に「紋章」が現れ、その瞬間から、ルガルとムルの力は共鳴し始める。
ムルの能力はルガルの力を最大限に引き出す。
ゆえにルガルたちは、自らのムルを求め、時には他人のムル候補を奪い合う。
そして、すべての出生データと遺伝情報を管理するのは、
巨大企業イルジオン――国家をも超える存在。
その頂点に立つ社長、一条レイ。
冷徹なルガルの頂点に君臨する彼が「自分のムル」と出会った。
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい
御堂あゆこ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。
生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。
地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。
転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。
※含まれる要素
異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛
※小説家になろうに重複投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる