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ep20 人を愛すればこそ
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二階から見下ろすエントランスホールは地獄絵図だった。
目を覆いたくなる気持ちをぐっと堪えた。全身が震えるのを、気力でどうにか保つ。
セリアスとルーエン、それから一緒に旅をしてきた仲間たちが戦っている。
怖気付く心も、大事な人が死ぬ事に比べたら訳ないように思えた。
息を吸う。
役者になれ、と心で何度か唱えた。
手首飾りを外してポケットに入れる。
そこに、大きく鳴る心臓とともに手帳の感触を感じて、息を整えた。
――大丈夫。
なるべく神々しく見えるように、ふわりと魔力を出す。
さんざん、ルーエンに注意されながら色々試していたせいで、こういうのはお手のものだ。
きっといま、身体全体がきらきらと淡い光に覆われているだろう。
演出が大事なのは、この国の人たちの信仰で知っている。
何人かこちらを見上げてきて、その鋭い目線が怖くなって目を閉じた。
震える指を誤魔化すために、祈るように指を組む。
「静まりなさい。」
声が響くように魔力をのせれば、思ったよりも空間に響いた。
ヒナタ、とセリアスの声が聞こえた気がした。
キン、と近場で金属が跳ねる音がして、先に防御魔法をイメージしていて良かったと思う。
おそらく弓でも引かれたのだろうと推測して、それでもまだ目を開く勇気はなかった。
「女神はおっしゃられています。この醜い争いこそが、“穢れ”なのだと。」
ふわりと、効果的に見えるように粒子が飛ぶようなイメージを持つ。
すべてはったりだ。
それでも、娯楽に魔法を使う意識がないこの世界の人たちは騙されてくれるだろうと踏んでいた。
「争いをやめなさい。」
覚悟を決めて目を開いた。狙うは、敵のみだ。
イメージをもって、必死に思い描く。たぶん、今までで一番頭を使った。
誰も殺さず、傷つけない。
懸命なイメージは、果たしてちゃんと作用してくれた。
さらさらと、敵兵の防具や武器が粒子に変わっていく。
戸惑うように両手を見る彼らの様は、肌着のみに剥かれてちょっと滑稽だ。
「女神は争いを望みません。――エアリアの民よ、捕縛なさい。」
出した声に、エアリアの兵士達がはっとしたように動きだす。
数がいると言っても、丸裸の相手ではどうにか制圧できそうだった。
ほっと息をついた刹那、
「……ヒナタ!」
セリアスの声にそちらを向いて――背後の動きに目が凍りつく。
敵兵が、後ろの甲冑から剣を抜き取ってセリアスを見ていた。
『そちらは最高級の甲冑でございますぞ!備えてある剣も、盾も最高級品でございます。』
リューヴェンの声が頭をよぎる。
そうだ、あれは“敵兵の武器”ではない。
「だめ――!!」
思うままに叫んだと同時、どくん、と身体がブレるような感覚に襲われた。
息が浅くなる。
揺れる視界の中、セリアスがこちらに駆けてくるのが見えた。
――よかった、無事だ。
なんとか辺りを見渡すと、誰も動いていない。
ある者は指を止めたまま、目を見開いたまま、止まっている。
状況を把握しようとしても頭がぐらぐらして追いつかない。
「ヒナ…!」
「セリ、アス……」
「魔法を解け!いくらヒナタでもこのままでは魔力が枯渇する…!」
「いま、なにが、」
「おそらく私以外の時を止めている。感情で魔法が暴発している状態だ、今すぐ解けるか。」
「じゃ……、エアリアの人たち、だけ……とく……」
「駄目だ。全て解くんだ。今のままでは魔力負荷が多すぎる!」
「むり。はやくかいけつして。ほんときつい。」
酷い乗り物酔いに、更に何かが乗っかってきた気分だ。
「……ルーエン!!ヒナタが敵兵を止めている!指示を出して早く捕縛しろ!」
近くでそんなに叫ばないでほしい。
頭に響く、とそんな理不尽なことを思った。
手首にひやりとした感触を覚えた。
手首飾りだ、と思ったと同時、じわじわと暖かさを感じる。
「ヒナタ、私の魔力を送る。ただ一気には送れない。少し耐えてくれ。」
少しずつ呼吸が楽になってくる。
思考がじわじわとまとまってきて、初めに出てきたのは恨み言だった。
「もう二度と、死ぬみたいなこと、言うなよ……」
「悪かった。悪かったから。」
「……ぜったい、思ってない。俺の世界では、二度言うやつは嘘だって、言われてた」
「分かった。あとでいくらでも聞く。頼むから、もう身体を休めてくれ」
「大丈夫、だいぶ楽になってきた。」
はー、と息を吐く。
「人を救うって、たいへんだ。」
夜明け色の髪をした大型犬は、今にも泣きそうだ。
こんなに涙脆いのに、普段はクールなんて、誰が信じるだろう――いや逆か。
きっと“俺だけが知っている”だけの役得だ。
「なあ、俺、セリアスがいないと、この世界で生きていけないよ。」
自然と涙が溢れた。
どうにか、この思いが伝わればと思った。
自分の命も、この男の命も、等しく大事だ。
「……不安な思いをさせて、すまなかった。」
ようやく聞けた心からの謝罪に、許すことに決めた。
「うん。でも、許すの、今回だけだから。」
抱きしめられて、温かさに心が満たされた。
先ほどまでの混乱が、今は一瞬、どこかへいった気がする。
「殿下!あとはどうにかなります!早く解除を!!」
ルーエンの言葉が聞こえて、魔法を解除する。
「ね、セリアス、体調はほんとうに大丈夫だけど……とにかく眠い。」
「分かった。ゆっくり寝ていい。あとのことは任せておけ。」
眠りに落ちる瞬間、大事なことを伝えるのを忘れたと思って、なんとか声に出す。
「ミューイが、リューヴェンをころした。あのふうふが、げんきょう……だよ……」
「は…?」
戸惑った声の後に何か言っている気がしたが、もう眠気に抗えなかった。
目を覆いたくなる気持ちをぐっと堪えた。全身が震えるのを、気力でどうにか保つ。
セリアスとルーエン、それから一緒に旅をしてきた仲間たちが戦っている。
怖気付く心も、大事な人が死ぬ事に比べたら訳ないように思えた。
息を吸う。
役者になれ、と心で何度か唱えた。
手首飾りを外してポケットに入れる。
そこに、大きく鳴る心臓とともに手帳の感触を感じて、息を整えた。
――大丈夫。
なるべく神々しく見えるように、ふわりと魔力を出す。
さんざん、ルーエンに注意されながら色々試していたせいで、こういうのはお手のものだ。
きっといま、身体全体がきらきらと淡い光に覆われているだろう。
演出が大事なのは、この国の人たちの信仰で知っている。
何人かこちらを見上げてきて、その鋭い目線が怖くなって目を閉じた。
震える指を誤魔化すために、祈るように指を組む。
「静まりなさい。」
声が響くように魔力をのせれば、思ったよりも空間に響いた。
ヒナタ、とセリアスの声が聞こえた気がした。
キン、と近場で金属が跳ねる音がして、先に防御魔法をイメージしていて良かったと思う。
おそらく弓でも引かれたのだろうと推測して、それでもまだ目を開く勇気はなかった。
「女神はおっしゃられています。この醜い争いこそが、“穢れ”なのだと。」
ふわりと、効果的に見えるように粒子が飛ぶようなイメージを持つ。
すべてはったりだ。
それでも、娯楽に魔法を使う意識がないこの世界の人たちは騙されてくれるだろうと踏んでいた。
「争いをやめなさい。」
覚悟を決めて目を開いた。狙うは、敵のみだ。
イメージをもって、必死に思い描く。たぶん、今までで一番頭を使った。
誰も殺さず、傷つけない。
懸命なイメージは、果たしてちゃんと作用してくれた。
さらさらと、敵兵の防具や武器が粒子に変わっていく。
戸惑うように両手を見る彼らの様は、肌着のみに剥かれてちょっと滑稽だ。
「女神は争いを望みません。――エアリアの民よ、捕縛なさい。」
出した声に、エアリアの兵士達がはっとしたように動きだす。
数がいると言っても、丸裸の相手ではどうにか制圧できそうだった。
ほっと息をついた刹那、
「……ヒナタ!」
セリアスの声にそちらを向いて――背後の動きに目が凍りつく。
敵兵が、後ろの甲冑から剣を抜き取ってセリアスを見ていた。
『そちらは最高級の甲冑でございますぞ!備えてある剣も、盾も最高級品でございます。』
リューヴェンの声が頭をよぎる。
そうだ、あれは“敵兵の武器”ではない。
「だめ――!!」
思うままに叫んだと同時、どくん、と身体がブレるような感覚に襲われた。
息が浅くなる。
揺れる視界の中、セリアスがこちらに駆けてくるのが見えた。
――よかった、無事だ。
なんとか辺りを見渡すと、誰も動いていない。
ある者は指を止めたまま、目を見開いたまま、止まっている。
状況を把握しようとしても頭がぐらぐらして追いつかない。
「ヒナ…!」
「セリ、アス……」
「魔法を解け!いくらヒナタでもこのままでは魔力が枯渇する…!」
「いま、なにが、」
「おそらく私以外の時を止めている。感情で魔法が暴発している状態だ、今すぐ解けるか。」
「じゃ……、エアリアの人たち、だけ……とく……」
「駄目だ。全て解くんだ。今のままでは魔力負荷が多すぎる!」
「むり。はやくかいけつして。ほんときつい。」
酷い乗り物酔いに、更に何かが乗っかってきた気分だ。
「……ルーエン!!ヒナタが敵兵を止めている!指示を出して早く捕縛しろ!」
近くでそんなに叫ばないでほしい。
頭に響く、とそんな理不尽なことを思った。
手首にひやりとした感触を覚えた。
手首飾りだ、と思ったと同時、じわじわと暖かさを感じる。
「ヒナタ、私の魔力を送る。ただ一気には送れない。少し耐えてくれ。」
少しずつ呼吸が楽になってくる。
思考がじわじわとまとまってきて、初めに出てきたのは恨み言だった。
「もう二度と、死ぬみたいなこと、言うなよ……」
「悪かった。悪かったから。」
「……ぜったい、思ってない。俺の世界では、二度言うやつは嘘だって、言われてた」
「分かった。あとでいくらでも聞く。頼むから、もう身体を休めてくれ」
「大丈夫、だいぶ楽になってきた。」
はー、と息を吐く。
「人を救うって、たいへんだ。」
夜明け色の髪をした大型犬は、今にも泣きそうだ。
こんなに涙脆いのに、普段はクールなんて、誰が信じるだろう――いや逆か。
きっと“俺だけが知っている”だけの役得だ。
「なあ、俺、セリアスがいないと、この世界で生きていけないよ。」
自然と涙が溢れた。
どうにか、この思いが伝わればと思った。
自分の命も、この男の命も、等しく大事だ。
「……不安な思いをさせて、すまなかった。」
ようやく聞けた心からの謝罪に、許すことに決めた。
「うん。でも、許すの、今回だけだから。」
抱きしめられて、温かさに心が満たされた。
先ほどまでの混乱が、今は一瞬、どこかへいった気がする。
「殿下!あとはどうにかなります!早く解除を!!」
ルーエンの言葉が聞こえて、魔法を解除する。
「ね、セリアス、体調はほんとうに大丈夫だけど……とにかく眠い。」
「分かった。ゆっくり寝ていい。あとのことは任せておけ。」
眠りに落ちる瞬間、大事なことを伝えるのを忘れたと思って、なんとか声に出す。
「ミューイが、リューヴェンをころした。あのふうふが、げんきょう……だよ……」
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