9 / 11
9.転生ヒロインはまともだった
しおりを挟む
「お待たせしてすみません」
パン屋の前で待っていたマーヤの前に、ニコラがやって来た。
彼女は急いで来たようなので、少し息が荒かった。
「急がせてしまったみたいでごめんなさい。私はマーヤ・ウィステリアと申します」
マーヤは少し申し訳なくなったので肩をすくめた。
「あ、ニコラです。もしかして、その……マーヤ……様は貴族の方ですか?」
おずおずとした様子のニコラ。恐らく貴族を相手に話すのは初めてだろう。
「ええ。ウィステリア公爵家の長女です。ですが、そんなに緊張しないでください。いつも通りのニコラさんで大丈夫ですから」
マーヤはニコラの緊張を解すように微笑んだ。
「ありがとうございます。えっと、マーヤ様、私に敬語などは使わずとも結構ですよ」
するとニコラもホッと胸を撫で下ろした様子になる。
「ならば、私も少し砕けた態度を取らせてもらうわ」
一応初対面の相手なので敬語にしていたが、マーヤは敬語を取り外した。
「それで、お話とは? もしかして、照り焼きパンのことですか?」
ニコラはきょとんと首を傾げている。
「ええ、それもあるけれどまずは……」
マーヤは少し緊張しながらゴクリと唾を飲んだ。
「日本という国をご存知かしら?」
するとマーヤの言葉にニコラは瑠璃色の目を大きく見開いた。
「それって……! 何か合言葉みたいですね! はい。知ってます。ということは、マーヤ様は私と同じ転生者ということですよね?」
期待と不安が入り混じった表情のニコラである。
マーヤはニコラの答えを聞いて嬉しくなった。
「やっぱり貴女もそうなのね。照り焼きパンを見て、もしかしてと思ったのよ」
「照り焼き、前世からの大好物なんです。だからこっちの世界でも絶対に食べたいと思って、頑張って開発しました」
ニコラはキャッキャッと無邪気に笑う。
その笑顔が何とも可愛らしかった。
「ではニコラさん、『君ティア』……『君に捧げる運命のティアラ』という乙女ゲームはご存知?」
「はい、それも知ってます。転生した時、『君ティア』ヒロインのニコラだって気付いて舞い上がりました」
ニコラは懐かしそうな表情をしていた。
「でも、何故かゲームのシナリオ通りのことは起こらなくて。ゲームでは母が疫病で亡くなって、ルピナス男爵家の父が私を引き取るはずでした。ですが、疫病の特効薬が完成したお陰で母は死なずに済んで、今の暮らしを続けています」
「もしかしてニコラさんは、ゲーム通り攻略対象と恋愛出来なくて残念だと思っているの?」
マーヤは気になって聞いてみた。
しかしニコラはゆっくりと首を横に振る。
「結果として、これで良かったと思ってます。最初は攻略対象と会えないのは残念だと思いましたけど、母は生きてくれていますし、それに……」
ニコラはほんのりと頬を赤く染めた。
「幼馴染のジャックも、疫病の特効薬のお陰で無事でしたので」
「……もしかしてニコラさんは、その幼馴染、ジャックさんのことを?」
マーヤは少しだけニヤけてしまった。
ニコラの気持ちが手に取るように分かったのだ。
ニコラは頬を赤く染めたまま首を縦に振る。
「はい。前世の記憶を思い出しても、ジャックが好きだって気持ちは消えませんでした。彼はいつもパン屋を手伝ってくれるし、困った時に助けてくれて。照り焼きパンの開発だって、ジャックがずっと手伝ってくれましたし」
恋するニコラの表情は、まさに乙女ゲームのヒロインに相応しかった。
(やっぱりヒロインは可愛いわね)
マーヤはクスッと笑った。
「でも、一応ここは『君ティア』の舞台となる世界ですし、色々気になったのでまずルピナス男爵家について少し調べてみたんです」
「そういえば、ルピナス男爵家については私も名前を一切聞いていなかったの」
マーヤもそのことを思い出した。
「はい。それで、新聞などを読んでみたら、ルピナス男爵家は何だかよく分からない罪で取り潰しになっていたんです。王太子権限とか難しいことを書いてありました」
ニコラは苦笑した。
「……アミーラ様の仕業かもしれないわね」
マーヤはふと学園で悪役令嬢のアミーラが攻略対象達に囲まれている様子を思い出した。
「やっぱりそうですか。色々な発明や、特効薬開発の記事に悪役令嬢のアミーラが載っていたから、アミーラも転生者で破滅の運命から逃れようとしているのかなって思ったんです」
ニコラは苦笑していた。
「あの、マーヤ様は貴族学園に通っていますよね? 学園はどんな感じですか? 攻略対象のキャラとかは?」
この世界はもうゲームのシナリオとは違う。しかし、それはそれとしてニコラは攻略対象の様子が気になるようだ。
「そうね。彼らやアミーラ様は……」
マーヤは学園でのアミーラや攻略対象達の様子をありのままに話した。
するとニコラの表情が引きつった。
「何かそれ、前世のWeb小説で見たお花畑ヒロインと同じ感じがします」
「そうよね」
マーヤはため息をついて苦笑した。
「そういえば、マーヤ様と一緒にいらしていた男性がいましたよね? あの方とはどういう関係ですか?」
不意に、ニコラからベネディクトのことを聞かれた。
マーヤは思わず頬を赤く染めた。
「彼……ベネディクト様とは……」
ベネディクトとは、話が合って、一緒に過ごしていると楽しく感じる。
マーヤはベネディクトに好意を寄せているが、ベネディクトの方はどうなのだろうかと少し不安になってしまう。
「マーヤ様は一緒にいた方がお好きなのですね。顔に書いてあります」
ニコラはふふっと笑っている。
その時、「ニコラ!」と呼ぶ声が聞こえた。
声の方には、褐色の髪にオレンジ色の目の、活発そうな男性がいた。歳はマーヤやニコラと同い年くらいである。
「ジャック!」
ニコラは嬉しそうに手を振った。
彼がニコラの想い人、ジャックである。
「マーヤ様、その人と結ばれると良いですね」
ニコラは穏やかで優しい表情をマーヤに向けていた。
「ありがとう、ニコラさん。お話が出来て嬉しかったわ。これからも、時々貴女とお話しして良いかしら?」
マーヤは思わずそう口にしていた。
少し話しただけだが、乙女ゲームのヒロインや転生者であることなど関係なく、ニコラと仲良くなりたいと思っていたのだ。
「はい、もちろんです。私で良ければ」
ニコラは満面の笑みだった。
こうして、マーヤはニコラと友達になったのである。
パン屋の前で待っていたマーヤの前に、ニコラがやって来た。
彼女は急いで来たようなので、少し息が荒かった。
「急がせてしまったみたいでごめんなさい。私はマーヤ・ウィステリアと申します」
マーヤは少し申し訳なくなったので肩をすくめた。
「あ、ニコラです。もしかして、その……マーヤ……様は貴族の方ですか?」
おずおずとした様子のニコラ。恐らく貴族を相手に話すのは初めてだろう。
「ええ。ウィステリア公爵家の長女です。ですが、そんなに緊張しないでください。いつも通りのニコラさんで大丈夫ですから」
マーヤはニコラの緊張を解すように微笑んだ。
「ありがとうございます。えっと、マーヤ様、私に敬語などは使わずとも結構ですよ」
するとニコラもホッと胸を撫で下ろした様子になる。
「ならば、私も少し砕けた態度を取らせてもらうわ」
一応初対面の相手なので敬語にしていたが、マーヤは敬語を取り外した。
「それで、お話とは? もしかして、照り焼きパンのことですか?」
ニコラはきょとんと首を傾げている。
「ええ、それもあるけれどまずは……」
マーヤは少し緊張しながらゴクリと唾を飲んだ。
「日本という国をご存知かしら?」
するとマーヤの言葉にニコラは瑠璃色の目を大きく見開いた。
「それって……! 何か合言葉みたいですね! はい。知ってます。ということは、マーヤ様は私と同じ転生者ということですよね?」
期待と不安が入り混じった表情のニコラである。
マーヤはニコラの答えを聞いて嬉しくなった。
「やっぱり貴女もそうなのね。照り焼きパンを見て、もしかしてと思ったのよ」
「照り焼き、前世からの大好物なんです。だからこっちの世界でも絶対に食べたいと思って、頑張って開発しました」
ニコラはキャッキャッと無邪気に笑う。
その笑顔が何とも可愛らしかった。
「ではニコラさん、『君ティア』……『君に捧げる運命のティアラ』という乙女ゲームはご存知?」
「はい、それも知ってます。転生した時、『君ティア』ヒロインのニコラだって気付いて舞い上がりました」
ニコラは懐かしそうな表情をしていた。
「でも、何故かゲームのシナリオ通りのことは起こらなくて。ゲームでは母が疫病で亡くなって、ルピナス男爵家の父が私を引き取るはずでした。ですが、疫病の特効薬が完成したお陰で母は死なずに済んで、今の暮らしを続けています」
「もしかしてニコラさんは、ゲーム通り攻略対象と恋愛出来なくて残念だと思っているの?」
マーヤは気になって聞いてみた。
しかしニコラはゆっくりと首を横に振る。
「結果として、これで良かったと思ってます。最初は攻略対象と会えないのは残念だと思いましたけど、母は生きてくれていますし、それに……」
ニコラはほんのりと頬を赤く染めた。
「幼馴染のジャックも、疫病の特効薬のお陰で無事でしたので」
「……もしかしてニコラさんは、その幼馴染、ジャックさんのことを?」
マーヤは少しだけニヤけてしまった。
ニコラの気持ちが手に取るように分かったのだ。
ニコラは頬を赤く染めたまま首を縦に振る。
「はい。前世の記憶を思い出しても、ジャックが好きだって気持ちは消えませんでした。彼はいつもパン屋を手伝ってくれるし、困った時に助けてくれて。照り焼きパンの開発だって、ジャックがずっと手伝ってくれましたし」
恋するニコラの表情は、まさに乙女ゲームのヒロインに相応しかった。
(やっぱりヒロインは可愛いわね)
マーヤはクスッと笑った。
「でも、一応ここは『君ティア』の舞台となる世界ですし、色々気になったのでまずルピナス男爵家について少し調べてみたんです」
「そういえば、ルピナス男爵家については私も名前を一切聞いていなかったの」
マーヤもそのことを思い出した。
「はい。それで、新聞などを読んでみたら、ルピナス男爵家は何だかよく分からない罪で取り潰しになっていたんです。王太子権限とか難しいことを書いてありました」
ニコラは苦笑した。
「……アミーラ様の仕業かもしれないわね」
マーヤはふと学園で悪役令嬢のアミーラが攻略対象達に囲まれている様子を思い出した。
「やっぱりそうですか。色々な発明や、特効薬開発の記事に悪役令嬢のアミーラが載っていたから、アミーラも転生者で破滅の運命から逃れようとしているのかなって思ったんです」
ニコラは苦笑していた。
「あの、マーヤ様は貴族学園に通っていますよね? 学園はどんな感じですか? 攻略対象のキャラとかは?」
この世界はもうゲームのシナリオとは違う。しかし、それはそれとしてニコラは攻略対象の様子が気になるようだ。
「そうね。彼らやアミーラ様は……」
マーヤは学園でのアミーラや攻略対象達の様子をありのままに話した。
するとニコラの表情が引きつった。
「何かそれ、前世のWeb小説で見たお花畑ヒロインと同じ感じがします」
「そうよね」
マーヤはため息をついて苦笑した。
「そういえば、マーヤ様と一緒にいらしていた男性がいましたよね? あの方とはどういう関係ですか?」
不意に、ニコラからベネディクトのことを聞かれた。
マーヤは思わず頬を赤く染めた。
「彼……ベネディクト様とは……」
ベネディクトとは、話が合って、一緒に過ごしていると楽しく感じる。
マーヤはベネディクトに好意を寄せているが、ベネディクトの方はどうなのだろうかと少し不安になってしまう。
「マーヤ様は一緒にいた方がお好きなのですね。顔に書いてあります」
ニコラはふふっと笑っている。
その時、「ニコラ!」と呼ぶ声が聞こえた。
声の方には、褐色の髪にオレンジ色の目の、活発そうな男性がいた。歳はマーヤやニコラと同い年くらいである。
「ジャック!」
ニコラは嬉しそうに手を振った。
彼がニコラの想い人、ジャックである。
「マーヤ様、その人と結ばれると良いですね」
ニコラは穏やかで優しい表情をマーヤに向けていた。
「ありがとう、ニコラさん。お話が出来て嬉しかったわ。これからも、時々貴女とお話しして良いかしら?」
マーヤは思わずそう口にしていた。
少し話しただけだが、乙女ゲームのヒロインや転生者であることなど関係なく、ニコラと仲良くなりたいと思っていたのだ。
「はい、もちろんです。私で良ければ」
ニコラは満面の笑みだった。
こうして、マーヤはニコラと友達になったのである。
222
あなたにおすすめの小説
私は愛する人と結婚できなくなったのに、あなたが結婚できると思うの?
あんど もあ
ファンタジー
妹の画策で、第一王子との婚約を解消することになったレイア。
理由は姉への嫌がらせだとしても、妹は王子の結婚を妨害したのだ。
レイアは妹への処罰を伝える。
「あなたも婚約解消しなさい」
今さら救いの手とかいらないのですが……
カレイ
恋愛
侯爵令嬢オデットは学園の嫌われ者である。
それもこれも、子爵令嬢シェリーシアに罪をなすりつけられ、公衆の面前で婚約破棄を突きつけられたせい。
オデットは信じてくれる友人のお陰で、揶揄されながらもそれなりに楽しい生活を送っていたが……
「そろそろ許してあげても良いですっ」
「あ、結構です」
伸ばされた手をオデットは払い除ける。
許さなくて良いので金輪際関わってこないで下さいと付け加えて。
※全19話の短編です。
「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。
婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました
神村 月子
恋愛
貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。
彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。
「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。
登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。
※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています
旦那様。私が悪女ならば、愛人の女は何になるのかしら?
白雲八鈴
恋愛
我が公爵家主催の夜会の最中。夫が愛人を連れてやってきたのです。そして、私を悪女という理由で離縁を突きつけてきました。
離縁して欲しいというのであれば、今まで支援してきた金額を全額返済していただけません?
あら?愛人の貴女が支払ってくれると?お優しいわね。
私が悪女というのであれば、妻のいる夫の愛人に収まっている貴女は何なのかしら?
余命3ヶ月と言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。
特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。
ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。
毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。
診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。
もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。
一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは…
※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いいたします。
他サイトでも同時投稿中です。
【完結】わたしの欲しい言葉
彩華(あやはな)
恋愛
わたしはいらない子。
双子の妹は聖女。生まれた時から、両親は妹を可愛がった。
はじめての旅行でわたしは置いて行かれた。
わたしは・・・。
数年後、王太子と結婚した聖女たちの前に現れた帝国の使者。彼女は一足の靴を彼らの前にさしだしたー。
*ドロッとしています。
念のためティッシュをご用意ください。
愛のない貴方からの婚約破棄は受け入れますが、その不貞の代償は大きいですよ?
日々埋没。
恋愛
公爵令嬢アズールサは隣国の男爵令嬢による嘘のイジメ被害告発のせいで、婚約者の王太子から婚約破棄を告げられる。
「どうぞご自由に。私なら傲慢な殿下にも王太子妃の地位にも未練はございませんので」
しかし愛のない政略結婚でこれまで冷遇されてきたアズールサは二つ返事で了承し、晴れて邪魔な婚約者を男爵令嬢に押し付けることに成功する。
「――ああそうそう、殿下が入れ込んでいるそちらの彼女って実は〇〇ですよ? まあ独り言ですが」
嘘つき男爵令嬢に騙された王太子は取り返しのつかない最期を迎えることになり……。
※この作品は過去に公開したことのある作品に修正を加えたものです。
またこの作品とは別に、他サイトでも本作を元にしたリメイク作を別のペンネー厶で公開していますがそのことをあらかじめご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる