婚約者は無神経な転生悪役令嬢に夢中のようです

宝月 蓮

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10.そして未来へ

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 ニコラと別れたマーヤは、向かいの店で待っていてくれたベネディクトの元へ向かった。
「ベネディクト様、お待たせしてごめんなさい」
「マーヤ嬢、彼女と満足な話は出来たか?」
 ベネディクトの黄緑色の目は優しげだった。
 マーヤは首を縦に振る。
「聞きたいことが聞けて、彼女と友達になれたわ」
「なら良かった」
 ベネディクトはまるで自分のことのように嬉しそうな表情だった。
 そんなベネディクトの表情に、思わずマーヤの胸の鼓動は高鳴る。
「マーヤ嬢、せっかくだし近くの公園でパンを食べようか」
 ベネディクトはそう提案してくれたので、マーヤは首を縦に振り頷いた。

 王都の公園は自然豊かで、まるで都会のオアシスみたいである。
 心地の良いそよ風で木々が揺れ、草木の香りが爽やかだ。
 小川のせせらぎは、耳心地が良くずっと聞いていられる。
 また、時々ウサギやリスが目の前に姿を現してくれる。
 公園には貴族、平民問わず様々な身分の者達が、癒しを求めてやって来ていた。

「マーヤ嬢、この辺りにしようか」
 ベネディクトは自身が着ていたジャケットを脱ぎ、地面に敷いてマーヤに座るよう促してくれた。
「ありがとう、ベネディクト様」
 マーヤはベネディクトのその心遣いが嬉しかった。
 二人は座り、ニコラがいるパン屋で買った照り焼きパンを口にする。
「これは……! 甘辛くて初めての味だ……! 美味しい……!」
 ベネディクトは黄緑色の目を見開き、照り焼きパンに舌鼓を打っていた。
「ええ、美味しいわね」
 マーヤは表情を綻ばせた。
(照り焼き、前世では割と食べていたわね。何だか懐かしいわ)
 前世で食べ慣れた味に、マーヤはどこかホッとしていた。
 心地良い風が吹き、マーヤの栗毛色の髪とベネディクトのブルーグレーの髪を揺らしている。
 二人の間には、穏やかな時間が流れていた。

「マーヤ嬢……」
 照り焼きパンを食べ終えた頃、ベネディクトはやや緊張気味にマーヤの方を見る。
「何かしら?」
 ベネディクトの真剣な表情に、マーヤの背筋は自然と伸びる。
「私は……マーヤ嬢と過ごすうちに、マーヤ嬢のことが好きになっていた」
「ベネディクト様……!」
 ベネディクトから想いを告げられ、マーヤは水色の目を輝かせた。
「もしマーヤ嬢さえ良ければ、学園卒業後、私の妻としてリースブラン帝国に来てくれないだろうか?」
 黄緑色の目は、真っ直ぐマーヤに向けられていた。
 マーヤの返事は決まっている。
「もちろん、私で良ければ喜んで」
 マーヤは満面の笑みでベネディクトの手を取った。
 その後、ウィステリア公爵家とリースブラン帝国のスリジエ公爵家の話し合いがまとまり、マーヤとベネディクトはまず婚約者期間を過ごしてから結婚することになったのだ。





◇◇◇◇





「マーヤ様、おめでとうございます」
 学園でマーヤはベネディクトと婚約したことをエレノアに話すと、彼女はまるで自分のことであるかのように喜んでくれた。
 ちなみにエレノアの方も、ユージンと婚約したようで幸せそうだった。
 マーヤはニコラとの交流も続いており、現在は充実した日々を送っている。
(『君ティア』の世界関係なく、私は今幸せだわ)
 マーヤは満足しながら微笑んでいた。

 そして時は過ぎ、マーヤは学園を卒業してベネディクトと共にリースブラン帝国へ渡った。
 リースブラン帝国での生活が始まっても、エレノアやニコラとは手紙でやり取りをしている。
 そして二人からの手紙により、ブルーローズ王国で起こった大スキャンダルを知ることになった。
 それはアミーラや彼女の周囲にいた者達のことである。
 アミーラは王太子アレクシスと結婚したのだが、何とアレクシス以外の男性の子を産んでしまったのだ。
 アミーラが産んだ子供は、漆黒の髪に菫色の目。アレクシスよりも、王弟マクシミリアンに似ていたのだ。
 どうやらアミーラは王弟マクシミリアンと体の関係を持っていたのだ。
 大問題ではあるが、一応王家の血を引く子供を産んだので、アミーラとマクシミリアンは一定期間の謹慎という軽めの罰で済んでいた。
 しかし問題はここからだった。
 何とアミーラは懲りずにまたアレクシス以外の男性の子供を生んだのだ。
 相手は何とマーヤの元婚約者オスカー。
 これに関しては王家乗っ取りの容疑をかけられ、アミーラとオスカーは処刑されることになった。
 また、貴族女性からのアミーラの評判は学生時代から悪く、貴族女性達はそんなアミーラを受け入れた王家に忠誠心を抱かなくなっていた。その影響が拡大し、今やブルーローズ王家は求心力を失いつつあるらしい。王太子アレクシスは女性を見る目がないと揶揄されている。
 アミーラと一緒にいたグレンやサイモンも、今やブルーローズ王国で立場を完全に無くしているようだ。

(生家やエレノア様、ニコラさんが大変な目には遭っていないなら良いわ。アミーラ様のスキャンダルは私には関係のないことね)
 マーヤは手紙を片付けた。
「マーヤ、今日スリジエ公爵家で開催する夜会についてだが」
「ええ、ベネディクト様。打ち合わせをしましょうか」
 マーヤはふふっと微笑み、ベネディクトの元へ向かうのであった。
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