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中編
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数日後のお昼頃。リヒネットシュタイン公国公宮の図書館にて。
公宮の図書館に入る許可を得たルーツィエは、洗ったハンカチを大切そうに持ち、クラウスを探していた。
(あ、いらしたわ)
ルーツィエは図書館の端の席でクラウスが読書をしているのを見つけた。
クラウスもルーツィエの姿に気付き、アズライトの目を優しく細めた。
「やあ、レルヒェンフェルト嬢」
「殿下、ご機嫌よう。先日お借りしたハンカチをお返ししに参りました」
ルーツィエはクラウスにハンカチを返す。そのハンカチは丁寧にラッピングされていた。
「ありがとう、レルヒェンフェルト嬢。わざわざ包んでくれたんだね」
「ええ。公子殿下のものでございますから」
ルーツィエは少し緊張しながらも微笑む。
「そうか。レルヒェンフェルト嬢、せっかくだし、一緒に本を読まないか? この図書館には国中の本、それから他国の本も揃っているんだ」
優しく甘い笑みのクラウス。
「左様でございますか。それなら、是非喜んで」
ルーツィエは頬をほんのり赤く染め、クラウスの隣で本を読むことにした。
ルーツィエが選んだのは髪型の歴史や髪の手入れについて書かれた本。
熱心に読む様子をクラウスが隣で見守っていた。クラウスはどこか楽しそうな様子であった。
読書に熱中していたら、いつの間にか夕方になっていた。
「もうこんな時間なのでございますね」
ルーツィエは窓の外を見て驚いていた。
「随分と集中していたようだね。僕も今日は公務がないから、この時間までゆっくり読書が出来たよ。レルヒェンフェルト嬢の様子も見ることが出来たし」
クラウスは満足そうな表情である。
「レルヒェンフェルト嬢さえ良ければだけど、今後も僕と一緒に図書館で本を読まないかい?」
クラウスのアズライトの目は、真っ直ぐルーツィエを見つめている。
ルーツィエは嬉しそうに頷く。
「はい。是非そうさせていただきますわ」
こうして、ルーツィエとクラウスの交流が始まった。
「ルーツィエ嬢、この本なんだけど……」
「クラウス殿下、こちらの本に書いてありました……」
ルーツィエとクラウスの仲はどんどん深まり、ついに名前で呼び合うようになっていた。
クラウスは他国に関する本、ルーツィエは髪型の流行やその他淑女の嗜み、そしてクラウスの助けになりそうな知識が書いてある本を読んでいる。
ルーツィエにとってクラウスと共に読書をする時間は何よりも大切なものになっていた。
この時は、ヤーコブに対する嫌な気持ちを忘れることが出来たのである。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
そんなある日。
ルーツィエにとって最悪なことが決まってしまう。
「ルーツィエ、ビューロウ侯爵家が是非ともお前の結婚相手にヤーコブ卿をと打診があった。彼は三男で、レルヒェンフェルト伯爵家にはルーツィエとお前の妹しかいないから、婿に迎えるには持って来いの人物だろう。それに、ヤーコブ卿とは幼馴染だから、よく知っている間柄だし安心だ」
ルーツィエの父である、レルヒェンフェルト伯爵家当主が嬉しそうにルーツィエに伝える。
それを聞いたルーツィエは絶望した。
(そんなの絶対に嫌!)
ヤーコブと結婚するということは、一生モジャモジャの髪だと言われ続けることが確定したようなものである。
かつてルーツィエは両親にヤーコブから揶揄われることを相談したが、父も母もヤーコブが言うことは冗談なのだからルーツィエが広い心で許してやれと言うだけで全く頼りにならなかった。
ルーツィエが今回彼との結婚が嫌だと伝えても、恐らく力になってくれない。
ルーツィエは失意の中、公宮の図書館へ向かった。
「ルーツィエ嬢、どうしたんだい? 何か悲しいことがあったのかい?」
ルーツィエが図書館に来るなり、クラウスは心配そうに彼女の顔を覗き込んだ。
「クラウス殿下……」
ルーツィエのアンバーの目からは涙が零れる。
クラウスは黙って綺麗なハンカチを取り出し、ルーツィエの涙を拭ってくれた。
「何があったのか話せるかい?」
クラウスは優しくルーツィエが落ち着くまで待ってくれている。
「実は……ヤーコブ様との婚約が決まってしまいそうなのです。もし彼と結婚してしまったら、一生髪のことを揶揄われ続けるのですわ。そんなの、絶対に嫌なのです。彼とだけは、絶対に嫌……!」
ルーツィエのアンバーの目からは再び大粒の涙が零れ出す。
「何てことだ……!」
クラウスはアズライトの目を大きく見開いた。そしてルーツィエの涙をまた優しく拭う。
「クラウス殿下、私はどうしたら良いのでしょう?」
困ったようにクラウスに縋るルーツィエ。
「そうだな……」
クラウスは少し考える素振りをする。
そして、覚悟を決めたような表情になった。
「ルーツィエ嬢、僕に任せて欲しい。……公陛下には、権力をむやみやたらに行使してはならないと厳しく言われているけれど、ルーツィエ嬢の為ならそれを破る覚悟は出来ている」
「どうしてそこまでして私を助けようとしてくださるのですか?」
ルーツィエは不安そうに聞く。
「ルーツィエ嬢を愛しているからだよ。一人の女性としてね。君と過ごす時間は、本当にかけがえのない宝物だ。本を通じて学ぶ姿が素晴らしいと思ったよ」
クラウスのアズライトの目は、真っ直ぐルーツィエのアンバーの目を見つめていた。
真剣さがひしひしと伝わって来る。
「クラウス殿下……」
ルーツィエの心臓は跳ね、頬が赤く染まる。
「嬉しく存じます。私も……クラウス殿下をお慕いしております。クラウス殿下と過ごす時間が何よりも楽しみで、嫌なことを忘れることが出来ました」
ルーツィエは嬉しそうにアンバーの目を細めた。
「僕がルーツィエ嬢の婚約者になれたら良いのだけれど、国内の貴族のパワーバランスが崩れてしまうから今すぐには難しい。今すぐ実行可能な案を考えよう」
「はい」
こうしてルーツィエとクラウスは、ヤーコブをどうするか考え始めるのであった。
公宮の図書館に入る許可を得たルーツィエは、洗ったハンカチを大切そうに持ち、クラウスを探していた。
(あ、いらしたわ)
ルーツィエは図書館の端の席でクラウスが読書をしているのを見つけた。
クラウスもルーツィエの姿に気付き、アズライトの目を優しく細めた。
「やあ、レルヒェンフェルト嬢」
「殿下、ご機嫌よう。先日お借りしたハンカチをお返ししに参りました」
ルーツィエはクラウスにハンカチを返す。そのハンカチは丁寧にラッピングされていた。
「ありがとう、レルヒェンフェルト嬢。わざわざ包んでくれたんだね」
「ええ。公子殿下のものでございますから」
ルーツィエは少し緊張しながらも微笑む。
「そうか。レルヒェンフェルト嬢、せっかくだし、一緒に本を読まないか? この図書館には国中の本、それから他国の本も揃っているんだ」
優しく甘い笑みのクラウス。
「左様でございますか。それなら、是非喜んで」
ルーツィエは頬をほんのり赤く染め、クラウスの隣で本を読むことにした。
ルーツィエが選んだのは髪型の歴史や髪の手入れについて書かれた本。
熱心に読む様子をクラウスが隣で見守っていた。クラウスはどこか楽しそうな様子であった。
読書に熱中していたら、いつの間にか夕方になっていた。
「もうこんな時間なのでございますね」
ルーツィエは窓の外を見て驚いていた。
「随分と集中していたようだね。僕も今日は公務がないから、この時間までゆっくり読書が出来たよ。レルヒェンフェルト嬢の様子も見ることが出来たし」
クラウスは満足そうな表情である。
「レルヒェンフェルト嬢さえ良ければだけど、今後も僕と一緒に図書館で本を読まないかい?」
クラウスのアズライトの目は、真っ直ぐルーツィエを見つめている。
ルーツィエは嬉しそうに頷く。
「はい。是非そうさせていただきますわ」
こうして、ルーツィエとクラウスの交流が始まった。
「ルーツィエ嬢、この本なんだけど……」
「クラウス殿下、こちらの本に書いてありました……」
ルーツィエとクラウスの仲はどんどん深まり、ついに名前で呼び合うようになっていた。
クラウスは他国に関する本、ルーツィエは髪型の流行やその他淑女の嗜み、そしてクラウスの助けになりそうな知識が書いてある本を読んでいる。
ルーツィエにとってクラウスと共に読書をする時間は何よりも大切なものになっていた。
この時は、ヤーコブに対する嫌な気持ちを忘れることが出来たのである。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
そんなある日。
ルーツィエにとって最悪なことが決まってしまう。
「ルーツィエ、ビューロウ侯爵家が是非ともお前の結婚相手にヤーコブ卿をと打診があった。彼は三男で、レルヒェンフェルト伯爵家にはルーツィエとお前の妹しかいないから、婿に迎えるには持って来いの人物だろう。それに、ヤーコブ卿とは幼馴染だから、よく知っている間柄だし安心だ」
ルーツィエの父である、レルヒェンフェルト伯爵家当主が嬉しそうにルーツィエに伝える。
それを聞いたルーツィエは絶望した。
(そんなの絶対に嫌!)
ヤーコブと結婚するということは、一生モジャモジャの髪だと言われ続けることが確定したようなものである。
かつてルーツィエは両親にヤーコブから揶揄われることを相談したが、父も母もヤーコブが言うことは冗談なのだからルーツィエが広い心で許してやれと言うだけで全く頼りにならなかった。
ルーツィエが今回彼との結婚が嫌だと伝えても、恐らく力になってくれない。
ルーツィエは失意の中、公宮の図書館へ向かった。
「ルーツィエ嬢、どうしたんだい? 何か悲しいことがあったのかい?」
ルーツィエが図書館に来るなり、クラウスは心配そうに彼女の顔を覗き込んだ。
「クラウス殿下……」
ルーツィエのアンバーの目からは涙が零れる。
クラウスは黙って綺麗なハンカチを取り出し、ルーツィエの涙を拭ってくれた。
「何があったのか話せるかい?」
クラウスは優しくルーツィエが落ち着くまで待ってくれている。
「実は……ヤーコブ様との婚約が決まってしまいそうなのです。もし彼と結婚してしまったら、一生髪のことを揶揄われ続けるのですわ。そんなの、絶対に嫌なのです。彼とだけは、絶対に嫌……!」
ルーツィエのアンバーの目からは再び大粒の涙が零れ出す。
「何てことだ……!」
クラウスはアズライトの目を大きく見開いた。そしてルーツィエの涙をまた優しく拭う。
「クラウス殿下、私はどうしたら良いのでしょう?」
困ったようにクラウスに縋るルーツィエ。
「そうだな……」
クラウスは少し考える素振りをする。
そして、覚悟を決めたような表情になった。
「ルーツィエ嬢、僕に任せて欲しい。……公陛下には、権力をむやみやたらに行使してはならないと厳しく言われているけれど、ルーツィエ嬢の為ならそれを破る覚悟は出来ている」
「どうしてそこまでして私を助けようとしてくださるのですか?」
ルーツィエは不安そうに聞く。
「ルーツィエ嬢を愛しているからだよ。一人の女性としてね。君と過ごす時間は、本当にかけがえのない宝物だ。本を通じて学ぶ姿が素晴らしいと思ったよ」
クラウスのアズライトの目は、真っ直ぐルーツィエのアンバーの目を見つめていた。
真剣さがひしひしと伝わって来る。
「クラウス殿下……」
ルーツィエの心臓は跳ね、頬が赤く染まる。
「嬉しく存じます。私も……クラウス殿下をお慕いしております。クラウス殿下と過ごす時間が何よりも楽しみで、嫌なことを忘れることが出来ました」
ルーツィエは嬉しそうにアンバーの目を細めた。
「僕がルーツィエ嬢の婚約者になれたら良いのだけれど、国内の貴族のパワーバランスが崩れてしまうから今すぐには難しい。今すぐ実行可能な案を考えよう」
「はい」
こうしてルーツィエとクラウスは、ヤーコブをどうするか考え始めるのであった。
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