つかぬことをお伺いいたしますが、私はお飾りの妻ですよね?

宝月 蓮

文字の大きさ
1 / 16

ローザリンデ・エマ・フォン・ランツベルク

しおりを挟む
(ええっと……これは一体どういうことなのでしょうか?)
 とある日の夜会にて、ローザリンデは目の前の状況に困惑していた。
 彼女の目の前にいる、長身で黒褐色の髪にタンザナイトのような紫の目の美形だが目つきが悪い青年ーールートヴィヒが頬を赤く染めながら真っ直ぐローザリンデを見つめている。
 周囲は生暖かい目で二人を見守っている。
 そんな中ローザリンデは勇気を振り絞りルートヴィヒに聞いてみた。
「つかぬことをお伺いいたしますが、わたくしはお飾りの妻ですよね?」





♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔





 時は一年前に遡る。
 この時、ローザリンデは十六歳で成人デビュタントを迎えたばかりであった。ガーメニー王国の成人デビュタント年齢は現国王ルーカスの即位と同時に十五歳から十六歳に引き上げられたのだ。
 ストロベリーブロンドの真っ直ぐ伸びた髪にアンバーの目、そして鼻から頬周りに薄らとそばかすがある可愛らしい顔立ちのローザリンデ。成人デビュタントの儀においては、その見た目と侯爵家・辺境伯家の中で最も家格が高いランツベルク辺境伯家の令嬢ということでかなり注目を浴びていた。
 ローザリンデは成人デビュタントの儀後、夜会やお茶会に片手で数えられる回数出席した。しかしその後は父パトリックに領地に戻るよう言われたのだ。
わたくし、もしかして社交界で何か失態を犯してしまったのでしょうか?」
 ランツベルク城にて、ローザリンデは青ざめていた。
「もしわたくしのせいでランツベルク家に何かございましたら……この命をもってお詫びいたします!」
「ローザ、落ち着いて。大丈夫よ。貴女は何も失態を犯したりしていないわ。貴女は時々突拍子もないことを言うわね」
 勢いよく立ち上がったローザリンデを母エマが苦笑して止める。
 エマはローザリンデと同じ、ストロベリーブロンドの真っ直ぐ伸びた髪にアンバーの目で、鼻から頬周りに薄らとそばかすがある。愛嬌のある顔立ちの女性だ。
「ですがやはり何かしてしまったのではないかと不安です。それにわたくしはお母様のように周囲を楽しませる会話は出来ませんし……」
 ローザリンデは先日の夜会で、エマが大勢の人に囲まれており彼女の周りには笑顔が絶えなかったことを思い出していた。エマには「社交界の太陽」という二つ名がある。
「ローザリンデ様、わたくしも社交にはあまり自信がございませんわ。一緒に頑張りましょう」
 そうローザリンデに優しく微笑むのはティアナ。ローザリンデの六つ上の兄でランツベルク辺境伯家次期当主ユリウスの妻である。彼女はローザリンデより三つ年上で今年十九歳になる。ウェーブがかったダークブロンドの髪にムーンストーンのようなグレーの目の、可愛らしい女性だ。
「ティアナお義姉ねえ様……ありがとうございます」
 ローザリンデはホッとしたように微笑み、ローズティーを一口飲む。優しく華やかな香りが鼻奥を掠めた。
「そうだ、ティアナお義姉様、体調は大丈夫でございますか? 出産したばかりなのに、先日夜会に出席していましたので、少し心配です」
「そうよ、ティアナさん。あまり無理はなさらないで。ご自身の体を大切にね」
 ティアナは少し前に男児を産んだばかりである。
「ありがとうございます、お義母様、ローザリンデ様」
 ティアナは微笑み、ローズティーを一口飲んだ。
 ちなみに、現在ガーメニー王国では社交界シーズン中だがエマとティアナも領地に戻っていた。これはパトリックとユリウスが自分の妻を他の男の目に触れさせたくないという独占欲からである。辺境伯家は国境付近の警備の役割も兼ねているので社交界に出なくても問題はない。
「お母様は二週間後にはまた王都に行きますのよね?」
 ローザリンデはバームクーヘンを一口食べてから聞く。
「ええ。ビスマルク侯爵家の夜会に参加する為にね。お姉様やお兄様やユリアーナ様にも会えるからとても楽しみよ」
 エマはふふっと微笑む。太陽のような笑みなので、ローザリンデもティアナもつられて明るい気持ちになる。
わたくしもリーゼロッテ伯母おば様やディートリヒ伯父おじ様やユリアーナ義伯母おば様にお会いしたいです。ただ社交界に出るのは、何か失態を犯してしまうのではないかと不安ですが。お父様にも領地に戻るよう言われましたし」
 ローザリンデは少し伏目がちになる。
「お母様もそうですが、お父様やユリウスお兄様やシルヴィアお姉様は社交界で上手くやっているので凄いですわ。ラファエルお兄様も、ナルフェック王国で上手くやっているみたいですし」
 ローザリンデは軽くため息をついた。
 ちなみにローザリンデより四つ上の兄ラファエルは、隣国ナルフェック王国との同盟強化の為、二年前にヴァンティエール侯爵家に婿入りしたのだ。ランツベルク辺境伯領は国境を挟んでナルフェックのヴァンティエール侯爵領と隣接している。
「弟のイグナーツや妹のクラリッサもお兄様やお姉様達同様優秀ですわ。エーデルトラウトは音楽の才能がありますし、ランプレヒトは絵の才能がございます。ですが、わたくしは優秀でもなければ特化した才能もございませんわ。貴族の子女は家同士の繋がりの為に他家へ嫁入り、婿入りすることが必要ですが、わたくしはランツベルク家のお役に立てるでしょうか?」
 ローザリンデのアンバーの目は憂いを帯びていた。
 ローザリンデはランツベルク辺境伯家の第四子で次女として産まれた。六つ年上の兄ユリウス、二つ年上の姉シルヴィア、三つ年下の弟イグナーツ、八つ年下の妹クラリッサは優秀で、貴族としてのマナーや所作、社交の際必要な知識や他国の言語などを一発で覚えてしまう程である。ラファエルは一発とまではいかないが、ローザリンデよりもはるかに早くそれらを習得していた。五つ年下の弟エーデルトラウトと十歳も離れた弟ランプレヒトもユリウス達程ではないが割と優秀な上、音楽や絵などの突出した才能がある。
 ローザリンデはユリウス達程優秀ではなく、エーデルトラウトやランプレヒトのように突出した才能もない。よって自分に自信を持てずにいた。
「ローザ、大丈夫よ。ユリウス達と比べる必要はないわ。自信を持って。貴女は聞き上手だから、相手の話をしっかり聞いてあげられている。とても素敵よ」
 エマはふふっと微笑み、ローズティーを飲んだ。
「お義母様の仰る通りですわ。ローザリンデ様は聞き上手ですし、他の方々の顔と名前をすぐに覚えていらっしゃるではございませんか。一度覚えたことは決して忘れませんし」
 ティアナも優しげな目をローザリンデに向けている。
「それは誇っても良いものなのでしょうか……?」
 ローザリンデは自信なさげである。そんな彼女を、エマが優しく抱きしめた。
「ローザ、ローザリンデ。これだけは覚えておいて。私はどんな貴女でも愛しているわ。貴女はそのままで十分じゅうぶん素敵よ。ユリウス達と比べる必要はないわ。お願いローザ、自分で自分に呪いをかけないでちょうだい」
「お母様……ありがとうございます。もし……もし、また王都に行くことがあれば、頑張ってみようと思います」
 エマに抱きしめられたことで、ローザリンデは少しだけ前向きになれた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【短編/完結】偽のプロフィールで始めたマッチング相手が運命の人でした

大森 樹
恋愛
お転婆な貴族令嬢のジェシカは、年上の紳士が好み。だけど父親からは年齢差のある恋は認められないと大反対されるので、マッチングサービスを使って秘密に相手を探すことにした。 しかし、実際に始めてみると若いジェシカの身体目当ての気持ち悪いおじさんからのメッセージしか来なくてうんざりしていた。 「あえて結婚適齢期を過ぎた年齢に設定すればいいよ」 弟的存在の二歳年下の美形な幼馴染チェスターに、そうアドバイスをされて偽のプロフィールを登録してみると……すぐに紳士で気の合う男性とマッチングすることができた。 だけど、いつになっても彼はジェシカに『逢いたい』と言ってくれなくて….!? ※完結&ハッピーエンド保証します。

「好き」の距離

饕餮
恋愛
ずっと貴方に片思いしていた。ただ単に笑ってほしかっただけなのに……。 伯爵令嬢と公爵子息の、勘違いとすれ違い(微妙にすれ違ってない)の恋のお話。 以前、某サイトに載せていたものを大幅に改稿・加筆したお話です。

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には何年も思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

瀬月 ゆな
恋愛
ロゼリエッタは三歳年上の婚約者クロードに恋をしている。 だけど、その恋は決して叶わないものだと知っていた。 異性に対する愛情じゃないのだとしても、妹のような存在に対する感情なのだとしても、いつかは結婚して幸せな家庭を築ける。それだけを心の支えにしていたある日、クロードから一方的に婚約の解消を告げられてしまう。 失意に沈むロゼリエッタに、クロードが隣国で行方知れずになったと兄が告げる。 けれど賓客として訪れた隣国の王太子に付き従う仮面の騎士は過去も姿形も捨てて、別人として振る舞うクロードだった。 愛していると言えなかった騎士と、愛してくれているのか聞けなかった令嬢の、すれ違う初恋の物語。 他サイト様でも公開しております。 イラスト  灰梅 由雪(https://twitter.com/haiumeyoshiyuki)様

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

番は君なんだと言われ王宮で溺愛されています

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私ミーシャ・ラクリマ男爵令嬢は、家の借金の為コッソリと王宮でメイドとして働いています。基本は王宮内のお掃除ですが、人手が必要な時には色々な所へ行きお手伝いします。そんな中私を番だと言う人が現れた。えっ、あなたって!? 貧乏令嬢が番と幸せになるまでのすれ違いを書いていきます。 愛の花第2弾です。前の話を読んでいなくても、単体のお話として読んで頂けます。

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

処理中です...