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ローザリンデが領地に引っ込んだ理由
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「不安になってもそうやって前を向くことが出来る。それがローザリンデの美点だね」
ふと、第三者の声が聞こえ、ローザリンデたちはその方向を見る。
「お父様! ユリウスお兄様も!」
ローザリンデの父パトリックと兄ユリウスがいたのだ。
「ただいま、エマ。ローザリンデとティアナさんも」
優しげに微笑むパトリック。
月の光に染まったようなプラチナブロンドの髪にアメジストのような紫の目。彫刻のように美しいが、少し冷たい印象を与える顔立ちのパトリック。
ローザリンデは、目元はほんのりパトリックの面影があり、鼻や口元はエマに似ていた。
「ただ今戻りました」
ユリウスも挨拶をする。
彼の髪色と目の色と鼻から頬周りのそばかすはローザリンデやエマと同じだが、顔立ちはパトリックの生き写しである。歳を重ねればパトリックのようになるのは必至だ。
「エマ、会いたかったよ」
パトリックは冷たそうな印象とは裏腹に、とろけるような甘い笑みをエマに向ける。
「リッキー、意外と早かったのね」
エマはふふっとアンバーの目を細め、パトリックに微笑む。
エマはパトリックのことをリッキーという愛称で呼んでいる。
「ああ、早くエマに会いたくてね。本当に……会いたかったよ、エマ」
パトリックは心底愛おしそうな目になり、エマを抱きしめてキスをする。
(お父様、相変わらずですわね)
ローザリンデは見慣れた様子だった。
「ん……リッキー、苦しいわ」
「ごめんエマ。離れていた時間が長かったからつい」
少し名残惜しそうな表情のパトリックである。
「全く、父上は相変わらずですね。ティアナ、体は大丈夫かい? フリードリヒを産んだばかりだから、無理はいけないよ。部屋に戻ろう。私が運ぶから」
ユリウスはティアナに甘く優しい笑みを向ける。
「ユリウス様、お気遣いありがとうございます。ですが、私1人で歩けますわよ」
「駄目だ。もしティアナに何かあったらと思ったら、私はいても立ってもいられない」
ユリウスは有無を言わさずティアナを横抱き、いわゆるお姫様抱っこする。
「ユリウス様……このままでは私、足の力が弱くなって歩けなくなってしまいますわ」
ティアナは困ったように微笑む。すると、ユリウスの表情がパアッと明るくなる。アンバーの目はキラキラと輝いている。
「そうなればティアナは私なしでは生きられなくなるね。是非とも私に依存してくれて構わないんだよ」
「それだと私が困りますわ」
困惑するティアナに対し、ユリウスはどこ吹く風だ。ティアナは諦めざるを得なかった。
「お義母様、ローザリンデ様、色々お話出来て楽しかったです。ありがとうございます。それではお義父様もまた後ほど」
ティアナはそう挨拶をし、ユリウスにお姫様抱っこされたまま部屋を後にするのであった。
(ユリウスお兄様も相変わらずですわね)
ローザリンデはこちらにも慣れた様子だった。
「ユリウスは間違いなくリッキーに似たわね。私も妊娠していた頃、リッキーにお姫様抱っこされたまま運ばれたわ。ティアナさん、大丈夫かしら?」
エマは苦笑している。
「僕に似たのなら少なくともティアナさんが本気で嫌がることは絶対にしないさ」
パトリックはフッと笑った。
そして少し話した後、ローザリンデはおずおずとパトリックに聞いてみる。
「あの、お父様、私はランツベルク家の恥にならないように頑張ります。ですので、また王都へ行かせていただけますか?」
ローザリンデのアンバーの目は、少し不安げだが真っ直ぐパトリックを見ていた。
パトリックは優しげにアメジストの目を細める。
「ローザリンデ、君が何をしてもランツベルク家の恥にはならないさ。ただ……」
パトリックは真剣な目つきになる。
「ローザリンデ、君は16歳だ。成人しているし、結婚出来る年齢になった。政略にしろ、純粋な好意にしろ、君との婚約を狙っている男共が大勢いるという自覚はあるかい?」
「え……?」
ローザリンデはアンバーの目を丸くしてきょとんとしている。
「やっぱり自覚なしか」
パトリックは苦笑した。
「お父様、私は成人を迎えたばかりでございます。一応大人と言われる年齢ではありますが、社交界ではまだ子供なので、婚約とかはまだ早いかと存じますわ。シルヴィアお姉様だって、婚約者が決まったのは今年でございますし」
ローザリンデの2つ上の姉であるシルヴィアは、今年になってリンブルフ公爵家長男と婚約した。
「ローザ、私は今の貴女と同じ年齢でリッキーと結婚したのよ」
エマはふふっと笑う。
「シルヴィアは……色々と特殊だったんだよ。元々あの子は領地経営に携わりたいと思っていたみたいだし。それに、リンブルフ公爵領にある物理化学研究機関で行われている研究にも興味があるらしい。……あれは政略的な婚約というより、シルヴィアによるリンブルフ公爵家乗っ取りだな」
パトリックは苦笑する。後半は誰にも聞こえていなかった。
「とにかく、今ローザリンデにはエスコートの申し込みや直接的な婚約の申し込みが多数届いている状況だ」
「お父様、それは何かのご冗談でございますよね?」
ローザリンデは困惑している。
未婚の令息が未婚の令嬢にエスコートを申し込むということは、いずれその令嬢の婚約者になるということである。
(私にそんな縁談などあるわけがございませんわ)
「冗談ではないよ、ローザリンデ。ランツベルク家と繋がりを持ちたいと考えている者達もいるようだけど、ローザリンデに本気で惚れている男もいるようだ。君の本質はエマと似ているから、人を惹きつけてしまうのも仕方ないことだけどさ」
やれやれ、と言うような感じのパトリック。
「私が……お母様と似ているなんて、そんな畏れ多い。お母様みたいに上手に話せませんし……」
ローザリンデはパトリックとエマを交互に見て恐縮していた。
「ローザ、あまり自分を卑下しないでちょうだい」
エマはローザリンデに優しげな笑みを向ける。
「ローザリンデ・エマ・フォン・ランツベルク。ミドルネームにエマの名前が入っているからか、君の本質は他の子供達より1番エマに似ているよ。だから自信を持つといい。話を戻すけれど、ローザリンデにエスコートの申し出だったり婚約を望む男共が多くいてね。中にはもう釣書まで送ってきた男もいた。僕は今その男共に瑕疵がないか徹底的に調べている。少しでも瑕疵のある男は排除しておくからね。もちろん、ローザリンデの気持ちが最優先だけど」
パトリックはローザリンデに優しい笑みを向ける。
「とにかく、今僕は男共の精査をしているから、それが終わるまでローザリンデは領地で待っていて欲しい。君を不幸にするような男は選択肢から絶対に排除しておくから。その後、君には再び王都に来てもらう予定だよ」
パトリックの目は、娘を思う父親の目であった。
「お父様、ありがとうございます。では、それまで領地でお待ちしております」
ローザリンデは少しホッとしていた。
ふと、第三者の声が聞こえ、ローザリンデたちはその方向を見る。
「お父様! ユリウスお兄様も!」
ローザリンデの父パトリックと兄ユリウスがいたのだ。
「ただいま、エマ。ローザリンデとティアナさんも」
優しげに微笑むパトリック。
月の光に染まったようなプラチナブロンドの髪にアメジストのような紫の目。彫刻のように美しいが、少し冷たい印象を与える顔立ちのパトリック。
ローザリンデは、目元はほんのりパトリックの面影があり、鼻や口元はエマに似ていた。
「ただ今戻りました」
ユリウスも挨拶をする。
彼の髪色と目の色と鼻から頬周りのそばかすはローザリンデやエマと同じだが、顔立ちはパトリックの生き写しである。歳を重ねればパトリックのようになるのは必至だ。
「エマ、会いたかったよ」
パトリックは冷たそうな印象とは裏腹に、とろけるような甘い笑みをエマに向ける。
「リッキー、意外と早かったのね」
エマはふふっとアンバーの目を細め、パトリックに微笑む。
エマはパトリックのことをリッキーという愛称で呼んでいる。
「ああ、早くエマに会いたくてね。本当に……会いたかったよ、エマ」
パトリックは心底愛おしそうな目になり、エマを抱きしめてキスをする。
(お父様、相変わらずですわね)
ローザリンデは見慣れた様子だった。
「ん……リッキー、苦しいわ」
「ごめんエマ。離れていた時間が長かったからつい」
少し名残惜しそうな表情のパトリックである。
「全く、父上は相変わらずですね。ティアナ、体は大丈夫かい? フリードリヒを産んだばかりだから、無理はいけないよ。部屋に戻ろう。私が運ぶから」
ユリウスはティアナに甘く優しい笑みを向ける。
「ユリウス様、お気遣いありがとうございます。ですが、私1人で歩けますわよ」
「駄目だ。もしティアナに何かあったらと思ったら、私はいても立ってもいられない」
ユリウスは有無を言わさずティアナを横抱き、いわゆるお姫様抱っこする。
「ユリウス様……このままでは私、足の力が弱くなって歩けなくなってしまいますわ」
ティアナは困ったように微笑む。すると、ユリウスの表情がパアッと明るくなる。アンバーの目はキラキラと輝いている。
「そうなればティアナは私なしでは生きられなくなるね。是非とも私に依存してくれて構わないんだよ」
「それだと私が困りますわ」
困惑するティアナに対し、ユリウスはどこ吹く風だ。ティアナは諦めざるを得なかった。
「お義母様、ローザリンデ様、色々お話出来て楽しかったです。ありがとうございます。それではお義父様もまた後ほど」
ティアナはそう挨拶をし、ユリウスにお姫様抱っこされたまま部屋を後にするのであった。
(ユリウスお兄様も相変わらずですわね)
ローザリンデはこちらにも慣れた様子だった。
「ユリウスは間違いなくリッキーに似たわね。私も妊娠していた頃、リッキーにお姫様抱っこされたまま運ばれたわ。ティアナさん、大丈夫かしら?」
エマは苦笑している。
「僕に似たのなら少なくともティアナさんが本気で嫌がることは絶対にしないさ」
パトリックはフッと笑った。
そして少し話した後、ローザリンデはおずおずとパトリックに聞いてみる。
「あの、お父様、私はランツベルク家の恥にならないように頑張ります。ですので、また王都へ行かせていただけますか?」
ローザリンデのアンバーの目は、少し不安げだが真っ直ぐパトリックを見ていた。
パトリックは優しげにアメジストの目を細める。
「ローザリンデ、君が何をしてもランツベルク家の恥にはならないさ。ただ……」
パトリックは真剣な目つきになる。
「ローザリンデ、君は16歳だ。成人しているし、結婚出来る年齢になった。政略にしろ、純粋な好意にしろ、君との婚約を狙っている男共が大勢いるという自覚はあるかい?」
「え……?」
ローザリンデはアンバーの目を丸くしてきょとんとしている。
「やっぱり自覚なしか」
パトリックは苦笑した。
「お父様、私は成人を迎えたばかりでございます。一応大人と言われる年齢ではありますが、社交界ではまだ子供なので、婚約とかはまだ早いかと存じますわ。シルヴィアお姉様だって、婚約者が決まったのは今年でございますし」
ローザリンデの2つ上の姉であるシルヴィアは、今年になってリンブルフ公爵家長男と婚約した。
「ローザ、私は今の貴女と同じ年齢でリッキーと結婚したのよ」
エマはふふっと笑う。
「シルヴィアは……色々と特殊だったんだよ。元々あの子は領地経営に携わりたいと思っていたみたいだし。それに、リンブルフ公爵領にある物理化学研究機関で行われている研究にも興味があるらしい。……あれは政略的な婚約というより、シルヴィアによるリンブルフ公爵家乗っ取りだな」
パトリックは苦笑する。後半は誰にも聞こえていなかった。
「とにかく、今ローザリンデにはエスコートの申し込みや直接的な婚約の申し込みが多数届いている状況だ」
「お父様、それは何かのご冗談でございますよね?」
ローザリンデは困惑している。
未婚の令息が未婚の令嬢にエスコートを申し込むということは、いずれその令嬢の婚約者になるということである。
(私にそんな縁談などあるわけがございませんわ)
「冗談ではないよ、ローザリンデ。ランツベルク家と繋がりを持ちたいと考えている者達もいるようだけど、ローザリンデに本気で惚れている男もいるようだ。君の本質はエマと似ているから、人を惹きつけてしまうのも仕方ないことだけどさ」
やれやれ、と言うような感じのパトリック。
「私が……お母様と似ているなんて、そんな畏れ多い。お母様みたいに上手に話せませんし……」
ローザリンデはパトリックとエマを交互に見て恐縮していた。
「ローザ、あまり自分を卑下しないでちょうだい」
エマはローザリンデに優しげな笑みを向ける。
「ローザリンデ・エマ・フォン・ランツベルク。ミドルネームにエマの名前が入っているからか、君の本質は他の子供達より1番エマに似ているよ。だから自信を持つといい。話を戻すけれど、ローザリンデにエスコートの申し出だったり婚約を望む男共が多くいてね。中にはもう釣書まで送ってきた男もいた。僕は今その男共に瑕疵がないか徹底的に調べている。少しでも瑕疵のある男は排除しておくからね。もちろん、ローザリンデの気持ちが最優先だけど」
パトリックはローザリンデに優しい笑みを向ける。
「とにかく、今僕は男共の精査をしているから、それが終わるまでローザリンデは領地で待っていて欲しい。君を不幸にするような男は選択肢から絶対に排除しておくから。その後、君には再び王都に来てもらう予定だよ」
パトリックの目は、娘を思う父親の目であった。
「お父様、ありがとうございます。では、それまで領地でお待ちしております」
ローザリンデは少しホッとしていた。
応援ありがとうございます!
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