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序章
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――お父様、スタンお兄様、お元気ですか?
イレネは王都で楽しく暮らしております。旦那様はお噂でお伺いしていた通りとてもお優しいお方でした。毎日私の顔を見てからお仕事に行き、昼食にはお屋敷にお戻り下さるか、王都の素敵なお店で見た事もないくらいに綺麗に盛り付けられた食事を一緒に取って下さるのです。それから、日々沢山の贈り物を下さいます。私を思い出したからと突然大きな花束を買って帰られた翌日には、その花を一輪胸元に挿して登城されるのです。それからお屋敷にいる時は私の側でお仕事や読書をなさり、私が立った後の椅子には必ず座ります。それから何故か、私愛用の櫛を持ってじっと見つめ、時にはその櫛でご自分の御髪を解いていらっしゃいます。すでに完璧に固め整えられているので、少し痛そうで心配でした。おそらく椅子や櫛は使い心地をお確かめ下さったのではないかと思い、全ては私を想って下さっての事と感激しております。何より私が刺繍を施したハンカチを……ハンカチを大切にし、肌見放さず……
イレネは走らせていたペンをそっと置くと、たった今まで丁寧に書き進めていた紙を両手でグシャグシャに丸めた。すでに床には同じようにして捨てられた残骸が幾つも落ちている。インクのシミが新しい紙に染みていくのを見つめながら呟いた。
「言える訳ないじゃない。あんなに……あんなに喜んでいたんだもの」
ペンがぽろりと指先から落ちていく。
「旦那様が変態だったなんて、言える訳ないじゃな――――いッ!」
長い髪を掻き混ぜるようにして叫びながら机に突っ伏した。
イレネは王都で楽しく暮らしております。旦那様はお噂でお伺いしていた通りとてもお優しいお方でした。毎日私の顔を見てからお仕事に行き、昼食にはお屋敷にお戻り下さるか、王都の素敵なお店で見た事もないくらいに綺麗に盛り付けられた食事を一緒に取って下さるのです。それから、日々沢山の贈り物を下さいます。私を思い出したからと突然大きな花束を買って帰られた翌日には、その花を一輪胸元に挿して登城されるのです。それからお屋敷にいる時は私の側でお仕事や読書をなさり、私が立った後の椅子には必ず座ります。それから何故か、私愛用の櫛を持ってじっと見つめ、時にはその櫛でご自分の御髪を解いていらっしゃいます。すでに完璧に固め整えられているので、少し痛そうで心配でした。おそらく椅子や櫛は使い心地をお確かめ下さったのではないかと思い、全ては私を想って下さっての事と感激しております。何より私が刺繍を施したハンカチを……ハンカチを大切にし、肌見放さず……
イレネは走らせていたペンをそっと置くと、たった今まで丁寧に書き進めていた紙を両手でグシャグシャに丸めた。すでに床には同じようにして捨てられた残骸が幾つも落ちている。インクのシミが新しい紙に染みていくのを見つめながら呟いた。
「言える訳ないじゃない。あんなに……あんなに喜んでいたんだもの」
ペンがぽろりと指先から落ちていく。
「旦那様が変態だったなんて、言える訳ないじゃな――――いッ!」
長い髪を掻き混ぜるようにして叫びながら机に突っ伏した。
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