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3章 初めての夜
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――ガチャ。
イレネは扉の開いた音にびくりと体を震わせた。開いたのはタイストの寝室と繋がっている扉ではなく、イレネが入って来た扉だった。
用意された夜着は薄かったが、扇情的というよりは清楚なデザインで体を覆う部分は多いように思う。だからこの震えばむしろ武者震いのようなものなのかもしれない。近付いてくる足音に耳を済ませていると、天蓋の幕が動く衣擦れの音がした。
「待たせましたか?」
ベッドが軋む音を立てて僅かに後ろが沈む。イレネは向き直ると、唖然としてしまった。
「その格好で待つのは冷えたのではありませんか?」
そっと手が伸びてきた瞬間、イレネは側にあった毛布を引き上げた。
「イレネ? どうしました?」
どうしたもこうしたも何故かタイストはきっちりと服を来ており、シャツの釦は一番上まで閉められ、タイも締められていた。
「も、申し訳ありません! このような格好でお待ちするなんて、なんとお詫びしたらいいか……今すぐに着替えて参ります!」
「イレネ、落ち着いて下さい」
立ち上がろうとするもベッドの柔らかさと夜着と毛布に阻まれ、前に倒れるような形になってしまった。とっさに抱き留めてくれたタイストの腕の中にすっぽりと収まってしまう。訳が分からないままイレネは頭が真っ白になってしまっていた。
「少しこのまま話をしませんか?」
背中に回っていた腕に少しだけ力が込められる。宥めるように背中を何度か撫でられていると、段々と真っ白だった頭でも考えられるようになり始めていた。
「そんなに慌てているのは、もしかしたら私がこんな格好をしているからですか?」
タイストの肩口で頷くと、小さな溜め息が溢れてきた。
「それは申し訳ない事をしました。実は私も湯浴みは済んでいるんです。でももしあなたが今夜を望まないのであれば、今日はそのまま夜の挨拶をして部屋を出るつもりでした」
「ですが、今夜は初夜です。何もしないなんてそんな事、私からは……」
「そうでしたね。でも私はあなたの意思を尊重するつもりでした。だから怖がらせない為にわざわざ着替えたのですが、むしろあなたを混乱させてしまったようですね。本当にすみませんでした」
イレネはタイストの腕の中で少しだけ身動いで体制を変えると、首の方を向いてそっと肩に頭を付けた。
「私は旦那様の妻になったんです。今夜が初夜だという事も、しなければならない事もちゃんと分かっています。ですからお気遣いは無用です」
そう言ってそっと肩辺りの服を握り締めた。それがイレネに出来る最大の誘いだった。
「分かりました。出来るだけ優しくしますので私に身を任せて頂けますか?」
頷くととタイストは抱き締めていた手を緩め、そっと体を離した。すぐ目の前に誰もが憧れる男性がいる。そう思うと自然と涙が滲んでしまった。
「やはり怖いですか?」
フルフルと首を振れば宥めるように頬を撫でられた。戦場の最前線に立つ者とは思えない程に優しい表情と仕草に胸が苦しくなる。背も高く体も鍛えており、指もゴツゴツしているというのに不思議と怖いと感じないのは、タイストが立ち振舞に気を付けているからなのかもしれない。薄明かりの中、暫く見つめ合うと自然と口元が近付いてくる。イレネは領地の最古参の侍女頭から嫁入りにあたり最低限の閨教育を受けていた。
(口づけの時、目は瞑るのよね)
激しく鳴り出す心臓の音を感じながら、ギュッと目を閉じる。柔らかい唇が優しく触れた瞬間、イレネはなんとも言えない温かい気持ちに包まれていた。
(口づけってなんて優しいの)
その瞬間、唇を割って入るように生暖かい物が侵入してくる。驚きのあまり目を開くと、息も出来ないまま生き物のように動くそれがタイストの舌なのだと理解した。
「ん、ッふ!」
次第に後ろに押されていく体をなんとか元の場所に繋ぎ止めようと夢中でタイストにしがみつく。すると何故か口づけは深まってしまった。あまりの苦しさに服を思い切り引っ張るとようやく唇が離された。
「優しくするとは言いましたが、最初はどうしても辛いと思います。その時は遠慮なく私を叩くなり噛むなりして下さい」
言われた言葉に返事をする間もないまま再び唇を塞いでくる。その後はもうタイストにされるがまま、必死に、あっという間に時は流れていった。
イレネは扉の開いた音にびくりと体を震わせた。開いたのはタイストの寝室と繋がっている扉ではなく、イレネが入って来た扉だった。
用意された夜着は薄かったが、扇情的というよりは清楚なデザインで体を覆う部分は多いように思う。だからこの震えばむしろ武者震いのようなものなのかもしれない。近付いてくる足音に耳を済ませていると、天蓋の幕が動く衣擦れの音がした。
「待たせましたか?」
ベッドが軋む音を立てて僅かに後ろが沈む。イレネは向き直ると、唖然としてしまった。
「その格好で待つのは冷えたのではありませんか?」
そっと手が伸びてきた瞬間、イレネは側にあった毛布を引き上げた。
「イレネ? どうしました?」
どうしたもこうしたも何故かタイストはきっちりと服を来ており、シャツの釦は一番上まで閉められ、タイも締められていた。
「も、申し訳ありません! このような格好でお待ちするなんて、なんとお詫びしたらいいか……今すぐに着替えて参ります!」
「イレネ、落ち着いて下さい」
立ち上がろうとするもベッドの柔らかさと夜着と毛布に阻まれ、前に倒れるような形になってしまった。とっさに抱き留めてくれたタイストの腕の中にすっぽりと収まってしまう。訳が分からないままイレネは頭が真っ白になってしまっていた。
「少しこのまま話をしませんか?」
背中に回っていた腕に少しだけ力が込められる。宥めるように背中を何度か撫でられていると、段々と真っ白だった頭でも考えられるようになり始めていた。
「そんなに慌てているのは、もしかしたら私がこんな格好をしているからですか?」
タイストの肩口で頷くと、小さな溜め息が溢れてきた。
「それは申し訳ない事をしました。実は私も湯浴みは済んでいるんです。でももしあなたが今夜を望まないのであれば、今日はそのまま夜の挨拶をして部屋を出るつもりでした」
「ですが、今夜は初夜です。何もしないなんてそんな事、私からは……」
「そうでしたね。でも私はあなたの意思を尊重するつもりでした。だから怖がらせない為にわざわざ着替えたのですが、むしろあなたを混乱させてしまったようですね。本当にすみませんでした」
イレネはタイストの腕の中で少しだけ身動いで体制を変えると、首の方を向いてそっと肩に頭を付けた。
「私は旦那様の妻になったんです。今夜が初夜だという事も、しなければならない事もちゃんと分かっています。ですからお気遣いは無用です」
そう言ってそっと肩辺りの服を握り締めた。それがイレネに出来る最大の誘いだった。
「分かりました。出来るだけ優しくしますので私に身を任せて頂けますか?」
頷くととタイストは抱き締めていた手を緩め、そっと体を離した。すぐ目の前に誰もが憧れる男性がいる。そう思うと自然と涙が滲んでしまった。
「やはり怖いですか?」
フルフルと首を振れば宥めるように頬を撫でられた。戦場の最前線に立つ者とは思えない程に優しい表情と仕草に胸が苦しくなる。背も高く体も鍛えており、指もゴツゴツしているというのに不思議と怖いと感じないのは、タイストが立ち振舞に気を付けているからなのかもしれない。薄明かりの中、暫く見つめ合うと自然と口元が近付いてくる。イレネは領地の最古参の侍女頭から嫁入りにあたり最低限の閨教育を受けていた。
(口づけの時、目は瞑るのよね)
激しく鳴り出す心臓の音を感じながら、ギュッと目を閉じる。柔らかい唇が優しく触れた瞬間、イレネはなんとも言えない温かい気持ちに包まれていた。
(口づけってなんて優しいの)
その瞬間、唇を割って入るように生暖かい物が侵入してくる。驚きのあまり目を開くと、息も出来ないまま生き物のように動くそれがタイストの舌なのだと理解した。
「ん、ッふ!」
次第に後ろに押されていく体をなんとか元の場所に繋ぎ止めようと夢中でタイストにしがみつく。すると何故か口づけは深まってしまった。あまりの苦しさに服を思い切り引っ張るとようやく唇が離された。
「優しくするとは言いましたが、最初はどうしても辛いと思います。その時は遠慮なく私を叩くなり噛むなりして下さい」
言われた言葉に返事をする間もないまま再び唇を塞いでくる。その後はもうタイストにされるがまま、必死に、あっという間に時は流れていった。
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