拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ

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#2 迷い込むユア

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 黄色い花のすぐそばには袋のような物がついており、ユアが指でそっと触ると中に入っている種が弾け飛んだ。

ポンッ ポンポンポンッ

「わっ! うふふふ!」

 結構勢いがあるため、目に入らないように気を付けないといけない。過去に何度も勢いよくまぶたに当たって痛い経験をしているユアは、顔を斜めに背けながら慎重に触った。

 色んな植物を触っているうちに手が汚れたユアは、ポシェットから濡れタオルを取り出し汚れを拭った。彼女の首にはじんわりと汗が出ている。濡れタオルをポシェットに戻し、汗を拭く用のハンカチを取り出そうとポシェットの中を探る。

「あれっ……?」

 ポケットの中に手を入れた後、周りを見渡す彼女。どこにもハンカチが見当たらず、落としてしまったようだ。

(お母様が刺繍をしてくださった大切なハンカチなのに……! どこで落としたのかしら……)

 ユアは急いで辺りを探し回った。山の入り口付近で遊んでいたため、山の中の方に落ちているはずはないのだが……。


「……えっ…………?」

 探すのに夢中になっていたユアは、山の中の方にまで入り込んでいた。

「……ここはどこ……? どの道を通って来たのかしら……」

 地面ばかり見ていたせいで、どちらから歩いて来たかがわからない。山だから下におりていけばいいと思った彼女だが、焦っているせいかどんどん山奥へと入っていってしまう。

「どうしましょう……はぁ…………はぁ…………どちらへ進めばいいの!? わからない……! こわい……!!」

 目が潤む彼女にさらなる追い打ちがかかる。


パン!!

「!」

 銃声が一発、高々と響き渡った。

(狩りの音だわ……!! ど どうしましょう……動いていいのかしら……鳥や動物と間違えられて撃たれないかしら……こわい!!)

 ユアは体をすくめ、姿勢を低くした。

(叫ぶ……? 『こちらには人もいますの! 撃たないで!』 と叫ぶべきかしら……!?)


パン!!

「!!」

 再び銃声が響き渡る。

「っ…………」

 ユアは叫ぼうとしたが思いとどまった。彼女は女の子だ。叫べば銃を持つ相手に女の子が近くにいることが伝わってしまう。

(狩人の方ってどんな方かしら…………)

 山奥で迷子になっている彼女にとって、今頼れる人はその狩人のみであることは確かだが……。

(もしも、狩人ではなく山賊だったら……?)

 恐ろしい光景を想像するユア。

ゾッ……!!

 寒気が走る。

(こわい……こわいこわいこわい……!! お母様……お母様……!!)

 膝を抱いて顔を埋めるユア。

 そこへ…………



ザッザッザッザッ

「!!!」

 銃を持った狩人が一人、ユアの元へと近づいて行く。
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