拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ

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#3 狩人の正体

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 ザッザッザッ……

 大きくなった足音がユアのすぐそばで止まった。恐怖で顔を上げることができないユア。心臓が激しく波打つ。

「大丈夫かい?」

「…………!」

 想像とは全く異なる、とても優しい声色にユアの恐怖心は少し弱まった。

「具合が悪いのかい? 立てる?」

 おそるおそる顔を上げて狩人を見ると……

「……!!??」

 狩人の殿方を見た途端、彼女の目は大きく見開いた。よく知る顔が目に映ったからだ。よく知るどころではない。

「……あっ…………ユージ様……で ございますか……!?」

 言葉がたじたじになるのも無理はない。彼女の元へ現れた狩人は、マルーン国王の子息であるユージ王太子だったのだ。王太子が膝をつき、彼女を心配そうな目で見ている。

 驚きのあまり、ポカンと口が開いたままのユア。

(ど……どうしてこんな山奥にユージ様が……? もしかしてよく似た別の人かしら……? 私は幻を見ているの?)

「お嬢さん、初めまして。君の言う通り僕はユージだよ。間違っても山賊なんかじゃないから安心してね。道に迷ったのかい? ご家族の方は?」

「あ……私一人でございます。どこかにハンカチを落としてしまったようで……探すのに夢中になっていたところ、どんどん知らない山奥へ入り込んでしまいました……」

「そうだったんだね。もう大丈夫だよ。一緒に帰ろう」

「……はい! ありがとうございます!」

 ユアは立ち上がると、あわてて口を開いた。

「あのっ……申し遅れて誠に申し訳ございません! 私はウィルソンヌ家の長女、ユアでございます」

「ウィルソンヌ家のユアだね。…………ウィルソンヌ家…………えっ 本当!?」

 ユージの声が大きくなった。

「ウィルソンヌ家の当主は父上と仲が良いんだよ。昔から深い繋がりがあるみたいなんだ」

「えっ……? そうなのですか!?」

「うん。僕も詳しいことはわかっていないんだけどね……っていけない。こんな歳でまだ知らないなんてこと、口に出しちゃダメだよね。しまったなぁ……僕たちだけの秘密にしてくれないかい?」

「……はい! もちろんでございます」

(ユージ様は王太子様だから、次期国王になるお人なのだけれど……あまりお家のことには関心がないのかしら? 自由な感じで……物腰が柔らかくて……なんだか可愛らしいお人……)

 ユアは自分も家のことをあまり把握していないため、自由に生きている様子のユージに親近感を抱いた。

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