拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ

文字の大きさ
11 / 14

#11 心地よい温かみ

しおりを挟む
 気づけば喉がカラカラに乾いていた二人はあわてて水を口にした。

ゴクンゴクンゴクン……

「はぁー……生き返るね」

「はい」

(本当に……体中に染み渡っていく……)

 ふと視線を感じるユア。そちらへ顔を向ける。

「おいで」

 すぐ隣に座っているユージが、両手を広げている。

「……あっ……あの……っ…………」

 状況的にユージが自分を抱きしめてくれる流れだと察したユアだが、横に並んで座っている体勢で、どのようにして彼の胸に上半身を委ねるべきかがわからないでいた。

「自分からは……恥ずかしいかい?」

「あっ いえっ! あっ……恥ずかしいのは恥ずかしいのですが……その……。ど どのように体を動かせばいいのかがわからず……っ」

「どんな体勢でもいいよ。ユアのしたいようにおいで。どうやってでも包み込むから」

"包み込むから”

 その言葉を聞いた途端、先ほどユージから熱く抱きしめられた時の感触が、ユアの体中に呼び起こされた。

 ユアはすぐに、またあの心地よい温かみを感じたいという思いで、ユージに抱きついた。彼は言葉通り、彼女を受け止め優しく包み込んだ。

(……あたたかい…………)

 しばらくすると、ユージの手がユアの腰に触れた。

「!!」

 そのままひょいっと上に持ち上がった彼女の体は、ユージの太ももの上に跨がるように着地した。

「わっ……! えっ! ユージ様っ!」

「どうしたんだい?」

「重いです! ユージ様の太ももがっ……つぶれてしまいます……!」

「あはははは!」

 ユージが笑顔で笑う。

「重いわけないよ。僕、結構逞しい体をしているんだよ? 毎日鍛えているからね。全く問題ないよ」

「……本当ですか……?」

「あぁ。大丈夫だから……もっとユアを感じさせて」


ぎゅっ……


 ユージはユアを包み込むように強く抱きしめた。二人の体は、触れていない部分は一つもないように見えるほど、密着している。
 ユアの心臓は少し痛みを感じるほどに激しく波打っている。

「はぁ…………はぁ…………」

 声に出ないように注意しながら、火照った心と体を落ち着かせようと静かに息をするユア。

ぎゅうう……

「!!」

「ユア……」

 ユージの腕が、より一層ユアと密着するように彼女を包み込んだ。彼女の胸は、ふにゅっと形が変わるほど、ユージの胸に密着している。
 ユアの背中と腰を支えているユージの手から、布を越えてはっきりと熱が伝わっていく。

(……ユージ様の手が熱いのか、私の体が熱いのかわからない……熱い……!)

「はぁ…………」

 ユアの首にユージの吐く息がかかる。
 なんとも言えない嬉し恥ずかしい気持ちになり、ぎゅっと目を瞑るユア。

「……ユージ様…………っ」


ちゅ…


「…………???」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今夜で忘れる。

豆狸
恋愛
「……今夜で忘れます」 そう言って、私はジョアキン殿下を見つめました。 黄金の髪に緑色の瞳、鼻筋の通った端正な顔を持つ、我がソアレス王国の第二王子。大陸最大の図書館がそびえる学術都市として名高いソアレスの王都にある大学を卒業するまでは、侯爵令嬢の私の婚約者だった方です。 今はお互いに別の方と婚約しています。 「忘れると誓います。ですから、幼いころからの想いに決着をつけるため、どうか私にジョアキン殿下との一夜をくださいませ」 なろう様でも公開中です。

完結 愛人さん初めまして!では元夫と出て行ってください。

音爽(ネソウ)
恋愛
金に女にだらしない男。終いには手を出す始末。 見た目と口八丁にだまされたマリエラは徐々に心を病んでいく。 だが、それではいけないと奮闘するのだが……

元婚約者が「俺の子を育てろ」と言って来たのでボコろうと思います。

音爽(ネソウ)
恋愛
結婚間近だった彼が使用人の娘と駆け落ちをしてしまった、私は傷心の日々を過ごしたがなんとか前を向くことに。しかし、裏切り行為から3年が経ったある日…… *体調を崩し絶不調につきリハビリ作品です。長い目でお読みいただければ幸いです。

完結 歩く岩と言われた少女

音爽(ネソウ)
恋愛
国を護るために尽力してきた少女。 国土全体が清浄化されたことを期に彼女の扱いに変化が……

完結 喪失の花嫁 見知らぬ家族に囲まれて

音爽(ネソウ)
恋愛
ある日、目を覚ますと見知らぬ部屋にいて見覚えがない家族がいた。彼らは「貴女は記憶を失った」と言う。 しかし、本人はしっかり己の事を把握していたし本当の家族のことも覚えていた。 一体どういうことかと彼女は震える……

拗れた恋の行方

音爽(ネソウ)
恋愛
どうしてあの人はワザと絡んで意地悪をするの? 理解できない子爵令嬢のナリレットは幼少期から悩んでいた。 大切にしていた亡き祖母の髪飾りを隠され、ボロボロにされて……。 彼女は次第に恨むようになっていく。 隣に住む男爵家の次男グランはナリレットに焦がれていた。 しかし、素直になれないまま今日もナリレットに意地悪をするのだった。

完結 婚約破棄は都合が良すぎる戯言

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子の心が離れたと気づいたのはいつだったか。 婚姻直前にも拘わらず、すっかり冷えた関係。いまでは王太子は堂々と愛人を侍らせていた。 愛人を側妃として置きたいと切望する、だがそれは継承権に抵触する事だと王に叱責され叶わない。 絶望した彼は「いっそのこと市井に下ってしまおうか」と思い悩む……

この幻が消えるまで

豆狸
恋愛
「君は自分が周りにどう見られているのかわかっているのかい? 幻に悋気を妬く頭のおかしい公爵令嬢だよ?」 なろう様でも公開中です。

処理中です...