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#10 婚約者の正体
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ユアの夫は彼女を抱えたたままある一室へ入ると、彼女をふかふかな感触の場所へゆっくりと丁寧に降ろした。
(ソファーかしら……?)
彼の手が、ユアの耳に触れる。
「!!」
「目隠し、外すね」
「……はい……」
(…………あれ……? 今のお声…………)
「僕は君の後ろにいるよ。まだ目が慣れなくて眩しいよね。ごめんね、目隠し怖かったよね……。目が慣れたら振り向いてみて」
「……わかりました……っ」
ユアの鼓動は信じられないほど速くなり、心の中にある……蓋をしたはずの思い出が一気に溢れ出てきた。
99.9%の期待と、0.01%のもしかすると違うかもしれないという不安を胸に、振り返った。
「はぁっ…………!!!」
声と話し方で頭ではほとんど確信していたユアだが、あまりの感動に勢いよく息を吸い込んだ。
目の前にいる夫である殿方は、優しい眼差しでユアを見つめている。
「ユア! 久しぶり!」
ユージはそう言うと、すぐに彼女を抱きしめた。優しく、それでいて熱く……。
「ユージ様……!!」
ユージの背中に腕を回し、ぎゅうっと抱きしめるユア。
二人はしばらく熱い抱擁を交わした後、ふかふかなソファーに腰を下ろし、話に花を咲かせた。二人とも、次から次へと言葉が溢れ出て止まらなかった。
「あっ! ユージ様っ! ハンカチを見つけてくださり……本当にありがとうございました!」
「ううん。ハンカチを発見した時は驚いたよ。山で落とし物をしたら見つけるのは難しいからね。ユアが言っていた通りの刺繍がほどこされてあったから、ユアのに違いないと思って。念のため、ユアのお母様に確認してもらったんだよ」
「えっ!?」
「実は、ユアと会った日の夜、父上に婚約者について訊いたんだ。ユアのことをわすれるためにも相手の方を知ろうと思って」
「そしたらユアなんだもん! 嬉しくって!! 父上の口からユアの名前が出た時、あまりの衝撃でユア!? ユア・ウィルソンヌ!? って叫んじゃったよ」
「そうだったのですか……!!」
「僕の両親もユアのご両親も、僕たちが山で出会ったことを知っていたんだよ。僕が話したんだ。その時、ユアには僕が婚約者ってことをまだ内緒にしてほしいともお願いしたんだ」
「あっ……! そうでしたよね……!」
ユージへの気持ちを封じ込めようと、ユアも母に、相手の方について尋ねていた。しかし、『お相手の方が直前まで内緒にしてほしいそうなのよ』と言われ、ユアはどうしてなのかしら……? と思ったが、深くは考えなかった。
「どうして内緒にしようと……」
「本音を言うと、すぐにでもユアとデートしたり、色んなことをしたかったんだけど、狩りでやりたいことがたくさんあってね」
「半年なんてすぐに経ってしまうし、今の半年は今しかなくて、それも、僕たちにとっては自由に過ごせる最後の時間だ。ユアと一緒に過ごすのも本当に素敵だけど、半年経てばずーっと一緒にいられる。それなら今は、今やっておきたいことを予定通りに行うべきだと思ったんだ」
「そうだったのですね……!」
ユージにそう言われ、ユアはこれでよかったのかもしれないと思った。彼女はいつも通り自然とたわむれることができ、自由に過ごすことができた。もしユージと結婚することがわかっていたら、彼女はユージに会いたくて仕方がなく、とても苦しかったかもしれない。
二人は一時間半もの間、何も口にせず話に夢中になっていた。
(ソファーかしら……?)
彼の手が、ユアの耳に触れる。
「!!」
「目隠し、外すね」
「……はい……」
(…………あれ……? 今のお声…………)
「僕は君の後ろにいるよ。まだ目が慣れなくて眩しいよね。ごめんね、目隠し怖かったよね……。目が慣れたら振り向いてみて」
「……わかりました……っ」
ユアの鼓動は信じられないほど速くなり、心の中にある……蓋をしたはずの思い出が一気に溢れ出てきた。
99.9%の期待と、0.01%のもしかすると違うかもしれないという不安を胸に、振り返った。
「はぁっ…………!!!」
声と話し方で頭ではほとんど確信していたユアだが、あまりの感動に勢いよく息を吸い込んだ。
目の前にいる夫である殿方は、優しい眼差しでユアを見つめている。
「ユア! 久しぶり!」
ユージはそう言うと、すぐに彼女を抱きしめた。優しく、それでいて熱く……。
「ユージ様……!!」
ユージの背中に腕を回し、ぎゅうっと抱きしめるユア。
二人はしばらく熱い抱擁を交わした後、ふかふかなソファーに腰を下ろし、話に花を咲かせた。二人とも、次から次へと言葉が溢れ出て止まらなかった。
「あっ! ユージ様っ! ハンカチを見つけてくださり……本当にありがとうございました!」
「ううん。ハンカチを発見した時は驚いたよ。山で落とし物をしたら見つけるのは難しいからね。ユアが言っていた通りの刺繍がほどこされてあったから、ユアのに違いないと思って。念のため、ユアのお母様に確認してもらったんだよ」
「えっ!?」
「実は、ユアと会った日の夜、父上に婚約者について訊いたんだ。ユアのことをわすれるためにも相手の方を知ろうと思って」
「そしたらユアなんだもん! 嬉しくって!! 父上の口からユアの名前が出た時、あまりの衝撃でユア!? ユア・ウィルソンヌ!? って叫んじゃったよ」
「そうだったのですか……!!」
「僕の両親もユアのご両親も、僕たちが山で出会ったことを知っていたんだよ。僕が話したんだ。その時、ユアには僕が婚約者ってことをまだ内緒にしてほしいともお願いしたんだ」
「あっ……! そうでしたよね……!」
ユージへの気持ちを封じ込めようと、ユアも母に、相手の方について尋ねていた。しかし、『お相手の方が直前まで内緒にしてほしいそうなのよ』と言われ、ユアはどうしてなのかしら……? と思ったが、深くは考えなかった。
「どうして内緒にしようと……」
「本音を言うと、すぐにでもユアとデートしたり、色んなことをしたかったんだけど、狩りでやりたいことがたくさんあってね」
「半年なんてすぐに経ってしまうし、今の半年は今しかなくて、それも、僕たちにとっては自由に過ごせる最後の時間だ。ユアと一緒に過ごすのも本当に素敵だけど、半年経てばずーっと一緒にいられる。それなら今は、今やっておきたいことを予定通りに行うべきだと思ったんだ」
「そうだったのですね……!」
ユージにそう言われ、ユアはこれでよかったのかもしれないと思った。彼女はいつも通り自然とたわむれることができ、自由に過ごすことができた。もしユージと結婚することがわかっていたら、彼女はユージに会いたくて仕方がなく、とても苦しかったかもしれない。
二人は一時間半もの間、何も口にせず話に夢中になっていた。
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