9 / 14
#9 10年越しの顔合わせ
しおりを挟む
馬車が出発してからそう時間が経っていない頃、母から黒い布を渡されたユア。
「こちらは……?」
「うふふ。目隠しよ。ユアには直前までドキドキを味わってもらおうと思って」
「えっ……!?」
「ほらほら、早く着けて」
楽しそうな母とは裏腹に、ユアの緊張感はますますスピードを上げて高まっていく。
(目隠しをするということは、私の知っているお家かしら……?)
(えっ……!? どなたかしら……!!)
ユアは少しホッとしていた。もしかすると顔見知りかもしれないという可能性が出たからだ。何人か、あの人かしら……? と候補が浮かんだところで考えるのを止めた。母に従って、直前までドキドキを味わってしまおうという気持ちになったのだ。
馬車が止まった。
ユアは母に手を引かれながら馬車を降り、少しだけ歩みを進めた。
「ユア、これからあなたの夫となるお方が迎えに来て下さるわ」
「……えっ!」
「お姫様抱っこでお家の中へと連れて行って下さるのよ」
「……!?」
(えっ……??)
「お母様……今お姫様抱っことおっしゃ
「あっ! いらっしゃったわ。まだ目隠しは取っちゃダメよ」
悠長に戸惑う暇はなく、すぐに殿方は現れた。
「お迎えにいらして下さり、誠にありがとうございます」
「……ありがとうございます……」
母の言葉に続くユア。
視界が真っ暗でわけがわからない状態で、ユアは今、夫と対面している。
(端から見たらとても滑稽ではないのでしょうか……!?)
突然、ユアの体がふわっと浮いて横向きになった。
「きゃっ!!!」
ユアの肩を抱いていたはずの母の手が、いつの間にか夫の手に変わっていたようだ。ユアは今、目隠しをした状態で夫にお姫様抱っこをされている。
「それでは、娘をよろしくお願いいたします」
母の乗ったであろう馬車が遠ざかっていくのが、ユアにも音でわかった。
ユアを両手で抱えながら、殿方はゆっくりと歩みを進めていく。
「…………」
(目隠しはいつ外すのでしょうか……お母様に確認すべきだったのでは……!?)
内心あたふたしながらも、ユアの心はとても安心感に包まれていた。自分の腕と太ももに触れている夫の手からは、逞しさとともに優しさが伝わってきたからだ。
(なんて温かいのかしら……)
ユアは泣きそうになった。わくわくしていたのは本当だが、同じように不安な気持ちも大きかったのだ。まだ姿を目にしていなくとも、優しいぬくもりを感じたユアは、夫がとても素敵な人だと確信に近いものを持った。
「こちらは……?」
「うふふ。目隠しよ。ユアには直前までドキドキを味わってもらおうと思って」
「えっ……!?」
「ほらほら、早く着けて」
楽しそうな母とは裏腹に、ユアの緊張感はますますスピードを上げて高まっていく。
(目隠しをするということは、私の知っているお家かしら……?)
(えっ……!? どなたかしら……!!)
ユアは少しホッとしていた。もしかすると顔見知りかもしれないという可能性が出たからだ。何人か、あの人かしら……? と候補が浮かんだところで考えるのを止めた。母に従って、直前までドキドキを味わってしまおうという気持ちになったのだ。
馬車が止まった。
ユアは母に手を引かれながら馬車を降り、少しだけ歩みを進めた。
「ユア、これからあなたの夫となるお方が迎えに来て下さるわ」
「……えっ!」
「お姫様抱っこでお家の中へと連れて行って下さるのよ」
「……!?」
(えっ……??)
「お母様……今お姫様抱っことおっしゃ
「あっ! いらっしゃったわ。まだ目隠しは取っちゃダメよ」
悠長に戸惑う暇はなく、すぐに殿方は現れた。
「お迎えにいらして下さり、誠にありがとうございます」
「……ありがとうございます……」
母の言葉に続くユア。
視界が真っ暗でわけがわからない状態で、ユアは今、夫と対面している。
(端から見たらとても滑稽ではないのでしょうか……!?)
突然、ユアの体がふわっと浮いて横向きになった。
「きゃっ!!!」
ユアの肩を抱いていたはずの母の手が、いつの間にか夫の手に変わっていたようだ。ユアは今、目隠しをした状態で夫にお姫様抱っこをされている。
「それでは、娘をよろしくお願いいたします」
母の乗ったであろう馬車が遠ざかっていくのが、ユアにも音でわかった。
ユアを両手で抱えながら、殿方はゆっくりと歩みを進めていく。
「…………」
(目隠しはいつ外すのでしょうか……お母様に確認すべきだったのでは……!?)
内心あたふたしながらも、ユアの心はとても安心感に包まれていた。自分の腕と太ももに触れている夫の手からは、逞しさとともに優しさが伝わってきたからだ。
(なんて温かいのかしら……)
ユアは泣きそうになった。わくわくしていたのは本当だが、同じように不安な気持ちも大きかったのだ。まだ姿を目にしていなくとも、優しいぬくもりを感じたユアは、夫がとても素敵な人だと確信に近いものを持った。
145
あなたにおすすめの小説
今夜で忘れる。
豆狸
恋愛
「……今夜で忘れます」
そう言って、私はジョアキン殿下を見つめました。
黄金の髪に緑色の瞳、鼻筋の通った端正な顔を持つ、我がソアレス王国の第二王子。大陸最大の図書館がそびえる学術都市として名高いソアレスの王都にある大学を卒業するまでは、侯爵令嬢の私の婚約者だった方です。
今はお互いに別の方と婚約しています。
「忘れると誓います。ですから、幼いころからの想いに決着をつけるため、どうか私にジョアキン殿下との一夜をくださいませ」
なろう様でも公開中です。
好きにしろ、とおっしゃられたので好きにしました。
豆狸
恋愛
「この恥晒しめ! 俺はお前との婚約を破棄する! 理由はわかるな?」
「第一王子殿下、私と殿下の婚約は破棄出来ませんわ」
「確かに俺達の婚約は政略的なものだ。しかし俺は国王になる男だ。ほかの男と睦み合っているような女を妃には出来ぬ! そちらの有責なのだから侯爵家にも責任を取ってもらうぞ!」
その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結
完結 貴方が忘れたと言うのなら私も全て忘却しましょう
音爽(ネソウ)
恋愛
商談に出立した恋人で婚約者、だが出向いた地で事故が発生。
幸い大怪我は負わなかったが頭を強打したせいで記憶を失ったという。
事故前はあれほど愛しいと言っていた容姿までバカにしてくる恋人に深く傷つく。
しかし、それはすべて大嘘だった。商談の失敗を隠蔽し、愛人を侍らせる為に偽りを語ったのだ。
己の事も婚約者の事も忘れ去った振りをして彼は甲斐甲斐しく世話をする愛人に愛を囁く。
修復不可能と判断した恋人は別れを決断した。
完結 穀潰しと言われたので家を出ます
音爽(ネソウ)
恋愛
ファーレン子爵家は姉が必死で守って来た。だが父親が他界すると家から追い出された。
「お姉様は出て行って!この穀潰し!私にはわかっているのよ遺産をいいように使おうだなんて」
遺産などほとんど残っていないのにそのような事を言う。
こうして腹黒な妹は母を騙して家を乗っ取ったのだ。
その後、収入のない妹夫婦は母の財を喰い物にするばかりで……
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
元婚約者が「俺の子を育てろ」と言って来たのでボコろうと思います。
音爽(ネソウ)
恋愛
結婚間近だった彼が使用人の娘と駆け落ちをしてしまった、私は傷心の日々を過ごしたがなんとか前を向くことに。しかし、裏切り行為から3年が経ったある日……
*体調を崩し絶不調につきリハビリ作品です。長い目でお読みいただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる