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王都出立編
領主を操る者の正体
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海岸周辺は穏やかな陽気だったが、洞窟の中に入ると冷たい空気が流れてきた。
頭上に目を向けると天井は高く、ところどころにコウモリの姿が見える。
足元が湿気や苔で滑りやすいものの、壁づたいに進めば問題なさそうだ。
洞窟内部では声が反響しそうなこともあり、俺たちは互いに無言のままだった。
リリアが少し先を歩いて、領主の姿を追っている。
怪しい気配のある洞窟だが、領主は何のために奥へと向かっているのだろう。
薄暗い洞穴で何も話さずにいると、様々な考えが浮かんでは消えていく。
今までなら探索をするにしても、アデルやハンクがいて心強かった。
今回は実力が未知数のリリアと二人きりということもあり、心細い気持ちがいくらかある。
とはいえ、そういった思いと同じぐらい、王都で護衛をしている彼女が凡庸な剣士であるはずがないという意識もあった。
追跡への集中力が散漫になりかけたところで、リリアが手の平を後ろに突き出して、制止するようにこちらへ合図した。
リリアはその場で屈みこむと、壁に背中を寄せて横目で前方を見ていた。
俺も同じような姿勢でリリアの後ろに続いた。
すでに二人ともサスペンド・フレイムを消している。
少し先のところから、ぽっかりと穴が空いたように開けた空間になっている。
天井に地表とつながる穴が空いているようで、何筋かの光が差しこんでいた。
その空間の真ん中辺りに領主の姿があった。
「……ジャレス様。よそ者が漁業禁止を取り下げるように訪ねてきました」
「――ほう、それは面倒だな」
壁に空いた穴の一つから、何者かが姿を現した。
見た目は金髪の青年なのだが、何か得体の知れない気配を感じさせる。
「いかがいたしましょうか?」
「我の存在を気取られても面倒だ。レアレス島内を嗅ぎ回るようであれば、抹殺するしかあるまい」
「……承知いたしました」
ジャレスという者は危険な存在であると分かった。
しかし、ここで戦うべきかは判断が難しい。
現状、目の前の敵について分からないことが多すぎる。
まずはリリアの指示を仰ぐことにして待っていると、彼女が弾丸のように前方に飛び出した。
突然の出来事を理解するのに少し時間がかかった。
肉眼では捉えきれない速度で、リリアはジャレスに斬りかかった。
彼女のミドルソードはジャレスを的確に捉えた。
決定的な一撃のように思われたが、ジャレスの全身は砂のようにさらさらとその場に崩れ落ちた。
『――まさか、こんなにも早く気取られるとはな』
人のものとは思えないような声が響き、その後は静寂が訪れた。
ジャレスの気配は霧が晴れたように消えており、逃げられてしまった気がした。
「……はっ、ここはどこだい?」
領主が我に返ったように、辺りを見回した。
先ほどまでのぼんやりした様子はなくなっていた。
「領主様。ここはあなたの屋敷から少し離れた場所にある海辺の洞窟です」
「は、はぁっ、あんたたちはどちらさんで……?」
領主は事態が理解が追いつかないようで、リリアの言葉に困惑している様子だった。
明らかに言葉遣いが変わっているため、今は操られていないのだと判断した。
「俺は料理店の店主マルクです。彼女は王都で護衛をしているリリア。まずはここを離れて、そちらの屋敷へ戻りましょう」
「うん、そうだなあ。ここは何だか薄気味悪い」
領主には幻惑魔法の一種がかけられていたと思うが、それが解けると朴訥な人柄で少し驚いていた。
リリアが先頭を歩き、その間に領主、最後尾に俺という並びで洞窟を出た。
少し前の出来事が幻だったかのように、海岸は静かで波は穏やかだった。
「なんと、あの洞窟に入ってしまっていたのか」
「何か問題があるんですか?」
俺は領主の様子が気にかかり、自然とたずねていた。
「先祖代々、あの辺りの洞窟には入らないようにと言われてきただ。いつもは立ち入り禁止にしてあるはずだんだけどな……」
領主は戸惑うように洞窟の方を何度か振り返った。
「領主様は何者かに操られていたのですよ。ジャレスという名にお心当たりは?」
「そんな、ジャレスだって? 昔から島のどこかに現れては島民を惑わすと言われていた悪魔の名前だな」
俺は領主の言葉に驚いた。
この世界に悪魔と呼ばれる存在がいることを初めて知った。
「惑わすどころか、遠い未来に島を乗っ取るとか言ってましたよ」
「昔、ジャレスが島民を支配しようとした時代があったらしいんだ。その時、たまたま島にいた魔法使いがジャレスを封印したと言われてる――」
領主はそう言い終えた後、何かを考えるように立ち止まり、難しい表情で黙りこんでしまった。
「……あの、何か気がかりでも?」
「なんてこった、大事なことを忘れちまってた。封印した魔法使いが亡くなったら、封印が解けるんだった。最近は豊漁で忙しかったから、ジャレスのことを気にしてなかったんだ」
領主は両手で頭を抱えながら言った。
「その魔法使いの所在は分かりますか? 生死の確認が必要かと思われますが」
「うーん、分からねえ。ただ、だいぶ高齢のはずだから、亡くなっている可能性は高いな」
「その魔法使いを見つけるのは難しそうなので、ブルーム様と合流して、高位の魔法使いを王都から派遣できないか確かめましょう」
「なるほど、王都を探せば十分に可能な気がしますね」
俺はリリアの提案に同意した。
彼女の言葉が効果的だったようで、領主は少し落ちつきを取り戻したように見えた。
頭上に目を向けると天井は高く、ところどころにコウモリの姿が見える。
足元が湿気や苔で滑りやすいものの、壁づたいに進めば問題なさそうだ。
洞窟内部では声が反響しそうなこともあり、俺たちは互いに無言のままだった。
リリアが少し先を歩いて、領主の姿を追っている。
怪しい気配のある洞窟だが、領主は何のために奥へと向かっているのだろう。
薄暗い洞穴で何も話さずにいると、様々な考えが浮かんでは消えていく。
今までなら探索をするにしても、アデルやハンクがいて心強かった。
今回は実力が未知数のリリアと二人きりということもあり、心細い気持ちがいくらかある。
とはいえ、そういった思いと同じぐらい、王都で護衛をしている彼女が凡庸な剣士であるはずがないという意識もあった。
追跡への集中力が散漫になりかけたところで、リリアが手の平を後ろに突き出して、制止するようにこちらへ合図した。
リリアはその場で屈みこむと、壁に背中を寄せて横目で前方を見ていた。
俺も同じような姿勢でリリアの後ろに続いた。
すでに二人ともサスペンド・フレイムを消している。
少し先のところから、ぽっかりと穴が空いたように開けた空間になっている。
天井に地表とつながる穴が空いているようで、何筋かの光が差しこんでいた。
その空間の真ん中辺りに領主の姿があった。
「……ジャレス様。よそ者が漁業禁止を取り下げるように訪ねてきました」
「――ほう、それは面倒だな」
壁に空いた穴の一つから、何者かが姿を現した。
見た目は金髪の青年なのだが、何か得体の知れない気配を感じさせる。
「いかがいたしましょうか?」
「我の存在を気取られても面倒だ。レアレス島内を嗅ぎ回るようであれば、抹殺するしかあるまい」
「……承知いたしました」
ジャレスという者は危険な存在であると分かった。
しかし、ここで戦うべきかは判断が難しい。
現状、目の前の敵について分からないことが多すぎる。
まずはリリアの指示を仰ぐことにして待っていると、彼女が弾丸のように前方に飛び出した。
突然の出来事を理解するのに少し時間がかかった。
肉眼では捉えきれない速度で、リリアはジャレスに斬りかかった。
彼女のミドルソードはジャレスを的確に捉えた。
決定的な一撃のように思われたが、ジャレスの全身は砂のようにさらさらとその場に崩れ落ちた。
『――まさか、こんなにも早く気取られるとはな』
人のものとは思えないような声が響き、その後は静寂が訪れた。
ジャレスの気配は霧が晴れたように消えており、逃げられてしまった気がした。
「……はっ、ここはどこだい?」
領主が我に返ったように、辺りを見回した。
先ほどまでのぼんやりした様子はなくなっていた。
「領主様。ここはあなたの屋敷から少し離れた場所にある海辺の洞窟です」
「は、はぁっ、あんたたちはどちらさんで……?」
領主は事態が理解が追いつかないようで、リリアの言葉に困惑している様子だった。
明らかに言葉遣いが変わっているため、今は操られていないのだと判断した。
「俺は料理店の店主マルクです。彼女は王都で護衛をしているリリア。まずはここを離れて、そちらの屋敷へ戻りましょう」
「うん、そうだなあ。ここは何だか薄気味悪い」
領主には幻惑魔法の一種がかけられていたと思うが、それが解けると朴訥な人柄で少し驚いていた。
リリアが先頭を歩き、その間に領主、最後尾に俺という並びで洞窟を出た。
少し前の出来事が幻だったかのように、海岸は静かで波は穏やかだった。
「なんと、あの洞窟に入ってしまっていたのか」
「何か問題があるんですか?」
俺は領主の様子が気にかかり、自然とたずねていた。
「先祖代々、あの辺りの洞窟には入らないようにと言われてきただ。いつもは立ち入り禁止にしてあるはずだんだけどな……」
領主は戸惑うように洞窟の方を何度か振り返った。
「領主様は何者かに操られていたのですよ。ジャレスという名にお心当たりは?」
「そんな、ジャレスだって? 昔から島のどこかに現れては島民を惑わすと言われていた悪魔の名前だな」
俺は領主の言葉に驚いた。
この世界に悪魔と呼ばれる存在がいることを初めて知った。
「惑わすどころか、遠い未来に島を乗っ取るとか言ってましたよ」
「昔、ジャレスが島民を支配しようとした時代があったらしいんだ。その時、たまたま島にいた魔法使いがジャレスを封印したと言われてる――」
領主はそう言い終えた後、何かを考えるように立ち止まり、難しい表情で黙りこんでしまった。
「……あの、何か気がかりでも?」
「なんてこった、大事なことを忘れちまってた。封印した魔法使いが亡くなったら、封印が解けるんだった。最近は豊漁で忙しかったから、ジャレスのことを気にしてなかったんだ」
領主は両手で頭を抱えながら言った。
「その魔法使いの所在は分かりますか? 生死の確認が必要かと思われますが」
「うーん、分からねえ。ただ、だいぶ高齢のはずだから、亡くなっている可能性は高いな」
「その魔法使いを見つけるのは難しそうなので、ブルーム様と合流して、高位の魔法使いを王都から派遣できないか確かめましょう」
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