64 / 555
王都出立編
交渉の結果と打開策
しおりを挟む
俺とリリアが屋敷の前で待っていると、しばらくしてブルームとランパードが戻ってきた。
二人とも浮かない顔のように見えたので、上手くいかなかったのだと判断した。
「……どうでした?」
「一応、話はできたのだが、要領を得ない反応だった」
「領主様は別人のようで、ブルームさんが話しかけても反応が乏しかった……」
二人から感想を聞くことはできたものの、どのような状況であったのかを想像することは難しかった。
「その様子だと、禁止令はそのままということですか?」
「……うん、そうだ。領主様があの調子じゃ、どうしたものやら」
打つ手なしといった状況になり、ランパードには思い詰めるような気配があった。
俺にできそうなことは思い浮かばず、彼にかける言葉が見つからない。
俺たちが屋敷の前で話していると、広い額とちょび髭が印象的な中年の男が屋敷から出てきた。
「あれは……領主が出てきたぞ」
「二人が言っていた通り、どこか様子が変ですね」
レアレス島の領主はボケるにはまだ早い年齢に見える。
ただ、どこか上の空で心ここにあらずといった様子だった。
領主は屋敷の前から彷徨うように歩いていった。
「まだ可能性の域を出ませんが、領主殿は何かに操られているような気配を感じます。遠くから見ただけでは、魔法かそれ以外の方法なのかまでは分かりません」
静かに状況を見守るような様子だったリリアが口を開いた。
これまでに見たことがないような神妙な面持ちをしている。
「やはり、優秀な剣士は観察眼が鋭い。リリアよ、領主変貌の原因を調べてはくれまいか」
「ええ、もちろん。私も魚が獲れた方がよいですから」
リリアは緊張した表情を緩めてから、涼しげに微笑んだ。
彼女の実力を見る機会はなかったが、本領発揮の場面が近づいている気がした。
「そういえば、マルク殿は冒険者をやっていたことがあるのですよね」
「はい、自分の店を始める前は」
「私一人では何かあった時に困るので、一緒に来てください」
「えっ、俺でいいんですか?」
「ブルーム様は戦闘員ではなく、ランパードさんを巻きこむわけにはいきません。武術、魔法、何か得意な戦い方はありますか?」
「剣を少しと、魔法が多少使えます」
「そうですか。では、こちらをお使いください」
リリアが腰に差していたのはミドルソードだけではなく、見えないところに脇差しのようなショートソードを抱えていた。
彼女はそれを俺に差し出した。
主力はミドルソードのようだが、ショートソードの方もそれなりに使いこまれた様子が見て取れる。
鞘と柄をそれぞれの手に持って抜き出すと、磨き抜かれた剣身が姿を現した。
「……こんな立派な剣を借りてしまっても?」
「丸腰では危険に対処できませんから」
リリアはこちらを気遣うように穏やかな顔を見せた。
彼女の厚意に甘えて、ショートソードを使わせてもらうことにした。
自分で持ちこんだ武器もあるため、状況に合わせて併用すればいいだろう。
それにリリアの厚意を無下にしたくない気持ちもあった。
「マルク、リリア。レアレス島の土地勘はないだろうから、十分に用心するのだ」
「ええ、分かっております」
「リリアちゃん、部外者なのに力を貸してくれてありがとう。領主様はおれたち漁師の恩人なんだ。どうか、頼む」
「お任せください。あと、お二人はここから離れておいた方がいいかもしれません」
「うむ、ここは町から少し離れていて、人通りも少ないからな。ランパードと町へ戻っておこう。はぐれるといかんから、定期船を下りた辺りで待つことにしよう」
「それでは後ほど合流しましょう」
俺とリリアは屋敷の前を離れて、領主の後を追った。
二人で足早に歩くと、すぐに領主の後ろ姿が見えた。
「……どこへ行くんでしょうかね?」
領主の進行方向は通りから外れており、大きな岩の転がる海岸線が見えた。
今は手ぶらなので、釣りに行くということもないだろう。
「何者かに操られているのならば、目的なく移動するとは考えにくいです。後を追えば何かが分かるかもしれません」
リリアは言い終えると、軽やかな足取りで前に進んだ。
俺は足音を立てないように気をつけながら、彼女についていく。
距離を保ったまま領主の後を追っていると、草むらを通過して海岸に下りた。
そして、彼の後ろ姿は海岸沿いの洞窟に吸いこまれるように消えていった。
「いかにもな洞窟ですね。中まで追いますか?」
「ええ、慎重に追跡します」
リリアはこちらの質問に頷くと、ここまでと同じ足取りで洞窟へと向かった。
俺も遅れないように彼女の後に続いた。
正面まで来ると、洞窟の様子がよく分かった。
岩壁にぽっかりと穴が空いて、奥まで薄暗い空間が広がっていた。
冒険者でなければ、入ることをやめたくなるような雰囲気を感じる。
「この感じだとモンスターがいるかもしれませんね」
「剣を抜いておいた方がよいと思います」
リリアは流れるような動きで、鞘からミドルソードを引き抜いた。
俺もそれに倣(なら)って、借りたショートソードを構えた。
「使わせてもらいます」
「ええ、遠慮なく」
「気づかれそうですけど、サスペンド・フレイムかホーリーライトなしでは暗そうですね」
「足元も滑りそうですから、どうか気をつけて」
「分かりました。ホーリーライトだと光が広がるから、サスペンド・フレイムの方がいい気がします」
「私も賛成です。それでいきましょう」
俺たちはサスペンド・フレイムを唱えて、洞窟の中へと足を踏み入れた。
二人とも浮かない顔のように見えたので、上手くいかなかったのだと判断した。
「……どうでした?」
「一応、話はできたのだが、要領を得ない反応だった」
「領主様は別人のようで、ブルームさんが話しかけても反応が乏しかった……」
二人から感想を聞くことはできたものの、どのような状況であったのかを想像することは難しかった。
「その様子だと、禁止令はそのままということですか?」
「……うん、そうだ。領主様があの調子じゃ、どうしたものやら」
打つ手なしといった状況になり、ランパードには思い詰めるような気配があった。
俺にできそうなことは思い浮かばず、彼にかける言葉が見つからない。
俺たちが屋敷の前で話していると、広い額とちょび髭が印象的な中年の男が屋敷から出てきた。
「あれは……領主が出てきたぞ」
「二人が言っていた通り、どこか様子が変ですね」
レアレス島の領主はボケるにはまだ早い年齢に見える。
ただ、どこか上の空で心ここにあらずといった様子だった。
領主は屋敷の前から彷徨うように歩いていった。
「まだ可能性の域を出ませんが、領主殿は何かに操られているような気配を感じます。遠くから見ただけでは、魔法かそれ以外の方法なのかまでは分かりません」
静かに状況を見守るような様子だったリリアが口を開いた。
これまでに見たことがないような神妙な面持ちをしている。
「やはり、優秀な剣士は観察眼が鋭い。リリアよ、領主変貌の原因を調べてはくれまいか」
「ええ、もちろん。私も魚が獲れた方がよいですから」
リリアは緊張した表情を緩めてから、涼しげに微笑んだ。
彼女の実力を見る機会はなかったが、本領発揮の場面が近づいている気がした。
「そういえば、マルク殿は冒険者をやっていたことがあるのですよね」
「はい、自分の店を始める前は」
「私一人では何かあった時に困るので、一緒に来てください」
「えっ、俺でいいんですか?」
「ブルーム様は戦闘員ではなく、ランパードさんを巻きこむわけにはいきません。武術、魔法、何か得意な戦い方はありますか?」
「剣を少しと、魔法が多少使えます」
「そうですか。では、こちらをお使いください」
リリアが腰に差していたのはミドルソードだけではなく、見えないところに脇差しのようなショートソードを抱えていた。
彼女はそれを俺に差し出した。
主力はミドルソードのようだが、ショートソードの方もそれなりに使いこまれた様子が見て取れる。
鞘と柄をそれぞれの手に持って抜き出すと、磨き抜かれた剣身が姿を現した。
「……こんな立派な剣を借りてしまっても?」
「丸腰では危険に対処できませんから」
リリアはこちらを気遣うように穏やかな顔を見せた。
彼女の厚意に甘えて、ショートソードを使わせてもらうことにした。
自分で持ちこんだ武器もあるため、状況に合わせて併用すればいいだろう。
それにリリアの厚意を無下にしたくない気持ちもあった。
「マルク、リリア。レアレス島の土地勘はないだろうから、十分に用心するのだ」
「ええ、分かっております」
「リリアちゃん、部外者なのに力を貸してくれてありがとう。領主様はおれたち漁師の恩人なんだ。どうか、頼む」
「お任せください。あと、お二人はここから離れておいた方がいいかもしれません」
「うむ、ここは町から少し離れていて、人通りも少ないからな。ランパードと町へ戻っておこう。はぐれるといかんから、定期船を下りた辺りで待つことにしよう」
「それでは後ほど合流しましょう」
俺とリリアは屋敷の前を離れて、領主の後を追った。
二人で足早に歩くと、すぐに領主の後ろ姿が見えた。
「……どこへ行くんでしょうかね?」
領主の進行方向は通りから外れており、大きな岩の転がる海岸線が見えた。
今は手ぶらなので、釣りに行くということもないだろう。
「何者かに操られているのならば、目的なく移動するとは考えにくいです。後を追えば何かが分かるかもしれません」
リリアは言い終えると、軽やかな足取りで前に進んだ。
俺は足音を立てないように気をつけながら、彼女についていく。
距離を保ったまま領主の後を追っていると、草むらを通過して海岸に下りた。
そして、彼の後ろ姿は海岸沿いの洞窟に吸いこまれるように消えていった。
「いかにもな洞窟ですね。中まで追いますか?」
「ええ、慎重に追跡します」
リリアはこちらの質問に頷くと、ここまでと同じ足取りで洞窟へと向かった。
俺も遅れないように彼女の後に続いた。
正面まで来ると、洞窟の様子がよく分かった。
岩壁にぽっかりと穴が空いて、奥まで薄暗い空間が広がっていた。
冒険者でなければ、入ることをやめたくなるような雰囲気を感じる。
「この感じだとモンスターがいるかもしれませんね」
「剣を抜いておいた方がよいと思います」
リリアは流れるような動きで、鞘からミドルソードを引き抜いた。
俺もそれに倣(なら)って、借りたショートソードを構えた。
「使わせてもらいます」
「ええ、遠慮なく」
「気づかれそうですけど、サスペンド・フレイムかホーリーライトなしでは暗そうですね」
「足元も滑りそうですから、どうか気をつけて」
「分かりました。ホーリーライトだと光が広がるから、サスペンド・フレイムの方がいい気がします」
「私も賛成です。それでいきましょう」
俺たちはサスペンド・フレイムを唱えて、洞窟の中へと足を踏み入れた。
68
あなたにおすすめの小説
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。
彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
【完結】テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~
にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。
「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。
主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。
35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~
月神世一
ファンタジー
紹介文
「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」
そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。
失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。
「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」
手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。
電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。
さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!?
森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、
罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、
競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。
これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。
……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる