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王都出立編
城内の客間に滞在する
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兵士に城内を案内してもらいながら、これはなかなか覚えられないと思った。
城全体の地図はあるらしいが、セキュリティ面から部外者に見せるはずもない。
ましてや、暗殺機構の影響で警戒を強めている最中だった。
見覚えがあるのか、あるいはないのか判断できないような通路を右へ左へと歩いたところで、扉の開いた部屋の前にたどり着いた。
「ブルーム様は――いらっしゃいますね。では、私は警護に戻ります」
「どうも、ありがとうございました」
兵士は背筋を伸ばして挨拶をした後、来た道を引き返していった。
それから、部屋の中に足を運ぶと、ブルームの姿があった。
背中を向けた状態で何かの書類に目を通している。
とても集中しているようで、こちらの存在に気づいていないようだ。
「仕入れから戻りました」
「……ああっ、マルクか。思ったより早かったな」
「地図のおかげだと思います。忙しいところに申し訳ないです」
ブルームは椅子から立ち上がり、こちらに向き直った。
「さて、仕入れはどうだった?」
「満足いく食材が揃いました。鉄板などは職人が作ってくれているところです」
「そうかそうか」
ブルームは俺の話を聞いているようだが、どこか表情が冴えない感じがした。
その様子が気にかかった。
「……聞いていいものか分かりませんけど、その書類は深刻な内容ですか?」
「まあ、マルクになら話しても問題ないか。暗殺機構についての最新の報告だ」
「えっ!? 重要な内容ですね」
「うむ、そうだ」
ブルームは何かを考えるように間をおいてから、話を続けた。
「少し前から城内の警護を厳にしていることもあり、侵入を許すまでには至っていない。ただ、王都周辺における不審人物の報告が上がっている。それに……」
ブルームは話の途中で机に戻り、同じ書類を見直した。
その確認が済んだところでこちらに戻ってきた。
「話しっぱなしですまんな。それで、先日の大岩が街道を塞いだ件だが、暗殺機構が関与しているらしい。わしらを妨害したように見えるが、あの日は王都へ資材が運ばれる日で、それを阻もうとしたようなのだ」
ブルームは何かを考えるように、腕を組みながら話していた。
楽観的な要素はなく、深刻に考えたとしてもおかしくない内容だった。
「ちなみにその資材の内容は?」
「そうだな、気になるわな。悪いが、そこまでは話せない」
「いえ、それは大丈夫です」
「あの書類に書かれた報告については、だいたいそんなところだ。王都の外に調査兵を派遣してもよいのだが、その分だけ王都の守りが手薄になる。歯がゆいが、王族の方々やカタリナ様のことを考えたら、それは避けたい」
ブルームはいつになく、真面目な雰囲気だった。
暗殺機構の脅威を考えたら、そうなるのも自然なことだろう。
「……大臣に焼肉を食べてもらう件は続けても?」
「悩ましいところだが、カタリナ様には普段通りの生活を送ってもらいたい。そのまま続行するかたちで頼む」
「分かりました」
ブルームの真剣な表情を見て、身が引き締まる思いだった。
俺に暗殺機構を阻止することはできないので、自分にできることに集中しよう。
「さて、この話はここまでにして。今日の宿だが、城内に来客用の部屋があるので、そこに泊まってはどうか」
「それは助かります。王都は広すぎて、宿探しも大変そうなので」
「そもそも、こちらから呼び寄せておいて、手間を取らせるわけにもいかん。気兼ねなく泊まってくれ」
「ありがとうございます」
「夕食もこちらで用意させてもらう。わしの仕事に区切りがついたら、諸々の案内をしよう。それまで、近くの空いた部屋で待ってもらえぬか」
「もちろん、いいですよ」
「では、わしは仕事に戻る」
ブルームは自分の椅子に腰かけると、事務作業を始めた。
俺はブルームのいる部屋を出て、近くの部屋に入った。
ちょうど、座りやすい椅子があったので、そこへ座ることにした。
「あぁー、疲れた」
椅子に腰を下ろすと、ここまでの疲れが出るような感覚だった。
首や肩を動かしてみたら、普段よりも固くなっている気がした。
一旦、頭と身体を休ませるために脱力する。
この後は夕食に案内されると思うので、すぐにやるべきことはない。
椅子に座った状態でぼんやりしていると、部屋の外の廊下を兵士が何度か通り過ぎるような足音が聞こえた。
決まったルートを行き来しているように規則的なものだった。
城の中に見かけない顔がいた場合、明らかに不自然なので、易々と侵入できるとは思えなかった。
暗殺機構は要人を狙いそうだが、王族は隠れており、大臣の警護も万全なため、この城は安全ではないだろうか。
しばらくの間、椅子に座って休んでいると、ブルームが部屋にやってきた。
「待たせたな。では、そろそろ案内しよう」
「お願いします」
俺とブルームは部屋を出て、廊下を歩き始めた。
少し進んだところで階段を上がり、高級感のある雰囲気の部屋に入った。
円形の机と椅子、大きめのベッドが置いてある。
「今日はここに泊まってくれ。もう少ししたら、夕食の時間になる。後ほど城の者に案内させよう」
「色々とありがとうございます」
「今の状況ではくつろげないかもしれないが、この部屋は気軽に使ってほしい」
ブルームは説明を終えたところで、どこかへ立ち去った。
改めて室内を確認すると、立派な内装の部屋だった。
置かれている調度品も洗練された意匠に見える。
俺は買ってきたしょうゆ風調味料とデーツの入った紙袋を机に置いた。
それから、椅子に腰を下ろして、夕食の時間を待つことにした。
城全体の地図はあるらしいが、セキュリティ面から部外者に見せるはずもない。
ましてや、暗殺機構の影響で警戒を強めている最中だった。
見覚えがあるのか、あるいはないのか判断できないような通路を右へ左へと歩いたところで、扉の開いた部屋の前にたどり着いた。
「ブルーム様は――いらっしゃいますね。では、私は警護に戻ります」
「どうも、ありがとうございました」
兵士は背筋を伸ばして挨拶をした後、来た道を引き返していった。
それから、部屋の中に足を運ぶと、ブルームの姿があった。
背中を向けた状態で何かの書類に目を通している。
とても集中しているようで、こちらの存在に気づいていないようだ。
「仕入れから戻りました」
「……ああっ、マルクか。思ったより早かったな」
「地図のおかげだと思います。忙しいところに申し訳ないです」
ブルームは椅子から立ち上がり、こちらに向き直った。
「さて、仕入れはどうだった?」
「満足いく食材が揃いました。鉄板などは職人が作ってくれているところです」
「そうかそうか」
ブルームは俺の話を聞いているようだが、どこか表情が冴えない感じがした。
その様子が気にかかった。
「……聞いていいものか分かりませんけど、その書類は深刻な内容ですか?」
「まあ、マルクになら話しても問題ないか。暗殺機構についての最新の報告だ」
「えっ!? 重要な内容ですね」
「うむ、そうだ」
ブルームは何かを考えるように間をおいてから、話を続けた。
「少し前から城内の警護を厳にしていることもあり、侵入を許すまでには至っていない。ただ、王都周辺における不審人物の報告が上がっている。それに……」
ブルームは話の途中で机に戻り、同じ書類を見直した。
その確認が済んだところでこちらに戻ってきた。
「話しっぱなしですまんな。それで、先日の大岩が街道を塞いだ件だが、暗殺機構が関与しているらしい。わしらを妨害したように見えるが、あの日は王都へ資材が運ばれる日で、それを阻もうとしたようなのだ」
ブルームは何かを考えるように、腕を組みながら話していた。
楽観的な要素はなく、深刻に考えたとしてもおかしくない内容だった。
「ちなみにその資材の内容は?」
「そうだな、気になるわな。悪いが、そこまでは話せない」
「いえ、それは大丈夫です」
「あの書類に書かれた報告については、だいたいそんなところだ。王都の外に調査兵を派遣してもよいのだが、その分だけ王都の守りが手薄になる。歯がゆいが、王族の方々やカタリナ様のことを考えたら、それは避けたい」
ブルームはいつになく、真面目な雰囲気だった。
暗殺機構の脅威を考えたら、そうなるのも自然なことだろう。
「……大臣に焼肉を食べてもらう件は続けても?」
「悩ましいところだが、カタリナ様には普段通りの生活を送ってもらいたい。そのまま続行するかたちで頼む」
「分かりました」
ブルームの真剣な表情を見て、身が引き締まる思いだった。
俺に暗殺機構を阻止することはできないので、自分にできることに集中しよう。
「さて、この話はここまでにして。今日の宿だが、城内に来客用の部屋があるので、そこに泊まってはどうか」
「それは助かります。王都は広すぎて、宿探しも大変そうなので」
「そもそも、こちらから呼び寄せておいて、手間を取らせるわけにもいかん。気兼ねなく泊まってくれ」
「ありがとうございます」
「夕食もこちらで用意させてもらう。わしの仕事に区切りがついたら、諸々の案内をしよう。それまで、近くの空いた部屋で待ってもらえぬか」
「もちろん、いいですよ」
「では、わしは仕事に戻る」
ブルームは自分の椅子に腰かけると、事務作業を始めた。
俺はブルームのいる部屋を出て、近くの部屋に入った。
ちょうど、座りやすい椅子があったので、そこへ座ることにした。
「あぁー、疲れた」
椅子に腰を下ろすと、ここまでの疲れが出るような感覚だった。
首や肩を動かしてみたら、普段よりも固くなっている気がした。
一旦、頭と身体を休ませるために脱力する。
この後は夕食に案内されると思うので、すぐにやるべきことはない。
椅子に座った状態でぼんやりしていると、部屋の外の廊下を兵士が何度か通り過ぎるような足音が聞こえた。
決まったルートを行き来しているように規則的なものだった。
城の中に見かけない顔がいた場合、明らかに不自然なので、易々と侵入できるとは思えなかった。
暗殺機構は要人を狙いそうだが、王族は隠れており、大臣の警護も万全なため、この城は安全ではないだろうか。
しばらくの間、椅子に座って休んでいると、ブルームが部屋にやってきた。
「待たせたな。では、そろそろ案内しよう」
「お願いします」
俺とブルームは部屋を出て、廊下を歩き始めた。
少し進んだところで階段を上がり、高級感のある雰囲気の部屋に入った。
円形の机と椅子、大きめのベッドが置いてある。
「今日はここに泊まってくれ。もう少ししたら、夕食の時間になる。後ほど城の者に案内させよう」
「色々とありがとうございます」
「今の状況ではくつろげないかもしれないが、この部屋は気軽に使ってほしい」
ブルームは説明を終えたところで、どこかへ立ち去った。
改めて室内を確認すると、立派な内装の部屋だった。
置かれている調度品も洗練された意匠に見える。
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