異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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魔道具とエスカ

魔法使いを発見

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 少しは人の出入りがあるみたいで。地面はいくらか踏み固められていた。
 草木に挟まれながらも道らしいものが先へと続いている。

 最初だけアデルが先を歩いていたが、途中で前後を入れ替わった。
 俺はショートソードを鞘に収めたまま、両脇から生える雑草を払いながら前へと進んだ。

「探知した私が言うのもあれだけれど、すごいところに隠れているわね」

「地元の人間でも、あまり足を運ばない場所だと思います」

 俺たちは声を潜めながら話した。
 こんなところにトラップが設置されていたら回避が難しいので、見破れないようなものがないことを願うばかりである。

 草木をかき分けて歩き続けると、道の先の方に何やら人工的な物が見えてきた。
 ドーム型の家のようなものが周囲の草木を押しのけるようにして建っている。

「あれはテント、ですかね」

 俺は茂みの影に隠れて言った。
 アデルも同じように身を潜めている。

「はるか遠方の遊牧民がああいうものを使うと聞いたことがあるわ。それにしても、どうやって持ち運んでいるのかしら」
 
「……近づいて大丈夫なんでしょうか?」   
 
「あの中の住人が危険かどうか分からない以上、外から魔法で攻撃するわけにもいかないから、まずは訪問してみるわよ」

 アデルは意を決するように茂みを出て、テントのようなものに向かって歩いていった。
 彼女を一人で行かせるわけにもいかず、慌てて後ろに続いた。

 その外壁は近くで見ると布張りのような不思議な風合いだった。
 先を行くアデルは入り口の扉に近づこうとしていた。

「(コンコン)こんにちは、中にいますかー?」

 アデルはためらう気配もなく、扉をノックして中に呼びかけた。
 もしも、よからぬことを目論むような輩であれば、素直に応じるとは思えない。

「――何じゃ、立ち退きの話ならもうたくさん。さっさと帰れ」

「「はっ?」」

 俺とアデルの拍子抜けしたような声が響いた。
 中から出てきたのは白い髪とひげが目立つ老人だった。
 何かの作業中だったようで、エプロンのようなものを身につけている。
 
「おやっ、エルフとは珍しい。何の用じゃ?」 

 老人は気を取り直したように言った。

「あなた、魔道具を露店で売ったでしょ? 一般人に無闇に渡したらどうなるかぐらい分かるわよね」

「……ああっ、そのことか。外は虫も多いし、まあ中に入れ」

 老人はそう言って手招きした。
 俺はアデルと顔を見合わせたが、彼女は頷いて大丈夫だと示した。 

 入り口の近くにいたアデルが先に入り、続いて俺が中に入った。
 内部は思ったよりも広くて、他人の家に来たような気分だった。

「ほれ、そこに座れ」

 老人に促されて、俺とアデルは椅子に腰かけた。
 工房があるとすればまだ見ていない奥の方にあると思うが、この部屋は生活空間の一部にしか見えなかった。

 室内を見渡していると、老人が二つのカップを持ってきた。 

「客が来るとは思わないから、薬草茶しかなかった。まあ、飲め」

「……ありがとうございます」

 毒が入っていないか心配になりながら、カップの中を恐る恐る覗いた。
 ハーブのようないい香りがするだけで、中身は薄い緑色の普通のお茶に見えた。

 口をつけるべきか迷っていると、アデルがすっとカップを口につけた。

「……ああっ、毒は入ってないみたいね」

「失礼な。お前さんたち、わしを何だと思っとるんじゃ」

 老人はややご立腹だった。
 さすがに悪人扱いは傷つくようだ。

「さっきも言われてましたけど、近隣住民が声をかけたら追い払われたとギルドに報告があったみたいです」

「それは勝手にテントを張るなとうるさかったから、つい腹が立ってな」 
 
 もしかして……もしかしなくても、この老人は気が短いようだ。
 魔道具の作成など失敗と成功の繰り返しで、気長であることが求められると思うのだが。
 せっかく出してくれたので、ひとまず薬草茶を飲んでみるとしよう。

「……これは美味い。そして、何だか元気が出ますね」

「わし厳選の魔法使い向けのブレンドじゃ。体力と魔力がすこぶる回復する」
 
 これしかない割にはクオリティの高いお茶だった。

「それで魔道具の話だけれど、どうして露店で売ったりしたのかしら」

 アデルが仕切り直すように話を切り出した。

「んっ? 何か誤解をしておるな。あの日は食料を買いこむための資金集めに薬草を売っていた。そこで会った娘と話すうちに、親切心で魔道具を一つ譲っただけじゃ」

 老人の言葉を聞いて、エスカの話と食い違う点があった。
 今のところ、その娘というのがエスカという確証はない。

「うーん、あなたが嘘を言っているようには見えないのよね」

「もしや、おぬしたちはあの娘の縁者か」

 老人は続けて、その人物の見た目の特徴などを説明した。
 そっくりな他人でもない限り、エスカであると思われた。

「はい、きっとそうです。魔道具の影響で彼女の様子がおかしくなって、渡した人物を探していました」

 老人は俺の言葉を聞いた後、何も言わずに静止した。
 そして、何かに思い至ったように口を開いた。

「はははっ、おかしくなったとは人聞きが悪い。なるほど、そういうことか。これは愉快愉快」

「えっ、何か面白いですか?」

 老人の反応が何を意味するのか理由が分からなかった。
 
「あなた、まさか……」

 アデルは驚いたような様子を見せた後、俺の方に視線を向けてすぐに正面に向き直った。

「さすがはエルフ、察しがいいのう」

「え、えっ、どういうことです?」

 どうやら、俺には分からない背景が二人には分かるらしい。
 あのネックレスにはどんな効果が付与されていたのだろう。
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