異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
119 / 555
魔道具とエスカ

アスタール山を調査

しおりを挟む
 その日の帰宅後、明日のアスタール山を調査するための装備を揃えた。
 いつかロゼルの町、アルダンで譲り受けた刀は長さがある分だけ取り回しに不安が残るため、使い慣れたショートソードを携帯することにした。
 徒歩かつ比較的短時間で戻ってこれるということもあり、最低限の荷物になった。

 魔道具を扱う魔法使いがどれほどのものかは分からないものの、俺の知る限りでは最強の魔法使いアデルが同行するのだから、そこまで心配はなかった。
 あるいは単独で向かわなければいけない状況であれば、入山を断念した可能性もなくはない。
 


 翌日の午後。前日と同じように店でジェイクの補助をしていた。
 朝の仕込みの段階でジェイクには閉店後の片づけが終わったら、アスタール山に向かうことを伝えておいた。
 一通り作業が完了して、今はすっかり片づいている。

「お待たせしました。それじゃあ、行きましょうか」

 アデルは営業時間の途中で店に来て、飲みものを口にしながら待っていた。
 最近、彼女は焼肉を注文しないことが多かった。

 その理由は見合い話に乗っかるつもりはないものの、外見を気にして肥満防止のために控えているようだというのはエステル談である。
 
「最近、身体が鈍(なま)っていたから、いい運動になりそうね」

「ああっ、ダイエットにいいかもしれません……しまっ――」

「んっ、どうかした?」

 不用意な発言だったかと思ったが、アデルは気に留める様子は見られなかった。
 エステルの話はどこまで本当だったのだろう。

 アデルの反応に肝を冷やしつつ、二人で店を離れて町の中を歩いた。
 途中で町を出て街道をしばらく移動した後、アスタール山に続く山道に入った。

 その入り口には「入山には許可が必要です。詳しくはギルドまで」と書かれた看板が立っていた。
 すでにギルド長に話を通してあるので、そのまま通過する。

「何の変哲もない山なのに許可がいるのね」

 アデルが周りの景色に目を向けながら言った。

「イノシシやモンスターに襲われて動けなくなったとしても、ギルドに届けを出していれば助けに来てもらえますから」

「ギルドがそういう活動をするとは知らなかったわ」

 エルフで様々な知識が豊富だとしても、彼女は冒険者ではない。
 そのため、ギルドに関することを知らなくても不思議ではなかった。

「町の何でも屋みたいなところはありますよ。ハチの巣の駆除とか草刈りとか」

「ふーん、冒険者も大変ね」

 俺とアデルは世間話をしながら、緩やかな傾斜を上がっていった。
 周囲は緑が豊かで様々な種類の木々や草花が見て取れる。

「王都はすごく栄えていましたけど、市街地は自然が少なかったです」

「気にしたことはないけれど、バラムのような辺境と比べたらそうなるかしら」 

「外に出てみないと分からないことは多いです」

 二人で並んだ状態で歩き、周囲に注意を向けていたが、今のところは目立つ痕跡は見当たらなかった。
 道は思っていたよりも歩きやすく、想像以上に通る人が多いようで地面は踏み固められている。

「ところどころ、栗の木が見え始めたわね」

「ははっ、忘れずにに採って帰りましょう」

 アデルの言うように木々の中に栗の木が混ざっている。
 俺はそこまで詳しくないのだが、木の枝に実がついていることで判別できた。
 ここまで道が歩きやすいのは、山で栗などを採取する人がいるからかもしれないと気づいた。

 入山してしばらく経った後、俺とアデルは休憩のために立ち止まった。
 少し先には山の頂上が見えており、今いる場所は周囲が開けている。

「すぐに見つかると思ったんですけど」

「本当にテントの中を工房代わりにしているのなら、道のど真ん中に立てたりはしないわよ」

 アデルは苦笑がちに言った。
 
「もう少し調べる範囲を広げた方がいいですかね?」

「ちょっと待って、試しに魔力を探知してみるわ」    

「あっ、はい。お願いします」

 魔力探知はハイレベルな能力なのだが、さすがアデルといったところだろうか。
 しかも、それなりに広い範囲を探れるようだ。
 彼女は集中を深めるように静かに目を閉じた。

「う、うーん、近くにはいないみたいね」

「……ここから移動してみますか?」  

「もう少し探ってみるわ……あっ――」

「何か分かりましたか!?」

 アデルは目を閉じたまま、手を動かして方向を示そうとしている。

「――だいたい向こうの方角。離れていて大まかな距離しか分からないけれど、強い魔力を感じたから間違いないわ」

「よしっ、向こうですね」

 俺はアデルが指さす方向を確認した。
 彼女はゆっくりと目を開き、自分で示した方向に顔を向けると、自信のなさをわずかに感じさせる様子で口を開いた。
 
「……ええと、向こうよね?」

「はい、そっちです」

「久しぶりに集中したら肩が凝ったわ。エスに肩をもんでもらわないと」 

 何んだかんだ言っても、仲がいいんだなと思わされる発言だった。
 もっとも、実際にエステルが肩をもむのかについては疑問が残る。

「それじゃあ、アデルが見つけてくれた痕跡を追いかけるとしますか」

「感触としてはそう遠くはないはずよ。おそらく、あそこの獣道を通れば近づけそうじゃないかしら」

 アデルは本筋から逸れるように伸びる道を視線で示した。
 木々の間を歩かなければ通れないような道だった。

 俺たちは移動を再開して、山中の獣道へと踏み入った。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

【完結】テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

処理中です...