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トリュフともふもふ
新しい店と選ばれた料理人
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アデルはペンを動かす手を止めると、こちらにメモを見せた。
丁寧な文字で材料や注意点が書かれている。
「調味料はこんな感じで、作り方はそこまで複雑ではないわ。材料を鍋に入れた煮立ってきたら、加熱しすぎないように」
「分かりました。火加減に気をつけるっと」
「青菜のソテーはその日に手に入るもので決めればいいと思うわ」
「自分でも作れるので、それの説明はなくても大丈夫です」
話に区切りがついたところで、アデルは伸びをした。
精力的に動いていたため、多少は疲れがあるのかもしれない。
「ふぅ、これで十分ね。あとは頑張って」
「ありがとうございました。料理が決まって、計画が前進したと思います」
「複雑な作業は町長に任せて、無理をしないようにするのよ」
「ははっ、そうですね。自分の店もあるので、どこまで協力できるのか分からないですけど」
これでスープや小皿料理の案もまとまった。
あとはアデルと話したように、町長次第で決まることだと思った。
それから中間報告というかたちで、町長に試作品の結果を伝えた。
彼はこちらからの報告に満足して、計画を進めていってくれた。
やがて、町の中心部にはトリュフ料理をご当地ものとして提供する店が用意されて、実際に稼働する際の人材も集められた。
――理由は分からないが、その中に俺の名前も含まれていた。
そんなある日のこと、今後に向けて準備が進む店に呼び出された。
場所はマーガレット通りの一角。
バラムの中で人通りの多い場所に設置されていた。
「おおっ、ほとんど完成してる!」
まだお客を入れられる状態ではないものの、椅子やテーブルなどの備品も用意されており、これからオープンする店というような気配が感じられる。
店の中に足を踏み入れると、町長が椅子に座っていた。
今後はテーブルが設置されて、ここが食事をするスペースになるのだと気づいた。
「忙しいところ、すまんね」
「バラムの一大事とあっては断るわけにもいきませんから」
「候補の料理人はいくつかいたのだが、二人以上となると相性も大事でね。パメラさんに決まった後、彼女の希望で君に白羽の矢が立ったというわけだよ」
「責任ある役割だと思いますけど、光栄ではあります。自分の店は後進が増えているので、何とか切り盛りできるようにしますよ」
「すまんすまん、そこは申し訳なく思っているんだ」
町長は心からそう思っているような態度を見せた。
無茶ぶりなところはあるものの、基本的には誠実である。
「こんにちは……あっ、マルクさん」
町長と話していると、入り口の方からパメラがやってきた。
彼女は親しい友人を見つけたように、明るい表情だった。
「今回は俺のことを選んでくれたそうで、ありがとうございます」
「どういたしまして。一緒に試作もしましたし、顔見知りで料理が得意なのはマルクさんだけだったので」
「さすがにアデルは指名できませんでしたか?」
俺は半ば笑いかけた状態でたずねた。
「それは無理ですよ。憧れの美食家様ですもの。可憐で凛としたあの方に、バタバタした調理場で料理を作らせるのは恐縮します」
「なるほど、そういうものですか」
「はい、とても尊いお方なのですから」
実際に王都で評判を見聞きしているだけに、パメラのアデルに対する評価は非常に高いのだと実感した。
「さてさて、中心になってもらうのは君たち二人だが、人手は十分ではないと思う。助手については地元の人間を雇う予定だから、そこは心配しないでくれ」
町長は話題を仕切り直すように言った。
「仮設の状態でもいいので、調理場を覗いておいてもいいですか?」
「今後は仕事場になるのだから、確かめておいた方がいいだろうね」
「念のため、私も見ておきます」
俺とパメラはこの場を離れて、店内の調理場へと移動した。
未使用の洗い場に炊事場。
何も入っていない簡易冷蔵庫。
大人数で稼働することが前提らしく、俺たちの店の調理場より動線に余裕がある。
「これってもう、湧き水は通ってますか?」
俺は誰にともなくたずねてから、蛇口のレバーを横に引いた。
「――おっと」
すると、透明な水が流れ出て、水滴が飛んできた。
「あははっ、説明するまでもないようだね」
「せっかちですいません」
思わず照れ隠しに頭をかいた。
町長が笑顔で流してくれて、気まずい思いをせずに済んだ。
「さっきの広さの感じだと、同時に入れるのは三組ぐらいですか?」
「マルクさん、私は四組ぐらい入れそうに見えたわ」
「そのことなんだが、二人とも正解だよ。一組当たりの人数にもよるよ。高価格帯ということもあって、大衆食堂のように相席というわけにもいかないから、その辺は臨機応変に臨むことになるだろうね」
「分かりました。参考になります」
町長の言葉に納得したところで、パメラが口を開いた。
「そういえば、他の町に案内を出す予定ですか?」
「王都を中心に、ランス王国の主要な街には届くようになっている」
「トリュフ料理が食べられるとなると、各地から人が集まりそうですね」
この調理場で指示を出しながら、料理を作る様子を想像する。
慣れている焼肉屋の営業とは異なり、焦りや緊張感は伴うだろう。
丁寧な文字で材料や注意点が書かれている。
「調味料はこんな感じで、作り方はそこまで複雑ではないわ。材料を鍋に入れた煮立ってきたら、加熱しすぎないように」
「分かりました。火加減に気をつけるっと」
「青菜のソテーはその日に手に入るもので決めればいいと思うわ」
「自分でも作れるので、それの説明はなくても大丈夫です」
話に区切りがついたところで、アデルは伸びをした。
精力的に動いていたため、多少は疲れがあるのかもしれない。
「ふぅ、これで十分ね。あとは頑張って」
「ありがとうございました。料理が決まって、計画が前進したと思います」
「複雑な作業は町長に任せて、無理をしないようにするのよ」
「ははっ、そうですね。自分の店もあるので、どこまで協力できるのか分からないですけど」
これでスープや小皿料理の案もまとまった。
あとはアデルと話したように、町長次第で決まることだと思った。
それから中間報告というかたちで、町長に試作品の結果を伝えた。
彼はこちらからの報告に満足して、計画を進めていってくれた。
やがて、町の中心部にはトリュフ料理をご当地ものとして提供する店が用意されて、実際に稼働する際の人材も集められた。
――理由は分からないが、その中に俺の名前も含まれていた。
そんなある日のこと、今後に向けて準備が進む店に呼び出された。
場所はマーガレット通りの一角。
バラムの中で人通りの多い場所に設置されていた。
「おおっ、ほとんど完成してる!」
まだお客を入れられる状態ではないものの、椅子やテーブルなどの備品も用意されており、これからオープンする店というような気配が感じられる。
店の中に足を踏み入れると、町長が椅子に座っていた。
今後はテーブルが設置されて、ここが食事をするスペースになるのだと気づいた。
「忙しいところ、すまんね」
「バラムの一大事とあっては断るわけにもいきませんから」
「候補の料理人はいくつかいたのだが、二人以上となると相性も大事でね。パメラさんに決まった後、彼女の希望で君に白羽の矢が立ったというわけだよ」
「責任ある役割だと思いますけど、光栄ではあります。自分の店は後進が増えているので、何とか切り盛りできるようにしますよ」
「すまんすまん、そこは申し訳なく思っているんだ」
町長は心からそう思っているような態度を見せた。
無茶ぶりなところはあるものの、基本的には誠実である。
「こんにちは……あっ、マルクさん」
町長と話していると、入り口の方からパメラがやってきた。
彼女は親しい友人を見つけたように、明るい表情だった。
「今回は俺のことを選んでくれたそうで、ありがとうございます」
「どういたしまして。一緒に試作もしましたし、顔見知りで料理が得意なのはマルクさんだけだったので」
「さすがにアデルは指名できませんでしたか?」
俺は半ば笑いかけた状態でたずねた。
「それは無理ですよ。憧れの美食家様ですもの。可憐で凛としたあの方に、バタバタした調理場で料理を作らせるのは恐縮します」
「なるほど、そういうものですか」
「はい、とても尊いお方なのですから」
実際に王都で評判を見聞きしているだけに、パメラのアデルに対する評価は非常に高いのだと実感した。
「さてさて、中心になってもらうのは君たち二人だが、人手は十分ではないと思う。助手については地元の人間を雇う予定だから、そこは心配しないでくれ」
町長は話題を仕切り直すように言った。
「仮設の状態でもいいので、調理場を覗いておいてもいいですか?」
「今後は仕事場になるのだから、確かめておいた方がいいだろうね」
「念のため、私も見ておきます」
俺とパメラはこの場を離れて、店内の調理場へと移動した。
未使用の洗い場に炊事場。
何も入っていない簡易冷蔵庫。
大人数で稼働することが前提らしく、俺たちの店の調理場より動線に余裕がある。
「これってもう、湧き水は通ってますか?」
俺は誰にともなくたずねてから、蛇口のレバーを横に引いた。
「――おっと」
すると、透明な水が流れ出て、水滴が飛んできた。
「あははっ、説明するまでもないようだね」
「せっかちですいません」
思わず照れ隠しに頭をかいた。
町長が笑顔で流してくれて、気まずい思いをせずに済んだ。
「さっきの広さの感じだと、同時に入れるのは三組ぐらいですか?」
「マルクさん、私は四組ぐらい入れそうに見えたわ」
「そのことなんだが、二人とも正解だよ。一組当たりの人数にもよるよ。高価格帯ということもあって、大衆食堂のように相席というわけにもいかないから、その辺は臨機応変に臨むことになるだろうね」
「分かりました。参考になります」
町長の言葉に納得したところで、パメラが口を開いた。
「そういえば、他の町に案内を出す予定ですか?」
「王都を中心に、ランス王国の主要な街には届くようになっている」
「トリュフ料理が食べられるとなると、各地から人が集まりそうですね」
この調理場で指示を出しながら、料理を作る様子を想像する。
慣れている焼肉屋の営業とは異なり、焦りや緊張感は伴うだろう。
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