261 / 555
トリュフともふもふ
プレオープンと慣れない調理場
しおりを挟む
町長の意識が高いこともあり、トリュフ料理の計画は着々と進んでいった。
俺もパメラも自分の店があるため、頻繁に準備に顔を出すことはできず、あれよあれよという間にプレオープンの日を迎えた。
現地の調理場に一通りの調理器具は用意されていると聞いたので、自分の店からは使い慣れた包丁だけ持参することにした。
プレオープンの日はランチタイムということだったので、それに合わせて午前中に店へと向かった。
正面の入り口から中に足を運ぶと、すでにテーブルと椅子の設置は済んでおり、いつでも営業できる状態だった。
完成を祝うためなのか、村の関係者の姿がちらほらと目に入る。
「おはよう、マルクくん」
「おはようございます」
町長に声をかけられて、思わずかしこまった態度であいさつをした。
「いよいよ、ここまでこぎ着けたよ。あとは料理人次第だ。よろしく頼む」
「はい」
町長は笑顔でこちらの肩を叩いて去っていった。
時間に余裕はあるものの、調理場を確認しておいた方がいいだろう。
町の関係者の相手は町長に任せて、自分のやるべきことに備えておこう。
ホールから調理場へ移動すると、白いシャツの上にエプロンを身につけた。
作業の妨げにならない場所に荷物を置いて、持参した包丁を取り出す。
「お客の対応があるか読めないけど、清潔感はあった方がいいよな」
近くに姿見はないので、目視で汚れやしわがないかを確認する。
それが済んでから、調理器具の位置や食材の在庫を見て回った。
「ほとんど打ち合わせ通りに用意があるし、これなら数量に問題はないか」
どうやら、俺が一番乗りだったようで、一人で確認するかたちになっている。
来るのが早すぎたかと思いかけたところで、助手担当と思われる地元の人たちがやってきた。
彼らと簡単なあいさつを終えると、今度はパメラがやってきた。
彼女はそそくさと身なりを整えてから、まっすぐにこちらへ近づいた。
「お待たせしましたー。自分のお店に時間がかかってしまって」
パメラは申し訳なさそうな表情を見せた。
金色の長い髪を一つに束ねて、白いブラウスにエプロンを身につけている。
メイド服では動きにくそうなので、今日はいつもと異なる服装だった。
「在庫確認をしてただけなので、時間は大丈夫ですよ」
「そうでしたか。足りないものはなさそうですか?」
「大丈夫だと思います。こちらが事前に伝えた通りに用意してあります」
「お手伝いの皆さんとの顔合わせが初めてなのと、マルクさんと一緒に調理場で動くのも初めてですね」
パメラは周囲を気遣う性格のため、不安を露わにしなかったが、緊張の色を読み取ることができた。
「できれば、もう少し下準備ができたらよかったですけど、この店の規模ならどうにかなりそうな気もします」
俺の店もパメラの店も、普段はここよりも回転率が高い。
幸いなことにトリュフ料理を出す高級志向であるため、質を求められることがあるとしても、数をこなすようになるとは考えにくい。
「マルクさんの落ちつきぶりを見ていたら、気持ちが落ちついてきました」
「そうですか? 大したことはしてませんよ」
「まあ、こんな時でも自然体なのですね」
パメラは少し驚いた後、愉快そうに笑顔を見せた。
それに影響されて、思わず笑ってしまった。
俺と彼女の笑い声が調理場に響いた。
「あははっ、話を逸らしてしまいましたね。食事の下ごしらえを始めましょう」
「はい、そうですね」
俺たちは二人で作業を分担して、それぞれに動き始めた。
助手の人たちには調理器具や食器の配置を覚えてもらうのと、提供予定のメニューを把握する時間に充ててもらうようにした。
ちなみにパメラとは息が合うようで、慣れない中でもやりづらい感じはなかった。
「――マルクさん、私の方は準備が完了しました」
「すいません、こっちはもう少しでペーストが出来上がるところです」
注文ごとに作っていては時間がかかりすぎるため、ペーストは作り置きするかたちで準備をしている。
先にジャガイモのポタージュを作ったことで、思ったよりも予定が押していた。
「時間はまだ大丈夫ですので、焦らないでくださいね」
「はい、ありがとうございます」
パメラのさりげないフォローがありがたかった。
ペーストはメインの一つなので、味つけをいい加減にはできない。
「……ちょっとだけコクが足りないか」
完成形に近いのだが、味を確かめながらハチミツを少しずつ足していく。
用意された材料はどれも質が高く、分量さえ上手くいけば完成度も高くなる。
それと、トリュフを何度も味見できるのは役得であることに気がついた。
「……よしっ、これで十分だ。パメラさん、こっちもオッケーです」
「それでは、ホールの様子を見に行きますね」
「お願いします」
今日は予行練習とお披露目を兼ねている。
バラムを含めたランス王国の文化として、王都の式典でもない限りは時間を厳守するような傾向は見られない。
この後の流れも何となく始まると予想していた。
「余裕を持って準備したし、よっぽど大丈夫だよな」
最後にもう一度、ペーストの味を確かめたところでパメラが戻ってきた。
「今からホール担当の方が注文を取り始めるそうです」
「分かりました。もうすぐ始まるってことですね」
助手の人たちは普通の町民なので、町長たちに料理を出すことに緊張を覚えているように見えた。
「複雑な手順はないですし、今日はそこまで数も出ないので、気楽にいきましょう」
「「はい!」」
適度な緊張感と初顔合わせではあるものの、わりといい雰囲気に感じる。
これならプレオープンはどうにかなりそうだと思った。
俺もパメラも自分の店があるため、頻繁に準備に顔を出すことはできず、あれよあれよという間にプレオープンの日を迎えた。
現地の調理場に一通りの調理器具は用意されていると聞いたので、自分の店からは使い慣れた包丁だけ持参することにした。
プレオープンの日はランチタイムということだったので、それに合わせて午前中に店へと向かった。
正面の入り口から中に足を運ぶと、すでにテーブルと椅子の設置は済んでおり、いつでも営業できる状態だった。
完成を祝うためなのか、村の関係者の姿がちらほらと目に入る。
「おはよう、マルクくん」
「おはようございます」
町長に声をかけられて、思わずかしこまった態度であいさつをした。
「いよいよ、ここまでこぎ着けたよ。あとは料理人次第だ。よろしく頼む」
「はい」
町長は笑顔でこちらの肩を叩いて去っていった。
時間に余裕はあるものの、調理場を確認しておいた方がいいだろう。
町の関係者の相手は町長に任せて、自分のやるべきことに備えておこう。
ホールから調理場へ移動すると、白いシャツの上にエプロンを身につけた。
作業の妨げにならない場所に荷物を置いて、持参した包丁を取り出す。
「お客の対応があるか読めないけど、清潔感はあった方がいいよな」
近くに姿見はないので、目視で汚れやしわがないかを確認する。
それが済んでから、調理器具の位置や食材の在庫を見て回った。
「ほとんど打ち合わせ通りに用意があるし、これなら数量に問題はないか」
どうやら、俺が一番乗りだったようで、一人で確認するかたちになっている。
来るのが早すぎたかと思いかけたところで、助手担当と思われる地元の人たちがやってきた。
彼らと簡単なあいさつを終えると、今度はパメラがやってきた。
彼女はそそくさと身なりを整えてから、まっすぐにこちらへ近づいた。
「お待たせしましたー。自分のお店に時間がかかってしまって」
パメラは申し訳なさそうな表情を見せた。
金色の長い髪を一つに束ねて、白いブラウスにエプロンを身につけている。
メイド服では動きにくそうなので、今日はいつもと異なる服装だった。
「在庫確認をしてただけなので、時間は大丈夫ですよ」
「そうでしたか。足りないものはなさそうですか?」
「大丈夫だと思います。こちらが事前に伝えた通りに用意してあります」
「お手伝いの皆さんとの顔合わせが初めてなのと、マルクさんと一緒に調理場で動くのも初めてですね」
パメラは周囲を気遣う性格のため、不安を露わにしなかったが、緊張の色を読み取ることができた。
「できれば、もう少し下準備ができたらよかったですけど、この店の規模ならどうにかなりそうな気もします」
俺の店もパメラの店も、普段はここよりも回転率が高い。
幸いなことにトリュフ料理を出す高級志向であるため、質を求められることがあるとしても、数をこなすようになるとは考えにくい。
「マルクさんの落ちつきぶりを見ていたら、気持ちが落ちついてきました」
「そうですか? 大したことはしてませんよ」
「まあ、こんな時でも自然体なのですね」
パメラは少し驚いた後、愉快そうに笑顔を見せた。
それに影響されて、思わず笑ってしまった。
俺と彼女の笑い声が調理場に響いた。
「あははっ、話を逸らしてしまいましたね。食事の下ごしらえを始めましょう」
「はい、そうですね」
俺たちは二人で作業を分担して、それぞれに動き始めた。
助手の人たちには調理器具や食器の配置を覚えてもらうのと、提供予定のメニューを把握する時間に充ててもらうようにした。
ちなみにパメラとは息が合うようで、慣れない中でもやりづらい感じはなかった。
「――マルクさん、私の方は準備が完了しました」
「すいません、こっちはもう少しでペーストが出来上がるところです」
注文ごとに作っていては時間がかかりすぎるため、ペーストは作り置きするかたちで準備をしている。
先にジャガイモのポタージュを作ったことで、思ったよりも予定が押していた。
「時間はまだ大丈夫ですので、焦らないでくださいね」
「はい、ありがとうございます」
パメラのさりげないフォローがありがたかった。
ペーストはメインの一つなので、味つけをいい加減にはできない。
「……ちょっとだけコクが足りないか」
完成形に近いのだが、味を確かめながらハチミツを少しずつ足していく。
用意された材料はどれも質が高く、分量さえ上手くいけば完成度も高くなる。
それと、トリュフを何度も味見できるのは役得であることに気がついた。
「……よしっ、これで十分だ。パメラさん、こっちもオッケーです」
「それでは、ホールの様子を見に行きますね」
「お願いします」
今日は予行練習とお披露目を兼ねている。
バラムを含めたランス王国の文化として、王都の式典でもない限りは時間を厳守するような傾向は見られない。
この後の流れも何となく始まると予想していた。
「余裕を持って準備したし、よっぽど大丈夫だよな」
最後にもう一度、ペーストの味を確かめたところでパメラが戻ってきた。
「今からホール担当の方が注文を取り始めるそうです」
「分かりました。もうすぐ始まるってことですね」
助手の人たちは普通の町民なので、町長たちに料理を出すことに緊張を覚えているように見えた。
「複雑な手順はないですし、今日はそこまで数も出ないので、気楽にいきましょう」
「「はい!」」
適度な緊張感と初顔合わせではあるものの、わりといい雰囲気に感じる。
これならプレオープンはどうにかなりそうだと思った。
25
あなたにおすすめの小説
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。
彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~
月神世一
ファンタジー
紹介文
「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」
そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。
失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。
「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」
手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。
電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。
さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!?
森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、
罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、
競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。
これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。
……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
1歳児天使の異世界生活!
春爛漫
ファンタジー
夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。
※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる