異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
280 / 555
ダンジョンのフォアグラを求めて

洞窟からの帰還

しおりを挟む
 塞がれた通路が元に戻り、仕かけの解除に向かったゴブリンたちが合流した。
 彼らは仲間のゴブリンに迎えられて、ボードルアの切り身を食べ始めた。

「よかった、これで出られる」

「ふむ、そうじゃな」

「そういえば、ムルカという街から連れ去られたみたいで、この洞窟からどれぐらい離れているか知りたいんですけど」

「ほう、ムルカか。人の多い場所には近づかんようにしとるんじゃが、ここからはそこまで離れとらんぞ」

 具体的にどれぐらい時間がかかるのかたずねようと思ったところで、こちらに近づく足音が聞こえた。
 単独かつ気配を隠そうとする素振りはなく、足音の主は盗賊ではないようだが。

「んぅっ? この足音はもしや……」

「どうしました?」

 長老はこちらの質問には答えず、ゴブリンたちの方を見た。
 同じように視線を向けると、一部の者たちが武器を手にしていた。

「落ちつけ。敵ではない」

 長老が一喝するように言うと、一斉に武器を置いた。
 緊迫した空気を感じる中、状況が見極めきれずに息を吞む。
 足音はそのままこちらへと近づき、その正体が判明した。

「あれっ、ハンク……」

「おっ、無事だったか。街中を調べて回ったら、駆けつけるのが遅くなっちまった」

 ハンクは少し息が上がっており、俺を探すために駆け回ってくれたのだと思った。
 彼ほどの人が自分のために尽力してくれたことに胸が熱くなる。

「探しに来てくれたんですね」

「おう、当たり前だろ!」

 ハンクの声は明瞭な響きだった。
 彼は仲間を見捨てるような男ではないのだ。

「ところで、アデルはどうしました?」

「ムルカの街に待機してる。洞窟の中じゃ魔法は使いにくし、おれ一人の方が身軽に動けるからな」

 俺とハンクの話に区切りがついたところで、長老が会話に加わってきた。

「久しぶりじゃな。強そうな冒険者」

「そうだな、元気にしてたか?」

「まあ、それなりに。おぬしも元気そうだのう」

「ああっ、元気だぜ」

 状況が整理できたところで、ハンクにボードルアに関する進捗を伝えた。  
 すると、切り身を食べたことがないので、自分にも分けてくれとなった。

「そっちで捕まえたやつなのに悪いな。ついでにフォアグラも分けてもらえるとありがたいんだが」

 どこかのタイミングで頼もうと思ったことだが、俺の代わりにハンクが頼んだ。
 それを聞いた長老は少しの間を置いて口を開いた。

「仲間想いなのはいいことじゃからのう。お互いのために馴れ合いもよくないし、フォアグラを分けられたら解散にしよう」

「それで構わねえ。恩に着るぜ」

 長老の口ぶりから、ハンクのことを認めているのだと思った。
 解体はほぼ終わっていたのだが、最後にフォアグラに当たる部位がどこなのかを俺とハンク、長老の三者で確認することになった。

「長老の持ってるそれって、誰かに教わったんですか?」

 俺はボードルアの図が書かれた紙を指して言った。

「そうじゃな。情報を集める中で、参考に書いてもらったものじゃな」

「解体の仕方も分かるし、肝というかフォアグラの位置も確認できて便利ですね」 

「そうじゃのう。あれだけの巨体故に、これがなければ難儀するところじゃった」

 ゴブリンたちが丈夫な紙のようなものを地面に敷いて、そこにフォアグラに当たると思われる部位が並べられた。
 しっかりと脂が乗っており、少し前に採取したばかりなので、十分な鮮度とみずみずしさが見て取れる。

「量は十分にあるからのう。好きなだけ持っていくといい」

「すごいプリプリしてますね。多すぎても傷んでしまうと思うので、食べきれる量にしておきますか」

「そうだな。ここから街に戻らねえといけないし、控えめにしておくか」

 俺とハンクは、必要になればボードルアを探すということで意見が一致した。
 今回、この魚の習性を知れたので、次からはもう少し有利になるだろう。

 シルバーゴブリンから切り身とフォアグラを薄手の紙に包んだ状態で手渡された。
 急ごしらえではあるが、洞窟内の水を魔法で凍らせて保冷用の氷にして、一緒に運ぶことにした。
 それらをハンクのバックパックに詰めてもらったところで、一体のシルバーゴブリンが近づいてきた。

「マホウノ氷、ワケテくれ」

「もちろん、いいですよ」

 彼らもこれから運ぶことになるので、氷は必要になるのだろう。
 俺はもう一度魔法を唱えて、水場の水を固めて渡した。

「アリガトウ」

「いえ、どういたしまして」

 そのゴブリンは冷たそうに氷を抱えて、仲間のところへ歩いていった。
 俺たちの分のフォアグラは回収できているので、長老たちとはここでお別れだ。

「長老と皆さん、危ないところをありがとうございました」

「達者でな。縁があればまた会うこともあるじゃろう」

「そんじゃあな。シルバーゴブリン相手でも攻撃する連中がいるから、気をつけるんだぞ」

「おぬし並みの人間が相手にならん限り、遅れを取ることはないがのう。お互い実力に胡坐(あぐら)をかかず、長生きしようじゃないか。強き冒険者」

 長老はハンクのことを認めており、畏敬の念を抱いている様子だった。
 シルバーゴブリンがそこまで認めるのだから、彼の実力は底知れぬものがあると思った。

 俺とハンクは彼らの元を離れて、洞窟の出口へと向かった。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

過労死して転生したら『万能農具』を授かったので、辺境でスローライフを始めたら、聖獣やエルフ、王女様まで集まってきて国ごと救うことになりました

黒崎隼人
ファンタジー
過労の果てに命を落とした青年が転生したのは、痩せた土地が広がる辺境の村。彼に与えられたのは『万能農具』という一見地味なチート能力だった。しかしその力は寂れた村を豊かな楽園へと変え、心優しきエルフや商才に長けた獣人、そして国の未来を憂う王女といった、かけがえのない仲間たちとの絆を育んでいく。 これは一本のクワから始まる、食と笑い、もふもふに満ちた心温まる異世界農業ファンタジー。やがて一人の男のささやかな願いが、国さえも救う大きな奇跡を呼び起こす物語。

勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。 しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて…… テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

神様の人選ミスで死んじゃった!? 異世界で授けられた万能ボックスでいざスローライフ冒険!

さかき原枝都は
ファンタジー
光と影が交錯する世界で、希望と調和を求めて進む冒険者たちの物語 会社員として平凡な日々を送っていた七樹陽介は、神様のミスによって突然の死を迎える。そして異世界で新たな人生を送ることを提案された彼は、万能アイテムボックスという特別な力を手に冒険を始める。 平穏な村で新たな絆を築きながら、自分の居場所を見つける陽介。しかし、彼の前には隠された力や使命、そして未知なる冒険が待ち受ける! 「万能ボックス」の謎と仲間たちとの絆が交差するこの物語は、笑いあり、感動ありの異世界スローライフファンタジー。陽介が紡ぐ第二の人生、その行く先には何が待っているのか——?

処理中です...