異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
279 / 555
ダンジョンのフォアグラを求めて

ボードルアの切り身を食べる

しおりを挟む
 何かの仕かけが作動して壁が出てきたようだ。
 洞窟の中で大きなものが動いたことで、砂ぼこりが舞い上がっている。
 
「……さっきのは生き残りですかね」

「討ち漏らしたとは考えにくいんじゃが、上手いこと逃げられたみたいだのう」

 長老は閉じこめられたことへの動揺は少ないようで、淡々と感想を口にした。
 表情にもあまり変化が見られない。
 
「これは重すぎて、どうにかなりそうにないですね」

 俺は岩壁に触れながら不安げに言った。
 水辺を挟んだ反対側は行き止まりだったので、通路が塞がれたことになる。

「ふむふむ、風は止んでおらんな」

「えっ、風ですか?」

 洞窟の中で風とはどういうことなのか。
 何か理由があると思うが、長老の言葉の真意が理解できなかった。

「ほれほれ、焚き火の煙を見てみるといい」

「はっ、もしかして……」

 ホーリーライトを動かして、煙の様子を確かめる。
 密閉されたはずなのに煙は下から上へと上がりながら、どこかに流れていく。
 空気の流れがあるということは、外につながる通り道があるのかもしれない。

「そういうことでしたか」

「分かったじゃろ。諦めるにはまだ早い」

「冒険者もしていたのに、恥ずかしいところを見せました」

「大したことではないから、気にせんでもええじゃろう」

 俺と長老は言葉を交わした後、焚き火の近くへ歩み寄った。
 そこで長老は一本の火のついた木の枝を手に取った。

「わしが煙の流れを追おう。魔法の光を頼んだ」

「はい、分かりました」

 俺はホーリーライトを操作して、長老の近くを照らすようにした。
 煙はゆっくりと細くたなびいている。
 明らかに空気の流れがあり、どこかに通じている様子だ。

 煙の動きに注意しながら追っていくと、行き止まりになった。
 こちらも岩壁が塞がっているように見えるが、煙は止まらずにどこかへ流れている。

「……んっ、これは?」

 二メートルぐらいの高さに小さな穴が空いている。
 空気の流れを見る限り、奥の方へと続いているようだ。

「ここから外に出られますかね」

「どうかのう。外に通じておれば最善じゃが、おぬしは出られんし、わしらの荷物も外に出せん。さっきの壁は細工で動くようだし、この穴からあそこに行って、元に戻すのが無難じゃな」

「そうですね、そうしましょう」

 俺は長老の意見に同意を示した。
 それからゴブリンたちのところへ引き返した。

「こやつらはわしの言うことしか聞かんからな。ここは任せておけ」

「お願いします」

 長老が状況を説明して、数人のゴブリンのグループが結成された。
 彼らが閉ざされた壁の向こうに回りこんで、仕かけを解除するのだ。

 俺は先ほどの穴のところまで彼らを見送ると、再び焚き火の近くに戻った。
 何もないと少し冷えるので、こうして炎があるのは助かる。

「さて、やることもないし、ボードルアでも食べて待つかのう」

 地面に腰かけて待機していると、長老が呑気な様子で言った。
 他のゴブリンたちはそれに同意するように、ボードルアの調理を再開した。
 ちょうど解体が終わった頃に盗賊が現れたので、あの時に中断されたことになる。

 ここでは訪問者という立場にしかなく、特に手伝うことにはなっていない。
 遠目にボードルアの切り身に手が加わるのを眺めている。

「店主、おぬしも食べるじゃろ」

「お腹が空いてきたので、ありがたいです」

「切り身だけでもけっこうな量になる。余裕はあるはずじゃよ」

「それにしても、いい匂いがしますね」

 バターでソテーするような食欲をそそる香りが漂ってくる。
 シルバーゴブリンは食への探求心が高いので、今回も美味しく仕上がるだろう。

 期待して待っていると、木製の皿に乗ったボードルアの切り身が運ばれてきた。
 うっすらと焦げ目がついており、温かそうな湯気が上がっている。

「では、いただきます」

 俺は手渡されたフォークで、白い切り身を刺した。
 思いっきりかじってみると、バターのような風味と癖のない魚の味がした。
 それは至福の瞬間と呼べそうなほど、まろやかな味わいが口の中に広がる。

「新鮮だからか、臭みが全然ない」

「フォアグラが気になっとったが、身の方もなかなかいけるな」

 俺と長老は言葉を交わしつつ、切り身をどんどん食べていく。
 そこそこの大きさがあったものの、あっという間に平らげてしまった。
 おかわりを頼もうか迷うところだが、この後の移動もあるのでやめておこう。

「ごちそうさまでした。バターもいいやつを使ってますね」

「狩りで手に入れた肉と交換したものじゃ。年老いた人間は自分で行けんからのう。それでも食べたいもんだから、喜んで換えてくれる」

「シルバーゴブリンの流通網、何気にすごいじゃないですか」

 素直に感心して言った。
 彼らが扱う食材は全体的に質が高い。

「わしらは商売に興味はないからのう。自分たちで食べる分だけなら、足りなくなることもなし。信頼できる者とだけ取引しておれば平和じゃからな」

「理想的な物々交換だと思います」 
 
 簡単に真似できるわけではないものの、そういう生き方も面白いと思った。
 シルバーゴブリンたちのことを知れば知るほど興味が湧いてくる。

 会話の途中で大きなものが動く音が響いた。
 視線を向けると、薄闇の向こうで先ほどの岩壁が引っこんでいるようだった。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

【完結】テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~

荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
 ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。  それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。 「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」 『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。  しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。  家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。  メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。  努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。 『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』 ※別サイトにも掲載しています。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

処理中です...