315 / 555
和の国サクラギとミズキ姫
魔法使いたちの本領発揮
しおりを挟む
正面の敵と対峙してすぐに、ミズキとアカネは間合いを詰めようと踏みこんだ。
しかし、その動きが読まれていたように何かが飛んできた。
「――二人とも、危ない!」
俺は思わず声を上げた。
危険な場面だったが、ミズキたちは咄嗟に回避して事なきを得た。
今の攻撃が脅威だったようで、二人は手前に引き返して様子を窺っている。
「……姫様、彼奴(あやつ)は溶岩を操れるようです」
「うん、アカネも気をつけて」
二人の言葉通り、石つぶてのように飛んできたのは溶岩だった。
火山を鎮められるというのは広い意味で溶岩を操れることなのかもしれない。
「あんなものが直撃したら致命傷になりかねないですね」
隣にいるアデルへと声をかけた。
「マルク、ここは魔法使いの出番よ」
「えっ、どういうことですか?」
「アイシクルで氷柱(つらら)を飛ばして、溶岩を相殺するのよ。そうすれば、ミズキたちがあのサルに接近できるわ」
彼女の言葉には自信がこめられていた。
魔法の扱いに長けていることで、確信が持てるのだろう。
「――さあ、飛んできたわ。早速やるわよ」
「はい!」
再び溶岩が飛来しようとしていた。
瞬時に集中力を高めて、その魔法を口にする。
「「――アイシクル!」」
俺たちの正面から無数の氷柱が飛んでいく。
それらは次々に溶岩にぶつかって蒸発していった。
「……魔法使いって規格外だね。反則だよ」
「姫様、あの攻撃がなければ、こちらから接近することができます」
「はいはい、いっちょやったりますか!」
刀を手にした二人が再度攻勢に出る。
そこへ弾丸のように溶岩が向かおうとするが――
「そうはさせない。アイシクル!」
コレットとの特訓が効果を発揮したようで、爽快なまでに魔法を扱うことができる。
隣のアデルほどではないが、溶岩を相殺するのに十分な数の氷柱が出せている。
正面の猿人族は魔法で反撃されることは予想外だったようで、徐々に後ずさった。
放たれる溶岩は増えているが、俺とアデルの魔法が完全に相殺している。
こちらから見て打つ手なしに思われたところで、背中を向けて逃げ出そうとした。
「このっ、逃がすか!」
ミズキの声が火口周辺に木霊した。
アカネが最短距離で近づいた方が早く決着がつきそうだったが、ミズキに花を持たせようとしたようにも見える。
ミズキは刀を振り上げて斬りかかろうとしたが、振り下ろした途中で止めてしまった。
猿人族は何が起きているのか分かっていないようで、そのまま火口を離れて逃げていった。
「……逃げられましたね」
「ミズキは優しいから、斬れなかったんじゃないかしら」
「ああっ、なるほど」
ミズキと付き合いの長いアデルならではの言葉だと思った。
「まあ、いいじゃないの。予定通りなら、火山の動きは収まるはずだから」
「それもそうですね」
俺は周囲に危険がないかを確認しながら、アデルと共にミズキたちのところへと近づいた。
「二人ともありがと! あの溶岩は何ともならなかった」
「いえ、発案はアデルです」
「手伝うって約束したから、あれぐらい何てことはないわ」
「拙者からも感謝を申し上げる。姫様と二人だったら、逃げ帰ることしかできなかった」
「殊勝なことね。普段からそれぐらいの低姿勢でいいのよ」
アデルは表に出さなかったが、アカネの態度に思うところがあったらしい。
場を取りなすようにミズキが前に出る。
「まあまあ、ツンツンしてるところも愛嬌だと思ってね、マルクくん?」
「いやー、俺に振られても……」
アカネは美女の部類に入ると思うが、戦闘力が高すぎて反応に困る。
どう返すべきか決めかねていると、アカネが咳払いをした。
「姫様、宝刀を投げ入れてください。それでヒフキ山の火口は鎮まります」
「あははっ、そうだね。それを済ませないと」
ミズキは誤魔化すように笑った後、懐から布に包まれた何かを取り出す。
彼女が包みを解くと、中からは橙と朱を混ぜたような色の不思議なものが姿を現した。
日本の遺跡で発掘されそうな遺物のようで、太い短剣のようなかたちはしているものの、これ自体で何かを切ることはできなそうだ。
「では、マルク殿とアデル殿はお下がりを」
アカネは俺たちに下がるように両手の動きで示した。
ミズキ以外の三人が火口から離れて、彼女は火口へと近づいた。
「――火の神に申し上げる。我はサクラギの血族」
ミズキは祝詞のような文言を述べた後、宝刀を高々と掲げて火口へと投げ入れた。
直後には何も起きなかったものの、少し経過した後に火口から声とも地鳴りともつかないような響きが轟いた。
反射的に噴火でも起きるのかと身構えるが、徐々に噴煙が少なくなり、火山活動が収束しているのだと理解した。
「ふふん、これにて一件落着。猿人族もバカじゃないから、どこかに隠れてひっそり暮らすはずだよ」
「ヨツバ村は大丈夫なんですか?」
「それなら問題なし。火山のことがなければ、サクラギの兵に手も足も出ないから。この状況で村に手を出せばどうなるか分かるはずだよ。それにあたしたちに続いて、村に兵士が駐留するようになってるから」
のほほんとした雰囲気のミズキとは思えぬ詰め方だった。
いや、店を数軒持っているのだから、頭は切れる方なのか?
「アカネ、マルクくんがアホな子を見る目をしてるよ」
「承知しました。ここで切り結んで、火口への供物としましょう」
ミズキはふざけているようだが、アカネは表情を変えていないため、冗談か本気かの判断ができない。
「……ふっ、恩人を斬り捨てるはずがない。夜が更ける前に村へ戻ろう」
「心臓に悪いので、そういう冗談はほどほどに頼みます」
アカネにそう伝えると、かすかに笑みを浮かべたように見えた。
あとがき
お読み頂き、ありがとうございます。
最近は季節の変わり目で寒暖差がありますね。
皆さま、ご自愛ください。
しかし、その動きが読まれていたように何かが飛んできた。
「――二人とも、危ない!」
俺は思わず声を上げた。
危険な場面だったが、ミズキたちは咄嗟に回避して事なきを得た。
今の攻撃が脅威だったようで、二人は手前に引き返して様子を窺っている。
「……姫様、彼奴(あやつ)は溶岩を操れるようです」
「うん、アカネも気をつけて」
二人の言葉通り、石つぶてのように飛んできたのは溶岩だった。
火山を鎮められるというのは広い意味で溶岩を操れることなのかもしれない。
「あんなものが直撃したら致命傷になりかねないですね」
隣にいるアデルへと声をかけた。
「マルク、ここは魔法使いの出番よ」
「えっ、どういうことですか?」
「アイシクルで氷柱(つらら)を飛ばして、溶岩を相殺するのよ。そうすれば、ミズキたちがあのサルに接近できるわ」
彼女の言葉には自信がこめられていた。
魔法の扱いに長けていることで、確信が持てるのだろう。
「――さあ、飛んできたわ。早速やるわよ」
「はい!」
再び溶岩が飛来しようとしていた。
瞬時に集中力を高めて、その魔法を口にする。
「「――アイシクル!」」
俺たちの正面から無数の氷柱が飛んでいく。
それらは次々に溶岩にぶつかって蒸発していった。
「……魔法使いって規格外だね。反則だよ」
「姫様、あの攻撃がなければ、こちらから接近することができます」
「はいはい、いっちょやったりますか!」
刀を手にした二人が再度攻勢に出る。
そこへ弾丸のように溶岩が向かおうとするが――
「そうはさせない。アイシクル!」
コレットとの特訓が効果を発揮したようで、爽快なまでに魔法を扱うことができる。
隣のアデルほどではないが、溶岩を相殺するのに十分な数の氷柱が出せている。
正面の猿人族は魔法で反撃されることは予想外だったようで、徐々に後ずさった。
放たれる溶岩は増えているが、俺とアデルの魔法が完全に相殺している。
こちらから見て打つ手なしに思われたところで、背中を向けて逃げ出そうとした。
「このっ、逃がすか!」
ミズキの声が火口周辺に木霊した。
アカネが最短距離で近づいた方が早く決着がつきそうだったが、ミズキに花を持たせようとしたようにも見える。
ミズキは刀を振り上げて斬りかかろうとしたが、振り下ろした途中で止めてしまった。
猿人族は何が起きているのか分かっていないようで、そのまま火口を離れて逃げていった。
「……逃げられましたね」
「ミズキは優しいから、斬れなかったんじゃないかしら」
「ああっ、なるほど」
ミズキと付き合いの長いアデルならではの言葉だと思った。
「まあ、いいじゃないの。予定通りなら、火山の動きは収まるはずだから」
「それもそうですね」
俺は周囲に危険がないかを確認しながら、アデルと共にミズキたちのところへと近づいた。
「二人ともありがと! あの溶岩は何ともならなかった」
「いえ、発案はアデルです」
「手伝うって約束したから、あれぐらい何てことはないわ」
「拙者からも感謝を申し上げる。姫様と二人だったら、逃げ帰ることしかできなかった」
「殊勝なことね。普段からそれぐらいの低姿勢でいいのよ」
アデルは表に出さなかったが、アカネの態度に思うところがあったらしい。
場を取りなすようにミズキが前に出る。
「まあまあ、ツンツンしてるところも愛嬌だと思ってね、マルクくん?」
「いやー、俺に振られても……」
アカネは美女の部類に入ると思うが、戦闘力が高すぎて反応に困る。
どう返すべきか決めかねていると、アカネが咳払いをした。
「姫様、宝刀を投げ入れてください。それでヒフキ山の火口は鎮まります」
「あははっ、そうだね。それを済ませないと」
ミズキは誤魔化すように笑った後、懐から布に包まれた何かを取り出す。
彼女が包みを解くと、中からは橙と朱を混ぜたような色の不思議なものが姿を現した。
日本の遺跡で発掘されそうな遺物のようで、太い短剣のようなかたちはしているものの、これ自体で何かを切ることはできなそうだ。
「では、マルク殿とアデル殿はお下がりを」
アカネは俺たちに下がるように両手の動きで示した。
ミズキ以外の三人が火口から離れて、彼女は火口へと近づいた。
「――火の神に申し上げる。我はサクラギの血族」
ミズキは祝詞のような文言を述べた後、宝刀を高々と掲げて火口へと投げ入れた。
直後には何も起きなかったものの、少し経過した後に火口から声とも地鳴りともつかないような響きが轟いた。
反射的に噴火でも起きるのかと身構えるが、徐々に噴煙が少なくなり、火山活動が収束しているのだと理解した。
「ふふん、これにて一件落着。猿人族もバカじゃないから、どこかに隠れてひっそり暮らすはずだよ」
「ヨツバ村は大丈夫なんですか?」
「それなら問題なし。火山のことがなければ、サクラギの兵に手も足も出ないから。この状況で村に手を出せばどうなるか分かるはずだよ。それにあたしたちに続いて、村に兵士が駐留するようになってるから」
のほほんとした雰囲気のミズキとは思えぬ詰め方だった。
いや、店を数軒持っているのだから、頭は切れる方なのか?
「アカネ、マルクくんがアホな子を見る目をしてるよ」
「承知しました。ここで切り結んで、火口への供物としましょう」
ミズキはふざけているようだが、アカネは表情を変えていないため、冗談か本気かの判断ができない。
「……ふっ、恩人を斬り捨てるはずがない。夜が更ける前に村へ戻ろう」
「心臓に悪いので、そういう冗談はほどほどに頼みます」
アカネにそう伝えると、かすかに笑みを浮かべたように見えた。
あとがき
お読み頂き、ありがとうございます。
最近は季節の変わり目で寒暖差がありますね。
皆さま、ご自愛ください。
34
あなたにおすすめの小説
土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~
にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。
「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。
主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。
過労死して転生したら『万能農具』を授かったので、辺境でスローライフを始めたら、聖獣やエルフ、王女様まで集まってきて国ごと救うことになりました
黒崎隼人
ファンタジー
過労の果てに命を落とした青年が転生したのは、痩せた土地が広がる辺境の村。彼に与えられたのは『万能農具』という一見地味なチート能力だった。しかしその力は寂れた村を豊かな楽園へと変え、心優しきエルフや商才に長けた獣人、そして国の未来を憂う王女といった、かけがえのない仲間たちとの絆を育んでいく。
これは一本のクワから始まる、食と笑い、もふもふに満ちた心温まる異世界農業ファンタジー。やがて一人の男のささやかな願いが、国さえも救う大きな奇跡を呼び起こす物語。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた
秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。
しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて……
テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。
『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。
国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。
でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。
これってもしかして【動物スキル?】
笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!
外れスキル【畑耕し】で辺境追放された俺、チート能力だったと判明し、スローライフを送っていたら、いつの間にか最強国家の食糧事情を掌握していた件
☆ほしい
ファンタジー
勇者パーティーで「役立たず」と蔑まれ、役立たずスキル【畑耕し】と共に辺境の地へ追放された農夫のアルス。
しかし、そのスキルは一度種をまけば無限に作物が収穫でき、しかも極上の品質になるという規格外のチート能力だった!
辺境でひっそりと自給自足のスローライフを始めたアルスだったが、彼の作る作物はあまりにも美味しく、栄養価も高いため、あっという間に噂が広まってしまう。
飢饉に苦しむ隣国、貴重な薬草を求める冒険者、そしてアルスを追放した勇者パーティーまでもが、彼の元を訪れるように。
「もう誰にも迷惑はかけない」と静かに暮らしたいアルスだったが、彼の作る作物は国家間のバランスをも揺るがし始め、いつしか世界情勢の中心に…!?
元・役立たず農夫の、無自覚な成り上がり譚、開幕!
【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~
御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。
十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。
剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。
十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。
紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。
十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。
自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。
その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。
※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。
神様の人選ミスで死んじゃった!? 異世界で授けられた万能ボックスでいざスローライフ冒険!
さかき原枝都は
ファンタジー
光と影が交錯する世界で、希望と調和を求めて進む冒険者たちの物語
会社員として平凡な日々を送っていた七樹陽介は、神様のミスによって突然の死を迎える。そして異世界で新たな人生を送ることを提案された彼は、万能アイテムボックスという特別な力を手に冒険を始める。 平穏な村で新たな絆を築きながら、自分の居場所を見つける陽介。しかし、彼の前には隠された力や使命、そして未知なる冒険が待ち受ける! 「万能ボックス」の謎と仲間たちとの絆が交差するこの物語は、笑いあり、感動ありの異世界スローライフファンタジー。陽介が紡ぐ第二の人生、その行く先には何が待っているのか——?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる