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和の国サクラギとミズキ姫
火口への到着と脅威の気配
それが猿人族であると気づいた時には、すでにこちらへ迫っていた。
人間には不可能な早さで崖をよじ登っている。
「キキキッ、さっきの匂い覚えた。だけど、オマエは違う……アノ女だ!」
こちらが息つく間もなく、同じ高さまで上がってきた猿人族が下卑た声を発した。
見かけが同じで分かりにくいが、先ほどの者と同じで間違いないと感じた。
しばらく眺めたことで徐々に特徴が捉えられるようになっている。
「……他の追随はないか」
「単独で崖を登ってきたみたいです」
ミズキとアデルは少し離れた位置にいて、俺とアカネはより近くにいる状況だ。
俺たちと敵との距離はそこまで離れていない。
「――しばらく眠ってもらおう」
猿人族への対処を決めあぐねていると、アカネが手にした刀を一閃して猿人族を斬り伏せた。
その瞬間、自分が猿人族を傷つけるなと言ったのではないかと思ったが、目の前の個体からは血が流れていなかった。
「今のは峰打ちだ。気絶させた」
「ああっ、なるほど」
アカネはこちらの心の内を読むかのように言った。
素早くホーリーライトを唱えて光球を近づけると、倒れ伏した猿人族はチンパンジーの姿に似ているように見えた。
「どうやら、人族以外の匂いがして、それに惹きつけられているようだ」
「……アデルの匂いですか?」
冷淡に見える彼女だが、アデルへの配慮があるようで声を潜めている。
憶測ではあるものの、女性同士ということも影響しているのかもしれない。
「この程度のこと取るに足らぬ。彼女に告げる必要はない」
「……分かりました。俺もそうさせてもらいます」
アデルは繊細な性格ではないため、そう簡単に傷つきはしないだろう。
それでもこのような状況では、多少の責任は感じるはずだ。
「足止めにあったが、移動を再開しよう。火口はもうすぐだ」
「はい」
アカネはこれまで通りの淡々とした様子で、先導する役割に戻った。
他にも崖下から登ってこられたら厄介だと思ったが、先ほどの猿人族を追ってくる姿は見当たらなかった。
再び歩き出した彼女に続いて、山道を進んでいく。
火山というと荒涼とした山肌を思い浮かべるところだが、この山は多少の草木を目にすることができる。
過去に噴火したことはあっても、今までは火山活動が押さえられていたことで、植物が成長する余地があったのだろう。
傾斜を上がるにつれて、徐々に火口が近づいている。
この瞬間にも噴煙が立ちのぼり、今までに経験したことのないような匂いが漂う。
熱気を感じさせる周囲の温度と夜とは思えないような明るさを目の当たりにして、マグマのたぎる穴がそこあることを突きつけられるような感覚に苛まれる。
――この距離で噴火すれば、生身の人間はひとたまりもない。
その事実に意識が及ぶと背筋に冷たいものが伝うのを感じた。
多少の熱気は魔力が続く限り、アイシクルで防ぐことはできる。
しかし、魔法で高温のマグマから身を守るのは現実的ではない。
そもそも、火山と対峙することを想定して魔法を使った経験があるはずもなく、場当たり的に対処するしかないのだ。
俺の前を歩いているアデル、さらにその前を行くミズキはそのことを知ってなお、今回の作戦に身を投じているのか。
おそらくミズキはサクラギで育った以上、そんなことは考えたことがあるだろう。
彼女は当主一族の責務を真摯に捉えているのだから。
自問自答しながら歩くうちに、火口から漏れる光のようなものが近くなっていた。
目的地はすぐそこのように感じられた。
「……はあっ、それにしても熱いな」
手の甲で額の汗を拭った。
魔力を無駄遣いしたくないが、いよいよアイシクルで防壁を作って熱気を防いだ方がいいのではないか――そんな思いに駆られる。
少しずつ重たくなる足を運ぶうちに、道の先で傾斜が平らになっていることに気づく。
先頭のアカネはそこで足を止めており、ミズキ、アデル、自分という順番で彼女に追いついた。
「……ここが火口か」
丸くぽっかりと空いた穴の奥から噴煙が上がっている。
火山活動がそこまで激しくないのか、視界を奪うほどではない。
「――姫様、今までの猿人族とは違います。ご注意を」
アカネが動かずにいた理由に思い至り、咄嗟に剣に手を伸ばしていた。
頭に骸骨を乗せて、祈祷師のような服装の猿人族が離れた場所に立っている。
「何あれ……あんな身なりの猿人族見たことない」
ミズキは動揺したような声だった。
彼女を落ちつかせるようにアカネが口を開く。
「おそらく、あの者が火山を鎮めていた存在でしょう。マルク殿たちの助力もあります。どうか、お気を確かに」
「……うん、そうだね。しっかりしないと」
ミズキは力強い声を発して、携えた刀を抜いて構えた。
アカネだけでなく彼女自身も実力者のようで、その姿は立派なものに見えた。
「お二人は後方で援護を。我らであの者を討つ」
アカネの声はそれが決定事項であるかのように、有無を言わせぬような響きだった。
ミズキの敵――あるいはサクラギを陥れる者を討つと心に決めているのだろう。
ミズキが火口に宝刀を投げこむには、目の前の脅威を排除するしかないようだ。
人間には不可能な早さで崖をよじ登っている。
「キキキッ、さっきの匂い覚えた。だけど、オマエは違う……アノ女だ!」
こちらが息つく間もなく、同じ高さまで上がってきた猿人族が下卑た声を発した。
見かけが同じで分かりにくいが、先ほどの者と同じで間違いないと感じた。
しばらく眺めたことで徐々に特徴が捉えられるようになっている。
「……他の追随はないか」
「単独で崖を登ってきたみたいです」
ミズキとアデルは少し離れた位置にいて、俺とアカネはより近くにいる状況だ。
俺たちと敵との距離はそこまで離れていない。
「――しばらく眠ってもらおう」
猿人族への対処を決めあぐねていると、アカネが手にした刀を一閃して猿人族を斬り伏せた。
その瞬間、自分が猿人族を傷つけるなと言ったのではないかと思ったが、目の前の個体からは血が流れていなかった。
「今のは峰打ちだ。気絶させた」
「ああっ、なるほど」
アカネはこちらの心の内を読むかのように言った。
素早くホーリーライトを唱えて光球を近づけると、倒れ伏した猿人族はチンパンジーの姿に似ているように見えた。
「どうやら、人族以外の匂いがして、それに惹きつけられているようだ」
「……アデルの匂いですか?」
冷淡に見える彼女だが、アデルへの配慮があるようで声を潜めている。
憶測ではあるものの、女性同士ということも影響しているのかもしれない。
「この程度のこと取るに足らぬ。彼女に告げる必要はない」
「……分かりました。俺もそうさせてもらいます」
アデルは繊細な性格ではないため、そう簡単に傷つきはしないだろう。
それでもこのような状況では、多少の責任は感じるはずだ。
「足止めにあったが、移動を再開しよう。火口はもうすぐだ」
「はい」
アカネはこれまで通りの淡々とした様子で、先導する役割に戻った。
他にも崖下から登ってこられたら厄介だと思ったが、先ほどの猿人族を追ってくる姿は見当たらなかった。
再び歩き出した彼女に続いて、山道を進んでいく。
火山というと荒涼とした山肌を思い浮かべるところだが、この山は多少の草木を目にすることができる。
過去に噴火したことはあっても、今までは火山活動が押さえられていたことで、植物が成長する余地があったのだろう。
傾斜を上がるにつれて、徐々に火口が近づいている。
この瞬間にも噴煙が立ちのぼり、今までに経験したことのないような匂いが漂う。
熱気を感じさせる周囲の温度と夜とは思えないような明るさを目の当たりにして、マグマのたぎる穴がそこあることを突きつけられるような感覚に苛まれる。
――この距離で噴火すれば、生身の人間はひとたまりもない。
その事実に意識が及ぶと背筋に冷たいものが伝うのを感じた。
多少の熱気は魔力が続く限り、アイシクルで防ぐことはできる。
しかし、魔法で高温のマグマから身を守るのは現実的ではない。
そもそも、火山と対峙することを想定して魔法を使った経験があるはずもなく、場当たり的に対処するしかないのだ。
俺の前を歩いているアデル、さらにその前を行くミズキはそのことを知ってなお、今回の作戦に身を投じているのか。
おそらくミズキはサクラギで育った以上、そんなことは考えたことがあるだろう。
彼女は当主一族の責務を真摯に捉えているのだから。
自問自答しながら歩くうちに、火口から漏れる光のようなものが近くなっていた。
目的地はすぐそこのように感じられた。
「……はあっ、それにしても熱いな」
手の甲で額の汗を拭った。
魔力を無駄遣いしたくないが、いよいよアイシクルで防壁を作って熱気を防いだ方がいいのではないか――そんな思いに駆られる。
少しずつ重たくなる足を運ぶうちに、道の先で傾斜が平らになっていることに気づく。
先頭のアカネはそこで足を止めており、ミズキ、アデル、自分という順番で彼女に追いついた。
「……ここが火口か」
丸くぽっかりと空いた穴の奥から噴煙が上がっている。
火山活動がそこまで激しくないのか、視界を奪うほどではない。
「――姫様、今までの猿人族とは違います。ご注意を」
アカネが動かずにいた理由に思い至り、咄嗟に剣に手を伸ばしていた。
頭に骸骨を乗せて、祈祷師のような服装の猿人族が離れた場所に立っている。
「何あれ……あんな身なりの猿人族見たことない」
ミズキは動揺したような声だった。
彼女を落ちつかせるようにアカネが口を開く。
「おそらく、あの者が火山を鎮めていた存在でしょう。マルク殿たちの助力もあります。どうか、お気を確かに」
「……うん、そうだね。しっかりしないと」
ミズキは力強い声を発して、携えた刀を抜いて構えた。
アカネだけでなく彼女自身も実力者のようで、その姿は立派なものに見えた。
「お二人は後方で援護を。我らであの者を討つ」
アカネの声はそれが決定事項であるかのように、有無を言わせぬような響きだった。
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