異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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ベナード商会と新たな遺構

遺構とキャラバン

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 翌日、フレヤに頼んでブラスコと待ち合わせをした。
 彼には営業前の焼肉屋に足を運んでもらい、予定した時間通りに話を始める。
 未開の遺構に行けることへの期待で胸の高鳴りを感じていた。

「遺構に向かう準備ができたので、現地へ案内してもらえますか?」

「もちろん、そのつもりだったから。こっちの準備は万端だよ」

「俺の方でも探索に必要なものは揃えました」

 ブラスコがもたらしてくれた情報であり、それに感謝する面が大いにある。
 心身の状態は整い、すぐにでも出発するつもりでいた。

「潜在的な価値が高い場所だから、詳しい位置は到着するまで秘密にさせてもらうね」

「そうですよね。ベナード商会の社長が目をつけるくらいですから」

「わしも商人の端くれだから、商機は逃したくないんよ」

 当然ながら端くれというのは謙遜だろう。
 ランス王国の人間が見つけられなかった遺構を見つけたことは、偶然ではなく彼の嗅覚によるところが大きいはずだ。

「婿殿の本気度は分かるから、ぼちぼち行こうかね」

「もしかして、試されてました?」

「ふふん、二つ返事で引き受けるのはよくないよねー」
 
 ブラスコは不敵に笑った。
 こちらがおんぶにだっこでという姿勢であれば、のらりくらりとかわされて連れていってもらえなかったかもしれない。

「たびたびで悪いけど、また店の留守を頼むよ」

 俺とブラスコの会話を見守っていたフレヤに声をかけた。

「分かった。気をつけてね。危ない時はルカを頼って」

「そうだね。フレヤの槍の師匠だし、彼は頼りになりそうだ」

 俺はフレヤと言葉を交わして、店の準備をしてくれていたシリルにも声をかけた。
 店の帳簿を確認したが、二人が貢献してくれたことを把握している。
 シリルは順調に成長しているようで、フレヤは大商人の娘ということで一般人よりも初期値が高い。
 この店の規模であれば、十分に対応できるだけの能力はあると思う。

 出発の準備が整い、俺はブラスコと二人で竜車のところに向かった。
 彼の話した通りに荷物がすでに積んであり、すぐに出発できた。
 
「食料は少なそうですけど、あれで足りるんですか?」

「遺構の近くにキャラバンがベースキャンプを設営したんよ。婿殿の食料も向こうで補給できるから心配無用だよん」

「それは助かります。規模や深さは調査中ですよね」

「うんうん、前人未踏となれば散歩感覚では危ないから」

 御者台のブラスコはご機嫌なようだ。
 ベナード商会が遺構を押さえることができた以上、そこで手に入るものは彼らが得ることが優先される。
 自然と気分がよくなるのは当たり前のことだ。

 客車の外の景色が流れるようにすぎていった。
 前回と同じように地竜が快足を飛ばしている。
 ランス王国の国内であれば、遺構のある場所までにそこまでかからないはずだ。

 しばらくは街道を走っていたが、途中から脇道を移動するようになっていた。
 街道ほど整備されておらず、客車に伝わる振動が増えている。
 地元の人間でもなければ用のない場所で、俺自身は足を踏み入れたことのない道だった。

「こんな方に遺構があるなんて盲点だと思います。よく見つけましたね」

「わははっ、藪の中で誰も気づかなかったみたいなんだ。キャラバンに開拓のプロがいて、彼の直感を信じて見つけた感じだよ」

 ブラスコの言葉が示すように、茂みをかき分けて進んだような痕跡がある。
 馬車を通りやすくするために、道の地ならしをしたような節も見られた。

「ここまで来たらあと少し。いよいよ到着だよ」

 人目につかないことが意識されているようで、通過できる最低限の幅しか通れないようになっている。
 竜車がさらに奥へ進むと前方に切り立った岩山がそびえており、広い空間にテントや馬車がいくつか見えた。

「社長、お戻りでしたか」

「客人を連れてきたよ」

 声をかけてきたのはベナード商会の従業員のようだ。
 ブラスコに対して低姿勢で服装がアラビアンな雰囲気だった。

「はじめまして、マルクといいます」

「私はベナード商会のエンリケ。今回のキャラバンのリーダーです」

 エンリケは三十歳前後の青年で日に焼けたような肌をしている。
 黒い短髪で引き締まった身体つき。
 精力的に働いているように見受けられた。 
 
「エンリちゃん以外は出払ってる?」

「ルカさんが安全を確認できた範囲まで、皆で見に行きました。今のところモンスターは出ていないようで、採取の中心は鉱物になりそうです」

「いいじゃん、順調だね」

 エンリケの報告を受けて、ブラスコは喜びの色を露わにした。
 金銀、あるいは銅や鉄――何が採れるか分からないにしても、ランス王国がベナード商会に優先権を認めているのなら、一定の利益が見こめる可能性がある。

「社長、そちらのマルクさんも遺構に入りますか?」

「うんうん、そのために来たんだもん」

「俺はそのつもりです。よろしくお願いします」 

 エンリケは顎に手を添えて少し考えるような間があった後、再び口を開いた。

「ルカさんが戻ってきたら、次に入るタイミングを調整してもらうとしましょう」

「それで大丈夫です。お任せするので」

「まとまったみたいだね。とりあえずまあ、婿殿とわしは休憩にしよう。エンリちゃん、お茶をよろしく」

「承知しました」

 ブラスコはのほほんとしたおじさんに見えるのだが、エンリケが素直に従っているのを見ると社長なのだなと実感する。
 そんな社長に案内されて、野外に置かれたテーブルと椅子のところに移動した。
 彼が座るのを確認して、同じように腰を下ろした。

「社長、いつもの茶葉で用意してあります。もう少ししたらどうぞ」

「あんがと。エンリちゃんもどう?」

「私はストックの確認をします。遠慮なくおくつろぎください」

 エンリケは俺たちに一礼して、この場から離れていった。
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