異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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ベナード商会と新たな遺構

懐かしい日々と師匠の手料理

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 師匠はこちらの話を遮らずに聞いてくれた。
 一通り説明できたところで、彼はおもむろに口を開いた。

「君の話はだいたい分かった。そういえば自分の店を持つことで、冒険者への未練を断ち切ろうとしていたのか?」

「最初はそれでよかったですが、なかなか割り切れるようにならなかったです」

 状況が伝わるように、アデルやハンクと食材探しや旅をしたことをかいつまんで話した。他にはその最中であった印象的な出来事も。
 師匠はそれを聞いて笑みを浮かべた。

「自分に正直なのはいいことだ。充実した日々を送っているようで何よりだ」

「仲間に恵まれました」

「師と弟子の会話もいいものだが、やはりこれで語るのもいいんじゃないか」

 師匠は二本の木剣を持ってきて、こちらに差し出した。
 それを握りしめると懐かしい感覚がよみがえった。
 
「魔法は問題ないですけど、剣の方は心配で」

「ははっ、それも理由の一つみたいだな」

 しばらく和やかな雰囲気だったが、剣を手にして対峙すると空気が一変した。
 師匠は俺以外にも冒険者を目指す弟子がおり、戦いの中で命を落とさないように訓練では真剣になる。

「先に打ってきなさい」

「はい、では――」

 間合いを見極めながら、右手で握った剣を振り下ろす。
 剣技にブランクがあるとはいえ、会心の一撃だと直感した。

 ――しかし……。 

 師匠は紙一重でそれをかわして、がら空きになった脇腹に剣を当てられた。
 木剣の重さでこの結果なのだから、金属の剣は大きな隙が生じたことが明白だ。

「参りました」

「焼肉屋の仕事は筋トレになるようだね。剣筋はそう悪くない。ただ、模擬戦も含めて、しばらく実戦から遠ざかっているのが分かる動きだ」

「はい、その通りです」

 師匠の言葉に誤りはなかった。
 ハンクの胸を借りることはなく、接近戦よりも魔法で戦うことが多かった。
 王都でカタリナを守る時になし崩し的に戦うことはあったが、それを含めても数える程度だった。

「気に病むことはない。時間の許す限り、教えられることは教えよう」

「はい、お願いします!」

 それから、俺と師匠は二人で模擬戦を繰り返した。
 休憩を挟みながら剣を交えるうちに時間が過ぎていく。
 ふと気づけば日が高くなり、昼に入っていた。

「なまっているのかと思ったが、なかなかやるじゃないか」

 師匠は木剣を下げながら言った。
 一旦、ここまでという合図だ。

「いえ、師匠の方こそ衰え知らずで。こんなに汗をかいたのは久しぶりです」

「近くに湧き水の泉がある。顔を洗ってくるといい」

「ではお先に」

 俺は荷物の中からタオル代わりの布を取り出した。
 師匠が向こうだと指先で示し、その方向へと歩いていった。

 師匠の家から少し離れたところに泉があった。
 中心から湧き出る水は透き通っており、あふれ出た水が流れて小川になっている。
 水中ではニジマスが泳いでおり、澄んだ水面を眺めるうちに呼吸が整っていく。 

 顔を洗ってさっぱりした後、師匠のところに戻ると食事の準備をしていた。
 焚き火の上に鍋が置かれており、何かを煮こんでいるようだ。
 ぐつぐつと沸騰する音が聞こえて、中からは湯気が立ちのぼっている。

「よかったら、君も食べないか?」

「ぜひ、食べさせてください」

 焚き火の周りには椅子代わりの横倒しになった丸太があり、そこに腰を下ろす。
 まるでキャンプでもしに来たような雰囲気がいい感じだ。
 やがて料理が完成して、師匠は満足そうに笑みを浮かべた。

「今日は特別なスープを用意した。野草と肉を煮込んだんだ」

 師匠がうれしそうに言い、その言葉に心が温まった。
 最初に弟子入りした時も同じように手間をかけて料理を作ってくれた。
 あの頃は未熟で師匠から教わることを吸収しようとがむしゃらだった。

 スープの入った器と木製のスプーンを受け取り、やけどしないように気をつけながら食べ始めた。
 肉の旨味と野草の風味がマッチして、素朴で美味しい味わいだった。

 食事をしながら、昔話や冒険者の情勢になどについて話した。
 久しぶりということもあり、話題が弾んで盛り上がった。

 食休みを挟んで剣の鍛錬をもう一度行った後、気づけば夕方になろうとしていた。
 一日だけではあったが、師匠の指導のおかげで冒険への不安は払拭されている。

「なかなかの出来だ。教え子の中では優秀な方だと思うよ」

「ありがとうございました。冒険者の心構えも聞けましたし、これでダンジョンに入っても大丈夫です」

「それにしても、ベナード商会のブラスコという男はやり手だ。異国で新しいダンジョンを見つけるとは。大商会を率いるだけのことはある」

「普段はのほほんとした人ですが、商才や商機への嗅覚は見習いたいところです」

「やはり、冒険者というよりも経営者になってしまったんだな」

 がははっと師匠は楽しそうに笑った。
 彼の言うことも一理あるだろう。

「今日はありがとうございました。ダンジョンから戻ったら、また伺います」

「そうだな、楽しみに待っている」

 師匠にお辞儀をして、その場を離れた。
 少し歩いてから振り返ると師匠が手を振っており、同じように振り返した。
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