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ダークエルフの帰還
エスタンブルクへの道中
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クリストフが御者をするかたちで出発した。
馬車は王都を出て街道を進んでいる。
ベナード商会の客車も揺れが少なかったが、今回の客車も快適に感じる。
王家関係者が手配しただけのことはあると思う。
出発したのは昼前だが、今日中にエスタンブルクに着くのは現実的ではなかった。
いくつか中継地点を通過して、明日の夕方か二日後のどこかで到着する予定になっている。
客車の中ではリリアが御者台寄りに腰を下ろして、地図をじっと眺めている。
彼女の様子はクリストフが迷わないよう、準備しているように見受けられた。
一方、ラーニャは腕組みをして押し黙っており、何を考えているのか推測することは難しかった。
彼女と出会ってさほど経たないが、気を遣って話しかけるのは逆効果だと学んでいる。
少なくとも今は景色でも眺めて、時間が経つのを待つとしよう。
休暇を利用した旅から戻ってきたものの、こうして馬車に揺られている。
フレヤとシリルのおかげで店は問題ないので、店主不在でもやっていける。
焼肉屋を切り盛りすることは性に合っているのだが、同じぐらい旅と冒険に魅力を感じる自分がいることを実感していた。
そんなことを考えながら、小さくため息を吐く。
経営と冒険が切り離せないのは少しばかり悩ましいところだ。
今回は遺構探索を続けたかった一方で、ラーニャのことを放っておけない気持ちも大きかった。
カタリナは人助けを王様の掲げる国是と言っていたが、そこまで立派な信念がなくとも、手の届く範囲で誰かの力になろうとする自分でいたい想いがある。
かつて冒険者になった時、焼肉屋の開業資金集めためにという理由だけでなく、人の役に立てることも理由の一つだった。
――思えば遠くまで来たものだ。
しがない冒険者だった自分が立派な店を持てるようになり、優れた技量を持つ二人と同じ馬車で移動している。
この世界に転生する前もそうだったが、人生というのは何が起きるのか分からないものだとつくづく実感する。
「すまないが、窓を開けてもいいか」
「……あ、はい」
考えごとをしていたので、ラーニャの呼びかけに反応するのが遅れた。
彼女はこちらが答えると馬車の窓をずらして開いた。
外は涼しい風が吹いているようで、車内に新鮮な空気が流れる。
「防寒着は持ってきただろうが、お前たちが思っているよりもエスタンブルクは冷える。どこか途中で服を買い足した方がいい」
「ありがとうございます。大事なことなので、クリストフにも伝えておきます」
「寒さに負けては戦いどころではない」
地図に目を向けていたリリアが応じるとラーニャはツンデレめいた反応を見せた。
俺たちが協力を示したことで、最初よりも態度が軟化しているような気がする。
現時点では彼女の話だけが根拠になっているため、心を開いてくれることが重要になるだろう。
その後は状況を見計らいながらラーニャに声をかけたり、リリアを交えて三人で話したりした。
今まで足を運んだことがない場所を通ったため、時折流れる景色に目を向けた。
そうして、日が暮れて移動が難しくなった頃。
クリストフが街道から少し離れた場所で馬車を停めた。
すでに日が沈みかけており、遠くの山々は黒い影になっている。
夕日が作り出す空のコントラストが美しかった。
俺たちは必要な荷物を手に取り、馬車の外に出た。
御者を務めてくれたくれたクリストフが背中を伸ばして、ストレッチのようなことをしている。
彼が半日近く通して手綱を握ってくれたおかげで、移動の負担が軽かった。
「今日の移動はここまで。今晩はこの村の宿屋に泊まろう」
「初めて来たんですけど、村の名前は?」
「ああ、ナロックだね。位置的には国境の近くでランス王国の領内さ」
クリストフは疲れた様子を見せずに答えた。
日頃から厳しい鍛錬を積んでいるだけはあると思った。
「そんなに広い村ではなさそうですけど、案内をお願いできますか?」
「もちろん喜んで。まずは宿屋に荷物を置きに行こう」
さわやかな笑みを浮かべながら、クリストフが村の入口へと向かった。
宿屋は村の中ほどにあり、民家を宿泊客のために改装したような素朴な雰囲気だった。
俺たちはそこで受付をして、用意されたそれぞれの部屋に荷物を置いた。
それから、村内の食堂で夕食を済ませてから早めの就寝となった。
翌朝、全員が出発の準備ができたところで、見知らぬ人物がたずねてきた。
相手の事情を聞いてみるとクリストフの風貌と装いから、腕の立つ兵士と見こんだという話だった。
他国の領内ならいざ知らず、自国の領内で頼まれてはリリアやクリストフが断るはずもない。
俺たちは案内されるまま、村内の一軒家に足を運んだ。
石造りの家で年季はあるものの、中は小ぎれいで清潔感がある。
俺たちを客間まで通した後、案内した者は席を外した。
入れ替わるように部屋の奥から白髪の老人が現れた。
「急に呼び立ててしまい、申し訳ありません。わしは村長のジョエルと申します」
ジョエルは開口一番、平身低頭な様子で名乗った。
それに対してリリアとクリストフは流れるような動きで応じた。
城内で何度か見かけることのあった、兵士の作法だったと思う。
「おお、見事に洗練された立ち振る舞い……。村の者の報告でもしやと思いましたが、王都の兵士とお見受けして間違いありませぬか?」
「はい、いかにも。私は王城の警護兵のリリア。この者はクリストフ兵長です」
リリアが自己紹介すると、ジョエルは感極まったように目元を潤ませた。
そんなにも兵士の力を借りたいとはどんな用件なのだろう。
馬車は王都を出て街道を進んでいる。
ベナード商会の客車も揺れが少なかったが、今回の客車も快適に感じる。
王家関係者が手配しただけのことはあると思う。
出発したのは昼前だが、今日中にエスタンブルクに着くのは現実的ではなかった。
いくつか中継地点を通過して、明日の夕方か二日後のどこかで到着する予定になっている。
客車の中ではリリアが御者台寄りに腰を下ろして、地図をじっと眺めている。
彼女の様子はクリストフが迷わないよう、準備しているように見受けられた。
一方、ラーニャは腕組みをして押し黙っており、何を考えているのか推測することは難しかった。
彼女と出会ってさほど経たないが、気を遣って話しかけるのは逆効果だと学んでいる。
少なくとも今は景色でも眺めて、時間が経つのを待つとしよう。
休暇を利用した旅から戻ってきたものの、こうして馬車に揺られている。
フレヤとシリルのおかげで店は問題ないので、店主不在でもやっていける。
焼肉屋を切り盛りすることは性に合っているのだが、同じぐらい旅と冒険に魅力を感じる自分がいることを実感していた。
そんなことを考えながら、小さくため息を吐く。
経営と冒険が切り離せないのは少しばかり悩ましいところだ。
今回は遺構探索を続けたかった一方で、ラーニャのことを放っておけない気持ちも大きかった。
カタリナは人助けを王様の掲げる国是と言っていたが、そこまで立派な信念がなくとも、手の届く範囲で誰かの力になろうとする自分でいたい想いがある。
かつて冒険者になった時、焼肉屋の開業資金集めためにという理由だけでなく、人の役に立てることも理由の一つだった。
――思えば遠くまで来たものだ。
しがない冒険者だった自分が立派な店を持てるようになり、優れた技量を持つ二人と同じ馬車で移動している。
この世界に転生する前もそうだったが、人生というのは何が起きるのか分からないものだとつくづく実感する。
「すまないが、窓を開けてもいいか」
「……あ、はい」
考えごとをしていたので、ラーニャの呼びかけに反応するのが遅れた。
彼女はこちらが答えると馬車の窓をずらして開いた。
外は涼しい風が吹いているようで、車内に新鮮な空気が流れる。
「防寒着は持ってきただろうが、お前たちが思っているよりもエスタンブルクは冷える。どこか途中で服を買い足した方がいい」
「ありがとうございます。大事なことなので、クリストフにも伝えておきます」
「寒さに負けては戦いどころではない」
地図に目を向けていたリリアが応じるとラーニャはツンデレめいた反応を見せた。
俺たちが協力を示したことで、最初よりも態度が軟化しているような気がする。
現時点では彼女の話だけが根拠になっているため、心を開いてくれることが重要になるだろう。
その後は状況を見計らいながらラーニャに声をかけたり、リリアを交えて三人で話したりした。
今まで足を運んだことがない場所を通ったため、時折流れる景色に目を向けた。
そうして、日が暮れて移動が難しくなった頃。
クリストフが街道から少し離れた場所で馬車を停めた。
すでに日が沈みかけており、遠くの山々は黒い影になっている。
夕日が作り出す空のコントラストが美しかった。
俺たちは必要な荷物を手に取り、馬車の外に出た。
御者を務めてくれたくれたクリストフが背中を伸ばして、ストレッチのようなことをしている。
彼が半日近く通して手綱を握ってくれたおかげで、移動の負担が軽かった。
「今日の移動はここまで。今晩はこの村の宿屋に泊まろう」
「初めて来たんですけど、村の名前は?」
「ああ、ナロックだね。位置的には国境の近くでランス王国の領内さ」
クリストフは疲れた様子を見せずに答えた。
日頃から厳しい鍛錬を積んでいるだけはあると思った。
「そんなに広い村ではなさそうですけど、案内をお願いできますか?」
「もちろん喜んで。まずは宿屋に荷物を置きに行こう」
さわやかな笑みを浮かべながら、クリストフが村の入口へと向かった。
宿屋は村の中ほどにあり、民家を宿泊客のために改装したような素朴な雰囲気だった。
俺たちはそこで受付をして、用意されたそれぞれの部屋に荷物を置いた。
それから、村内の食堂で夕食を済ませてから早めの就寝となった。
翌朝、全員が出発の準備ができたところで、見知らぬ人物がたずねてきた。
相手の事情を聞いてみるとクリストフの風貌と装いから、腕の立つ兵士と見こんだという話だった。
他国の領内ならいざ知らず、自国の領内で頼まれてはリリアやクリストフが断るはずもない。
俺たちは案内されるまま、村内の一軒家に足を運んだ。
石造りの家で年季はあるものの、中は小ぎれいで清潔感がある。
俺たちを客間まで通した後、案内した者は席を外した。
入れ替わるように部屋の奥から白髪の老人が現れた。
「急に呼び立ててしまい、申し訳ありません。わしは村長のジョエルと申します」
ジョエルは開口一番、平身低頭な様子で名乗った。
それに対してリリアとクリストフは流れるような動きで応じた。
城内で何度か見かけることのあった、兵士の作法だったと思う。
「おお、見事に洗練された立ち振る舞い……。村の者の報告でもしやと思いましたが、王都の兵士とお見受けして間違いありませぬか?」
「はい、いかにも。私は王城の警護兵のリリア。この者はクリストフ兵長です」
リリアが自己紹介すると、ジョエルは感極まったように目元を潤ませた。
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