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ダークエルフの帰還
王都を発つ
それからバタバタと慌ただしい時間がすぎていった。
クリストフが馬車を用意しようとしてくれたが、地竜の方が早いのではということを伝えて意見交換を行った。
ラーニャからはエスタンブルクはランス王国よりも寒いと聞かされて、最終的に地竜よりも馬の方がいいという結論になった。
リリアとクリストフは急なことで荷物の準備が必要となり、それまでは待つことになった。
時間がかかるそうなので、出発前にカタリナの執務室に顔を出すことにした。
彼女の部屋を訪れると事務机に積まれた書類と格闘中だった。
「今日はありがとうございました。おかげでどうにかなりそうです」
「人助けは国是でもある。国王陛下も人に親切にするようにとよく口にするのじゃ」
カタリナは作業の手を止めて、こちらを見ていた。
凛とした佇まいに誇りと力強い意志が感じられた。
「それだけの量だと大変そうですね」
「ああこれよな。これっばかりは仕方ないのう。メイドに任せるわけにもいかん」
カタリナはやれやれといった具合で苦笑いを浮かべた。
年相応の仕草が垣間見えたことで、自然と微笑ましい気持ちになる。
「暗殺機構の件は終わったはずですけど、ラーニャさんの件を通じて間接的に関わることになりました。どこでつながるか分からないもんですね」
「あの日のことは忘れられん。そなたがいなければ危ないところだったのう」
「以前は冒険者でしたし、当然のことをしたまでです」
「ランス王国は戦いから遠ざかっておる。その状況で奇襲されると脆弱さが浮き彫りになるというところじゃ。ロゼルとデュラスが戦力を整えていることを踏まえた上で、兵士を鍛えるようになったのはいい兆候じゃな」
「危ない目に遭ったというのに達観してますね。さすがにあの時は俺も肝を冷やしましたよ」
カタリナの師匠や兵士の助力がなければ、彼女も俺も生き残れたという保証はない。
ムルカで盗賊にさらわれた時よりも身の危険を感じる出来事だった。
「きちんとお礼が言いたかっただけなので、この辺で失礼します。事務作業、がんばってください」
「よかったら代わりにどうじゃ?」
「いえ、遠慮しておきます」
「ふふっ、エスタンブルクから戻ったら、また顔を出すように」
「はい、ではまた」
執務室を後にして、ラーニャが待機している部屋に移動した。
まだリリアたちの姿はなく、一人のメイドとラーニャが話しているところだった。
城の誰かが気を回したようで、ラーニャの分の着替えなどを用意しているようだ。
彼女はメイドからの質問を無愛想に答えつつ、それを聞いたメイドがメモを取りながら荷作りを進めている。
時間があればお世話になったアンにも会いたいところだが、メイド長補佐として忙しくしているだろう。
ここを不在にするとリリアたちと入れ違いになる可能性もあり、二人が戻るまで待つことにした。
窓の外の庭園を眺めたり、手の空いたメイドと世間話をしたりするうちに、リリアたちが戻ってきた。
二人ともバックパックを担いでおり、兵装から私服に着替えている。
「お待たせ。どれぐらいかかるか読めないから、時間がかかってしまったよ」
「マルク殿、待たせてしまって申し訳ない」
リリアは女性なので、クリストフよりも準備に時間がかかったのだろう。
おそらく、クリストフがさりげなくフォローしているように見える。
「いえ、こちらこそ申し訳ありません。急なのに急がせてしまって」
「エスタンブルクに行ったことがないから、何気に楽しみなんだ。最近は鍛錬がきつかったし、誰かの役に立てるなら一石二鳥ってやつさ」
敵の全貌が見えないままなのだが、クリストフは楽観的な態度だった。
俺やラーニャを気負わせないように気遣ってくれているのだ。
「馬車は用意してあるんでしたっけ?」
「それならもう押さえてある。君とラーニャさんが出発できるなら、僕とリリアはもう出られるよ」
ラーニャはメイドの協力で荷作りを終えているため、すぐに出発できる。
俺たちは四人で城を出て、馬車の停車場に移動した。
王都の停車場というだけあり、複数の馬車が停まっている。
「たくさんありますね。どれに乗るんですか?」
「ちょっと待ってよ……ああ、あれだね」
クリストフが視線で示した一台の馬車。
立派な馬が二頭でシンプルながら洗練された客車が接続されている。
「……この馬、王様が持ち主とかじゃないですよね?」
「いやいや、さすがに陛下の馬は借りられないよ」
クリストフが苦笑交じりに話を続ける。
間の抜けた質問になってしまい、照れ隠しに頭をかいた。
「持ち主はブルーム殿で、今回のために貸してくれたんだ」
「へえ、ブルームさんが」
城に仕えて長いそうなので、小金持ちであってもおかしくはない。
何だかんだで気のいいところがあり、今回の件に際して気遣ってくれたのだろう。
俺たちは順番に荷物を積んだ後に誰が御者をするのか話し合った。
クリストフが率先して引き受けてくれたことで、短い時間でまとまった。
俺やリリアが交代可能なため、適宜ローテーションすることもできる。
彼は貴重な戦力なので、疲労が溜まらないように気を配りたいところだ。
あとがき
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
エールやいいねなども励みになっています。
「魔王討伐のために勇者召喚されたんだが、チートスキル【未来予知】では魔王を倒せない件~がっかり追放から始まる異世界生活~」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/503630148/289876920
こちらの作品で第4回ファンタジーカップにエントリーしています。
本作に興味を持たれた方は読んで頂けましたら、うれしく思います。
クリストフが馬車を用意しようとしてくれたが、地竜の方が早いのではということを伝えて意見交換を行った。
ラーニャからはエスタンブルクはランス王国よりも寒いと聞かされて、最終的に地竜よりも馬の方がいいという結論になった。
リリアとクリストフは急なことで荷物の準備が必要となり、それまでは待つことになった。
時間がかかるそうなので、出発前にカタリナの執務室に顔を出すことにした。
彼女の部屋を訪れると事務机に積まれた書類と格闘中だった。
「今日はありがとうございました。おかげでどうにかなりそうです」
「人助けは国是でもある。国王陛下も人に親切にするようにとよく口にするのじゃ」
カタリナは作業の手を止めて、こちらを見ていた。
凛とした佇まいに誇りと力強い意志が感じられた。
「それだけの量だと大変そうですね」
「ああこれよな。これっばかりは仕方ないのう。メイドに任せるわけにもいかん」
カタリナはやれやれといった具合で苦笑いを浮かべた。
年相応の仕草が垣間見えたことで、自然と微笑ましい気持ちになる。
「暗殺機構の件は終わったはずですけど、ラーニャさんの件を通じて間接的に関わることになりました。どこでつながるか分からないもんですね」
「あの日のことは忘れられん。そなたがいなければ危ないところだったのう」
「以前は冒険者でしたし、当然のことをしたまでです」
「ランス王国は戦いから遠ざかっておる。その状況で奇襲されると脆弱さが浮き彫りになるというところじゃ。ロゼルとデュラスが戦力を整えていることを踏まえた上で、兵士を鍛えるようになったのはいい兆候じゃな」
「危ない目に遭ったというのに達観してますね。さすがにあの時は俺も肝を冷やしましたよ」
カタリナの師匠や兵士の助力がなければ、彼女も俺も生き残れたという保証はない。
ムルカで盗賊にさらわれた時よりも身の危険を感じる出来事だった。
「きちんとお礼が言いたかっただけなので、この辺で失礼します。事務作業、がんばってください」
「よかったら代わりにどうじゃ?」
「いえ、遠慮しておきます」
「ふふっ、エスタンブルクから戻ったら、また顔を出すように」
「はい、ではまた」
執務室を後にして、ラーニャが待機している部屋に移動した。
まだリリアたちの姿はなく、一人のメイドとラーニャが話しているところだった。
城の誰かが気を回したようで、ラーニャの分の着替えなどを用意しているようだ。
彼女はメイドからの質問を無愛想に答えつつ、それを聞いたメイドがメモを取りながら荷作りを進めている。
時間があればお世話になったアンにも会いたいところだが、メイド長補佐として忙しくしているだろう。
ここを不在にするとリリアたちと入れ違いになる可能性もあり、二人が戻るまで待つことにした。
窓の外の庭園を眺めたり、手の空いたメイドと世間話をしたりするうちに、リリアたちが戻ってきた。
二人ともバックパックを担いでおり、兵装から私服に着替えている。
「お待たせ。どれぐらいかかるか読めないから、時間がかかってしまったよ」
「マルク殿、待たせてしまって申し訳ない」
リリアは女性なので、クリストフよりも準備に時間がかかったのだろう。
おそらく、クリストフがさりげなくフォローしているように見える。
「いえ、こちらこそ申し訳ありません。急なのに急がせてしまって」
「エスタンブルクに行ったことがないから、何気に楽しみなんだ。最近は鍛錬がきつかったし、誰かの役に立てるなら一石二鳥ってやつさ」
敵の全貌が見えないままなのだが、クリストフは楽観的な態度だった。
俺やラーニャを気負わせないように気遣ってくれているのだ。
「馬車は用意してあるんでしたっけ?」
「それならもう押さえてある。君とラーニャさんが出発できるなら、僕とリリアはもう出られるよ」
ラーニャはメイドの協力で荷作りを終えているため、すぐに出発できる。
俺たちは四人で城を出て、馬車の停車場に移動した。
王都の停車場というだけあり、複数の馬車が停まっている。
「たくさんありますね。どれに乗るんですか?」
「ちょっと待ってよ……ああ、あれだね」
クリストフが視線で示した一台の馬車。
立派な馬が二頭でシンプルながら洗練された客車が接続されている。
「……この馬、王様が持ち主とかじゃないですよね?」
「いやいや、さすがに陛下の馬は借りられないよ」
クリストフが苦笑交じりに話を続ける。
間の抜けた質問になってしまい、照れ隠しに頭をかいた。
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「へえ、ブルームさんが」
城に仕えて長いそうなので、小金持ちであってもおかしくはない。
何だかんだで気のいいところがあり、今回の件に際して気遣ってくれたのだろう。
俺たちは順番に荷物を積んだ後に誰が御者をするのか話し合った。
クリストフが率先して引き受けてくれたことで、短い時間でまとまった。
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あとがき
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
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