異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
416 / 555
ダークエルフの帰還

ドラゴンスレイヤー

しおりを挟む
 ラーニャの指示を受けて、クリストフはレッドドラゴンの近くに移動した。
 呼吸を整えるようにそっと目を閉じた後、カッと目を見開いて真上に跳躍した。

 剣を上段に構えて重力を味方につけるように振り下ろす。
 レッドドラゴンは凍りついていたが、固いことなど無意味なようにスパッと刃が通り抜けた。
 腕っぷし任せではない、流れるような一振りだった。
 剣の切れ味がいいこともあると思うが、レッドドラゴンの首と胴体が真っ二つに分かれている。

「いやー、君たちの魔法はとんでもないね!」

 クリストフは開口一番、にこやかな表情で言った。
 満面の笑みを浮かべる彼を前にして照れくさい気持ちになる。

「ラーニャさんの魔法が強力だったので。俺は力を加えた程度です」

「マルク殿も見事でした。これは力を合わせた結果でしょう。仲間として誇らしいです」

 ふと気づけばリリアが近くに来ていた。
 仲間という言葉に認められたことへの喜びを覚えた。

「これからどうします? モンスター使いを追うのは難しそうですけど」

 レッドドラゴンの亡き骸の近くで話を続ける。
 ラーニャとクリストフも加わり、四人で輪の状態になった。

「僕らは地理に詳しくないから、追跡は危険だと思うよ。ドラゴンをそのままにしておけないし、まずは村の人と協力して片づけよう」

「そうですね。まずはそうしましょうか」

 俺とラーニャが残り、リリアとクリストフが村へと引き返すことになった。
 日頃から鍛えている二人が戻る方が早いためだ。

 リリアたちが離れて、ラーニャと二人きりになる。
 ひとまず、近くの座りやすそうな切り株に腰を下ろした。 
 彼女も手近なところに座った。

「気になったことがあるんですけど、たずねてもいいです?」

「どんなことだ。言ってみろ」

 鋭い目線はそのままに、ラーニャは無愛想な声で応じた。
 相変わらずな様子ではあるが、取りつく島もないというほどではない。

「あれだけの魔法があれば、そこらの山賊が相手なら蹴散らせると思いました。人質を取られたのは痛かったですね」

「それだけではない。後手に回ったのがよくなかった……」

 ラーニャはそれだけ口にして、後悔を表すように俯きがちになった。
 意図したわけではないが、デリケートなことを訊いてしまった気がした。

「相手がどうあっても、今回は成功させましょう。ダークエルフの人たちを解放できるように」

「……そうだな」

 ラーニャは初めて笑みを見せた。
 不器用でぎこちない表情を浮かべる彼女を前にして、ほんのわずかでも心を許してくれてよかったと思った。

 その後は会話が途切れ、しばらくしてリリアたちが戻ってきた。
 村の人たちが協力してくれるようで、後ろに数人が続いている。
 
「いやはや、グレイエイプだけでなく、ドラゴンまで出るようになったとは……。皆さんがいなければ、危うい状況でした。心からお礼を言わせてください」

 レッドドラゴンの近くに集まったところで、村長のジョエルが深々と頭を下げた。
 彼に合わせるように他の村人もそれに続いた。

「ナロック村の方々、どうか頭を上げてください」

 リリアが優しげな表情で諭すように伝えた。
 おそらく、村で報告した時も同じ場面があったのだと想像できた。

「竜退治となれば、どれだけの報酬が必要なのか見当もつきません。どう感謝を伝えればいいのやら」 

「先ほど聞いた限りでは、あちらのダークエルフの女性がドラゴンを倒されたのでしょうか?」

 ジョエルはおろおろとしており、村人の一人がラーニャについてたずねた。
 それを受けてリリアがうれしそうに応じる。

「はい、その通りです。彼女がいなければ、ここまで簡単にはいきませんでした」

「危険な相手によくぞ立ち向かってくださいました。本当にありがとうございます」

「「「ありがとうございます!」」」

 村人たちに感謝されて、ラーニャは照れくさそうにそっぽを向いた。
 それでも、まんざらでもないようで、彼らに応じようとしている。

「あの程度のドラゴン、どうといったことはない。それにもっと大きなものもいる」

「ひぇっ、これよりも大きいのがいるんだってさ」

 村人の一人が心底から怖がるような声を上げた。
 抵抗する術(すべ)がなければ、嵐がやってくるようなものだろう。
 かき消すことはできず、災禍が去ることを息を潜めて待つことしかできない。  

 近づいて眺めてみると、その巨体に圧倒される。
 固く赤い鱗に覆われており、これを解体するのは苦労しそうだ。
 そんな杞憂を打ち払うようにジョエルが首の落ちた胴体を叩いた。
 ペチペチと気の抜けるような音がしている。

「わしらはイノシシを解体することもあります。鱗さえ剥がせれば、あとはどうにかなるでしょうな」

「それなら、僕らの剣が一役買えそうだね。リリアと二人でやってみるよ」

「国王陛下に認められた鍛冶師が作っているので、実はちょっとした名剣です」

 鞘から剣を引き抜いたリリアが遠慮がちに言った。
 村人たちが持ってきた鉈は解体向きだが、切れ味の面ではリリアたちの方が上だろう。
 仕事の早い二人はすぐさま鱗を剥がすように剣を振り始めた。


 あとがき
 いつも読んで頂き、ありがとうございます。
 応援、エールなど励みになっています。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

過労死して転生したら『万能農具』を授かったので、辺境でスローライフを始めたら、聖獣やエルフ、王女様まで集まってきて国ごと救うことになりました

黒崎隼人
ファンタジー
過労の果てに命を落とした青年が転生したのは、痩せた土地が広がる辺境の村。彼に与えられたのは『万能農具』という一見地味なチート能力だった。しかしその力は寂れた村を豊かな楽園へと変え、心優しきエルフや商才に長けた獣人、そして国の未来を憂う王女といった、かけがえのない仲間たちとの絆を育んでいく。 これは一本のクワから始まる、食と笑い、もふもふに満ちた心温まる異世界農業ファンタジー。やがて一人の男のささやかな願いが、国さえも救う大きな奇跡を呼び起こす物語。

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。 しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて…… テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

神様の人選ミスで死んじゃった!? 異世界で授けられた万能ボックスでいざスローライフ冒険!

さかき原枝都は
ファンタジー
光と影が交錯する世界で、希望と調和を求めて進む冒険者たちの物語 会社員として平凡な日々を送っていた七樹陽介は、神様のミスによって突然の死を迎える。そして異世界で新たな人生を送ることを提案された彼は、万能アイテムボックスという特別な力を手に冒険を始める。 平穏な村で新たな絆を築きながら、自分の居場所を見つける陽介。しかし、彼の前には隠された力や使命、そして未知なる冒険が待ち受ける! 「万能ボックス」の謎と仲間たちとの絆が交差するこの物語は、笑いあり、感動ありの異世界スローライフファンタジー。陽介が紡ぐ第二の人生、その行く先には何が待っているのか——?

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

処理中です...