異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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ダークエルフの帰還

取り戻した日常

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 ヒイラギの兵士たちと山賊の拠点を攻略してから、俺とリリア、クリストフの三人はエスタンブルクの市街からヒイラギに通う日々が続いている。
 ラーニャの仲間たちは助け出されたものの、すでにダークエルフの里はなくなってしまっている。
 そのため、ラーニャを含めたダークエルフたちはヒイラギの宿舎で寝泊まりしていた。

 リリアとクリストフはダイモンと一緒に鍛錬を続けているが、すでに冒険者を引退している俺は調理場に出入りしている。
 料理担当の人と意見を交換したり、いい肉が手に入った時は焼肉を振る舞ったりするような状況だ。
 転生前の記憶が影響するようで日本人っぽい外見の彼らと交流していると、どこか落ちつくような感覚を覚えた。

 初めて訪れた時にエスタンブルクは雪国のイメージが強かったが、少しずつ雪解けが始まって季節の移り変わりを実感している。
 時々、自分の店の状況が気になることもあるが、ここから戻る場合はずいぶんと時間がかかる。
 それに平穏を取り戻したラーニャのことを気にかける面もあった。
 
 さらに季節は進んでエスタンブルクとヒイラギに春が訪れた。
 通い慣れた道を通ってエスタンブルクの宿からヒイラギに向かうと、入り口の辺りに小さな桜の木に花が咲いていた。
 つぼみが見え始めた時にヒイラギの人に聞いたところによれば、サクラギから運びやすいものを選んで植樹したらしい。

 桜の花に惹かれつつ、入り口を通過してヒイラギの領地の中ほどに向かう。
 しばらく進んだ先に新しい畑があり、そこでラーニャを含めたダークエルフたちが作業していた。
 冬季から夏季に向かう季節なら農業が可能なため、何か役に立てることはないかとダークエルフたちが申し出たそうだ。

「おはようございます。朝から精が出ますね」

「おや、マルクか」

 作業着を身につけたラーニャがこちらを振り返った。 
 その手には農作業のための道具が握られている。

「ダークエルフの皆さんもおはようございます」

 こちらから声をかけると、ダークエルフたちは恥ずかしそうに会釈した。
 ラーニャも控えめな性格なのだが、ダークエルフたちも物静かな人が多い。
 山賊に襲撃される前はひっそりと暮らしていたようなので、一般的なイメージのエルフと似たような生活を好むそうだ。
 アデルの家族も田舎に住んでいたので、エルフとダークエルフでも共通点はあるのかもしれない。

 リリアとクリストフはダイモンのところで鍛錬をしたりするのだが、俺のように冒険者を引退している立場では必要のないことだった。
 それに卓越した剣術を誇る猛者揃いの場において、俺自身の実力では気を遣わせてしまう。
 だからといって何もしないのは手持ち無沙汰なため、ラーニャたちが農作業をしている時は雑草取りなどの手伝いをすることにしている。

「……私たちを放っておいて、故郷に帰ってもいいぞ」

「好きでやっているのでお構いなく。それとモモカさんが肉料理に夢中になったみたいで、もうしばらくヒイラギにいるつもりです」

「そうか。それなら仕方ない」

 こんなふうに何気ない言葉を交わしながら、雑草を一本ずつ抜いていく。
 雪が解けて春になったとはいえ空気はまだ冷たさを感じ、指先はかじかむような感覚になる。
 ラーニャたちのためにヒイラギから手袋が用意されたが、俺自身は手伝い程度の作業しかしないため、素手で雑草取りをしていた。 

 時折、ダークエルフたちに目を向けると農作業に精を出している。
 囚われた時間を取り戻そうとするかのように、熱心な姿を見ていると感心させられる思いだった。
 
 暖かくなったことで雑草が増えており、丁寧に抜くうちに時間が経過した。
 気づけば昼時になっていて、ヒイラギの兵士が昼食の時間だと伝えにきた。

 ここで農作業をする日々が続いているからか、ダークエルフたちはその伝言を聞いた後、作業の手を止めて昼食の準備を始めた。
 俺が手伝うまでもなく昼食の用意が整い、畑の脇に切り株をあつらえた即席の椅子がいくつか並び、人数分の食事が配られた。

 同じ場所で見た光景だが、ヒイラギの調理場から汁物とおにぎりを運んできて、外で食べるのだ。
 ダークエルフたちは食堂で食べることを遠慮しているのと、外で食事をする習慣があるため、こうして畑の近くで昼食になることが多いそうだ。

「ああ、俺の分までありがとうございます」

「草むしりをしてくれたお礼だよ」

 ダークエルフの中でも高齢の女性が気遣うように言った。
 その優しさに感謝しつつ、空いた椅子に腰を下ろす。
 机もダークエルフお手製で用意されており、その上に味噌汁の入った椀と竹の皮のようなものに包まれたおにぎりがある。 

 サクラギの出身者は箸を使って食べるのだが、当然ながら和の文化につながりのないダークエルフたちは箸では食べにくくなってしまう。
 そのため、木を削って作られた手作り感のあるスプーンが添えられていた。
 ヒイラギでは兵士が木工職人を兼ねており、食事用にあつらえたのだろう。
 こういったところからも人々の優しさを感じることができる。

 色んな具材の浮かぶ味噌汁をすすると、じんわりと身体が温まる感じがした。
 エスタンブルクにほど近いヒイラギは初春が訪れたばかりで、時折吹く風には冷たさが残っている。
 それもあって、温かい汁物は最良の組み合わせだと思った。
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