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ダークエルフの帰還
夕景と雪の庭園
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ダイモンは歴戦の兵士という貫禄があるものの、モモカに関しては二十歳になるかならない程度の若い娘なのだ。
そんなモモカが間接的にとはいえ、敵を殺めることになった立場を無視できるはずもなかった。
見たままの印象ならば、そこまで冷徹な人物とは思えない。
人対人の戦いはモンスターを討伐するのとはわけが違う。
俺自身が冒険者時代に盗賊討伐などの人と相対する依頼を避けがちだったことにもつながってくる。
例外的に他者の命を奪うことを躊躇しない者もいたが、そんなケースはごく一部だった。
Bクラス以上の腕利きでさえも、一度も人を殺めたことがない冒険者は存在する。
特に平和が続いているランス王国周辺では一般的ではないのだ。
モモカと出会って間もないせいか会話が弾むことはなく、縁側から見える雪の積もる庭園に意識が向きがちだった。
植木の生え方や石の置き方に和の趣きがあることで自然と見入ってしまう。
炊事係がいるぐらいなので、庭の手入れを目的に庭師もいるのだろうか。
さらに遠くの山々に目を向けると夕日が浮かび、積雪を明るい橙色で染め上げる光景は風情が感じられた。
日本人としてではなくランス王国で生まれ育ったマルクとして見ても、この空間は絶妙なバランスがあると思った。
そんな光景に意識を向けながら、時間が経過することも意識していた。
モモカは立場のある身ということもあってか、気遣いから話をしようという素振りは見られなかった。
何を考えているかは分からないが、沈黙が続きすぎるのも気まずい感じがした。
「……ミズキさんは当主の娘にしては気楽に見えますけど、モモカさんは大変の立場は大変ですね。ヒイラギはサクラギから離れていて、討伐するまでは山賊がいたので、それにサクラギと比べるとエスタンブルク周辺は雪と寒さも」
思いついたことを口にすると、モモカは正面を向いたままこちらの言葉に反応するような素振りを見せた。
「ミズキはゼントク様の後継者になることが決まっているから、今は気楽に見えてもいずれは責任ある立場になるのよ。私はサクラギの町も人も好きだけど、離れた土地のことを知りたかったから、ここに来てよかったと思ってる」
モモカはそう言った後、美しい所作で湯吞みを口につけた。
力みがなく自然な振る舞いに見えるが、彼女の整った顔立ちと雪の庭園が相まって、見惚れるような姿に見えた。
ミズキの親戚ということもあってか、どこか似たような面影を感じる。
「サクラギは平和なのに兵士の人たちはすごいです。それは俺の故郷でも同じですけど、誰かを守るために鍛錬を続ける姿勢は素直に尊敬します」
「ゼントク様の祖先が周辺国を平定した歴史があるから。国としてまとまりがあるし、反乱なんて起きるわけないけど、家訓としてもしもに備えるようにしてるらしいわ。サクラギ随一のダイモンをヒイラギに派遣させたのは、腕がなまらないように見分を広めさせる目的があったのかもね」
ミズキのように分かりやすい性格ではないものの、モモカが内心を打ち明けてくれたことで、いくらか距離が縮まったような気がした。
「――モモカ様、失礼します」
そこに気配はなかったはずだが、物音を立てずにアンズが現れた。
少し驚きつつ、モモカとアンズの様子を見守ることにした。
「どうしたの? 何かあった?」
「山賊の残党を追っていた間諜(かんちょう)から報告が」
アンズ手短に告げた後、こちらを一瞥した。
俺の耳に入れていいのか決めかねている様子だ。
「どのみち客人の耳にも入るから、気にせずに話して」
「承知しました」
主君の許可を得て、アンズは端的に状況説明を始めた。
どうやら、山賊の残党がエスタンブルクの隣国に逃げ延びたとのことだ。
エスタンブルクの領内なら友好関係があるため、サクラギから訪れた面々が動き回っても問題ないみたいだが、隣国とは関係が作れていないらしい。
それに加えてその国とエスタンブルクも良好とは言えない状態のため、間諜による追跡までが限界のようだ。
「あの一つよろしいですか?」
俺がそう切り出すとモモカとアンズは互いに顔を見合わせた。
そして、モモカがうなずいて答えようと口を開く。
「気になることでもある?」
「残党とはいえ壊滅状態だったので、ヒイラギに反撃することはないですよね」
「おそらく、そうだと思うわ。にらみ合いが続いていただけで、過去の因縁があるわけでもなし。今回のことで反感を買ったとしても、こちら側が圧倒的だったから……」
モモカはそこまで言った後、アンズに視線を向けた。
アンズは小さくせき払いをして、引き継ぐように話し始めた。
「隣国のアルビーズは我々と矛を交えたところで得るものがない。それにエスタンブルクとて、忌々しく思いながらも見逃していた山賊どもに加勢したとなれば、指をくわえて黙っているわけがなかろう」
エスタンブルクの街を散策したものの、そういった情報は初耳だった。
サクラギと対等に見える関係を築いているので、国の規模を考慮しても弱小国ということはないようだ。
「なるほど、それを聞いて安心しました。戦いが続くなんて気が滅入るので」
「うん、それには同意するわ」
モモカは小さく首肯して同意を示した。
庭園のしみ入るような静けさに浸りながら、訪れた平穏が続くことを願うばかりだった。
そんなモモカが間接的にとはいえ、敵を殺めることになった立場を無視できるはずもなかった。
見たままの印象ならば、そこまで冷徹な人物とは思えない。
人対人の戦いはモンスターを討伐するのとはわけが違う。
俺自身が冒険者時代に盗賊討伐などの人と相対する依頼を避けがちだったことにもつながってくる。
例外的に他者の命を奪うことを躊躇しない者もいたが、そんなケースはごく一部だった。
Bクラス以上の腕利きでさえも、一度も人を殺めたことがない冒険者は存在する。
特に平和が続いているランス王国周辺では一般的ではないのだ。
モモカと出会って間もないせいか会話が弾むことはなく、縁側から見える雪の積もる庭園に意識が向きがちだった。
植木の生え方や石の置き方に和の趣きがあることで自然と見入ってしまう。
炊事係がいるぐらいなので、庭の手入れを目的に庭師もいるのだろうか。
さらに遠くの山々に目を向けると夕日が浮かび、積雪を明るい橙色で染め上げる光景は風情が感じられた。
日本人としてではなくランス王国で生まれ育ったマルクとして見ても、この空間は絶妙なバランスがあると思った。
そんな光景に意識を向けながら、時間が経過することも意識していた。
モモカは立場のある身ということもあってか、気遣いから話をしようという素振りは見られなかった。
何を考えているかは分からないが、沈黙が続きすぎるのも気まずい感じがした。
「……ミズキさんは当主の娘にしては気楽に見えますけど、モモカさんは大変の立場は大変ですね。ヒイラギはサクラギから離れていて、討伐するまでは山賊がいたので、それにサクラギと比べるとエスタンブルク周辺は雪と寒さも」
思いついたことを口にすると、モモカは正面を向いたままこちらの言葉に反応するような素振りを見せた。
「ミズキはゼントク様の後継者になることが決まっているから、今は気楽に見えてもいずれは責任ある立場になるのよ。私はサクラギの町も人も好きだけど、離れた土地のことを知りたかったから、ここに来てよかったと思ってる」
モモカはそう言った後、美しい所作で湯吞みを口につけた。
力みがなく自然な振る舞いに見えるが、彼女の整った顔立ちと雪の庭園が相まって、見惚れるような姿に見えた。
ミズキの親戚ということもあってか、どこか似たような面影を感じる。
「サクラギは平和なのに兵士の人たちはすごいです。それは俺の故郷でも同じですけど、誰かを守るために鍛錬を続ける姿勢は素直に尊敬します」
「ゼントク様の祖先が周辺国を平定した歴史があるから。国としてまとまりがあるし、反乱なんて起きるわけないけど、家訓としてもしもに備えるようにしてるらしいわ。サクラギ随一のダイモンをヒイラギに派遣させたのは、腕がなまらないように見分を広めさせる目的があったのかもね」
ミズキのように分かりやすい性格ではないものの、モモカが内心を打ち明けてくれたことで、いくらか距離が縮まったような気がした。
「――モモカ様、失礼します」
そこに気配はなかったはずだが、物音を立てずにアンズが現れた。
少し驚きつつ、モモカとアンズの様子を見守ることにした。
「どうしたの? 何かあった?」
「山賊の残党を追っていた間諜(かんちょう)から報告が」
アンズ手短に告げた後、こちらを一瞥した。
俺の耳に入れていいのか決めかねている様子だ。
「どのみち客人の耳にも入るから、気にせずに話して」
「承知しました」
主君の許可を得て、アンズは端的に状況説明を始めた。
どうやら、山賊の残党がエスタンブルクの隣国に逃げ延びたとのことだ。
エスタンブルクの領内なら友好関係があるため、サクラギから訪れた面々が動き回っても問題ないみたいだが、隣国とは関係が作れていないらしい。
それに加えてその国とエスタンブルクも良好とは言えない状態のため、間諜による追跡までが限界のようだ。
「あの一つよろしいですか?」
俺がそう切り出すとモモカとアンズは互いに顔を見合わせた。
そして、モモカがうなずいて答えようと口を開く。
「気になることでもある?」
「残党とはいえ壊滅状態だったので、ヒイラギに反撃することはないですよね」
「おそらく、そうだと思うわ。にらみ合いが続いていただけで、過去の因縁があるわけでもなし。今回のことで反感を買ったとしても、こちら側が圧倒的だったから……」
モモカはそこまで言った後、アンズに視線を向けた。
アンズは小さくせき払いをして、引き継ぐように話し始めた。
「隣国のアルビーズは我々と矛を交えたところで得るものがない。それにエスタンブルクとて、忌々しく思いながらも見逃していた山賊どもに加勢したとなれば、指をくわえて黙っているわけがなかろう」
エスタンブルクの街を散策したものの、そういった情報は初耳だった。
サクラギと対等に見える関係を築いているので、国の規模を考慮しても弱小国ということはないようだ。
「なるほど、それを聞いて安心しました。戦いが続くなんて気が滅入るので」
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