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はじめての異世界 ―ウィリデ探訪編―
魔術学校・実用コース
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翌朝、目が覚めると不思議な気分だった。
タイムスリップしたように古めかしさを感じる慣れない室内の雰囲気。
俺は部屋を出て水瓶(みずがめ)に汲んである水で顔を洗った。
部屋に戻って身支度をして外に出ると、爽やかな朝だった。
「カナタさん、おはようございます」
のんびりと朝の空気を吸い込んでいると話しかけられた。
顔を向けると宿舎で働いている少女が立っていた。
「ミチル、おはよう」
彼女は小柄な体格で、肩まで伸びた白銀の髪の毛がきれいだった。
丸く大きな瞳が印象に残り、可愛らしい妹みたいな感じを受ける。年長者なら理想の娘みたいとでも評すのだろうか。
「今から朝食を用意しますね、失礼します」
「うん、よろしく」
俺が部屋に戻って少し経つと、朝食が運ばれてきた。
今までルームサービスみたいなものを受けたことがないので、思わず感動を覚える瞬間だった。
小ぶりのパンと林檎のような果物が乗った皿、それに温められたスープが入った器がテーブルに置かれた。
「……あっ、ごめんなさい。果物を切るのを忘れちゃいました。すぐに準備するので待っててください」
ミチルは慌てた様子で部屋を出ると、短い時間で戻ってきた。
「お待たせしました」
「いいよ、急がなくても大丈夫」
中学生ぐらいの年齢の女の子があくせく働いているのは何だか気の毒に思えてしまった。事情は分からないが、意外とこちらの世界では普通なのかもしれない。
彼女に皮をむいてもらった林檎のようなもの、というか味だけなら林檎そのものな果物はみずみずしくておいしかった。
やがて出発の時間になり、俺は宿舎を出た。
今日も魔術学校の訓練があるため、出席する必要があった。
古きよきヨーロッパの街並みというキャッチコピーがつきそうな景色が広がる。
俺はそんな街並みを横目に見ながら、郊外の修練場へと向かった
こちらの太陽でも充電できるソーラー時計を部屋に置いてあるが、1日が24時間ではないらしいので少々実用性に欠ける。
そのため、俺はこの国の人たちが目覚めの鐘と呼んでいる鐘の音を基準に行動していた。
日の出からしばらくして、城から街へと鐘の音がつらなり、その音が聞こえたら国民のほぼ全てが仕事を始めたり、一日の活動を開始したりするそうだ。
そうなると城内に時間を測れる人間がいそうなものだが、何度か聞いた感じではある程度誤差がある。
異世界歴が長い村川の話では日没から日の出がほぼ一定なので、この国の人たちは肌感覚で時間が分かるのではないかと分析しているそうだ。
これでは太陽が不自然な動きをしていることになるが、ここが地球ではないことの証明にもなるため調査するとも聞いていた。まだまだ分からないことだらけだ。
衛兵に朝のあいさつをして、街の外に出ると修練場に続く街道を進んだ。
同じ方面へ用事がある人は少ないようで、農夫らしき人を見かける程度だった。
周囲には短い背丈の草原が広がり、時折吹き抜ける風が波打つような景色を作り出している。整った道を脇にそれて進むと、その先に他の生徒たちが集まっているのが目に入った。
「早めに来るなんて、みんな真面目なんだよな」
講師のエレノア先生がいないので、暇を持て余しているように見える者、雑談に興じる者がいた。
彼らは俺の方をちらりと一瞥したが、またすぐに視線を元の位置に戻した。
お互いに外国人ということになるので、何を話せばいいのか分からないだろう。
そこまで打ち解けたわけでもなく、まだ距離を感じるので、無理に話しかけるのはやめておくことにした。
少しするとエレノア先生がやってきて、朝礼が行われた。
生徒が全員いるか確認が済み、実用コースの修練が始まった。
「今日は二人一組になって、攻撃魔術と防御魔術の練習をしてもらいます」
それからここまでの復習をかねて説明があった。
攻撃よりも防御が重要とのことで、ケガ防止のための細かい解説が入った。
「今日は初歩的な防御をするために、この盾をイメージして防御魔法を試してもらいたいと思います」
エレノア先生はきれいに切り取った分厚い木材――という名の盾を両手で掲げて示した。
たしかにイメージはしやすいものの、魔術という未知のエネルギーを防御するには何だか頼りない気がした。
もっとも、他の生徒達は魔術の存在する世界の住人ということもあって、特に不安そうな素振りを見せなかった。
レクチャーの後に最初の二人が指名されたが、自分以外の生徒だった。
すぐに順番が回ってこないと知り、ほっと胸をなでおろした。
子どもの頃から、発表会で一番手になるとガチガチになりやすいタイプなのだ。
俺が安心していると、すぐに最初のペアの実技が始まった。
男性と女性のペアで、男性の方が20センチほどの水塊を放った。
女性の方は両手を身体の正面に突き出し、防御の姿勢をとった。
面白いもので、攻撃は目に見えるかたちで顕現するのに、防御は発動しても可視化されない。何とも不思議な光景だ。
そして、女性は防御に成功したようで水塊は何かにぶつかったように霧散した。
「はい、よくできました。防御役の人がケガするといけないので、攻撃役の人はあれぐらいの強さでお願いしますね」
「――はい」
カリキュラムの内容が簡単なのか、講師が教え上手なのか分からないが、どの生徒も首尾よく攻撃と防御に成功していた。そして、俺の順番が回ってきた。
タイムスリップしたように古めかしさを感じる慣れない室内の雰囲気。
俺は部屋を出て水瓶(みずがめ)に汲んである水で顔を洗った。
部屋に戻って身支度をして外に出ると、爽やかな朝だった。
「カナタさん、おはようございます」
のんびりと朝の空気を吸い込んでいると話しかけられた。
顔を向けると宿舎で働いている少女が立っていた。
「ミチル、おはよう」
彼女は小柄な体格で、肩まで伸びた白銀の髪の毛がきれいだった。
丸く大きな瞳が印象に残り、可愛らしい妹みたいな感じを受ける。年長者なら理想の娘みたいとでも評すのだろうか。
「今から朝食を用意しますね、失礼します」
「うん、よろしく」
俺が部屋に戻って少し経つと、朝食が運ばれてきた。
今までルームサービスみたいなものを受けたことがないので、思わず感動を覚える瞬間だった。
小ぶりのパンと林檎のような果物が乗った皿、それに温められたスープが入った器がテーブルに置かれた。
「……あっ、ごめんなさい。果物を切るのを忘れちゃいました。すぐに準備するので待っててください」
ミチルは慌てた様子で部屋を出ると、短い時間で戻ってきた。
「お待たせしました」
「いいよ、急がなくても大丈夫」
中学生ぐらいの年齢の女の子があくせく働いているのは何だか気の毒に思えてしまった。事情は分からないが、意外とこちらの世界では普通なのかもしれない。
彼女に皮をむいてもらった林檎のようなもの、というか味だけなら林檎そのものな果物はみずみずしくておいしかった。
やがて出発の時間になり、俺は宿舎を出た。
今日も魔術学校の訓練があるため、出席する必要があった。
古きよきヨーロッパの街並みというキャッチコピーがつきそうな景色が広がる。
俺はそんな街並みを横目に見ながら、郊外の修練場へと向かった
こちらの太陽でも充電できるソーラー時計を部屋に置いてあるが、1日が24時間ではないらしいので少々実用性に欠ける。
そのため、俺はこの国の人たちが目覚めの鐘と呼んでいる鐘の音を基準に行動していた。
日の出からしばらくして、城から街へと鐘の音がつらなり、その音が聞こえたら国民のほぼ全てが仕事を始めたり、一日の活動を開始したりするそうだ。
そうなると城内に時間を測れる人間がいそうなものだが、何度か聞いた感じではある程度誤差がある。
異世界歴が長い村川の話では日没から日の出がほぼ一定なので、この国の人たちは肌感覚で時間が分かるのではないかと分析しているそうだ。
これでは太陽が不自然な動きをしていることになるが、ここが地球ではないことの証明にもなるため調査するとも聞いていた。まだまだ分からないことだらけだ。
衛兵に朝のあいさつをして、街の外に出ると修練場に続く街道を進んだ。
同じ方面へ用事がある人は少ないようで、農夫らしき人を見かける程度だった。
周囲には短い背丈の草原が広がり、時折吹き抜ける風が波打つような景色を作り出している。整った道を脇にそれて進むと、その先に他の生徒たちが集まっているのが目に入った。
「早めに来るなんて、みんな真面目なんだよな」
講師のエレノア先生がいないので、暇を持て余しているように見える者、雑談に興じる者がいた。
彼らは俺の方をちらりと一瞥したが、またすぐに視線を元の位置に戻した。
お互いに外国人ということになるので、何を話せばいいのか分からないだろう。
そこまで打ち解けたわけでもなく、まだ距離を感じるので、無理に話しかけるのはやめておくことにした。
少しするとエレノア先生がやってきて、朝礼が行われた。
生徒が全員いるか確認が済み、実用コースの修練が始まった。
「今日は二人一組になって、攻撃魔術と防御魔術の練習をしてもらいます」
それからここまでの復習をかねて説明があった。
攻撃よりも防御が重要とのことで、ケガ防止のための細かい解説が入った。
「今日は初歩的な防御をするために、この盾をイメージして防御魔法を試してもらいたいと思います」
エレノア先生はきれいに切り取った分厚い木材――という名の盾を両手で掲げて示した。
たしかにイメージはしやすいものの、魔術という未知のエネルギーを防御するには何だか頼りない気がした。
もっとも、他の生徒達は魔術の存在する世界の住人ということもあって、特に不安そうな素振りを見せなかった。
レクチャーの後に最初の二人が指名されたが、自分以外の生徒だった。
すぐに順番が回ってこないと知り、ほっと胸をなでおろした。
子どもの頃から、発表会で一番手になるとガチガチになりやすいタイプなのだ。
俺が安心していると、すぐに最初のペアの実技が始まった。
男性と女性のペアで、男性の方が20センチほどの水塊を放った。
女性の方は両手を身体の正面に突き出し、防御の姿勢をとった。
面白いもので、攻撃は目に見えるかたちで顕現するのに、防御は発動しても可視化されない。何とも不思議な光景だ。
そして、女性は防御に成功したようで水塊は何かにぶつかったように霧散した。
「はい、よくできました。防御役の人がケガするといけないので、攻撃役の人はあれぐらいの強さでお願いしますね」
「――はい」
カリキュラムの内容が簡単なのか、講師が教え上手なのか分からないが、どの生徒も首尾よく攻撃と防御に成功していた。そして、俺の順番が回ってきた。
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