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はじめての異世界 ―ウィリデ探訪編―
これが異世界の食堂
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草原を抜けて街道を歩き続けると街の入口に差しかかった。
街の周囲は約3メートルの高さの城壁に囲まれていて、その間に入口がある。
門番のように衛兵が立っていたので、勲章もどきが見えるところにあるか確認してから進むと、彼は大げさに敬礼してそのまま通してくれた。
「それにしても、お腹すいたな」
魔術の修練はそれなりに体力を使うものであり、夕食時ということも相まって空腹がピークに達している。
現金の持ち合わせてはないものの、勲章もどきを見せれば無料で飲み食いできると聞かされていた。部分的な情報では、他国からの客人をもてなす風習が関係しているらしい。
日本人的感覚において、それは勇気のいることであり半信半疑でもあった。
最終的に相手から声をかけてもらうという幸運に助けられ、食事にありつくことができた。
その人物の名はフランツといい、彼は俺が腹を空かせているように見えたらしく、自らが営む食堂で食事をしていけと声をかけてくれた。
他の店で無銭飲食まがいのことをするのは勇気がいるので、なるべく彼の店に通うようにしていた。
街に入ってしばらく歩くと目的の店があった。
現地の言葉で“フランツの店”のような表記がされている。
「今お帰りかい、魔術学校はどうだったんだ?」
扉を開けて中に入ると、フランツが陽気な様子でたずねてきた。
「やあ、フランツ。学校はそうだね、それなりに楽しかったよ」
「今日も腸詰めでいいのかい? うちは他にもメニューがあるんだけどな」
彼はそういって食材の一つを手にとって見せた。
新鮮そうな野菜なのだが、種類は分からなかった。
「いや、いくらもてなされる立場でも、お金を払わないのに好き放題食べるのは悪いよ。それにこの店の腸詰めはとても美味しい」
「そうか、外国人に美味いと言われるのは最高な気分だな!」
フランツは髭のよく伸びた顔に嬉しそうな表情を浮かべた。
彼はとても親しみやすいので、こちらまでいい気分になる。
俺は会話を終えると空いたテーブルの席についた。
この店は数席のテーブルが置かれただけのシンプルな雰囲気だった。
白い壁と板張りの床、絵や調度品などは特に飾られていない。
掃除は行き届いていて適度に清潔感がある。
俺以外の客は二人だけで、すでに何かを食べている。
特に話す必要もないだろうと思い、フランツの動きを眺めることにした。
「お前さん、王様の客人というわりに偉ぶらないんだな」
客の一人が声をかけてきた。
「ええ、まあ……その大した身分ではないので」
そう答えて目をやると声の主は初老の男性だった。
「冗談のつもりかい、その勲章は要人がつけるものだろう。そうか、護衛なしのお忍びなら邪魔しちゃ悪いな」
彼は意味深な笑みを浮かべて食事に戻った。
「――お待ちどうさん、特製の腸詰め大盛りだ」
「すごいな、こんなにたくさん。ありがたく食べさせてもうよ」
器の中の料理がてんこ盛りで思わず声が上ずっていた。
前に頼んだ時よりも腸詰めの本数が増えていた。
立ち上る湯気と香辛料の匂いが空きっ腹を刺激する。
器には切れ目の入った太めのソーセージ、添え物と思われる火の通った玉ねぎ、主食として丸のままのじゃがいもが盛り付けられていた。
テーブルには木製のナイフやフォークが置かれており、それを手にとって食事を開始した。空腹感から自然と手の動きが早くなる。
フランツが腸詰めと言っているソーセージは口の中に入れた瞬間、肉汁が口の中に広がり、鮮明な感覚が夢でないことを教えてくれた。大きさがやや不揃いで手作り感がある点もポイントが高い。
「はっ、うちの料理食べながらそんな顔するのはカナタだけだぜ」
フランツが嬉しそうに話した。
俺はそのまま、異世界の食事を満喫した。
お腹が空いていたので、思ったよりも早く食べ終わった。
「それじゃあ、ごちそうさま」
「おう、またな。夜は街の外に出るんじゃないぞ。危険なこともあるんだ」
フランツは心のこもった笑顔で送り出してくれた。
食事を終えて外に出ると、すでに日は沈んでいた。
等間隔で魔力灯の照明がつき、周囲は適度な明るさが保たれていた。
「やることもないし、今日の復習でもするか」
俺は王宮を訪問した際に用意された宿舎へ帰ることにした。
朝から夕方まで空けていた部屋は小綺麗になっていた。
丸まったままだったはずの布団は畳まれて、枕の位置も直っている。
まさに客人扱いされていることに感動を覚えつつ、近くの椅子に腰かけた。
さすがに室内に魔力灯はなく、ランプのようなものが光源になっている。
今日の修練では実用コースということもあって、活動の幅が増えていた。
最初の段階では、マナの仕組みなどの初歩的な情報が中心だった。
そもそも、フィクションを除けば実際に魔術を見聞きする機会はなく、実際に教わる時は衝撃の連続だった。
マナはこの世界全体に流れる気のようなものであり、人間の身体にも同じように流れていると説明された。
そして、魔術を発動する時はそれを動力源にして集中力を高める。
その時に火なら火、水なら水といった感じで、発現したいエネルギーをイメージして体外に出力することが必要だと説明を受けた。
他に実用コースでは、攻撃・防御・治癒についても教わった。
攻撃と防御は修練の中心になるので、どちらもバランスよくできる方がいいそうだ。柔道でいうところの受け身の重要性みたいなものだと解釈している。
治癒魔術は難易度が高く、実用コースでも教えることはできないらしい。
結論として、習い初めの俺にできるのは簡単な攻撃と防御だけだった。
一人で防御の練習はできないし、攻撃を発動したら宿舎を傷つけそうなので、とりあえず火のイメージを練習することにした。
念のため、室内にあった水差しを近くに置いて、ベッドに燃え移らないように離れた椅子に座って行う。
――頭の中でライターを思い浮かべる。
発火石の部分を回転させて、ポッと小さな火がたつ。
――そう、ポッと小さな火が……。
「おっ、できた」
手のひらの上に小さな火の玉みたいなものが浮かんでいた。
自然に発火したように揺らめいている。
「これは奇跡としか表現できないな」
……それにしても、何だか怖ろしい気がしてきた。
例えば、俺が大洪水のイメージをしたり、大火災のイメージをしたら、それ通りの水や炎を出現させることができるという仮定が成り立つ。
当然ながら、そういった大規模なものは応用編のはずなので、まだ話題に上っていなかった。これから順番に教わることができるのだろうか。
俺は片手を水差しにつけて消火した。
本物の火に水をかけたみたいにジュッと音がした。
だんたんと眠気が強くなって、考えることが面倒になってきた。
椅子で寝てしまいそうだったので、ベッドに移動して横になる。
心地よい浮遊感が身体を包み、少しずつ意識が遠のいていった。
街の周囲は約3メートルの高さの城壁に囲まれていて、その間に入口がある。
門番のように衛兵が立っていたので、勲章もどきが見えるところにあるか確認してから進むと、彼は大げさに敬礼してそのまま通してくれた。
「それにしても、お腹すいたな」
魔術の修練はそれなりに体力を使うものであり、夕食時ということも相まって空腹がピークに達している。
現金の持ち合わせてはないものの、勲章もどきを見せれば無料で飲み食いできると聞かされていた。部分的な情報では、他国からの客人をもてなす風習が関係しているらしい。
日本人的感覚において、それは勇気のいることであり半信半疑でもあった。
最終的に相手から声をかけてもらうという幸運に助けられ、食事にありつくことができた。
その人物の名はフランツといい、彼は俺が腹を空かせているように見えたらしく、自らが営む食堂で食事をしていけと声をかけてくれた。
他の店で無銭飲食まがいのことをするのは勇気がいるので、なるべく彼の店に通うようにしていた。
街に入ってしばらく歩くと目的の店があった。
現地の言葉で“フランツの店”のような表記がされている。
「今お帰りかい、魔術学校はどうだったんだ?」
扉を開けて中に入ると、フランツが陽気な様子でたずねてきた。
「やあ、フランツ。学校はそうだね、それなりに楽しかったよ」
「今日も腸詰めでいいのかい? うちは他にもメニューがあるんだけどな」
彼はそういって食材の一つを手にとって見せた。
新鮮そうな野菜なのだが、種類は分からなかった。
「いや、いくらもてなされる立場でも、お金を払わないのに好き放題食べるのは悪いよ。それにこの店の腸詰めはとても美味しい」
「そうか、外国人に美味いと言われるのは最高な気分だな!」
フランツは髭のよく伸びた顔に嬉しそうな表情を浮かべた。
彼はとても親しみやすいので、こちらまでいい気分になる。
俺は会話を終えると空いたテーブルの席についた。
この店は数席のテーブルが置かれただけのシンプルな雰囲気だった。
白い壁と板張りの床、絵や調度品などは特に飾られていない。
掃除は行き届いていて適度に清潔感がある。
俺以外の客は二人だけで、すでに何かを食べている。
特に話す必要もないだろうと思い、フランツの動きを眺めることにした。
「お前さん、王様の客人というわりに偉ぶらないんだな」
客の一人が声をかけてきた。
「ええ、まあ……その大した身分ではないので」
そう答えて目をやると声の主は初老の男性だった。
「冗談のつもりかい、その勲章は要人がつけるものだろう。そうか、護衛なしのお忍びなら邪魔しちゃ悪いな」
彼は意味深な笑みを浮かべて食事に戻った。
「――お待ちどうさん、特製の腸詰め大盛りだ」
「すごいな、こんなにたくさん。ありがたく食べさせてもうよ」
器の中の料理がてんこ盛りで思わず声が上ずっていた。
前に頼んだ時よりも腸詰めの本数が増えていた。
立ち上る湯気と香辛料の匂いが空きっ腹を刺激する。
器には切れ目の入った太めのソーセージ、添え物と思われる火の通った玉ねぎ、主食として丸のままのじゃがいもが盛り付けられていた。
テーブルには木製のナイフやフォークが置かれており、それを手にとって食事を開始した。空腹感から自然と手の動きが早くなる。
フランツが腸詰めと言っているソーセージは口の中に入れた瞬間、肉汁が口の中に広がり、鮮明な感覚が夢でないことを教えてくれた。大きさがやや不揃いで手作り感がある点もポイントが高い。
「はっ、うちの料理食べながらそんな顔するのはカナタだけだぜ」
フランツが嬉しそうに話した。
俺はそのまま、異世界の食事を満喫した。
お腹が空いていたので、思ったよりも早く食べ終わった。
「それじゃあ、ごちそうさま」
「おう、またな。夜は街の外に出るんじゃないぞ。危険なこともあるんだ」
フランツは心のこもった笑顔で送り出してくれた。
食事を終えて外に出ると、すでに日は沈んでいた。
等間隔で魔力灯の照明がつき、周囲は適度な明るさが保たれていた。
「やることもないし、今日の復習でもするか」
俺は王宮を訪問した際に用意された宿舎へ帰ることにした。
朝から夕方まで空けていた部屋は小綺麗になっていた。
丸まったままだったはずの布団は畳まれて、枕の位置も直っている。
まさに客人扱いされていることに感動を覚えつつ、近くの椅子に腰かけた。
さすがに室内に魔力灯はなく、ランプのようなものが光源になっている。
今日の修練では実用コースということもあって、活動の幅が増えていた。
最初の段階では、マナの仕組みなどの初歩的な情報が中心だった。
そもそも、フィクションを除けば実際に魔術を見聞きする機会はなく、実際に教わる時は衝撃の連続だった。
マナはこの世界全体に流れる気のようなものであり、人間の身体にも同じように流れていると説明された。
そして、魔術を発動する時はそれを動力源にして集中力を高める。
その時に火なら火、水なら水といった感じで、発現したいエネルギーをイメージして体外に出力することが必要だと説明を受けた。
他に実用コースでは、攻撃・防御・治癒についても教わった。
攻撃と防御は修練の中心になるので、どちらもバランスよくできる方がいいそうだ。柔道でいうところの受け身の重要性みたいなものだと解釈している。
治癒魔術は難易度が高く、実用コースでも教えることはできないらしい。
結論として、習い初めの俺にできるのは簡単な攻撃と防御だけだった。
一人で防御の練習はできないし、攻撃を発動したら宿舎を傷つけそうなので、とりあえず火のイメージを練習することにした。
念のため、室内にあった水差しを近くに置いて、ベッドに燃え移らないように離れた椅子に座って行う。
――頭の中でライターを思い浮かべる。
発火石の部分を回転させて、ポッと小さな火がたつ。
――そう、ポッと小さな火が……。
「おっ、できた」
手のひらの上に小さな火の玉みたいなものが浮かんでいた。
自然に発火したように揺らめいている。
「これは奇跡としか表現できないな」
……それにしても、何だか怖ろしい気がしてきた。
例えば、俺が大洪水のイメージをしたり、大火災のイメージをしたら、それ通りの水や炎を出現させることができるという仮定が成り立つ。
当然ながら、そういった大規模なものは応用編のはずなので、まだ話題に上っていなかった。これから順番に教わることができるのだろうか。
俺は片手を水差しにつけて消火した。
本物の火に水をかけたみたいにジュッと音がした。
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