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はじめての異世界 ―ウィリデ探訪編―

限界ギリギリの戦い その1

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 肌寒く、じめっとして、なんか臭う。
 それが洞窟に入ってからの第一印象だった。

 日本の国内旅行で鍾乳洞巡りを見かけることはあったが、そこまで心惹かれるタイプではなかった。
 現にリアルな洞窟に来てみて、まったくもってその通りだと実感している。

 入り口から奥へ進むほど闇は濃くなるばかりだった。
 エルネスが用意してくれた松明の火が消えそうもないことは救いだった。
 

 俺たちはオオコウモリに気配を察知されないように無言のまま進んでいた。

 天井から滴り落ちる水の音、立てた足音が反響して耳に入ってきた。
 時折ざわざわと何かが動くような音もどこからか聞こえてくる。

 視界は制限され、松明が照らす範囲だけが目視可能だった。

 エルネスが先導してくれているが、彼も慎重な足取りで進んでいる。

 依頼と関係なさそうなコウモリが飛んでいても、上手く払いのけてくれるので、突然の遭遇に驚かずに済んでいた。頼りになる師匠である。

 感覚が遮断されるような空間にいるので、どれぐらい進んだのか分かりにくい。
 とてもじゃないが、この依頼を一人でこなすのはむずかしいと思った。
 
 ふいにエルネスの動きが止まる。彼は振り返って身振り手振りで合図した。

 薄暗くて分かりにくいが、前方に目を凝らすと数メートル先の空間は広くなっており、そこの天井にコウモリのような生き物が複数ぶら下がっている。

 ずいぶん大きく見えるが、一体何を食べたらあそこまで成長するのか。

「……あれぐらいの数なら一気に倒せます。一旦、ここで待機を」
「はい、了解」

 彼は着火した木片のような物を投げ入れて視界を確保した。
 コウモリたちは眠ったままだったのか、その炎に照らされても反応が鈍かった。

 エルネスの周辺の空気が揺らぐような感覚の後、かかげた右手からちょうど握りこめるぐらいの大きさの火球がいくつも飛んでいった。

 それらは全てコウモリたちに直撃した。
 俺は思わず、「よしっ!」とガッツポーズをしていた。

 コウモリたちがバサバサと音を立てて地面に落下していく。
 エルネスの魔術は効果が抜群で、コウモリは全滅したように見えた。

 ――そこで、依頼は完了したと思った直後のことだった。

 前方の広がりへ進みかけたエルネスの不意をつくように、どこからともなく巨大な黒い影が現れた。彼は直前で気づいたように見えたが、反応がわずかに遅れた。
 
 そして、その影は彼に襲いかかってきた。

「――あ、危ない!」

 エルネスが巨大な黒い塊に体当りされた。

 その衝撃は強く、彼は突き飛ばされるようにして視界から消えてしまった。ぶつかった拍子に落とした松明がそのまま転がっている。
 
 彼の反応を待ってみるが、飛ばされたはずの方向からは何も聞こえてこない。
 こちらに気づかれるのを承知の上で呼びかけるべきか迷うところだ。

「まずいな、エルネスなしでどうやって戦えば……」

 急な判断を迫られて、どんどんと鼓動が早くなるのを感じる。

 こんな状況でエルネスを置いていくわけにはいかないし、かといって正面からぶつかって勝てる相手かは疑問が残る。

 特大サイズオオコウモリは羽を広げた全長が2メートル以上ある。
 いつか動物園で見た猛禽類よりもはるかにでかい。

 ――俺がやるしかないのか。

 自分であって自分でない何かがそう決意するのを感じた。

 エルネスがどこにいるのか分からない以上、援護を期待するのはむずかしい。
 
 あのコウモリは俺に気づいていないように見えるので、不意を突いて攻撃できるかもしれないが、万全を期す必要がある。
 
 とにかく、これ以上前進するのは危険だ。
 呼吸が浅くなるのを感じながら、どうにか頭を働かせようと静かに息をついた。

 幸いなことにエルネスが落とした松明のおかげで、敵の位置が把握できる。
 あとはそこに向けて先制攻撃を仕掛けるだけだった。

「サラリーマン生活してたら、こんなサバイバルは味わえなかったな」

 恐怖や緊張とともにこみ上げる感情が自然と言葉になっていた。

 深く息を吸いこんでから、手にした松明を狙いを定めて投げた。
 それはくるくると回転しながら、静止中のコウモリに直撃した。

 突然の出来事に黒く巨大な羽をばたつかせる。
 その間に急いで魔術の発動を開始する。

 ――全身を流れるマナに意識を向ける。

 右手をかざして限界ギリギリまで出力を上げて火の玉を発現していく。

 視界の端で凶暴にあばれるコウモリが殺人犯のように見えてきた。
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