22 / 237
はじめての異世界 ―ウィリデ探訪編―

アエス鉱山の調査

しおりを挟む
 街の周辺に比べて視界に入る緑が濃くなっていた。
 道の脇にはところどころに背の高い木が生えている。

 途中まで整備されていた道は未舗装のあぜ道のように変わっていた。どうやら以前は何かの用途に使われていたようで、デコボコは少なく比較的平らな道だった。
 その先を視線でたどると目的地らしい山の方へと続いている。

「さっき鉱山って言ってましたけど、この辺は何か採れるんですかね」

 そう言葉にしながら、俺の脳内ではヘルメットをかぶっていい感じに汚れたおじさんが手押し車を押しながら通過していった。道にはしたたる汗が足跡のように続く様子が浮かぶ。

「ずいぶん昔の話ですが、金属の採掘技術に優れたカルマンという国が銅を掘りにきていた時期がありました。もっとも、隣国のフォンスとカルマンの関係が悪化していったので、その余波を受けて採掘は途絶えてしまいました」

 エルネスはそういった後、この場合は元鉱山の方が正しいでしょうと付け加えた。
 途中に出てきたカルマンという国の名は聞き慣れないと思った。

「それじゃあ、その鉱山というか銅山跡は荒れ放題かもしれないのか。……あれ、その昔って何年前ぐらいの話なんですか?」

 コウモリに追加で行きたくない要素が増えた気がする。
 荒れ果てた洞窟と聞いて、いいイメージが浮かぶはずもない。

「だいたい30年前ぐらいでしょうか。彼らが来ていた時代のことは覚えています。カルマンは領土内の鉱石と鉱山が売りの『緋色の国』と呼ばれていて、血の気の多い荒くれ者たちが多かったです」

 エルネスは当時を思い返しているのか、うんざりしたような表情になっていた。
 彼の話を聞きながら、一つの疑問が脳裏をよぎった。

「えーと、そうするとエルネスは何才……?」
「今は50才ですね。……カナタさん、何かおかしいでしょうか?」
 
 彼は足を止めて、きょとんとした様子でたずねてきた。
 明らかに見た目と年齢がアンバランスだった。

「俺の国にはエルフがいないから、色々と知らないことが多いんです。失礼な質問になってしまうけど、エルネスの見た目で50才ってことは何才まで生きられるんですか?」
「戦乱に巻き込まれたり、不慮の死を遂げたりするという例外を除けば、150才ぐらいまでは生きられます。森に暮らすエルフの長(おさ)はさらに長生きだと聞いたことがあります」
 
 俺たちはふたたび歩き出した。少しずつ山肌との距離が近づいている。
 通行人はほとんど見かけなくなり、すれ違うこともなくなっていた。

「……そういえば、エルネスに用事があるのを忘れてた」
「僕にですか。どんな用事でしょう?」
「同じ国から来ている村川が、森を通って他の国へ行ってみたいと話してました。それでエルフたちの協力がないと通過できないと」
「……なるほどそういうことですか」

 こちらの言葉を聞いてから、彼は何かを考えるように静かになった。

 ジャリジャリと砂を踏む音だけが響く。
 こんな時はトレッキングシューズでもあれば、もっと歩きやすいのにと思った。

「広大な森――大森林はエルフたちの生活圏でもありますから、すぐに返事をするのはむずかしいです。それに僕は街で生まれて育ったので、エルフの長と遠い関係にあります。彼らとつながりがあるエレノアなら力になってくれるかもしれません。この依頼が終わったら聞いてみましょう」

 エルネスは一語一語を丁寧に話してくれた。
 彼の誠実さをあらためて感じるような態度だった。

「ふーん、街育ちと森育ちに分かれてるなんて知らなかった。勝手な想像ですけど、森育ちの人たちはエルネスやエレノア先生みたいにフレンドリーじゃないとかはあり得るんですかね」
「ははっ、そんなことはありません。大森林を含めてウィリデという一つの国ですが、100年以上内乱や紛争と無縁です。それは森のエルフと街の人たちが友好関係にあるからですよ」
 
 エルネスは軽やかに笑い飛ばした。
 それを見てなんだか安心するような気持ちだった。

 こっちですねと彼に案内されて、砂利道を更に進んだ。
 途中で二手に分かれた道もあったが、彼は迷わずに先導してくれた。

「はい、それではこちらがアエス鉱山の洞窟になります~」
「それはニッポン流の冗談でしょうか」
「ああっ、気にしない気にしない」

 ゆるやかな山道を上った先にその洞窟はあった。山の中腹あたりに位置するのだろうか。入り口の高さは2メートル弱で横幅は3、4メートルぐらい。

 薄暗いトンネルや洞穴がそれっぽい空気を発するように、この洞窟も何となく近寄りがたい雰囲気を感じた。自分一人なら確実に引き返していただろう。

「それでは、ここからは気を引き締めてください。オオコウモリの数は複数だと聞いていますが、咄嗟の時にはカナタさんを守りきれるか分かりません。そうはいっても吸血コウモリなので血を吸われるだけなので、困った時は治癒魔術で治しますから」

 エルネスは安心させようとする時に笑顔になる傾向が見受けられる。
 信用できないわけではないが、見極められない故に不安を抱いてしまう。

「……自分の身は自分で守れるように、最善を尽くします」
「それでは一人一本これを持ちましょう」
 
 彼はそういって先ほどの松明を手渡した。
 まだ着火されていない。

「まずは練習も兼ねて、魔術で先端に火をつけてください」
「なるほど、では早速……」
 
 俺は左手に松明を持ってその先端に右手をかざした。

 ――全身を流れるマナに意識を向ける。

 先端に火を灯すだけなら簡単だ。
 つまみを調整するようにして最少出力で発現させればいい。

 右の掌の先に種火程度の火が放たれた。
 それは松明の先端に着火すると、十分な明るさの炎になった。

「それぐらい調整できれば、まずは問題ないでしょう」
「……それじゃあ、オオコウモリ退治に行きますか」 

 イヤイヤ感を出しすぎるのも大人げないと思い、率先して声を出した。
 エルネスはこちらの不安をよそに先へと進んでいる。

 外から差しこむ光で洞窟の入口部分は多少の明るさがあった。
 そこから奥の方に視線を向けると、全てを呑みこんでしまいそうな暗闇がどこまでも続いているように見えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?

嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】  ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。  見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。  大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!  神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。 「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。 ※本作は小説家になろうでも投稿しています。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

処理中です...