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こんなところに異世界 ―俺は勇者じゃないとそろそろ気づいてほしい―

決戦の時

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 不穏な気配を感じたその直後だった。

 何かが空を切る音がしたかと思った瞬間、閉じかけた扉が爆風で大きく揺れた。
 マナに似た感覚と扉越しに伝わる熱気から火の魔術を使われたと判断した。

「……み、皆、大丈夫か!?」

 あご髭の男は確かめるように声を上げてから、重たい扉をゆっくりと閉めた。

「……カナタさん、もしかして」
「ああっ、すぐそこにあのオークが来ている」

 ふと見やると、メリルは剣の柄に手を当てていた。
 すでに臨戦態勢に入っている。

「おい、どうした!? 何かが爆発するような音が聞こえてきたぞ!」

 先に到着した仲間たちが動揺した様子で駆け戻ってきた。

「今の爆発は追手の仕業のはず。俺が外に行って決着をつける」
「あんた一人で大丈夫か!?」
「さっきは互角に戦えたのでご心配なく」

 周囲がざわついたが、これ以上時間をかければオークが侵入してしまう。

「メリル、金属製の武器は不利だから、今回は一人で行くよ」
「……はい、分かりました。どうかご武運を」

 メリルや混乱する仲間たちを背にして、扉の前に立った。

「この状況では他の追手がいるかもしれないから、すぐに閉めないといけない。許してくれ」
「……心配無用。敵を倒せたら扉の前で合図するよ」

 あご髭の男は取っ手に手を伸ばすと、慎重な仕草で扉を開いた。

 その場にいる誰もが息を呑む様子が伝わってきた。
 俺は辺りを警戒しながら扉の外に出た。

 数歩踏み出すと、すぐに扉が閉じられた。
 逃げ道を断たれたようなものだが、執拗に迫るオークをそのままにはできない。

「……近くにいるんだろ。姿を現したらどうなんだ?」

 そう投げかけると透明な空間にオークの姿が浮かび上がった。
 天井から差しこむ外の光で灯りがなくても見えている。
  
「ふひょひょ、くたばりぞこないが出てきたわね」
「話すことなんかない。お前にメリルと仲間たちを攻撃させはしない」 

 ――全身を流れるマナに意識を向ける。

 得体の知れない能力がある以上、地下通路が崩落しない程度の最大出力で戦わなければならない。幸いなことにこの辺りは横幅も高さも少し余裕がある。

 いつでも魔術を発動できる状態にしてオークの出方を窺っていると、紫色の水晶がついた杖で魔術を仕掛けてきた。

 今度は雷ではなく、細長い氷の柱が放たれた。
 俺は半ば反射的に氷の魔術で盾を作った。 

 敵の全弾が盾にぶつかり、衝撃が伝わってくる。
 何とか無傷で攻撃を防ぐことができた。
 
 俺は盾を消して正面に視線を向けた。
 間合いの離れたオークが不敵な笑みを浮かべているように見えた。
 
「…………」

 俺は無言のまま、ゆっくりと右手を掲げた。
 風魔術で吹き飛ばしても倒せなかったのなら、正攻法で攻めるしかない。

 火の魔術では通路を破壊しそうなので、氷の魔術を使うことにした。
 オークの攻撃と同じように無数の氷柱(つらら)が浮かび、標的に向かって飛んでいく。

「……今度はいけそうなのか」

 火の魔術が効かなかったこともあり、成功するか自信がなかった。

「ふふふっ、なかなかやるじゃない」

 オークは俺と同じように氷の壁を発動して、全弾防ぎきった。
 互いに似たような方法で攻守が入れ替わり、膠着状態になりそうだった。

 俺は何か突破口がないか、敵の攻撃に注意しながら考え始めた。

 必要以上に間合いを詰めないところを見ると、接近戦は得意ではなさそうだ。
 それにどうやら、魔術の源は杖もしくは杖についた水晶にあると思われる。

 簡単な分析はすぐに済んだものの、決定打を思いついたわけではなかった。

 こちらの戦術として、魔術戦を続けることが安全策だと思えた。
 ただ、それはオークにとっても同じことで、いつ決着がつくか分からない。

 そこでふと、左手が護身用の剣に触れた。
 メリルに簡単な剣術を習ったが、あのオークに通用するだろうか。

 心細い気持ちになりながらも、魔術を使いながら接近戦に持ちこみ、剣で討つという選択は悪くないように思えてくる。

 俺はマナの流れに意識を向けたまま、鞘に収まる剣の柄に手を置いた。
 危険な選択だが、今はやるしかない。

 そう決意すると、いくらか不安や緊張感が和らぐ気がした。
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