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こんなところに異世界 ―俺は勇者じゃないとそろそろ気づいてほしい―

幻術VS魔術

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 かなり強力な魔術を放ったつもりだったが、ネクロマンサーは健在だった。

 体内のマナを半分近く消費しているものの、まだ闘いは終わっていない。

「おぬしを侮っていたようだ。どれ、我も本気を出そう」

 ネクロマンサーは手にした杖を意味ありげに掲げた。

 すると、ふいに周囲の景色が揺らめき始めた。
 目まいを覚え、たまらず座りこむ。
 
「カナタ、大丈夫か!?」

 遠くでオーウェンの声が聞こえた気がした。

「……ここは」

 まるで、宇宙空間にいるように周囲は星のような物が浮かび、辺りの暗闇を照らしている。

「おぬしが魔術で抵抗するならば、我は幻術で応じよう」

 闇と光が渦巻くような光景の後、薄気味悪い合唱のような歌声が聞こえた。

 そして、どこからともなく、オークが現れた。
 その姿に見覚えがあった。

 過去に町で倒したオークだ。
 細かな違いは分からないが、雰囲気がよく似ていた。

 二つの目は黒く濁り焦点が合わない。
 どこを見ているのか分からないものの、顔がこちらに向いている。

 その手には鉈のようなものが握られており、こちらへ近づこうとしていた。

 この期に及んで躊躇うことなどない。
 即座に火の魔術を発動して、オークに向かって放った。
 
 大きな火球が直撃すると、オークは霧散するように消えた。

「ほう、この程度では怯まんか」

 ネクロマンサーは独り言のように声を漏らした。
 そして、杖のようなものをかすかに掲げた。
 
 再び、マナの流れが変化するのを感じた。 

 空間が歪むようなうねりが生じて、その中から大きな何かが現れた。

「……こ、これは!?」

 その姿に緊張が走った。

 いつか洞窟で戦ったオオコウモリだった。
 羽根を広げると三メートル近くある巨大なコウモリ。

 あの時はマナ不足で苦戦したが、今の自分なら簡単に倒せるはず。
 ……しかし。

「ふははっ、モンスターは倒せるのにそんなものに怖気づくか」 

 ネクロマンサーの言葉は気に入らないが、見当外れではなかった。
 
 ぎりぎりのところまで追いこまれた記憶が脳裏をかすめる。

「……カナタ、大丈夫か?」

 ふいにオーウェンの声が聞こえた。

「もしかして、これが見えないのか……」

 彼の不思議がる様子から、コウモリの姿が見えていないと判断した。

 そうだ、これは俺自身の闘いなのだ。
 そう考えると、恐怖が和らぐような気がした。

 ――全身を流れるマナに意識を向ける。

 あの時は放てなかった、極大の一撃を食らわせてやろう。

 俺は両手を掲げて、火の魔術を発動した。
 燃え盛る火球がオオコウモリに向けて放たれる。

 それは勢いよく幻影をかき消し、その場には何も残らなかった。

「ぐっ、なかなかやるではないか」

 心なしかネクロマンサーに余裕がなくなっているように感じられた。

 もしかして、今がやつを仕留める好機なのではないか。
  
 俺はオーウェンに視線を向けた。
 すると、彼は小さく頷いて剣を構えた。

 ――まずは、幻術を繰り返される前に牽制しなければ。

 再度同じ状況に陥ったら、今度は何が出てくるか分からない。
 ネクロマンサーに攻撃を集中させて決着をつける。

 俺は右手を掲げて、火の魔術を連射した。
 無数の小ぶりな火球が敵に向かって飛んでいく。

 威力が低くネクロマンサーに効き目はないが、もう一度同じことを繰り返す。

「何の悪あがきだ。その程度で我に傷をつけようとは」

 やつは心なしか余裕を取り戻しているように思えた。
 しかし、最初ほどの勢いはないように感じられる。

 俺は敵の注意を逸らすために移動しながら、同じ魔術を繰り返す。

 ネクロマンサーはダメージがないと言っているが、完全に無視できるほどではないらしく、こちらが別の魔術を繰り出さないか警戒しているように見て取れた。

 視界の端ではオーウェンが隙を窺っている。

 愚直に同じ攻撃を繰り返していると、ネクロマンサーに反応があった。

「……小バエのように煩わしいことを」 
  
 やつは終始座ったままだったが、初めて立ち上がった。

 そして、杖を掲げて火球を放ってきた。
 俺は慌てて氷魔術で盾を作りそれを防ぐ。

 ネクロマンサーの注意がこちらに向いている今が好機。
 そう考えたところで、オーウェンがすさまじい速度で間合いを詰めていった。
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