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最後の戦いの後日譚

入会の条件

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 建物の中は壁や天井が装飾で彩られており、壁際に並ぶ本棚には魔法について書かれていると思しき本が収まっていた。
 カナタの服装は他の者たちと異なるため、自然と目を引いた。
 他人に関心のなさそうな者がほとんどだが、物珍しそうに視線を向ける者もいた。

 その時、カナタは突然誰かに声をかけられて驚いて振り返った。
 声をかけてきたのは、一見するといかつい風貌の中年の男だった。
 魔法使いというよりも戦士といった方が似合いそうだ。
 男の装いはローブに似ているため、かろうじて見分けがつくといったところか

「これは失礼、驚かせてしまいました。初めて見かける顔ですが、ご用件は何でしょう?」

 男は見た目に反して丁寧な物腰だった。
 カナタはわずかに緊張を覚えながら、相手の質問に応じた。

「この町に魔法使いの集まりがあると聞いて、何か役に立てることはないかと」

「ほほう、そういうことは魔法が使えるということですね。まずはお話を伺いましょう。ささっ、こちらへ」

 男はどこかへ案内しようとしている。
 特に不審な点は見当たらず、カナタは素直についていくことにした。
 指示に従って廊下を歩いて、奥にある部屋の一つに入るよう促された。

「失礼します」

「そちらにおかけください」

 カナタが部屋の入り口側に男が奥側に、大きな机を挟んで椅子に腰かけた。 
 室内には魔法を学ぶための教材や本がたくさん並べられていた。
 それらはカナタの好奇心を刺激したが、会話を続けるために相手に向き直る。

「ご挨拶が遅れました。私は魔法使い相談所の所長アロイスと申します」

「あっ、俺はカナタです。よろしくお願いします」

「早速本題に入りますが、働き口となるとギルドではなく、当相談所を選ぶのが賢明ですね。冒険者ギルドだと野良仕事も回ってきますし、魔法と関係ない仕事は他の者に任せるべきだと考えます」

 アロイスは丁寧な言い回しをしているが、魔法使いというものに一定の誇りを持っていることが言葉の端々から感じられた。

「ここの仕組みについて詳しくないんですけど、依頼を受けて動くかたちですか?」 

「はい、大まかにはそのような流れです。魔法に関する困りごとを魔法のプロフェッショナルが専門的な知識で解決するというのがセールスポイントです」

「そうすると、個別の依頼によって役に立てるか否かが決まりそうですね」

 どのような依頼があるかたずねてもよいが、初対面の者にそこまで情報を流しはしないだろう。
 カナタはどのように話を進めるべきか考えていた。

「差し支えなければ、そちらの腕前を拝見できませんか?」

「えっ、そうですか……。まあ、その方が話が早いですよね」

 カナタは急なことに戸惑いを覚えたが、すぐに応じても構わないと思った。

「室内では気兼ねなく使えないでしょうから、外へ出ましょう。さあ、こちらへついてきてください」

 アロイスは椅子から立ち上がると、部屋を出てカナタを案内しようとした。
 カナタは彼に続いて、廊下を歩いて移動した。
 導かれるままに扉を出て外に足を運ぶと、何もない空き地に出た。 
 足元には雑草がまばらに生えており、周囲には数本の小高い木が伸びている。

「本来なら修練場を使うところですが、腕試し程度ならここで十分でしょう。そちらの実力を軽視したわけではなきこと、ご理解くださいませ」

「いや、そんなことは気にしませんけど、何をすればいいですか?」

「とりあえず、手始めに――」

 相談所の所長は足元に落ちている小枝を手に取り、そっと差し出した。
 カナタは相手の意図が分からず、わずかに戸惑いを覚えた。
 ひとまず小枝を受け取って、相手の出方を見ることにした。

「この枝に着火するかたちで、火の属性の魔法を見せてください」

「……はい、それでは」

 そんな簡単なことでいいのかと怪訝に思いつつ、魔力に意識を向ける。
 カナタにとって、火をつける程度の魔法など造作もないことだった。
 あえて、集中を高める必要すらない。
 彼が念ずると小枝の先にマッチ棒をこすった程度の火が灯った。
 
「おやっ、ずいぶん詠唱を小声でなさるんですね」

「……詠唱?」

 現代日本からやってきた以上、魔法のことはファンタジー知識として得ていた。
 しかし、カナタがはそういった幻想と実際の魔法を切り分けている。
 エルネスから学んだ時も実践に即したことのみだった。
 そこにファンタジ的な要素――それこそ呪文を唱えるなど――の入りこむ余地はなかった。

「これは失礼。愚門でした。もう少しそちらの実力を拝見させてください」 

「それは構いません。あとは何をすれば?」

「準備をしますので、少々お待ちください」

 所長は断りを入れてから、どこかへ歩いていった。
 そして、木製の大きなかかしのようなものを押してきた。

「こちらは魔法練習用の模型です。対魔力処理が施されているので、ちょっとやそっとの魔法では壊れません」

「なるほど、これに向かって魔法を放てというわけですか」

「はい、その通りです」

 アロイスの意図を理解しつつ、カナタは少し考えこんだ。
 魔力探知がそこまでできずとも、かかしもどきの対魔力では彼の本気の魔法は防ぎきれないことは想像がついた。
 
「……ひとまず、やってみるとするか」

 すでにアロイスは離れた距離におり、魔法に巻きこまれない位置に立っている。
 カナタはこれで気兼ねなく放てるなと思った。

 ――全身を流れる魔力に意識を向ける。
 
 度重なる実戦を経験したカナタにとって、威力の高い魔法を発動することは難しいことではなかった。
 しかし、全力で魔法を放てばかかしもどきは木っ端微塵に吹き飛ぶだろう。
 逆に手加減しすぎてしまい、相談所所長であるアロイスが設けた合格基準に達しなければ、入会することは難しいかもしれない。

「……これぐらいか」

 カナタは適度な衝撃を与えるように、加減した炎の魔法を放った。
 人が両手で抱きかかえられる程度の大きさの火球が飛んでいく。

「ほほう、これはお見事」

 カナタの放った火球はかかしもどきを直撃したが、見た目以上に重心が安定しているようで、大きな衝撃の後は元通りだった。

「……しかし、いささか疑問が残ります」

「えっ、何か問題が?」

「あなたの魔法、やはり詠唱なしで発動している。一体、どのような仕組みになっているのでしょう」

 アロイスは疑念というより、珍しい玩具を見つけた子どものように好奇心にそそられるような素振りを見せていた。
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